第34話 見事なオチね
――――姫島縁 視点――――
影山君が颯爽と図書室から出ていき数分後、私のスマホに陽神君から「もう大丈夫」と連絡が入ってきた。
「これで邪魔者は消えたわ」
「ナ~イス。私達だとバレかねないからね」
「後で私の方からも光輝君には言っておくわ」
そう言うと結弦ちゃんと瑠奈ちゃんは私に向かってサムズアップ。
この流れももはや私達の計画通りなのよ。
私達の不穏なやり取りに音無さんは急に不安になったような顔をする。
ふむ、どうやら影山君の存在は彼女の精神的支柱にもなっていたようね。
「こ、これは......どういうこと?」
「まあまあ、いわゆる本音でしゃべろうってことよ。つまりは女子会ね」
「ともあれ、こんな所って感じもするけど。安心してちゃんと人払いは済ませてあるから」
意外とこの子達もアクティブよね。
実際、この状況を作り出したのは私じゃないし、言ってしまえば二人が会話した所で「影山君」というワードが出てきたからついてきたようなものだし。
たったそれだけで釣られるなんて、まるできもデブおじさんに騙されてNTRされる的な同人誌のヒロインみたいなものね。
まあ、ここまで本気にさせた影山君が悪いんだけども。
ともあれ、この子が音無さんね。
正直、可愛くて撫でた......ゲフンゲフン、自分の弱さを知ってそれでいて寄生するタイプのようね。
音無さん、初対面の私がここに来た理由はたった一つよ。
あなたが私の脅威となるか否か。
そして、出来れば膝上に乗せて愛でるまで仲良くなれるかどうか。
ここで厳しめな感想であなたを評価させてもらうわ!
「それじゃあ、さっそく質問行くね」
瑠奈ちゃんはニコッとした笑みからそう言うと急に不安げな様子で聞いた。
「変な事されてないよね?」
なんともストレートな。
とはいえ、こういうタイプに下手に遠回しに言った所で本音は漏れ出ないだろうね。
だったら、率直に言ってその言葉に対する態度で判断するってとこかしら。
その言葉に音無さんは何かを考えると急に湯気が出るようにボフンと赤い顔をした。
え、この天使みたいな子に影山君何かしたの? 私にすらしてないのに!?
「え、ちょっと待って何その反応......」
「学君、なんかしたの?」
「そ、それは......」
音無さんがスケッチブックで口元を隠しながら私達の追及の視線から逃れようと目を逸らす。
確かに、汚れを知らなそうなこの子をちょっと汚したくなる様な気持ちになるけども、それはダメよ影山君! 先は私じゃない!?
......っと、いけないわ本音が。口には出てないわよね?
にしても、この天使......ゲフン、いや卑しい雌犬め。
きっと影山君の庇護欲に付け込んでその可愛らしい表じょ......いやらしい笑みを浮かべてたに違いないわ。
だって、そんなに可愛い、違う、なんだろう......ほっこりする顔なんだから!
すると、音無さんは私達の視線に堪忍するようにか細い声で告げてきた。
「か、壁ドンされた......んです......」
「「「可愛い~~~!」」」
なんでしょうね、この癒しさ溢れる小動物感は。
うちにもペットとして欲しいわ。
恐らく、一日中愛でてるでしょうね。
そんな自信しかないわ。
にしても、一体どんな状況でそれに?
私みたいに事故でそうなったのかしら?
いや、影山君に限ってそう言うのは少なそうだけど......なんだかんだでラブコメの主人公っぽいしね。あるかも。
「ちなみに、それはどういった経緯でそうなったか教えてくれるかしら?」
「どういった....../////」
そう聞いてみると音無さんは再び顔が真っ赤になる。
な、なんでしょうね......あのどこか雌の顔をしたようにも見える顔は。
音無さんって単純に唯一仲良くなった男子が影山君だったから依存してるって感じよね?
いやでも、影山君が陽神君を紹介するって時に随分と寂しそうな顔をしていたのだけど......それってそういうこと?
確かに、私の脅威になるかとか考えてたけど、そこまで本気じゃなかったのよ?
むしろ、あの影山君を私がどうこうできるとはあまり思ってないし。
ザ・我が道を行くって感じだしね。
すると、ふと音無さんがこちらをチラッと見てきた。
そして、慌てたように目を逸らしていく。
ん? 私、今何かしてたかしら?
いや、普通に見ていただけのはず......でも、あっちはなんだか私に対して気にしているような素振りにも見えたのだけど。
そんな私の冷静な思考とは裏腹に過激派ファンクラブのような二人は熱を帯びて言葉に出す。
「ちょっと何があったの!?」
「場合によっては粛正も検討するよ!」
結弦ちゃん、目がマジね。まあ、つい数週間前に影山君にとんでもないこと言われたらしいからね。
何を言ったか知らないけど。影山君、女の恨みってのは意外と根深いのよ。
それに対し、音無さんは首をブンブンと横に振ると「ち、違います」と二人の言葉に対して否定する。そして、そのまま続けていく。
「あ、アレは私が悪いんです......あんなものを持ってきてしまって、それを見られてしまって......でも、結果的には好転して今このようになってますけど......ですから、影山さんをあんまり責めないであげてください。
意地悪ですけど、悪い人ではないんです」
「雪......」
「まあ、音無ちゃんがそこまで言うってことはホントなんだね」
確かに、大人しいこの子が他人を守るために必死で弁解するなんてのは余程のこと。
となれば、音無さんにとっては影山君はかなり大きい存在であると言えるわね。
......あれ? これって不味くない?
彼女にとっての精神的支柱になっている影山君がそこまで大きいって言うことなら、それってもはや“好き”と同義じゃない?
いやいやいや、さすがに考えすぎよね。
この子は私が思ってる以上にピュアな子だと思うから。
変な勘繰りよね。
にしても、ふとさっきの言葉振り返ると「意地悪だけど、悪い人じゃない」ってなんだかおかしな言葉ね。
それに、影山君は一体音無さんにどんな意地悪なことを.......なぜ私が先じゃないのよ!
そんなことを思っていると音無さんはスクールバッグから一冊の本を取り出した。
その本はブックカバーがついていて、表紙が見えない。
その本がどうしたのかしら?
「影山さんは初めて会った私に色々な方法で私が話せるようになろうと考えてくれました。
その中には意地悪なものもあったけど、それも今考えれば随分と可愛らしいもので、ただ私に一歩踏み出すための勇気を与えようとしていただけなんです」
その表情はとても穏やかで可憐で幼さ溢れる体躯でありながら、とてもキレイに見えた。
「誰しも未知の領域に最初の一歩を踏み出すのは怖い。
その怖さに怯えていた私に対して、影山君は意地悪な態度でありながらも、その踏み出した先は怖くないと教えてくれたんです」
月並みな言葉に「女性は好きな人が出来るとキレイになる」とあるけれど、前の姿を見ていなくてもわかるほどに音無さんの勇気の源は誰であるかが一目瞭然であった。
それほどに音無さんは天使のような純粋さを浮かべた笑みでいる。
そして、手に持った本をそっと机の上に置いた。
「だから、私は自分の友達でいてくれる瑠奈ちゃんやなろうとしてくれてる相葉さん、影山さんの友達である姫島さんには先に知っておいてもらいたいんです!」
「大丈夫よ、全部受け止めるから」
「任せて! これから仲良くなれるんだったら何の問題もないよ!」
「ええ、(影山君とどのくらい進んでるかも含めて)全て知りたいわ」
そう私達が告げると音無さんは覚悟を決めて差し出した本を開いていく。
そして、その開かれたページには挿絵があり―――――とてもとてもエロティックな男女のまぐわいのシーンであった。
その突然の友情エンドに行くと思いきやのオチに瑠奈ちゃんと結弦ちゃんは顔を真っ赤にしながら石のように固まった。
かくいう私も......この子、変態ちゃんじゃない!!
読んでくださりありがとうございます(*'▽')