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第33話 そろそろ潮時だな

 音無さんと“ちゃんとした”会話が出来るようになってからあっという間に数日が過ぎた。

 訓練を始めてからのことを言えば、まだ一週間程度。


 されど、その一週間は俺にとって貴重な意味を持つ。

 それはその短期間で俺は音無さんを(まだ現状俺だけだが)話せるようにしたのだ。


 もちろん、俺に対する信用がそんなに急速に上がってるとは思っていなかったので、少なからず6月いっぱい。

 長ければ夏休み入る直前までかかると思っていた。


 正直、何がこんなにも音無さんを変えたのかと思うほどに音無さんはニコニコ笑うようになり、しゃべるようになった。


 原因はわからないが、明らかに好意を寄せているような感覚はする。

 姫島ほどではないが、姫島と似たような雰囲気は持っている。こう、ポワァッとした感じが。


 それは俺にとって信用されてることと同義であり大変うれしい。

 が、同時に俺の光輝ラブコメ計画の第3ヒロインとしての立場を危うくしている。


 そろそろ考え時か......そうだな。そうかもしれん。

 今や俺は音無さんと一緒に図書室に向かう所まで仲良くなってる。

 しかし、それは依存対象が俺に固執してる可能性もある。


 もともと音無さんを「社交的に」って意味合いで考えても、俺以外にスケッチブックなしで話せる相手が必要なはず。特に男子で。


 となれば、俺の中では光輝一択でしかない。

 それに音無さんの心を掴むなんてことは俺よりも容易いだろうしな。


 ......っと噂をすれば影、図書室の一つの机で乾さんと結弦と......え、なんで姫島まで?

 音無さんも見知った人物とそうでない人物がいることに気付いたのか急に緊張したように黙り始めた。


「普段通りしてろ。皆、俺なんかよりよっぽどいい奴らだ」


 一応フォローはかけておく。

 すると、音無さんは嬉しそうにコクリと頷いて深呼吸していく......やっぱ俺と以外の感情の差が強いな。


 俺は音無さんと図書室に入っていくとこっちから声をかけに行く。


「よう、どうしたんだ? 理由もなく待ち伏せか?」


「抜き打ちでどのくらいの進捗か聞こうと思ってね」


「いわゆる中間報告ってやつよ」


 結弦と乾さんがそう言ってきた。中間報告ね......ようは俺がさぼってたり、酷いことをしてないか確認しに来たって感じでしょうに。


 にしても、姫島は随分と静かだな。もしかして、クールぶってる?

 あ、こっち見た。あ、口角がひくついた。


 一先ず、俺はあいつらのいる席に座っていく。

 ちょうど、俺の横に音無さんが座り、正面に他三人が固まってる感じで。


 なんだろう......妙な圧迫感を感じるのは三者面談でも受けてる感じ?

 なんでこいつらは妙な凄みを出してるん?


 すると、結弦が緊張した面持ちで一つ咳払いすると口火を切る。


「最近......どうかね? 元気にやってるか?」


「思春期の娘との距離感がわからない父親みたいな始め方だな」


 元気にはやってるよ。俺も音無さんも。

 特に音無さんに限ってはR18妄想に限っては元気100倍よ。


「一先ず、期待に添えるような感じはあると思うぞ。少なくとも、俺は音無さんとはスムーズに話せている」


「仲良くなれたみたいでよかったわ。雪、恐らく中高合わせたら影山君が初めての男子だと思うし」


「ま、俺が踏み台となって音無さんがしゃべれるようになるんだったらいいんじゃないか?」


 そう言いながら、音無さんに視線を送る。

 つまりは俺達がどれだけできるようになったかという証拠を提示して欲しいという視線だ。


 結弦はどうか知らんが、ここに姫島という初めて会う(イレギュラーな)存在がいる以上普段通りに話せることは期待していない。


 しかし、ここで一文節程度でも発言できたなら上出来だ。

 ここは音無さんにかかってる。今後の展開的にもな。


 音無さんは俺と目が合うとそのフリの意味を理解してくれたようで、戸惑いながらも大きく息を吸った。

 そして、僅かな震えが伝わりつつも、音無さんは思ったことを口に出す。


「私、しゃべれるようになった......よ? まだ、初対面の人とは緊張するけど」


「雪ぃ......!」


「!?」


 やや不格好な笑みを浮かべて精いっぱいアピールする。

 その小動物感溢れる雰囲気に三人は正しく胸を撃たれたようにキュンと胸を抑え、乾さんに限っては机を乗り越えて音無さんに抱きついた。


 音無さんのその雰囲気は女子でもこの威力か。

 となると、男子なんてもはや考えてなくてもイチコロ確定。

 ククク、これはこれは......光輝ラブコメに超新生現るってやつか?


 乾さんに頬ずりされている音無さんはちょっと困ったように八の字眉にしながらも、自分に対して本気で嬉しがってる乾さんの様子に対して自然と固い表情を溶かしていく。


 その微百合的雰囲気を頬杖をつきながら横目に見つつ、今にも乾さんに続いて抱きつきそうな結弦と何やら考え込むように口元を手で覆っている姫島を見た。


 そして、姫島は二人が音無さんに気を取られてるうちにルーズリーフを取り出して何かを書き、俺に見せてくる。


『前にあなたが変な質問をした相手ってこの子のこと?』


 気づくのが早いな。ぶっちゃけ覚えてなくても良かったんだけど......まあ、別に知ってたところで問題ないな。


 一先ず「そうだ」と書いて渡すと再び何かを書いた姫島がそれを渡してくる。


『前は『むっつり』とか『賢者モード』とか変なことを言ったけど......この子はきっと違うわ。真面目ではあったけど、変な回答してごめんなさい』


「......」


 ......どうしよう返答に困る。

 だって、ぶっちゃけ言えば姫島の方が正解だったんだよなぁ~。

 むっつりどころかドスケベやったし。

 むしろ、姫島のあの回答でそっちの方があってるという異常事態をどうにかしたい。


 だが、音無さんの長年の鍛え上げられた妄想癖を簡単にどうにかすることなんて不可能だ。

 習慣は体が覚えている。記憶じゃないんだ。


 変に抑圧するとかえって大惨事になる可能性がある。

 余計にひどくなるってことで。

 ダイエット終わりのリバウンドと同じだ。


 とはいえ、「いや、姫島の方が合ってた」って書くのもなんだしなー。

 とりあえず、「気にすんな」とだけ書いておこう。

 後は勝手に知ってくれ。俺からは言わん。


「さて、お二人さん。そろそろ離れたらどうだい? 抱きつくのは話が終わった後にでも出来るだろ?」


「そうね」


「む、一理ある」


 そう声をかけると二人は渋々ながらも引いていった。

 すると、横から救世主(メシア)みたいな目で見られる。

 違うからな? 俺の話を進めたいだけだから。


 そして、俺はちゃちゃっと本題に入ることにした。


「でだ、俺は二人から簡単に言えば『社交的にして欲しい』と頼まれてるわけだが、ぶっちゃけ友達は多くて困ることはないが、現状の人数でも十分にやっていけると思うんだ」


「それじゃあ、もうここらで終わりにするってこと?」


 乾さんの言葉に音無さんが今度は先ほどとは違った視線を送ってくる。

 しかし、それに対して俺が振り向いてやることはない。

 その感情は俺じゃない相手に向けるべきだ。


「いや、あと一人は欲しいな。だが、女子ばかりに慣れてしまったらそれはそれで後々に男と話さないといけない場合が出たら困るだろう。

 というわけで、俺はここで光輝に俺の役目の後を任せたい」


 より一層の視線が強くなる。だが、俺はそれでも振り向かない。顔を合わせない。

 とはいえ、そこまでじっと見られると俺以外は当然気づく。

 このままでは第3ヒロイン計画がとん挫しそうだな。


「言っておくが、もちろん困ったことがあれば俺にいつでも相談してもらっても構わない。

 ただ、俺を基準に男子が全てこうだって見方をして欲しくないわけだ。

 俺よりも良い奴もいるし、悪い奴もいる。

 それを知っていくことが社交性を高める上では一番重要じゃないか?」


「それは......そうだけど」


 乾さんの言葉から気持ちが揺れ動いているのがわかる。

 そりゃそうだ、俺はあくまで一般論的な正当性を持ったことしか言ってないからな。


 乾さんが音無さんを社交的にするために結弦の知恵も借りて俺に託した。

 なのに、俺ばかりの相手では当然社交性は上がらない。

 乾さんの目的に反する。


 しかし、その揺れ動く気持ちのもう片方では音無さんの気持ちに寄り添いたいという感じなのだろう。

 まあ、どっちを取るかは乾さん次第であり、同時に音無さん次第。


 だが、ここはゴリ押しさせて――――


――――ピロン


 突如に俺のスマホからレイソの着信音が聞こえてくる。

 全員に断りを入れてから内容を確認すると突然の光輝からの呼び出しだ。

 しかも、緊急だというではないか。


「すまん、用事が入った。俺はここで帰るわ」


 そう言って、俺は図書室から飛び出した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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