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第32.5話 火照る熱は雪を溶かす

――――音無雪 視点――――


 私はただ妄想することが好きだった。

 例えば、小学生の時によく通学路とかで漫画や小説で見たファンシーな登場人物を脳内で風景に補填しながら歩いていたりした。


 最初はそんなぐらいだった。

 成長するたびに色々な知識が増えていって、特に自分の今の世界じゃ触れれない物語に浸れる小説は私の妄想世界のレパートリーを増やすのに持ってこいで、自然と本をたくさん読むようになった。


 官能小説に手を出したのはほんの些細な興味からだった。

 別に深い意味もなく、同じ小説のジャンルでありながら避ける人もいるというそのジャンルが気になっただけであった。


 その時期が中学ということもあり、小学生の頃とは違ってより男女の意識をハッキリしていって、それを教えるための保健体育などもあったため、その衝撃を今でも覚えている。


 私は知らない知識があるとそれに興味を持つタイプだったこともあり、保健体育では避けられるような表現がある官能小説をこっそりと買って読んでみて、その刺激に幾度となく触れてしまった。


 それは私の妄想世界を一色に染め上げるほどに強烈的なもので、ふと気が付けばその印象が頭からこびりついて離れなくなってしまっていた。


 だから、私はたくさんのジャンルの本を読んで紛らわそうとしたけど、あの自重なしの内容がもう一度気になって結局、中学では大きな失敗をした。


 高校へ行ったら変わろうとも思ったけど、引っ込み思案な性格はそのままに余計に内に閉じこもるように本を読むようになって、その度にこっそりとその刺激に触れていた。


 でも今はどうしてだろう。

 普段ならぼんやり考えていれば読んだ本の文章と共にイメージされた映像が流れてくるはずなのに、それが起こらない。


 ぼんやりと自室の天井を眺める。

 いつもならベッドに座って読書タイムに移行していてもおかしくない。

 宿題もすでに終わらせてるから、まったりとした時間が過ごせる......なのに。


 手に持った読むはずだった本をそのままに、ベッドに座りながらぼんやりと眺める。

 ふと思い出すのは影山さんの姿や声ばかり。


 そして考えるたびに胸が熱くなってくる。いや、胸だけじゃない。

 体まで火照ってくるような感じがして、いつもの自分じゃない。


 わかってる。ほんとはこれがどういう状態なのかぐらい。

 散々、ラブストーリーを読んできたから。

 でも、まさか自分がこんな気持ちになるなんて思わなかった。


 でも、胸に宿る“暖かさ”が何よりも証拠。

 考えるだけで熱が内側から込み上げてくる。

 その度に、なんだか幸せな気分になってくる。


 楽しく本を読んでる時と似たような感じ。

 読むだけで心が跳ねるように、考えるだけで心臓がドキドキと鼓動を速くする。


「これが恋......」


 ぽてんとベッドに寝転がると天井のLEDライトの明かりを遮るように目元を手で覆った。

 もう何も読む気になれない。今はそれよりも影山さんと話していたいという気分になる。


 ......ふふっ、自分ながらチョロいなーとも思う。

 中学、高校と他人を避けて生活してきて、いざ変わろうと紹介してもらった男の子に恋をして。


 まるで箱入り娘が初めて出会った男性に親切にしてもらって、疑いもせずにいい人だなと思って好きになるみたいに。


 でも、一つ違うとすれば、私が好きになった男の子は親切でありながら同時にいじわるだ。

 こちらの行動を何かとわかっていながらあえて行動してくる場合がある。


 私が持っていたブックカバー付きの本......あれ、きっと私の秘密に関することだと思いながらも、あえて踏み込んできたりとか。


 それに、私が上手くしゃべれないのを分かっていて、それでいて「二文字以上の言葉で呼びかけること」なんて私だけに当てはまる条件を提示してきたりだとか。


 やっぱり思い出せば意地悪だな~って思う。でも、惚れた弱みかな。

 それでもやっぱり、この胸に宿る暖かさに従えば私はずっとずっと意地悪と思う気持ちより、好きだな~と思う気持ちの方が強いみたい。


 あぁ......私の貴重な読書タイムがこうして考えていくうちに奪われていく。

 これも計算のうちだとすれば、とんでもなく意地悪だ。


「......ふふっ、意地悪だー♪」


*****


 ど、どうしてだろう。ものすごく緊張する。

 今は放課後。いつも通りに影山さんは先に図書室で私を待っている。

 机に座りながら、メガネをかけてブックカバーのついた本を読んでいる。


 何を読んでいるんだろうか。

 とても気になる。

 もしかして、同じようなジャンルとか期待して。


 でも、今はそれ以上に図書室の前の廊下で突っ立ったまま動けないでしまっている。

 そして、おかしいほどに胸がドクドクと触れなくても鼓動が聞こえてくる。


 昨日までは普通に行けたはずの距離が、途端に分かつように崩れてる道があるみたいに感じて動けない。


 距離は5メートルもない。何気ない距離。

 でも、あれ? 今までどうやって、どういう気持ちでその距離を移動していたの?


 顔が熱い。影山さんを見るたびに熱は上がってきて、だから離したいのに目が離せない。

 声も別の意味で出てこない。

 声ってどうやって出したっけ? あれ? あれれ??


 すぐ近くに影山さんがいてお話ししたい。どんなお話でもいい。

 くだらなくても声が聴けるだけで幸せだし、だからもっとお話しするためにレイソの交換をしようと思ってたのに......!


 お願い、勇気を出して! 少し、少しでもいいから!


「何やってんだ? そんなところで突っ立って?」


「ひゃわ!?」


 気が付けば影山さんが目の前に!? 変な声が出ちゃった! 恥ずかしい!!

 しかし、影山さんは気にする様子もなく、「来いよ~」と声をかけていくと歩き出し始めた。


 あぁ、遠くへ行ってしまう。せっかく来てくれたのに。

 変に手を引いて連れて行こうと思わないのは気遣いなのかな?

 別にちょっとぐらい強引でもいいのに。


 ......いや、きっと影山さんにとっては私は瑠奈ちゃんから頼まれたただの友達なのかもしれない。


 確かに、私はただの友達の友達。

 こうして会ってくれてはいるけど、それは全て私のため。

 私がしゃべれるようになった今、恐らくこの関係はそう長く続かないうちに終わりになってしまうだろう。


 でも、終わらせたくない!

 もし、もしも、この先も影山さんと仲良く話せる距離感を維持したいなら、友達の友達じゃなくちゃんとした“友達”になりたいならこの手を伸ばさなくちゃ――――


「ん?」


「え? あ......」


 気が付けば私の手は影山さんのブレザーの裾を掴んでいた。

 そして、影山さんは止めた心意を私に尋ねてくる。


 え、あ、えーっと、この後どうするんだっけ? 何も考えずに止めちゃった!

 どうしよう、迷惑かな? あーとにかく、何かすることを......あ、レイソ!


 いそいそと肩にかけてあるスクールバッグからスマホを取り出すとそのスマホを両手でちょんと摘み、頭を下げながらお願いした。


「レイソ、交換しまちょう......!」


 か、噛んだ~~~~~!? あああああ! 大事な部分で噛んだ~~~~!

 もう恥ずかしくて顔を上げられないよぅ!


 影山さん、笑ってるかな? 笑ってるよね? だって、噛んだんだもの。

 こんな所で変に突っ立ってて、来てくれたと思えばスマホを突き出して噛むとかもう恥ずかしすぎる!


「とりあえず、顔上げろよ」


 影山さんは普段と変わらない声でそう告げる。

 そして、顔を上げて見てみると相変わらずな眠そうな瞳をこちらに向け、笑顔で告げた。


「俺のスマホ、あっちにあるんだ。それに今日もやるだろ? 宿題」


「......! はい! たくさん、話しましょう!」


「うんうん、話そう......ってあれ~? 俺の言葉無視された?」


 そう言いながらも深くは気にしない様子で影山さんは歩き出す。

 その歩いた軌跡を同じように辿るように軽やかな足取りで体が動いっていった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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