第31話 レベル上げて出直してきます
はぁ、現実逃避したい。俺は真摯に現実に向き合う方だが、そろそろ特技に現実逃避と書けるようになってきてるかもしれない。
とまあ、この時点で現実に逃げようとしてるわけで、向き合うとするならばまず第一声に「どうしようか」という言葉が漏れる。
最近、こればかりしか言ってない気がする。意味もなく悩んでばっか。お悩みキャラという特殊なキャラクターが作り上げられるよ。
でまあ、また少し脱線した所で、俺は今保健室にいる。というのも、あのままバタンキューしてしまった音無さんをそのまま放置しておくにもいかず、とりあえず連れてきてベッドに寝かしたのだ。
よりによって、保健室の先生が会議とかで途中で抜けていったのが気に食わないが仕方ない。とりあえず、音無さんが起きるまでソシャゲのスタミナ使っとくか。
「ん......」
僅かに漏らした声が聞こえてきた。チラッと見てみると目が覚めたようで手で目をこすっている。
丁度俺のソシャゲのスタミナも使い切ったタイミングだったので、声をかけてみる。
「よう、起きたか?」
「!?」
俺の声にビクッとした反応をすると音無さんは自分の置かれてる状況について確認し始めた。そして、慌てたように何かを探してる。あぁ、スケッチブックか。
「ほらよ」
「!」
俺がベッドの横に立てかけてあるスケッチブックを手に取るとそれを音無さんに渡す......と見せかけて、少しだけ手前に引いた。
音無さんはパァっと明るい表情から一転、まるで捨てられた子犬のような悲しそうな顔でこっちを見てくる。悪かったって。でも、一つだけ聞いてみたいことがあるのだ。
「音無さん、このスケッチブックを渡すのに一つ聞きたいことがある。とても単純な質問だ。『はい』だったら首を縦に、違ったら横に振ればいい」
「......(コクリ)」
「よし、それじゃあ聞くが、俺のこと知ってるだろ?」
そう聞いたらコテンと小首を傾げられてしまった。あーっと、今のはだいぶ言葉を端折ったな。
「えっとだな、音無さんは前に教室で俺と姫島がドッキングしてるのを見たことあるだろ?」
「......(フリフリ)」
音無さんは全力で顔を横に振った。だが、その反応はダウトだな。
俺があえて馬乗り状態ではなくドッキングという言葉を使ったら、案の定顔が赤くなってる。つまりはその場面を見ていなきゃわからないはずだ。
......まあ、懸念として浮かぶのが音無さんが官能小説を嗜むらしいので、単純に言葉の意味を知って反応することだったが、これもあえて俺と姫島という固有名詞を出すことで恐らくよりハッキリ思い出しての反応だろう。
俺はスケッチブックを音無さんに返すと音無さんはそのスケッチブックに「どうしてそう思ったんですか?」と聞いてきた。
「んまあ、単純に言えば推測と勘だな」
『勘ですか......』
「もともとハッキリと顔を見たわけじゃないからわからなかったけど、でも思い出しても髪はどこか茶色っぽかったし、身長も黒板のチョークが置かれる部分と見比べて大体に割り出したらかなり小さめだったし。
他にもあげるとすれば、俺達の教室を訪れる時点で学年が一年って考えて、その中で身長がかなり小さい人物の生徒を調べてみると数える程度いて、スカートを履いてたことから女子と限定して――――」
『こ、降参です! 見てました! 見てましたー! だって、あんな淫らな行為見ないはずがないじゃないですかー!』
「お、おう、ハッキリと言ってくれるのは嬉しいが、それはハッキリと言い過ぎだろ」
ぶっちゃけ言わなくていいことまで言ってる。音無さんってそこに淫らな行為があったら見ちゃうのね。
「まあ、ここはもう腹割って話そうぜ。不可抗力とはいえ、このまま変に知った状態で秘密にされるのも気持ち悪いしさ」
「......」
「もちろん、答えてくれるなら俺も音無さんの質問に出来ることは全て答えよう。そうじゃないとフェアじゃないだろ?」
『それじゃあ、性癖も答えてくれるってことですか?』
それ聞きたいんか......だが、吐いた唾は戻せねぇ。覚悟を決めよう。
「おうともよ。安心しろ。音無さん一人に恥ずかしい思いはさせないから」
ってことで、俺と音無さんは腹を割って話すことになった。ただし、ピンクな話に限るってのが悲しいけどな。
「それじゃあ、まず確認するけど、音無さんは官能小説を普段からよく読んでるのか?」
『他のジャンルもそれなりですけど......やっぱり一番......はい』
恥じらいながらも答えてくれた。しかしまあ、見た目が幼いせいか凄い背徳感。
『影山さんもそう言うのよく読むんですか?』
「よくはないが......俺の場合どちらかというとR同人誌の方が多いな」
鋼のメンタルだ。正直、女子相手に本当に何ぶっちゃけてんだって思うが、鋼のメンタルで乗り切れ!
『それじゃ、AVも見てるんですか!?』
「ぐふぅー」
だ、ダメだ。思わず驚くほど邪気がない笑顔でそう聞いてくる音無さんに耐え切れなかった。ジャブがもはや必殺級。なんであんなキラッキラしてんだ。
これアニマルビデオとかっていうオチの冗談じゃないマジの質問だよな......。どっちかって言うとアドベンチャービデオだもんな......。
「ま、まあ、多少は......健全な男子だし......ね?」
『ほぉー』
「ほぉー」じゃねぇよ! 何感心そうにこっち見てんの! やばい、やばいなー。過去にこれほどまでに羞恥心に耐える気まずい状況があったか。
「お、音無さんはどうなのさ。あるのそう言うの?」
ぐがああああああ! ナチュラルに聞いても完全にセクハラだあああああ! なんとかポーカーフェイスを保てているけど、コイツは辛い! 心が辛い!
『あ、あります......』
「そ、そうなんか......」
気まずい! 気まず過ぎる! こんなのどうやって乗り切ればいいんだ! もはや変な汗かいてきたよ! あ、これ冷や汗ね!
「そういえば、図書室にいた時に確か『淫らな妄想をよくする?』とか聞いてきたけど、そう聞くってことは音無さんはよくしてるの?」
かあああああ! 俺だけ気まずくなるのはなんか腹立つ! だから、音無さんも気まずく感じろ!
『よ、よくカップルの人とか見たら......も、モザイク入っちゃいます』
「おふ......ま、まあ、行為自体は生命の神秘だしね」
モザイク入っちゃいますじゃねぇよ! なんで恥ずかしそうにしながらもそう書いて見せてくるの!? 主クソカウンター食らったわ! もうどんな質問したところで俺が一方的に精神が摩耗していくだけよこれ!
それに俺も何が「生命の神秘」じゃアホか己は! どう考えてもやってることはピ――――だから、どう取り繕ってもエロくなっちゃうでしょうが!
『そうです! 良いこと言いましたよ、影山さん! 考えてみれば行為は別になんらエロくないことなんです。むしろ、人と人が愛し合うが故に行われるロマンティックな行為とも言えます。
そう考えると何を基準にして人はエロいという解釈に至ってるのでしょうか。
人が子を成すための行為は言い換えれば種の繁栄のための行為で、それは他の動物も行ってるわけでしてそれを見てエロいと思うでしょうか。いいえ、思いませんね。むしろ、家族が増えて喜ばしいことと感じるはずです。
となれば、人が子を成す行為も即ちそう捉えてもおかしくありません。違いますか?』
「熱の入りようが凄い」
すっごい勢いでスケッチブックを消費していきながら弁舌された。いや、どんだけ今のに熱が入ったんだよ。ともかく、つまりは行為はエロくないと言いたいわけだ。ならば、確かめてみよう。
「音無さん、だったらまずは動物の繁殖行動を妄想してくれ。犬でも猫でもいい」
『? .....わかりました』
もう精神が疲れたよ。俺が耐えられそうにねぇなこれ。けど、悲しいかな。この内容が一番に音無さんと会話したんだよな......。
「どう思った?」
『普通ですね。喜ばしい事と思います』
「それじゃあ、男女は? 人間のね」
『それは......』
そうして、妄想を始めると分かりやすいほどに顔がボンッと火が出る勢いで赤くなった。
「思いっきりエロいと思ってんじゃねぇか」
『アウチっ!』
真っ赤な顔の音無さんに軽くチョップを決めた。ちょっとした俺の羞恥心の恨みだ。許せ。
とはいえ、これが音無さんとの腹を割った会話か......コイツもまた挑むには俺のレベルが全然足りないような気がする。
すると、音無さんが急に大人しくなった。さっきの顔の赤みはどこへやら。楽しそうな雰囲気もどこにもない。そして、俺に聞いてくるのだ。
『私って......気持ち悪くないですか?』
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