第30話 どうしよっか
......さて、どうしたものか。最近、こんな感じで悩むことが多いが、これは実に反応に困る。
とはいえ、そっか......音無さんが隠したかったのはこっそり官能小説読んでることだったんだな。しかも、完全に挿絵がアへっちゃってるし。
き、気まずい。なにより、心が辛い。なんだか親にエロ動画バレたみたいな......中学の思春期に親父にバレただけでもかなり気まずかったのに、音無さんは男子にバレたんだよなぁ。
沈黙が続いていく。チラッと音無さんを確認してみると完全に固まっている。顔は真っ赤で脳内はオーバーヒートしたのだろう。これはどうしよう......。
一先ず、なんにも気にしてないふりをしてみるか? つーか、現状それしか思いつかないというのもあるが、実はとっくの前から俺の横で堂々と読んでたんですよ~という雰囲気を出せば乗り切れんじゃないか?
一先ず、俺は立ち上がってさっと床に散らばったものを机に置いていくと音無さんの背中を押して、椅子に座らせる。相変わらず固まったままだ。
そして、座った所で本を積み直して、丁度いい感じに手が空いているのでそこにさっきの挿絵があるページの所でそのまま本を持たせる。後は俺が横で何ともないように宿題してれば完了だ。
「そ、そういえば、やってない宿題あったな~」
しまった。どもった。いやまあ、姫島とは思わず違った衝撃的展開にさすがの俺も心の動揺が隠せない。
しかし、一番動揺が隠せないのは姫島の言っていたことが正しかったことだ。くっ、本当にムッツリだった......。
とはいえ、まあ好きな物を読むのは人それぞれ。俺だってコミケのR指定同人誌を持ってるし、何の問題もない。ただ、学校ではよそうか!
しれーっと勉強を始めようとするとくいっと袖が引かれる。あーうん、音無さんが何を訴えたいかわかってる。でも、見たくないんだよな~。見るのが辛い。
しかし、音無さんはめげずに袖を引っ張る。それに対して、俺も覚悟を決めて音無さんの顔を見てみるともう今にも泣きそうな潤んだ瞳をこちらに向けながら、頭を横に振る。
「違うんです」とでも訴えてきている目だ。もう捨てられた子犬がこっちを見てるような感じだよ。心が辛いよ。
ここはどう反応すればいいんだ? 早くしないと音無さんのメンタルが崩壊しかねない。だって、気まずいもんな! 男子に見られちゃったもんな!
すると、音無さんはワナワナと震えた手でスケッチブックに何かを書いていく。そして、書いたそれを、見せてきた。
『淫乱でごめんなさい』
「おっふ」
こんな小柄で大人しそうな子からとんでもねぇパワーワード飛び出してきたよ。もう反応がわかんねぇよ。選択肢だってねぇしよ!
ここはあれか? 俺も同じような秘密をぶつけるのがいいのか? まあ、相手の秘密を意図せずとはいえ知ってしまったからな。フェアの方がいい......のか?
ともなく、今は俺の恥よりも音無さんのメンタルケアを最優先に。
「安心しろ、俺も漫画タイプをたくさん持っている」
音無さんの肩に手を置いて訴えるように視線を飛ばしながら告げてみた。すると、音無さんは急にパァと花が咲いたように明るい表情を見せ始めた。あ、選択ミスったかも。
『影山さんも気が付けば淫らなことを考えてるタイプなんですか?』
「いや、待て。気が付けば淫らなことを考えるってなんだ?」
音無さんは四六時中もあの官能小説の挿絵みたいなモザイク必要な光景を考えてるっていうのか? おいおい、情報のインパクトがデカすぎる。
俺がそう告げたのが不味かったのか音無さんは「やっぱり変ですよね.....」と表情に暗い影を落とし始めた。仕舞には目も遠くなってる。あれは明日から学校行けないという目だ。
く......そったれぇ! もう明らかなカオスルート突入しそうだが、やってやる。これも依頼のためだっ!
「待て待て、言葉の解釈に時間がかかっただけだ。つまりはたくさん妄想するかってことだろ?」
『そうですそうです! (#^^#)』
ほ、本当にこれで良かったのだろうか......音無さんは確かに嬉しそうだ。顔文字までつけてしまうぐらいだし。
とはいえ、これはいくら距離感を縮めるためのこととはいえ、なんか別の何かを失ったような気がするのはなぜだろう。
一先ず、場所を移そうか。ここだと変な目で見られる。特に言葉を発する俺が。
「音無さん、人気のない場所に移動しようか」
『ひ、人気のない所ですか!? それはつまり和姦の申し出でしょうか?』
「ちょいちょいちょい、音無さん?」
何を急に言い出すのこの子は。音無さん、苗字に反して全然大人しくないじゃん。
むしろ、現在進行形でエロい妄想がアグレッシブに働いてんじゃん。声に出てないからって全然聞いていい質問じゃないからね?
「音無さん、一旦深呼吸しようか。そうすれば、脳内妄想も落ち着くと思うから」
「ヒーヒーフー」
「それは違うね。それは妊婦さんの呼吸法だね」
『妊婦さん!? つまりは、今からあれやこれやモザイクが必要なことが始まるんですか!?』
「ツッコミに対してボケてこないで!? それにモザイク必要なの音無さんの脳内だから!」
思わず声を張り上げてしまった。謎の図書委員Xさんがこちらを悪鬼羅刹のような目で見てくる。寝てる間に呪いで死にそうだな。
とにもかくにも、今は音無さんを説得するより脳内が淫乱パニックになっている音無さんをどうにかしなければ。
俺はちゃちゃっと荷物を片付けると音無さんの私物もスクールバッグに詰め込んで図書室を手を引きながら出ていった。一先ず、音無さんの私物はスマホとブックカバーのついた官能小説だけだろう。
とはいえ、ここからどこへ向かえばいいのか。一先ず、教室か? 今の放課後の時間だったら誰もいないだろう。
「すまんな、音無さん。今は黙ってついてきてくれ」
そう言いながらチラッと見てみると分かってくれたようにコクリと頷いてくれた。恐らく、俺が話したいことに検討がついているのだろう。
うん、音無さんの秘密についてはマジでキッチリと話し合わないといけない。
するとその時、横側から声が聞こえてきた。しかも、聞き覚えのある声。
俺達がいるのは北校舎の三階にある図書室までの廊下で、三階まで行く階段の踊り場は中央廊下の中屋上と繋がっている。
そして、その場所は晴れてれば生徒が通行場所として利用するのだが、階段を下りようとした際にチラッと開けてあるドアから見えたのはカメラを首にぶら下げた結弦であった。
ま、まずい! 俺が音無さんの手を無理に引きながら歩いているところを撮影されたらマジで終わる。特に結弦には俺に対して恨みもあるだろうし。
「ごめん、我慢してくれ!」
「......っ!?」
咄嗟に音無さんの手を引くと途中まで降りた階段を上がり、すぐ横の壁裏でそのまま壁ドン。まあ、俺の意識は全くもって音無さんになく、踊り場にやって来た結弦なのだが。
心臓がバクバクと久々になっている。壁からチラッと顔を出して結弦の様子を確認してみるが、結弦は部活の仲間と話している様子でこちらに気付く様子はな――――!?
あっぶねぇ......今、俺の視線を感じ取ってこっち見てきやがった。だけど、会話の様子からして気づいてはいないようだ。助かったぁ。
俺がひと段落ついた所で俺と壁の間で収まっている音無さんの様子を見る。
まあ、厳密には身長差がありすぎて壁ドンになってないが、音無さんには関係ない様子で顔を真っ赤にしながらプルプルと小刻みに震えている。
「お、音無さん......?」
『は、初めてでしゅ~~~~』
「音無さん!?」
音無さんはまるで頭から蒸気を出すかのようにプシューとその場で脱力し始めた。どうやら、音無さんの妄想を超える体験であったらしい。
一先ず、俺は音無さんから離れ、すぐ近くの窓を開けて両肘をかけると遠くを見つめた。これ、どうしようか.......。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')