第229話 甘ったれな考えに現実を
凍てつく寒さが体を包んで襲ってくる12月。その月も後2週間もなく終わろうとしている。
それは俺達6人の歪な関係も終わりを告げることを意味し、同時に新たな関係性に生まれ変わることも含んでいる。
俺の脳内に目まぐるしく再生するのは俺のヒロイン達となった5人の女子との決して色褪せることのない思い出。
一つ一つの思い出がこれほどまでに大切に思う日が来るとは。
そのせいで今はもの凄く苦しいのだが。
「ここで自業自得かっていう言葉ももう聞き飽きたな」
ぼんやり見つめるは雪を降らせるどんよりとした雲。
俺は今近くの小さな公園のベンチに座っている。
なぜわざわざ寒い外にいるかというと、家で考えると熱さで脳が沸騰しそうになるからだ。
俺はきっとこの世界のほとんどの男が味わったことのないだろう体験をしてきた。
所謂ラブコメの主人公という立場になった視点。
学校で女子をそれも美少女を侍らすなんて絶対リアルじゃありえないと思った。
だから、俺は光輝に俺がプロデュースするという形でそれを作ろうと思った。
だが、その計画は姫島と出会ったあの時から破綻していたみたいで、俺は結局俺が光輝のラブコメを演出しているように見せかけて知らず知らず自分のラブコメを演出していたのだ。
それも普通のラブコメならほとんどありえないだろう自他ともにヒロインから好意を寄せられているということを自覚して。
俺がこれまで読んできたラブコメの小説の中でも主人公がヒロインの行動に対して「コイツ、絶対俺のこと好きだろ!」と知って続いていくラブコメはあった。
しかし、そこにヒロインまで“俺に好意を寄せているということを俺が知っている”ことを知っているとは思わないだろう。ましてや、一人ではなく全員。
もう一度言おう。俺達の関係は非常に歪だ。
それでもそんな一見アンバランスな関係が保たれてきたのはヒロイン達の関係性が良好だったからに他ならない。
俺がこれからすることはその関係性を壊そうとすること。もちろん、結果的にだが。
しかし、それはヒロイン達も覚悟している。なら、俺は躊躇ってはいけない。
「とはいえ、問題は俺が未だに決められてないことだ......」
全員好きだというのは間違いではないが間違っている。
一人一人の思い出が強すぎて、非常に羨ま死ねと思われる意見だが本音を言えば誰一人手放したくない。非情に強欲な願い。
姫島が、雪が、生野が、沙由良が、昴が告げてきた気持ちは俺の心臓を酷く焦がし、好意という杭が深く深く突き刺さり、もはや俺だけでは身動きすら出来ないほどに俺の心を縛り付けてる。
もう俺一人で考えるのには限界だ。だから、ここはもう潔く人を頼ろう。
もちろん、最終的な決定は俺が決めるが。
俺はベンチを立ち上がると出て公園を出て適当にふらつき始めた。
もう俺の思考じゃ埒が明かない以上人を頼ると考えたが......誰に頼ろう。
消去法で考えるならアイツらの友人というのは止めた方が良いだろうな。
そりゃあ、一番の親友の幸せを願うだろうし。いや、アイツだけは例外か。
「まずは適当な奴らに当たってみるか。となると、あの二人だな」
俺はその場に立ち止まるとスマホを操作してレイソにメールを打っていく。
すると、二人とも割と暇なのか思いのほか早く連絡が来た。
俺はついでに待ち合わせ場所も指定するとそこへ向かっていく。
―――数分後
「よ、随分景気悪そうな顔してんな」
「久しぶり、どうしたの?」
街を見下ろせる高台のような場所で先に集まっていたのは運び屋こと渡良瀬健と記録屋こと名撮友梨亜である。情報屋である俺の仕事仲間とも言える友人だ。
こいつらとは仕事以外でも普通に会って雑談することがある。
この二人の距離感は光輝とはまた違った居心地の良さがあるのだ。
そんな二人が今回の相談相手。
俺は二人に近づいていく前に近くの自販機でコーヒーとホットレモンを買っていくとそれをそれぞれ渡良瀬と友梨亜に渡していく。
二人は急な俺の行動に驚いたようだったがすぐに「サンキュー」「ありがとう」と言葉を返すと冷えた体にそれを流し込んでいった。
「で、相談ってのは? わざわざこんな寒い場所に呼び出しやがって」
「内容はお前が嫉妬狂いしそうな話だ」
そう言うと渡良瀬はそれだけで内容を理解したように一つ息を吐く。
そして、そいつは近くの柵に上半身を前のめりに預けて、眼下に広がる街並みを見ながら答えた。
「確かに最初は死ぬほど羨ましかったよ。テメェはラブコメの主人公かって。
だが、結局アレはフィクションなんだな。お前の苦しそうな面見ればそう思う」
「アレは手に届かない理想を一見手に届きそうな距離感に落とし込めるから面白いんだよ。
現実は虚構より上手く出来てない。カッコよく出来過ぎなんだよ、主人公が」
渡良瀬の言葉に続くように友梨亜が言った。
確かにアレは上手くできすぎだよな。そう思う。
俺は渡良瀬の隣に近寄ると柵に背を向けて寄りかかった。
「俺は......どうしたらいい?」
「どうしたらってそりゃ......いや、今の無し。
どうしても決めかねるなら条件を決めるしかないだろ。それか基準を。
だが、お前の気持ちとしてはそんなんで決めたくないんだろ?」
俺はゆっくりコクリと頷いた。
それに対し、渡良瀬はため息を吐いたが「めんどくせぇ」とは言わなかった。
それが少し俺の心を震わせる。
「つまるところ、僕達にヒントを求めてるんだよね?」
俺の正面のベンチに座る友梨亜からの言葉に「そうなる」と答えた。
その回答に友梨亜は嬉しそうに笑ったが、その感情とは裏腹に言葉はやや強い。
「それはだいぶ舐めてるよ。学君の考えにもだけど、それ以上に君に好意を寄せてる人たちに対して」
「......」
「基準とかそういうのなく考えたいってのはとても素晴らしい理想だ。でも、結局は理想。
それを実現させたいなら他の子達に好意を寄せられて悩む前に誰か一人に決めるしかない。
そうすれば、基準も何も要らないからね」
その言葉に俺は素直に頷けなかった。
それはきっと頭の中ではわかっていてもヒロイン達の想いを無駄にしたくないと思ったから。
そんな俺だからこそ友梨亜は敢えて強い言葉で言うのだろう。
「学君、前よりカッコ悪くなったね」
「......っ!?」
「前の君は強いハートで周りを身勝手に振り回して突き進む。
そんな一見横柄な態度だけど、揺るがない信念というのが透けて見えてたからとてもカッコよく感じた。
そんな君だからきっとあの子達は君を好きになった。
だけど、今の君は信念も何もなくへにゃへにゃで魅力もない」
「だったら、どうすりゃよかったんだよ!」
「設けなよ、基準を」
「っ!」
俺は言い返せなかった。そう、結局はこうなる。
俺に後戻りなんて選択肢も無ければ、そもそも道すら存在しない。わかってる......けど。
「お前、光輝にラブコメ計画するって言ってた時の気持ち......覚えてるか?」
渡良瀬が声をかけてくる。
俺は思わずそっちを向いた。
すると、アイツも俺の方へ向いて言葉を続けた。
「その時のお前はこう思ってたはずだ―――リアルとフィクションのラブコメの区別は出来ているってな」
「.......っ!」
渡良瀬は再び街並みを見ると言った。
「だからこそ、お前はこの現実の中で実行できる限りの選択をし続けた。そして、出来上がったのが今の関係性だ。
ま、それはある種の呪いかもな。結果的に出来上がったラブコメみたいな展開に対し、お前は自分を“主人公”って思っちまってるんだよ。だから、選択できずに迷ってる。
ギャルゲーならやり直しで違うヒロインのエンドを見れるし、漫画や小説ならその後の展開を読者に想像させるような終わり方も出来る。
だが、それは非現実だからこそ可能な終わらせ方だ。現実にそんな甘い終わり方はねぇんだよ」
「だから、基準も設けるしかないと」
「当たり前だ。人が二人いればそれだけで優劣が生まれる。
数が多ければ多いほどその優劣の大きさや数は増していき、あまりにも多い人数を管理するには基準や区別がなければいけない。
多すぎる自由は自由じゃねぇんだ。選択肢が多いってだけで悩み続ければそこにずっと縛られ続ける。
動く理由が必要だ。なら、その動く理由をどうつけるか。それが基準だったり条件だったりすんだろ」
甘い考えということはわかってた。
しかし、この二人の言葉を聞いて俺がいかに甘い考え方を持っていたか理解した。
ずっとヒロイン達にそういった視点で決めるのは失礼だと思っていた。そう決めつけていた。
しかし、選ぶということ自体が選ばれる者と選ばれない者という区別が生むことでもある。
当たり前の話だ。その当たり前に対する自覚が俺にはあまりにも足りなかったみたいだ。
沈んでいた頭が浮きあげる。
俺の性根は二人によって矯正された。
もうその思考には陥らない。
「憑き物が取れたみたいだね」
「ま、何にせよ。頑張れよ」
「あぁ、ありがとう。今度はお前達に対して今度こそ完璧なラブコメプロデュースしてやるよ」
その言葉に渡良瀬は「言質取ったからな!」と笑い、友梨亜は「いや、僕的にはその......」と少し恥じらった顔で俺をチラチラと見た。
そして俺はその数日後、さらなる話し相手へと出かけるのであった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




