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第227話 寄り添う乙女の聖なる夜#10

―――姫島縁 視点―――


―――ピピピッ! ピピピッ! ガタンッ


 冷たい空気が私を布団へと縛り付ける。

 温かい掛布団が私をその場に雁字搦めにする。

 そんな二度寝したい気持ちをグッと堪えて勢い任せに体を起こすと寝ぼけ眼をする目を軽く擦った。


 半覚醒状態で見るのは目覚まし時計の隣にあるミニカレンダー。

 そこにデカデカと分かりやすいように目印がついた25という数字。

 そう、今日。今日がクリスマス。


 これまで家族か友達かで過ごすのが恒例で、去年なんかは花市さんの豪邸で行ったけど今年は違う。

 私と影山君との二人だけの初めてのクリスマス。ふふっ、クリスマス♪


「あ、なんだか火照ってきた」


 肌を刺すような冷たさがいつの間にか火照った体で消えてしまった。そう、ただのノロケ。

 ふふっ、楽しみって思うだけでこれなのだから影山君(あの人)は罪な人。


「さて、行きましょうか」


*****


 待ち合わせ場所はいつもの公園。

 今日も今日とて多くの男女が周囲を往来する。

 まるでカップルにだけ許された禁断の地のように。

 ラブオーラで溢れているわ!


「今日も早いな」


「あなたもね」


 集合時間の10分前、影山君が私の所へやって来た。

 あまり今日という日に緊張してなさそうなのが残念だけど、それでもこの一日が二人きりってことには感謝しなきゃね。


「今日は何か予定あるのか?」


「えぇ、もちろん。あなたを落とすためのプランはキッチリと......と言いたいところだけど、計画は計画だからあなたも行きたい場所があったら遠慮なく行っていいのよ?

 私のプランだけ押していって観光案内みたいになられるのも困るし」


「それはさすがに俺とお前の付き合いじゃならんだろ」


 影山君は「あるならさっさと行こうぜ」と駅に向かって歩き始めた。

 まるで私が駅を利用しようと知っていたみたいに。


 付き合いの長さからくる勘的なもの?

 といっても、2年ぐらいしか......あ、でも、そっか。

 その2年も単純なものじゃなかったもんね。


 きっと私という個を影山君はしっかりと見てくれたから考えそうなことに当たりをつけれたのだろう。

 それに関しては私も負けてないわよ?


 私はサッと影山君の隣に並ぶと彼の顔を下から覗き込んで言った。


「ちなみにだけど、影山君が考えてきたデートプランについての詳細を聞いてもいいかしら?」


 そう聞けば影山君はサッとマフラーを手で掴んで口元を隠した。

 ふふっ、恥ずかしがっちゃって可愛いわね。それで隠してるつもりなのかしら? だけど、耳が赤いのでバレバレよ。


 私はそれから何も言わなかったけれど顔のニヤニヤでどんな考え事をしているのかバレたみたいで「そんなもんない!」とぷいっと顔を逸らされてしまったわ。


 そんな子供っぽい仕草をする影山君に普段の彼がほとんど見せない表情だからか思わず胸の奥がキュンと来る。

 それにさらに刺激したい感情にもかられる。ダメよ、まだ押さえなさい!


 それから、電車に乗り少し遠くの駅に降りるとそこからバスに乗っていく。

 この行動には彼も驚いた様子で「どこへ行くんだ?」と聞いてくる。

 それに対し、私はただ一言「その気持ちを楽しんでいて」と返す。


 しばらくバスに乗っていくと都心部を離れて少し山の方へ。

 その様子に影山君は一見落ち着いた姿勢を見せながらも、その目は窓の外の森を眺めていた。


―――目的地到着


「まさかこことは......」


 バスを降りて影山君は驚いたように正面入り口を見た。

 そこにあるのは動物園の看板。そう、私の目的地はここ動物園。


「意外だった?」


「あ、あぁ、さすがにこれは予想外だった。まさかクリスマスに動物園に来るなんて」


「ま、意外性を狙ったってのは認めるわ。

 とはいえ、そうでなくてもここには来てみたかったのよ。

 だって、普通はクリスマスという特別な日は気合入れて計画立てるとそれだけでデートとして成立しそうな動物園やら水族館って選択肢から消えがちでしょ?

 でも、良く調べてみればこういう日だからこそやる特別なイベントがあったりするのよ」


「なるほど、それでこのチョイスと」


「そ、さてそんな私のデートプランを聞きに来たわけじゃないでしょ? 行きましょ」


 影山君の手を掴むとそのまま彼を引っ張って動物園の中に入っていく。

 中は当然クリスマス仕様になっていて、もちろん普段の私達の住む環境と比べるとクリスマス感は見劣りするけど、それでも動物園のクリスマスってそれだけで面白くない?


「意外といたるところにクリスマス感出してるな。

 ちゃんとツリーもあるし、飼育員もサンタやらトナカイの格好してる。

 確かに、こういう日だからこそ逆にここに来てみないと味わえない面白さだな」


「ふふっ、楽しんでもらえなたら何よりよ」


 動物園内を見回っていくと意外とお客さんがサンタ帽子をつけている人が多い。

 ということで、郷に入りては郷に従え。

 私達も頭にサンタ帽子を装着していざ動物園の中を見回っていく。


 園内を見ていくと当然ながらクリスマス感が出てるのは柵とか飼育場所の中に置いたちょっとした小物ぐらい。

 しかし、クリスマスという言葉があるせいか普段よりも特別な瞬間を見てる気がした。


 ゾウやキリン、パンダなどメジャーな動物達を見ながら歩いていく。

 チラッと横を見れば影山君も楽しんでいるみたいで良かったわ。


 とはいえ、もう少しクリスマス感強めに味わいたかったので、ふれあい広場の方へと移動していく。

 そこにはモルモットやポニー、羊などがいて、時間的にもタイミングが良かったのかクリスマス限定の餌やりイベントに参加できた。


 モルモットがクリスマスツリーをイメージした野菜タワーに群がっているのを横目に見つつ、トナカイの格好をしたポニーのエルちゃんに触っていく。

 何気にポニーに振れるのは初めてだわ。

 わぁ、こんな感じなのね......思ったよりも滑らかな触り心地。


 その後、飼育員さんに影山君とエルちゃんとの写真を撮ってもらい気が付けばお昼。

 イートスペースに移動していくと席についた影山君が凄い充実してるような顔をしていた。


「なんか新鮮......」


「そう思ってくれるなら考えた甲斐があったってものよ。次は何見たい?」


「そうだな......」


 影山君が珍しく子供のようにはしゃいでいる。

 どうやら何かが彼の心を感動させてるみたい。

 そんな彼の表情はあまりにも無邪気で眩しくて―――私の欲を剥き出しにさせる。

 この姿を独占したいと思わせる魔性の魅力がある。


 これが惚れた弱みなのか影山君という人物による影響なのかわからないけど、そんな彼を想ってるこの時間がとても愛おしい。

 しかし、今はもう少しだけこの時間を味わいましょう。でなければ、勿体ないわ。


 私達は食事中も終始見てきた動物の話をし、途中私達らしいコミカルな会話も挟みつつ午後の時間へ。

 まだ見ていない動物達を見ながら途中見かけたポニーの乗馬体験をしている子供の光景に足を止めつつ、ゾウがいる場所へ移動。


 そこのゾウは鼻を器用に使って絵を描くらしく、飼育員さんに手伝いてもらいながら白いキャンパスに筆先を当て器用に動かしていく。


 その光景に二人して目を奪われつつ、そのゾウが描いたのはクリスマスリースであった。しかも、意外と完成度高い。


 その光景を見ていたお客さん達から盛大に拍手が送られる。私達もその一人。

 そして、その思い出を共有するように話歩けばそれだけであっという間に時間が過ぎていく。


 気が付けばもう16時半。これからのプランとすればそろそろ移動しなければいけない。


「そろそろ帰るか?」


「え?」


 突然、影山君からかけられた言葉。

 それに反応して彼を見てみればまるで見透かしたように軽く笑みを浮かべていた。どうやら、バレバレみたい。


「時計を確認したってことはまだ俺を楽しませてくれる何かがあるんだろ?」


「えぇ、もちろん。とっておきのがね」


 私達は帰りのバスに乗ると駅まで移動していく。

 12月は暗くなるのもあっという間でまだ16時だというのに雰囲気はすでに夜。

 そして、街は輝きだす。


 駅に乗って私達の家がある街まで戻る頃には駅の周りは多くの人だかりとイルミネーションされた大きなクリスマスツリーが一層輝きを放っていた。


「スゲェ、今までクリスマスの日にまともに出歩いたこと無かったから凄い......」


「感動するのはまだ早いわよ。さ、こっちへ」


 私が影山君を連れて行ったのは最初に待ち合わせた公園。

 それには彼も「目的地ってここなのか?」と驚いていた。ふふっ、いいわね。そのリアクション。


「目的地は西側のあっち。噴水で大きな芝生エリアがある東側(ここ)が目立ちがちだけどこういう日に限ってはあっちの方がいいのよ」


 影山君の手を取り移動していく。

 自然と恋人握りにしていたにもかかわらず影山君はもはやそれを当たり前のように受け入れていた。

 そんな仕掛けた私も驚くほどに心が落ち着いている。

 まるであるべき形に収まったように。


 私達はイルミネーションの施されたアーチが並んだ道を歩いていく。

 普段はアーチ状の骨組みにツタが絡まって伸びて夏頃に来れば緑のトンネルみたいになってるけど、今のこの時間は光のトンネルへとなり変わる。


 その中を通り抜けて見えてくるのは普段はただのツツジの花畑が光の花畑へと変わっている光景。


「わぁ......」


 影山君は目を奪われたように固まった。

 彼も存外ロマンチストだからハマると思ったけどまさかここまでハマるとは。


 彼の自然と歩きだす足に合わせて私も歩きだす。

 ふと、目の前に白い何かが横切った。あ、雪が降ってきた。


「これはスゲー。確かにこっちに花畑があるってのは知ってたけどまさか冬がこんな風になってるとは」


「割と有名だったみたいよ。ま、といっても案外こういう調べる機会でもない限り知らないものかもしれないけど」


 隣で感動する彼を見るととても胸が苦しくなる。

 その純粋に楽しんでる横顔がひたすらに胸を焦がす。

 振ってきた雪も私の周りでは少し溶けるのが早い気がするし。

 あぁ、私って熱が入ると暴走するタイプね。知ってたけど。


「影山君」


「ん? どうし......」


 私が真剣な目で彼を見ると彼も察したように私に向きを合わせた。だから、言う。


「私、あなたのこと好きよ」


 体の熱が一気に強くなった。

 きっとこういうのってもう少し順序とか自分の奥底から出た言葉を紡いでいくものだと思うけれど、私の場合はその全てがその一言に集約された。


 もっと言いたいことはある。

 影山君の優しい所が好きとか、めんどくさがりながらも付き合ってくれるとこが好きとか、影山君のおかげで素敵な恋敵(ともだち)が出来たとかそんなこと色々。


 しかし、私はその言葉に余計な装飾は要らないと思った。

 だから、私はただ言葉に溢れる熱をそのまま彼に伝えていく。

 それだけで彼に伝わる。私もあなたもちょっと互いの気持ちを見透かし過ぎなのよね。


「大好き」


 おっと、また言葉が漏れてしまったわ。

 だけど、これが本当の気持ち。偽ることなんて出来ない。

 私が恋した時間の、行動の、気持ちの全てがそこにある。

 これがどうか彼の心に届くことを祈るばかり。


 きっとこの気持ちは他の4人(あの子達)も経験したんでしょうね。

 だからこそ、いつもより顔つきが変わっていた。

 羨ましくなるほど輝いていた。


 さて、これで私の時間は終わり。後はあなたの時間よ―――影山君。

 そのためにごめんね、あなたには後少し苦しんでもらうわ。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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