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第211話 後輩乙女の最強伝説#8

―――陽神沙由良―――


 ついに迎えた文化祭当日。とはいえ、今日は学生メインの初日であり、沙由良んの文化祭デートは一般公開日である明日。


 つまりは今日は学生相手にこの沙由良んが接客をしなければいけないということです。

 はぁ、仕方ありませんね。いっちょやったりますか。


 早速沙由良んも自ら作った衣装にお着替え。格好は雪女です。皆からの要望に応えて。

 本当は厳選した女妖怪の中から唯一のノット女妖怪として唐傘お化けあたりをチョイスしたのですが、流川霧江(ちゃんキリ)や他の女子から猛反対されたので仕方なく。


 理由はどうせセンスティブな格好をしてくるからというもの。

 一体沙由良んのことをなんだと思っているのでしょうか。

 沙由良んからアイデンティティを奪わないでください!


 おっと思わず過去の記憶に不満が漏れてしまいました。過去は過去。沙由良んは振り返らない。

 というわけで、沙由良んは雪女です。白い着物に雪の結晶をあしらった辺りがポイント高めです。

 もっとももっと高いのは着物からチラッと覗かせる沙由良んのビューティフルフットですが。


 これぐらいはセーフでしょ! と猛抗議をしたところで無事にゴーサインが貰えました。

 ちゃんキリも熱量に負けた様子でしたしね(※彼女は疲れただけです)。


「お、沙由良ちゃん似合ってるぅ~!」


 声をかけてきたのは座敷童もといちゃん沙夜ですね。

 沙由良んが知り尽くしている体型だけにあっという間に作れてしまいました。

 完成段階で試着してもらったのですでに一度見ているんですが......やはりいい。可愛い。


 ちゃん沙夜もテンションが上がってるのか着こなした衣装を沙由良んに見せながらぴょんぴょんと跳ねています。なにこの可愛い生き物もとい妖怪は。


 なるほど、ちゃん沙夜は本物の座敷童かもしれませんね。なんせ今の沙由良んは幸せな気持ちでいっぱいですから。


「どう? 似合ってる?」


「感無量......」


「沙由良ちゃん、全く表情変えないまま涙だけ流してるけどどういう方法?」


 沙由良んが感動に浸っているともう一人声をかけてきました。

 そこにいるのは角を生やした鬼もといちゃんキリです。

 ちなみに、比喩表現じゃありませんよ? 怒りやすいけども。


「なぁ、沙由良。これって本当に鬼か?」


「現代風の鬼をイメージしてみました。たまにはこういうのもいいかと思いまして」


 今のちゃんキリの格好は頭に角を生やし、上は少しラインの出るノースリーブにして、下は短いスカートを革ジャンを腰に巻いて隠すという感じにしました。

 後は暇で作った手作りの棍棒を持ってもらえれば最高ですね。


「十分に似合ってると思いますけど......嫌でした?」


「いや、嫌だったら試着段階で言ってるし、つーか普通にこの服のデザインとか格好のセンスとか好きなんだけどもってそうじゃなくて! これが鬼のイメージとか合わなくて......」


 まぁ、現代風ですしね。逆に言えば本来の格好の鬼からどうしたらいいのか悩んだぐらいですよ。


「ちゃんキリは沙由良んが雪女の格好してチラ見えする脚にすら過剰反応してたのにそれ以上の格好なんてなおさら無理でしょう。

 それともよくある虎柄のビキニみたいな恰好の方が良かったんですか?」


「い、いや、これがいい! そうだよな。気を遣ってくれたんだよな」


「ちなみに、もしちゃんキリに気概があるならこのように虎柄のビキニタイプ衣装も持ってますが」


「なんで持ってんだよ」


 そりゃ、もちろんちゃんキリの反応を楽しむためですよ? そのために作ったんですから。

 後でプレゼントしておきましょう。いつか使う機会があるかもしれないですし。


 そんなこんなで話していると店の番のクラスメイトから「そろそろ始まるよ」と連絡を受けました。

 そうです! 沙由良んはこんな所で油売ってるわけにはいきません!


「ちゃん沙夜、学兄さんは来るのですよね?」


「うん、来いって念を押しておいたよ。ま、シスコンの兄ちゃのことだからまず間違いなく来ると思うけど」


「ならば良し」


 それを確認すると沙由良んはホールスタッフとして一目散に向かっていきました。

 文化祭初日が始まってからしばらく、沙由良んはスタッフとして一生懸命接客していましたが一向に学兄さんが来る気配がない! 加えて、このクラスに思ったより人が来てやたら忙しい!


 にしても、ちゃん沙夜が念を押したのにも関わらず来ないというのはどういうことでしょう。

 学兄さんはちゃん沙夜に甘いので「来い」と言われたなら必ず来る。ふむ、少し偵察が必要ですね。


 沙由良んはキッと同じスタッフのちゃん沙夜に目配せすると彼女はコクリと理解した様子で一つの接客を終えると裏へと向かっていきました。

 恐らく沙由良んの推測が間違ってなければ同じことになってるはず。


 少ししてちゃん沙夜が戻ってくると彼女とのすれ違いざまにサッと紙を受け取りました。

 その紙を沙由良ん流速読術で読んでみるとやはり予想通りでした。


 学兄さんの教室はそれはそれは大盛況だそうです。

 ま、仕方ありませんね。なんせあのクラスは学園の姫と皇子が集まっているのですから。


 ちゃん沙夜の紙からは行列のできる店みたいになっていて抜け出すのはかなり困難そうとありました。

 となれば、逆にこちらが向かう―――と行きたいところですが、状況はこちらも同じ。


 そもそもこの状況を作り出したのは沙由良んのせいなんですよね。

 沙由良んも独自の情報網を持ってましてそこからの話だと沙由良んも「美氷姫」という学園アイドルの一人だとか。


 名前の由来は常に凍ったように表情が一つでありながらそれが美しく時間を止めてるからとかなんとか。


 ま、さして学兄さん以外の意見なんてどうでもいいので沙由良んが他の方にどう思われようが気にしませんが。


 ですが、まさかこんな形になって沙由良んのこの学校での評価として表れるとは......ふーむ、それはそれで嬉しいのですが困りましたぞこれは。


 そんな時間が続いていき、時刻はあっという間に初日の終わり際。

 休憩による交代もありましたが、それでもこの疲労感はかなり......。


 いや、そもそも最高の癒しの存在が現れなかったことが問題なんです。

 そう、結局学兄さんは現れなかった。仕方ないことだとは思ってますが、やはり悲しいですね。


「あ、兄ちゃ」


「っ!」


 裏で疲労でしおしおになりながら休憩していると表の方でちゃん沙夜の声が聞こえてきました。

 すぐさま確認するとそこには高級レストランのスタッフのような恰好をした学兄さんが!


 沙由良ん、一歩目からトップスピードで走り出します。

 そして、表に出ればもうほとんど人がいないことを良いことに抱きつきダッシュ!


「学兄さん!」


「ぐはっ」


 チラッと隣に兄が見えましたが関係ありません。スンスン......ハァ~学兄さんのスメル。最高の癒しです。


「そ、その沙由良? 離れてもらっていいか?」


「いえ、ダメです」


 そう断言するも学兄さんは恥ずかしそうな様子で言ってきます。


「いや、その......結構忙しくしてたから汗臭くなってると思うし」


「最高のオプションです」


「好まれても複雑な気持ちになるんだわ」


 だって、汗臭いのがなんであれそれが学兄さんのニオイなんですもの。嫌いになるはずあるわけないじゃないですか。


 学兄さんは沙由良んが全く離れる気が無いことを察したのか諦めた様子でため息を吐くとそっと頭に手を......頭に手を!? あの学兄さんが!? え、あ、ちょっと心の準備が。


「ごめんな、来れなくて。沙夜も」


「私は別にいいけどさ。なんだったら家で見せれるし。でも、沙由良ちゃんはきっとこのタイミングだけだろうし」


 「残念ながら将来的にもありえますよ」と返す言葉が浮かんだものの、申し訳なさそうな声で学兄さんが優しく頭を撫でるせいで沙由良んの頭が真っ白に! あ、これはクセになるやつぅ~。


 いやいや、ここでトリップするのはさぞ気持ちいでしょうが、これは学兄さんが沙由良んに対して負い目があるチャンスの時でもある。ここを逃せば女の恥!


 沙由良んはグイっと顔を上げて学兄さんの顔を見ました。

 あ、抱きついたせいで思ったより顔が近い......くっ、臆するな沙由良ん!


「ならば、明日は今日の分楽しませてくれることを期待しますよ」


 もっともそうするのは沙由良んの役目ですけどね。にしても、やっぱ顔が近い! 好きぃ!

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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