第206話 後輩乙女の最強伝説#3
―――陽神沙由良 視点―――
「はぁ、沙由良んはただ学兄さんにこの上ない愛を届けたいだけなのに世間はどうしてこうも不自由にさせようとするんでしょうか。
沙由良んはただ人によっては微エロに見えるぐらいのグレーゾーンを攻めてるだけというのに。
全く、これではせっかくの文化祭が味気ないものになってしまうような気がしてなりません。そこら辺どう思います?」
「お前のようなテロリストを生まないための最善の処置だと思う」
まぁ、学兄さんったら! 学兄さんなら世間の声に飲まれずの沙由良んの声に耳を傾けてくれると信じていたのに.....。
「まるで沙由良んを犯罪者のように。エロリストとは何事ですか!?」
「エロリストとは言ってねぇ」
「ある意味間違ってねぇけど」と学兄さんは呟きました。いや、そこは否定してくださいよ。
いつ沙由良んが学兄さんにエッチなことをしたと!? まだしてません!
学兄さんは呆れたようなため息を吐きながら机に肘をつけてそのまま頬杖を突きながら沙由良んに聞いてきました。
「で、なんで俺の家にいるの?」
現在、沙由良んは学兄さんの家に凸中であります。
今は土曜日。理由は先日のクラスの出し物での愚痴ですが、それは些細な理由でしかありません。
本当の理由は夏休み中に全くというほどイベントを成立させていなかったので少しでもフラグを立てようと来ました。もっと言うなら大いなる下心です!
とはいえ、沙由良んも清らかな乙女。
いきなり同人誌のヒロインのように学兄さんに迫ったところで、学兄さんは獣の本能を圧倒的な理性で制御する化け物なので上手くいくとは思えません。
というか、学兄さんが脳チン野郎なら今頃とっくに今のハーレム状態で×××やバキューン、ズババババ、ましてやドゴゴゴゴなんてことも!
あぁ、想像しただけで涎が......おっと、沙由良んは|不純物100パーセント《とても清らかな》乙女。こんな所で粗相ははしません。
沙由良んは両手を広げて大きく鼻から空気を取り込んでいきます。はぁ、幸せ。
しかし、こう考えてしまうのもやはり学兄さんが悪いとしか思えません。
なんたってこの学兄さんの部屋に充満する学兄さんスメル!
まるで全身を優しく抱きしめてくれているようじゃないですか!
「おい、沙由良? 何人のベッド向かってんだ?」
特にこの乱雑にめくられた掛布団。
この生活感溢れる掛布団の様は沙由良んにはご褒美でしかありませんね。さらに極めつけはこれ。
「ちょい待たれ。人のベッドの上で枕を抱きしめるな。ニオイ嗅ぐな。すっげー恥ずかしいから」
この枕から香る学兄さんでしか出し得ないニオイ。
まるで脳内麻薬を生成するように鼻腔から入り込んで脳にダイレクトアタックしてきます。
どうしましょう、ちょっとクラクラしてきました。
「学兄さん、少し部屋を沙由良ん一人だけにさせてもらってよろしいでしょうか」
「理由次第だ」
「賢者になるための必要な時間が欲しいです」
「......おい、もう少し発言内容を考えろ。後、恥じらいを持て」
学兄さんが苦悶の表情で頭を抱えました。
「さすがに冗談ですよ」と伝えたものの「お前の言葉は冗談に聞こえねぇ」と叱られてしまいました。むぅ、やはり無理でしたか。ま、想定内です。
これで許可が下りようものなら確実にこの瞬間からギャルゲーからエロゲーに様変わりですからね。
これまでの学兄さんの頑張りを無駄にするようなことは沙由良んもしたくありません。
沙由良んはあごに人差し指を当てて二学期が始まってからの数週間を振り返りました。
にしても、沙由良んが学校で他の皆さんを見た時、皆さんがどこか一皮剥けたような印象を受けたのは妙に思うんですよね。
まずちゃんスバですが、彼女に関しては納得するだけの理由があります。
なんたって学兄さんが大切にしている兄さんとの約束を果たすために行動したのですから。
それが結果的に学兄さんへのアピールになったと考えれば、ちゃんスバが学兄さんと距離が縮まったようなやり取りをするのも当然です。
ですが、ちゃん雪とちゃん莉乃に関しては一学期において特に目立った動きは無かったと思います。
休み時間の事あるごとに学兄さんに凸った沙由良んだからこそ言えることです。
となれば、沙由良んがほぼ全くと言っていいほど関われなかった夏休みで何かが起こったことは明白。
そして、その二人との間に何があったのかを沙由良んは知らない。
この差は大きいと沙由良んレーダーが反応してます。とすれば、取るべき行動は一つ。
沙由良んはまるで執事を呼ぶようにパンパンと二回手を叩きました。
その音は沙由良んの忠実なる僕を呼ぶ合図なのです。
「はい、呼ばれて飛んできましたー! 沙由良ちゃん、どったの?」
ガタンとまるでドアを蹴破るように勢いよく登場したのは親友のちゃん沙夜です。
学兄さんが「俺のプライベート空間が易々と侵害されてく」と嘆いてますが無視しましょう。
今はそれどころではありません。
「ちゃん沙夜二等兵、この夏に学兄さんの女性関係について洗いざらい吐きなさい」
「ハッ、沙由良軍曹! この夏、我が愚兄はコードネームYUKIと二人っきりで海を堪能し、さらには夏祭りというビッグイベントに行った模様」
「な、んだ......と!?」
ちゃん雪が......!? あの小動物代表みたいなちゃん雪が!?
学兄さんと二人っきりで海と夏祭りの両攻めを!?
学兄さんは何も言わない。黙って言葉を受け入れてる。つまり真ということですか。
「加えて、愚兄は同時にコードネームRINOとも親睦を深めた模様。
対象者と水族館へ行った際には嵐という口実で対象者の家に泊まったようです。
あまつさえ、対象者の家は両親が不在だったとのこと」
「ヤ、ヤったのですか!? どうなんですか!? 学兄さん!?」
「いや、ヤるわけねぇだろ!」
「軍曹、我が愚兄も男! すなわち狼であります!」
「くっ、味方がいねぇ......」
学兄さんは自分の不利を悟ったのか顔を手で覆っていきます。
学兄さん、ヤってないことは信じましょう。ですが、泊ったことに関して否定はしてくれないんですね。
心に深刻なダメージを負った沙由良んにちゃん沙夜は「あと一点報告がございます」と続けました。なっ!? まだあるのですか!?
「とある夏の某日にて、我が一家はキャンプ地にてコードネームRINO一家と遭遇。
我が父が対象者の父と懇意にしていたという理由で一緒にキャンプを楽しみました。とても楽しかったであります!」
「そ、それは良かった......ですね......」
沙由良ん、一生の不覚! まさかあの二人がこの夏休みにそこまで猛アタックをしていたとは。
時の運という言葉もありますが、そんなことを言い訳にするわけにはいきません。
沙由良んはベッドの縁に座り直すと足を組みました。その目の前では学兄さんに「正座しなさい」と指示していきます。
てっきり何か言い返してくるかと思いきや大人しく正座してくれたので沙由良んの脱ぎたてソックスでもあげましょう。この生足は魅惑的でしょう。
「さて、学兄さん大佐。これは軍法会議ものです。言い訳はございますか?」
「なんか無駄に階級高いな......」
「言い訳はございますか?」
そう聞き直すと一つ息を吐いて真剣な眼差しで答えてくれました。
「何一つありません。全て事実です」
うっ、学兄さんがこんなにも真剣な目で沙由良んを見てくれるなんて。心にズキュンと来て許してしまいそうになります。
ですが、今は鬼の沙由良んモードです。いくら学兄さんとはいえ、この事実に対して看過することはできません。
とはいえ、そうなってしまったのは沙由良んがこの夏に色々と行動していたせいでもあります。
なので、ここは沙由良んの意地を見せてやりましょう。
沙由良んは雪のように白い足先で学兄さんの顎をクイッとあげると自信たっぷりに宣言します。
「ここからは超絶沙由良んターンです。骨抜きにしてあげましょう」
にしても、この構図流れでなんかやっちゃいましたけど非常にイイですね。めちゃくちゃ興奮します。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




