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第20話 とある議題を用意した

 突然だが、この世界にはいろんなものに対立がある。それはサラダにドレッシング派かマヨネーズ派か然り、きのこたけのこ論争然り。


 そして、今宵の俺が挙げたいテーマはこれだ。


「お前、巨乳派か貧乳派かでいったらどっち派だ?」


「何言ってんの?」


 碇ゲン〇ウばりの凄みで言ったら、光輝から「こいつ頭おかしくなったか?」という目で見られた。うむ、男なら一度は青春の殴り合いの次にやる話し合いであろうに。


 時は3限目終わりの休み時間。俺は後ろを向いている光輝といわゆる“日常パート”を送っていた。


「お前、巨乳派か貧乳派かでいったらどっち派だ?」


「いや、聞こえてないわけじゃなくて。なんで急にそんなこと言ってんの?」


「まあ、なんつーか、近頃の漫画で描かれる巨乳ってのはどうにもこうにもデカければいい気がしてならんのだ。

 確かにデカければそれなりに包容力があるだろう。それに包み込まれるのは心地良いのかもしれない。

 だからといって、いつまでも漫画の美少女=巨乳みたいな等式でいいのかと思うんだ」


「心底どうでもいい議題なんだけど......でも、中には美少女でもその小さい方の人はいるんじゃない?」


「しっかりと貧乳っていってやれ馬鹿たれめ」


「え、なんで怒られてんの俺?」


「そういう女の子は貧乳というキャラ付けのためだけに存在している。いわば女子間のわちゃわちゃ狙いだ。

 一人でも貧乳がいるとその女の子はどうしても巨乳ばかりの周りの女の子に目が移ってしまって、巨乳女の子を敵対視するというオチ。

 されど、そのちょっとしたネタを小出しにだしながらも引っ張れるし、そういう嫉妬は面白い。

 俺はこれを漫画の水着回、温泉回に並び貧乳回と名付けたいと思っている」


「いや、全然並び立ってないから。むしろ、身体的特徴を全面的にいじってるだけだから」


「身体的特徴をいじるってお前、エロいこというなよ」


「ぶん殴るぞ」


 光輝からキツめなツッコミをもらってしまった。まあ、言葉ほど本気で怒ってる感じはなく、むしろ呆れられてる感じだが。構わず続行するぜ!


「で、まあ、本題に戻るけどぶっちゃけどうよ?」


「結局言わなきゃだめか?」


「言わなかったら、これ以上なく周囲の男子から針の筵になることをするぞ」


「お前、なんつー脅迫を......」


 と言いつつも、なんだかんだで律儀に光輝は答えてくれようとしてくれる。その姿勢、最高だぜ!


「そ、そりゃあ、どっちかと言われれば......大き――――」


「巨?」


「うっ.......にゅ、乳」


「巨乳、なるほどね。はあ~~~~、なるほどなるほど」


「な、なんだよ! せっかく答えてやったのにその『やれやれだぜ』みたいな態度は!」


 そりゃあ、実際やれやれだぜだからな。やはり主人公と言えどまだまだ脳内はおこちゃまか。


「ユーは現実が見えていないな」


「どういう意味?」


「もしお前が俺の質問に対して漫画でよく見る胸を基準に判断したのなら、お前はまだまだということだ。だったら、胸より尻だろって言葉の方が信用できる」


「なんか無性にお前を殴りたいんだけど」


「だって、考えてみろ? 大概漫画で描かれているCカップやDカップなんて現実で換算すればEかF、さらにGなんてこともある。リアルに考えろ、気持ち悪くね?」


「ま、まあ、でもフィクションだからいいんだろ? そういうのって」


「うむ、その意見はもっともだ。だが、現実に生きる我々にとってそういうフィクションは無性に強い夢を与えすぎるのだ。そして、儚く散っていく童貞(どうほう)が可哀そうで可哀そうで。

 だから、俺個人としてはあくまで少しはリアリティを持ってもらいたいと思うのよ。っていうか、漫画で言われる貧乳ぐらいが案外リアルサイズだぜ?」


「お前、なんでわかんだよ」


「そりゃあ、見ればわかるだろ」


「お前......」


 いや、そりゃあ見て当たり前だろ。男だぞ俺も。むしろ、無駄に紳士ぶって視線逸らす方がおかしいといえる。

 今時そんな純な男はいねぇよ。まあ、限度はあるけど。あ、予鈴鳴った。


「いいか? よく覚えとけよ? 胸が無駄にデカい奴は気をつけろ」


「そんなこと伝授されても......」


 それから今日一日は光輝に終始ゴミを見るような目で見られた。解せぬ。


*****


「―――――ということを、光輝と話していた」


「なんというか、陽神君も可哀そうね」


 時間は移って放課後の中央公園。前に姫島に「デートして」とのことを言われたので、放課後デートを実行中。まあ、名ばかりでベンチでくっちゃべってるだけだが。


 とはいえ、姫島的にはこれもこれでありらしい。というか、姫島は俺と話せれば今の時点ではいいらしい。そう、()()()()()()。エスカレートしてもやだなぁ。


「だが、実際俺の言ってることって間違ってなくね?」


「それ女の私に聞く普通? とはいえ、まあ、私もどっちかっていうとあなたの思考に近いのかしらね。そもそも考えたことすらなかったけど」


「はっ」


「鼻で笑われた!?」


 姫島は驚きつつも、やはり呆れの方が勝っているようで「やっぱくだらないわね」と乾いた瞳でこっちを見てくる。なんだ、その目は。やめろ、こっち見んな。


「にしても、なんで急にそんな議題を?」


「そりゃあ、とあるラノベを読んでてその話題が出たから気になってな。

 考えてみれば、ああいう世界って天は二物以上のものを与えすぎな気がするんだよ。なんだ美少女で巨乳って。チートかよ」


「それは確かに」


 お、先程とは打って変わって姫島が賛同したな。


「俺の持論としてはこの世界(リアル)は胸の大きさでバランスを取ってる気がするんだ」


「というと?」


「美少女ほど胸が小さい傾向にあって、ブサイクなほど胸が大きい傾向にある。

 美少女はほっといても小顔とスタイルで男が釣れるからいいけど、そうじゃない組はまずそのスタイルという見た目では勝てない。だから、そのとある一点でも勝てるように天が与えたものが胸だ」


「それは私も含めて多くの世の女性を敵に回してる発言だけど大丈夫?」


「まあ、全くもってだいじょばないが、我が道を行くスタイルが俺で......ってあー!」


「なに、どうしたの!?」


 思わず俺はとんでもないことに気付いてベンチから立ち上がる。そんな俺を姫島が驚いた様子で見上げる。


 そうだ、そうだった。俺は近くにいすぎてこんなイレギュラーがいることに理解してなかった。なんという失態。今まで俺はとんでもない奴に話しかけていたではないか!


「お前、天が二物与えた人間(イレギュラー)じゃねぇか!?」


「......はい?」


「だって、お前は周囲の男子から告白されるほどの“美少女”で、さらに胸はDカップもあるし、成績優秀だし、運動神経も悪くない!」


「はい!?!? ちょ、ちょっとなんで私がDだって知ってるのよ!? それにび、びしょ――――」


「考えてみればすぐに気づくはずじゃないか馬鹿たれめ! この世界にも普通にイレギュラーの存在がいるじゃないか!」


「ね、ねぇ、もう一度『美少女』って言ってくれない?」


「貴様は一体何者だーーーーー!」


「美少女よ! って、あ、間違って私が言っちゃったわ」


「そうだ、お前は美少女の上で巨乳だ! もう身体的特徴に置いてお前に勝てるものなんて誰もいねぇ! お前はこの世の全ての女性に心から謝るべきだ!」


「今、また美少女って.......って、なんでよ!?」


「美少女で巨乳に決まってるからだろうが!」


「キャーーーーーー♡ また言ったーーーーーー♡」


 その後、俺達のバカなやり取りはしばらくの間続いた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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