第203話 お前はあれか? 最初の仲間がラスボスになったみたいなタイプか?
夏休みが終わりついに二学期。久々のクラスメイトを見て一学期との代わり映えの無さを感じると同時に、一部グループに変化が見られる場所もある。
この夏休み、俺は俺で雪と生野の大きなイベントがあった一方で、俺が勝手にやっている光輝ラブコメ計画の方もしっかり調査は行っていた。
どうやらこの夏休みでもアイツらはアイツらで何か進展があったような様子だ。
というのも、俺が学校に来て早々光輝と乾さんの二人のぎこちないやり取りが見られた。
光輝と光輝ズハーレムの面々は一年という月日の経過によって恋愛的な意味を抜きにしろ十分に仲良くなっていた。
それこそ一学期までは光輝の机にハーレムズの誰かが気さくに話しかけていく。
それに席がすぐ近くの俺が茶化しに割り込み、そこに姫島達も合流してでそれはそれは和やかな日常回であった。
しかし、朝から見られたその光景は今ではなく、二人のどこかよそよそしい態度が見られるばかり。
出来れば、その現場に居たかったが......仕方ない。いっちょ直接聞いてみますか。
「おはよう、光輝」
「あぁ、学か。おはよう」
「なぁ、なんかあった?」
その問いかけに光輝は本当に何もわかってない様子で「何かって何が?」と聞き返してきた。おいおい、さすがに気づくだろ。
「お前と乾さんのことだよ。一学期は俺が朝教室に入る時には二人で仲良さそうに話してるじゃん。
だけど、今日はなんつーか妙に二人ともよそよそしくない?」
「え、そ、そうか? 別にそんなこともないけど。
あ、そういえば、一緒に来た時に宿題やり忘れたからとかいってたからそれじゃない?」
いや、その「あ」は完全に何かでっちあげる時にでるやつじゃん。
それにチラッと確認すれば乾さんがそんなことをしてる姿はない。他の女子と楽しく談笑中である。
もちろん、乾さんは学業においては高スペックなので俺が来る前に終わらせたという線もなくはない。
なので、一旦ここは引いて後は姫島に任せよう。
――――昼休み
「ま、何かあったのは確実みたいね。それもあの二人だけが体験したという感じ。ただそれに関するボロは出さなかったわよ」
「そうか。なら、後は神のみぞ知るって感じか」
俺と姫島は校舎裏のちょっとした階段の所で昼食を取っていた。
いつも弁当派の姫島にしては珍しく購買で買った焼きそばパンに舌鼓を打っている様子。
残りの一口を指で口に押し込んでいくと口元を隠しながら俺に質問してきた。
「というか、花市さんに聞かないの?」
「あいつには聞きたくない。どうせ上手く話しを誘導されて俺と昴のことを根掘り葉掘りと探られ茶化されるだけだ」
あいつの話術だけには絶対にかかりたくない。
情報網においてアイツの方が上である以上、俺が夏休みに何をしていたなんか最悪筒抜けであろう。からかわれるに決まってる。
そんな俺の言葉に姫島も「あり得る話ね」と頷いていた。おぉ、わかってくれるか。
「なら、私が花市さんに変わってあなたをからかおうかしら」
そう言ってジュースをゴクゴクと飲んで舌が回りやすいように潤していくといきなり強めな質問をしてきた。
「影山君、雪ちゃんの後の夏休みで莉乃ちゃんと何かあったでしょ?」
「......なんで知ってる?」
「あら、最初に否定しないのね」
「そんな如何にも見透かしているような目で見られたら嘘ついてもバレんだろ。
それに質問内容に関して二学期の初めからそんなことを聞く奴はおかしいからな」
「ふふっ、そういう素直な所は好きよ。
でも、あなたからすればその情報の出所は大体察しがつくんじゃない?」
あぁ、あるとすればダブルツリーこと樫木と阿木の二人からだろう。
とはいえ、コイツが生野経由で知りえる可能性はあるとしても、そもそもコイツがその二人と仲良くしてる素振りは見たことがない。
まぁ、俺はコイツが他の四人よりも少し特殊なように感じるのは今更じゃない。
なんせ恋敵が自分の意中の相手にアピールしてるのを見て喜べる奴だからな。
「まぁな。それでそれを確認した上でお前は何が聞きたいんだ?」
「それは簡単よ。現在私達の中で誰がトップを走ってるのか」
何が簡単なのか。こっちとすればその質問の意図が分からな過ぎてお前の特殊な感性に動揺してるんだぞ。
「俺が言うべきセリフじゃないが、そういうのって普通は聞いてもどうしようもないだろ。
今一番だろうが最下位だろうが俺が結果を出してない以上わからない。
なら、結果的に一番になれるように動けばその質問はなんと意味も発生しない」
「そうね、実にその通りよ。でも、私がその結果を聞いて上がいると知って燃えるタイプであればその質問に意味は出るでしょ?」
「お前がそのタイプであればな。だが、お前という人間はすでに恋敵が頑張ってる姿を見て一緒に応援してしまうようなタイプだって知ってる。言ってる俺はわけがわからないが」
「ふふっ、わからないのも当然ね。なんせ私もわからないんだから」
その言葉に思わず呆れた声で「はぁ?」と言ってしまった。
その反応に対し、姫島は随分と楽しそうに笑う。
「そんな顔しないで。本当に私にも分からないんだから。それがおかしいことも知ってる。
だけど、自分の気持ちに嘘をつかないで言うのなら正しくそういう気持ちなの」
「......」
「別に一番になりたくないわけじゃない。なりたいわ、全力で。あなたの特別に」
自信満々に言ってのける。恥じらいもなく真っ直ぐとした瞳で。
「でも、もし負けるならこの相手なら納得がいくかなとも思ってるの。
誰しもが魅力的な女の子で、唯一無二の個性を持っている。
そんな女の子達に好かれる影山君って本当に幸せ者なのよ?」
「それは......なんとなく理解してる」
散々思い知らされてきた。一年生の一年間で色んなやつ色んな悩みを抱えてたり、ただただ全力でぶつかってきたり、振り回すはずの俺がそれ以上に振り回されたりとそんな色んな思い出があるほどには十分に。
「今のあなたの気持ちを当ててあげましょうか。今のあなたはより迷ってるんじゃない?」
「......っ」
「あなたはあなたで必死に自分の気持ちに応えようと頑張ってくれている。
顔を見れば私達の気持ちの全てを汲み取って考えようとしてくれているのがわかる。
だけど、それはあくまであなたの仕事。私達の仕事はあなたに選んでもらうように頑張るだけ。
その結果があなたをより悩ませているならそれは私達の仕事能力の方が大きかったということね」
「あぁ、デカすぎて困る。優秀でもあるしな」
どこか俯きがちに答えた俺の横顔を姫島がじっと見つめてくる。その視線に気づいたのですぐに聞いた。
「なんだ?」
「いえ、好きな横顔だと思って」
「茶化すな」
「あら、本気よ? ともあれ、その仕事能力の優秀さは私達個々のメンツのスペックによるものもあるけど、もとより5人分を1人で抱えてるってのもあるから仕方ないとは思うわ」
「だが、これは俺が蒔いた種だ。誰にでも出来るわけじゃない。誰かにやってもらうわけにはいかない」
「良い心がけね。そんなあなたに一つアドバイスを送るわ。何かの基準で決めようとするのはやめなさい」
「......どういう意味だ?」
「もっと簡単に言えば感情的な判断に任せなさいってこと。
今のあなたは感情的な判断では優劣がつかないだろうからとあなたなりの何かの条件や基準を設けて差異を出そうとしている。
何か合理的な判断に基づく理由でね。だけど、それをやめてもっと素直に言葉を飲み込みなさいってこと」
なんで......なんでこいつは......何がしたいんだ?
恋敵のアピールする様子に嬉しがったり応援したり、俺に対しては答えが見つけ出しやすいようにアドバイスを送る。
そのことに関してはとてもありがたい。だが、コイツにとってそれはメリットになりえるのか?
俺がコイツの言葉通りに感情面で受け取ろうとすれば、当然関係性を再確認したあの三人の想いが強くなってしまう。それはコイツにとってはデメリットでしかないのに。
「ふふっ、私の心はただでさえ複雑な女心を読み解いた先にある.....かもしれないわ」
ただ一つわかることはそんなコイツにも十分すぎるほどの魅力を感じてるということだ。
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