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第200話 陽気乙女の星降る夜#11

―――生野莉乃 視点―――


「はぁ~。食べたわ~。もうお腹いっぱい」


「やっぱりバーベキューはキャンプに欠かせないよな」


「ふぅ、これでまた体にカロリー蓄えちまったぜ」


「沙夜ちゃん、恐ろしいこと言わないで」


 川で散々遊んだ挟んだ後の両家を交えての夕食を終えて、あたし達は互いの両親とは別の場所で夕涼みしていた。


 やっぱり、こういうのもいいわよね。

 もっともあたしは皆と一緒に楽しむのが好きだから一人ではしようと思わないけど。


「兄ちゃ、どうしよう急激に眠くなってきた。この後、皆でトランプでもしようと思ってたのに......」


「テンションで乗り切れ。それかとりあえず体動かしておけば寝ることはない」


「なるほど。それじゃ、恋バナしよう! 恋バナ!」


「人の話聞いてた?」


 この空気を掻っ攫って振り回していく感じはまさに沙由良ちゃんの友達って感じがするわ。だって、あの学が振り回されてんだもの。


「口も体の一部に入りますぅ~」


「いやまぁ、そうなんだが......ならせめて話題のチョイス変えない? なぁ? 生野もそう思うだろ?」


「えぇ、そうね。さすがに恥ずかしいわ」


「両想いなのに?」


「「うっ」」


 さらっと踏み込んではいけない領域に踏み込んできたわね。

 そこが地雷原であることを知らないのかしら? いや、知ってても突っ走ってきそうだけど。


「これはあくまで俺達の話だから沙夜が介入する必要はない」


「え~、気になるぅ~。ね? いいでしょ? お兄ちゃん? 教えて~」


「ここぞとばかりに『お兄ちゃん』と言うな。

 それからその明らかに狙ったかのように上目遣いやめろ」


「ちぇ、面白くねぇ」


「おいこら、ついに言いやがったな」


 沙夜ちゃんがバッと走り出すと学がザッと追いかける。

 さながら子犬の追いかけっこのように。仲良すぎか? この兄妹。


 そんな光景を見ながらあたしも皆の場所に行こうと立ち上がり歩いていった。


―――数時間後


 散々トランプや架空の怖い話をしてバカ騒ぎした後、沙夜ちゃんの気力の電源がついに落ちたのでそれを境に寝ることになった。


 時間は深夜。誰もが寝息を立てる中、微かにゴソゴソと鳴った音に気付いて目が覚める。


 何かが近くにいる感じではなく、むしろ遠くから聞こえてくる感じであたしはそっとテントの入口から顔を出した。


 男性陣のテントから誰かが出てきた。

 あの背丈の感じ......学じゃない? 何してんの? こんな時間で。


 気になったあたしは懐中電灯を手に持ってその後ろを追っていく。

 すると、少し歩いた先で森が開けた場所があり、そこから見える空はまるでラメを散りばめたように輝いていた。


「奇麗......」


 その星空は簡単にあたしの心を奪っていった。

 そして、同時に思い出す―――この光景はまるで一年前の林間学校の時と同じなんじゃないか、と。


 違う点を挙げるとすればそれは今の関係性と言えるだろう。

 あの時は学はおろかあたしも学に密かに好意を寄せていることに気付かずにいた時期。

 そんな二人が他愛もない会話をした地味で淡くて......でも、大切な思い出。


 学の姿を探してみれば地面から出っ張った岩に腰かけてぼんやり眺めている。

 そんな姿が絵になるように感じながらあたしも一緒に混ざりたくて近づいた。


「ズルいじゃない。一人でこんな素敵な光景を独り占めするなんて」


「生野か。あぶねぇだろ、こんな時間にうろつくなんて」


「それはこっちのセリフよ。でも、今はもうあんたがいるから問題ないでしょ?」


「随分な信頼だな」


 そう言って学は再び星空を見始めた。

 む~、それもいいけど、せっかくあたしが来たんだからもう少しあたしに構ってくれてもいいでしょ。

 というわけで、学の隣に座っていく。


「ちょ、なんでわざわざ同じ場所に.......」


「別にいいでしょ。ほら、少しズレなさいよ。あたしが座る場所無いでしょ」


「そんなスペースほとんどねぇよ。それにこれじゃ密着しすぎる。

 はぁ、わかったから。その場所譲るから」


「それはダメ! 計画と違うから!」


「いや、お前の計画と知らんし」


 そう言って逃げようとする学の腕を掴んで無理やり同じ場所に居させる。

 絶賛隣同士でお尻やら太ももやらが密着してるけど! あ、やば、これめっちゃ恥ずかしい!

 だけど、これぐらいしないとダメよ! もうこうなったら腕もがっちりホールドしてやる!


「これで逃げられないでしょ?」


「暗くてハッキリと表情は読めんけど、お前絶対顔赤いだろ」


「うっさいわよ。それはお互い様でしょ」


 学はあたしが離さないことを理解すると諦めたようにその場にとどまった。

 そして、再び星空を眺めていく。


「ねぇ、覚えてる? 前にもこんなことがあったの」


「あぁ、確かお前の友達に騙されて俺と夜に密会した時のことだろ?」


「そう。全く本当におせっかいったらありゃしないわ。でも、おかげでここまで進展してるとも言える」


「全てはあの二人の手のひらの上って思うと釈然としねぇ。

 俺はどっちかっていうと手玉に取りたい方なのに」


「当事者じゃなければ良かったのにね。

 残念でした。あたしに惚れられた時点でその計画は破綻してます~」


 その言葉に「本当に厄介だったよ」と言う学の表情は横から見ても明らかに笑っていた。もう過ぎた思い出話のように。


 あぁ、本当に居心地がいい。会話一つ一つがそう感じさせていく。

 ハッキリとした言葉は思い浮かばない。

 ただ、しっかり「好きなんだな」という想いだけが増長してる。


 どうしてこんな奴なんだろうとなんども思ったことはある。

 だけど、逆にコイツ以外なら誰だろうと思い浮かべるともはやそこに陽神君すら出て来なくなってしまった。


 まるでコイツと出会うために陽神君という人物を無理に好きになったみたいに。いや、あの時の気持ちも確かに本気だった。


 だから、もしかしたら神様がいるのだとしたらチャンスをくれたのかも。

 散々淡い男子の心を弄んできたあたしが神様というのもおかしいんだけどね。


 これは本気の恋だ。確実にそう言える。


 近くにい過ぎて心臓が張り裂けそうなほどバクバクしてるというのに、決して離れたくないようにあたしの絡めた腕が学の腕を押さえている。


 気持ちと行動の矛盾。でも、そこにあるのは一途に学のことを好きだという感情。

 あぁ、もしかしたら今の同じあの時―――あたしは恋を始めたのかも。


「学......好き」


 不意に呟いた言葉。それでも聞こえないなんてありえない距離感で発した言葉に学はただ静かに星空を眺めていた。


「あたしは自分で言うのもなんだけど、どうしようもない女だったんだよ。

 ま、情報通のあんたなら今更話すこともないけどね。

 でも、本気で恋をしている今ならわかる。

 あの時のあたしはずっとバカやってたんだなって」


「でも、そのおかげで今があるんだろ?」


 しっかりと聞いてくれていたようで思わず笑みがこぼれる。でも、決して顔はこちらに向けない。

 きっとあたしの心情を察して見ないようにしてくれてるのね。ほんと、大正解よ。


「そうね。恋というのがこんなに苦しく辛く、それ以上に楽しく嬉しいものなんてあんたがいなければ知り得なかったことだわ」


「光輝の時でもだろ」


「陽神君の時は微妙に違うわね。あの鈍感具合に時折イラッとすることもあった」


「なら、気づいていて無視する俺はもっとイラッとしなかったのか?」


「あんたの場合はどちらかというと悔しかったし悲しかった。

 あたしの魅力がまるで透明になってるかのようで、あんたとの時間が楽しかったからこそあんたがあたしという存在を見てくれてないことがとても悲しかった」


「......」


「でも、それはもう過ぎたことだわ。それについての清算は冬に終わったし。

 だから、後は見えてるあたしの魅力を余すことなく伝えていくだけ。その手始めの告白。ね、好きよ」


「......手始めなのか」


「告白して付き合うことになってがゴールじゃないでしょ?

 ゴールした後もずっと続いていくし、続けていきたいと思うの。

 確かに“恋”というレースにおいてはゴールかもしれない。

 でも、“恋愛”に関してはまだまだスタートラインなの」


「難しいな」


「本当にそう思うわ。でも、こんな難しいことをしてでもそばにいたいと思う程あたしはあんたが好き。

 大好き。あたしの気持ち、受け取ってくれるわよね?」


「......」


「ま、ここで言葉を返せないなんて百も承知だわ。

 どうせあんたの中じゃ昴や雪との思い出も残っていて考えれば考えるほど絡まっていってる状態なんでしょうから」


 学の表情は硬い。きっと図星なんでしょうね。

 まぁ、あんたが蒔いた種だからあんたが責任持ちなさい。だけど―――


―――チュッ


「!?」


 学が頬を押さえて驚いた様子でこっちを見る。ふふっ、良い表情ね。


「けど、あたしはそんなあんたの状態なんて知らないし知る気もないから。

 せめて手伝いとしてあたししか考えられないようにしてあげるわ」


 あたしは学の腕を離して立ち上がると「先にテントに戻ってるわ」と告げる。

 そして、学からある程度離れたぐらいであたしの足は段々と速度を上げて、顔を手で覆っていく。

 あぁ、顔が熱い! もう覆ってる手が火傷しそうなほどに!


 絶対キス(アレ)はやりすぎたー!


 そう全力で叫びたいが叫べない今のあたしの心でその唇の感触と告白の記憶が暴れ続け、テントに戻った後も全然寝付けることはなかった。

 アレ? そもそもあしたも顔合わせんじゃん。どうやって顔合わせんのよ。あ、やば、死んだ。


 その後、朝起きたあたし達は絶賛気まずい空気を醸し出し、沙夜ちゃんから妙な視線を送られながらキャンプを終えた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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