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第198話 陽気乙女の星降る夜#9

―――生野莉乃 視点―――


 唐突に決まってしまった学とのお泊り会。全く準備をしてない。それこそ気持ちも部屋の片付けも。


 とりあえず、学が今家の方に電話をしている間に今後の方針を決めよう。

 といっても、何をすればいいのか全く持ってわからないけど。


 こうなってしまったのはもはや仕方ない。自然の天気には抗えない。

 となれば、気持ちを切り替えてこのチャンスを好機と捉えるべきよね。


 これまいわゆるお家デートを想定した動きを......ダメだ、正直午後6時以降まで部屋に男子あげたことないからここからの運びが分からない。というか、学が初めて家に招いた男子だし。


「わかった。それじゃあ」


「納得してくれたの? というかなんて話したの?」


「さすがに女子の家に泊まるとは言えなかったから光輝の名前を利用させてもらった。まぁ、後はこっちで帳尻つける」


「そう」


 一応これまでの付き合った中で割と長続きした男子には家に招かれたことはある。

 まぁ、あまり長いはしなかったけどね。明らかに鼻息荒くしてやる気満々だったし。


 とはいえ、その時のお家デートの経験はこの時に生きるはず。

 確かやったことはゲーム進められて一緒にゲームしたり、なんか気になった漫画読ませてもらったり、他愛もなくつまらなく話してただけだったり。


 う~む、この中で役に立ちそうになものはないわね。

 ゲームといっても家庭用ゲーム機は特にないし、あってもスマホのアプリゲームだけだし。


「そろそろ腹減ってきたな。とはいえ、買いに行けるかこれ?」


「音だけで判断すると無理そうね。明らかに雨粒が雨戸叩いてるもの」


 あ、でも、前に映画好きの奴がいたっけ。正直、楽しくもなく会話するのが面倒だったからその映画見てる時間は静かで逆に居心地良かったっけ。


 うん、それにしよう。今のあたしはずっとでも学と話していたい。

 学の返す言葉は多少おざなりだけど、波長が合うせいで面白く感じるのよね。

 だから、本当はいつまでも話していたい。


 だけど、今は二人っきりというこの状況があたしの意識の大半を奪って何しでかすかわからないからダメ。

 くっ、今は我慢よ。こんな時間はあたしのものにすればいくらでも作れるんだから。


「仕方ないわね。余ってる材料で夕食を作っちゃいましょ」


「ごちそうになっていいのか?」


「むしろ、この状況であたしの分だけ作る意味がわからないでしょ。

 あんたはそこまで気を遣わなくていいから。別に後で食料代を請求なんてしないから」


「そうか。なら、せめて料理を手伝うよ」


「あんた出来んの?」


「こう見えても大抵のことは出来るように身に付けてきた。

 全ては妹に最高の兄であると慕ってもらうために!」


「ふっ、絶賛五股中なのに」


「言うな。言わないでくれ。俺のメンタルが今にも死ぬ」


 そう言って学はその場に崩れ落ちる。

 ふふっ、いい気味。やっぱり前に学を手玉に取ってからこういう落ち込んでる姿見るとゾクッとするわね。


 とはいえ、やり過ぎると反撃が怖いので一旦ここらで引いておこう。

 こいつはたぶんやろうと思えばいくらでも倍にしてやり返すだろうから。


「ま、どの道すでに妹ちゃんにはバレてるんだから問題ないでしょ」


「むしろ、目を輝かせてるのが問題なんだよな......沙由良の奴、どうやったら人の妹の価値観をあそこまで歪められるのか」


「あ~、それは同情するわ」


 沙由良ちゃんって初めて会った時から思ってたけど、あの子ほど意志と行動が強い子はいないと思うのよね。


 なんというかあの子は自分が変わるぐらいなら周りを変えるタイプというか。

 加えて、Hなことに対して耐性が強すぎるのよね。強化版雪というべきか。

 あの二人が仲良くしてるのは嬉しいんだけど......心配なのよね。


 あたしは学にエプロンを渡すと適当に材料を切って貰ってその手際を見た。普通に上手かった。

 というか、あたしよりそつがなくて上手くない?

 前から思ってたけど、あんたなんだかんだスペック高いよね。


 それから、割と話してたはずなのに作業効率は下がることなく、むしろ上がっているほどでこっちが指示も出してないのに作りたい料理を察して下処理済ましてあった時はちょっと引いた。


 そして、あたしが想定したよりもあっという間に夕食の準備が出来て、それをテーブルに並べては二人で向かい合って食べていく。


「う~ん、美味しい~」


「美味そうに食うよな」


「そっちの方があんたが食べた時もより美味しく感じるでしょ」


「そんなこと計算して食ってるのか」


「んなわけ。ただおしゃべりな口が勝手に出した言葉よ」


 それにしても、本当に一緒に暮らしているかと錯覚してしまうぐらいの居心地の良さ。

 いつの間にかあたしのドキドキはどこかに消えて、これが本来のあるべき日常みたいな鼓動の仕方をしている。


 いつもそこにいることが当たり前のような、あたしの視界の中でいつも輝いて映っているような。

 ふふっ、だいぶポエムな気分ね。絶対黒歴史だわ、これ。


 夕食を終えて学が食器を洗ってくれているので、その間にあたしは自室の片付け。

 万が一、億が一ね? なんかあった時のために見られても恥ずかしくないようにセッティングしておくの。それこそ前回のような醜態は晒さないわ。


 そして、ついでに映画を見るというプランなのでパパの部屋を漁って適当に面白そうな映画を拝借。


 うっ、なんでよりにもよってパパの持ってる作品はホラー系かドロッとしたサスペンス系しかないのよ。そのサスペンスも結局ホラーよりだし。


 ん? 待てよ? これは自然に抱きつけるチャンスなのでは?

 アイツは肝試しでも率先してお化け役をやるほどには肝が据わってる。それはすでに確認済み。


 となれば、あたしが怖がってるフリをして抱き着けば、曲がりなりにもあたしのことが好きなアイツなら必ずドキドキするはず! ふっふ~ん、あたしってば策士!


 そうと決まればさっそく実行! さて、いっちょドキドキさせてやりますか―――


―――数十分後


「キャアアアアア!」


「事件性しか感じない悲鳴」


 な、なによこれ! 怖すぎ! いきなり脅かし要素を入れてくんじゃないわよ! アホ! バカ!

 だ、ダメだ~。今の思いっきり目に焼き付いた。どうしよう、寝れるかな?


「大丈夫か?」


「大丈夫に見える!?」


「そうだな。半泣きだもんな。ごめんよ、野暮なこと聞いて」


 うぅ、結果的には学の腕に抱きつけているものの、なんかもう“ドキドキさせたる”みたいなこと全っ然考えらんない! 余裕ない!


「......見るのやめるか?」


「それはそれで負けた気になるでしょ」


「無駄に意地張るなよ。というか、ちょっとトイレ行きたいんだけど」


「まさかこの状況であたしを一人にしておく気!?」


「いや、部屋も明るいし、ほらここのシーンなら一時停止しても大丈夫だろ。というわけで、行かせてくれ」


「嫌よ、行かせない。もしここであんたがトイレに行ってる間にあたしがテレビから出てきたあの幽霊に襲われたらどうすんのよ! するなら、ここでしなさい!」


「それ安易に漏らせって言ってること気付いてる?」


 だって、だって! そうじゃきゃ怖いもん! でも、コイツに無理言ってるのも理解してる。くぅ~~~、仕方ない!


「折衷案よ、代わりにあたしが行く」


「いや、なにも解決しない案なんだが」


「間違えた。あたしもついて行く。トイレのそばにいれば大丈夫でしょ」


「嫌だよ、恥ずかしい。というか、仮にそれをした場合お前は廊下に取り残されるけどだいいのか?」


「ドアを開けときなさい」


「だいぶおかしいこと言ってることにはよ気付いて」


 あたしと学の話し合いが少し続いた後、本当の折衷案として学がトイレに行ってる間もスマホのやり取りをしてもらうことにしてもらった。結果、普通に未読スルーされた。


「ふぅ~、やっとスッキリした~」


「スッキリした~じゃないわよ! バカ! 反応しなさいよ! アホ! こっちは怖くて仕方なかったのよ! ドジ! あたしの心配をしろー! マヌケー!」


「合間合間に小学生並みの悪口挟むな」


 それから、あたしは学の腕をがっちりホールドしながらなんとかその映画を見終わった。

 気が付けばいつもより少し早いけどそこそこ寝るには丁度いい時間。


「もう寝るわ。あんな記憶サッサと忘れてやるわ」


「おーおーそうしろ、そうしろ。で、俺はどこで寝ればいいの?」


「ん? あたしの隣よ」


「恐怖で倫理観おかしくなったか?」


 じゃなきゃ安眠できないでしょ! あたしにどうやって安眠しろと!?


「鬼! 悪魔! 人でなし!」


「脳内で勝手に話しを自己完結さすな。この場合、俺が唐突に暴言吐かれただけになるぞ」


 あたしはうだうだいう学をなんとか引っ張りながら自室まで。

 でも、さすがに一緒のベッドは恥ずかしすぎるから来客用の布団を持ってきてそれをベッドの横に引いていく。


「これなら文句ないでしょ。全くわがままなんだから」


「なんか俺がすげー駄々こねたみたいにされてらぁ」


 あたしがベッドに横になると学が電気を消してくれて布団に寝そべっていく。


「学、起きてる?」


「あー、起きてるよ」


「手、繋いで」


「......やっぱりもうお前おかし―――」


「いいから。早くしろ」


「うっす......」


 あたしがベッドの横から手を出すとその手を学が握ってくれた。

 あったかい、安心する。でも、これあんたの手?


「これあんたのよね?」


「俺以外に誰がいるよ」


「あの映画の幽霊」


「想像力が豊か過ぎる」


「証拠にニギニギして」


「......はぁ」


 そう言うと仕方なそうなため息を吐きながら握ってくれた。

 その圧を感じるたびに強張った心と体が解けていくように軽くなる。


 それからも眠れないあたしの話に学はどこまでも付き合ってくれた。

 どこか眠たそうな声はあたしも眠くしていく。


「そういえば......少し前に両親にキャンプ行こうとか言われたのよね」


「へぇ、アクティブな両親だな。という俺もキャンプに誘われたな、つい一昨日ぐらいに」


「奇遇ね。もしかしたらなんかあるかもね」


「まさか~」


「あたしもそう思う。だけど、あたしの友達曰く『ラブコメにハプニングはつきもの』らしいから」


「んじゃ、本当になにか......あったり.....して.....」


「信じてんの? って、寝ちゃったか。さすがにあたしも寝よう。もう大丈夫そうだから」


 そして、あたしはぐっすりと眠りについた。

 その数日後、この言葉がまさにフラグになるとは思ってなかった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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