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第195話 陽気乙女の星降る夜#6

―――生野莉乃 視点―――


 学と駅で合流してホームにて電車を待つ。そして、予定通りに来た電車に乗っていく。

 幸い、その日は電車の乗客は少なかった。

 お盆で帰る人が多いと思ったけどこれはラッキーね。


 それにしても、電車に乗ると今でも思い出してしまう。いや、好きと自覚してから余計にか。


 それは去年の出来事。たまたま学と一緒の電車に乗って、その時は満員だったためにあたし達は出来るだけ体をちっちゃくしなければならなかった。


 その際、いた場所が反対側のドアで学がドア側に立っていたためにまるで壁ドンしたような距離感になってしまったのよね。


 その時のあたしは色々と心中複雑だったし、それにあまりに顔の距離が近くてどんな表情だったか。


 ただ駅に着くたびに総合的に乗客が増えていき、出来る限り学にくっつかないように気を遣ってたけど......それもついに限界を迎えて諦めたのよね。


 まぁ、学も気を遣ってくれたことだし?

 互いに同意したことだったから仕方なかったとはいえ......やっぱりあれだけ密着して数分はヤバすぎた。


 そしてそれ以来、あたしは読モのバイトで電車に乗る度にそれが脳内に過ってしまうようになってしまった。うぅ、今も絶賛ドキドキしてる。


 それでどうしてこんなことを考えたのかというと、それは今この場にいる学がその時のことをどう思ってるのかってのが気になるから!


 今あの時と同じ電車内で!

 あたしと一緒にいて!

 その時のことは思い出さないのかってこと!

 というか、思い出して悶々としろ!


「ね、ねぇ、あんたと一緒に電車に乗るなんてあの夏の時以来よね?」


「そうだな。あの時の満員電車は酷かったな」


 なんでそんな普通の日常会話してるみたいな顔してんのよ!

 満員電車を思い出したならそれ以上に思い出すことあるでしょ!

 ほら、こう......あたしの胸に密着してほぼ抱き合ったみたいになったこととか!


「そうよね。あの時は酷かったわ。改めてあの時は悪かったわね。なんか壁ドンしたみたいになって。

 でも、今思えばラッキーだったんじゃない?」


 こちとら羞恥心を抑えてそれでもあんたの照れ顔拝みたくて話しとんじゃい!

 さ、ここまで言ったならさすがに学も―――


「まぁ、確かにそうなるのかも?」


 何普通に答えてんのよ!


「いや、そんなこと言われても」


 おっと思わず声に出てしまっていたみたい。クールになるのよ、私。それでいて心は熱く。

 とはいえ、全く動じないのはムカつく。あたしばっか意識してるのがバカみたいじゃん。


「別になんでもないわよ」


 そう言い返すともちろん学の顔は「?」であった。

 ハァ、そうよね。コイツはこんなんよね。あたしが受け入れましょ―――っと!?


 電車が一瞬大きく揺れた。思わずバランスを崩してドア側に体が傾いてしまう。やっば、ちゃんと手すり掴んでれば良かった。


 咄嗟に手を伸ばしたのは手すりではなく学で、それによってつり革を掴んでいたアイツも体勢を崩してしまう。


「痛っ......ごめん、咄嗟に掴んじゃって。つい手があんたの方に―――」


 軽くぶつけた後頭部の痛みも一瞬で吹き飛んだ。

 それはあたしが学を掴んだことで、学はあたしを潰さないように伸ばした手が結果的に壁ドンっぽくなったの。


 それでいて何より学の顔! 全力で顔を背けてるももはや隠しきれないほどに顔を赤らめてる。耳まで真っ赤。なにこれ、確かにめっちゃ健康になりそう。


「あんた、やっぱ知っててポーカーフェイス決めてたのね。バチクソ意識してんじゃん」


「......うるせぇ。後、その煽り顔やめろ」


「無理ね。おかげで肌ツヤが良くなるもの」


 そしてしばらく、学の表情について散々煽りまくったのちに駅を降りて歩くこと数分。

 無事目的地の水族館の入り口まで到着した。


 さすが夏休みというべきか。どこもそこも人で溢れている。

 そしてなにより、家族連れとカップルが多い!

 そして、自分達もその枠組みと思うと妙な優越感を感じた。


「さ、行きましょ! 全力で楽しむわよー!」


「テンション高いな。まぁ、確かに小学校ぶりだから今の水族館がどうなってるか楽しみだな」


 とかなんとか言いつつ、実はあたしと同じでテンションがブチ上がってるんでしょ? 全く素直じゃないな~。


 あたしは学の手を引くと足早に水族館へ向かっていく。

 学に貰ったチケットで......ってこれよく見たら有効期限まだ全然あるじゃん。

 あれ? 今日までとか言ってなかったっけ? まぁいいや。


 なんだかんだであたしも水族館は久しぶりだからな~。

 前に行ったのは中1で友達と行ったんだっけ。

 そう考えると今は好きな人とこれてるって進化ヤバない?


「さて、パンフ貰ったけど見たいのある?」


「そうね~。あ、イルカショーは絶対見たいわ。時間的に午後13時の部が一番早いわね」


「一番早いというか、それを逃すと次16時だからな。そこに行くべきじゃないか?」


「何よ~、あたしとだったら仮に逃しても全然時間潰せるでしょ~」


「いや、さすがに飽きてるかもしんないぞ」


「確かにそうね。ごめん、ちょっとめんどくさいムーブしたけど、あたしも同感だわ」


 あたしと学の思考は似通ったところあるからこういう時意見がすぐに一致して楽よね。


「で、他に何かある?」


「そうね、あんたが時間計算しやすいようにあたしが見たいルートを考えると大体こうこうでこうかしら」


「......余計な気を遣わんでいい。今日の生野はもてなされる側なんだから」


「だったら、あたしに思考を読み取られないように頑張んなさい。それこそあっと驚くようなやつをね」


 分かりやすいのよ、あんたは。特に普段の行動に関してはだけど。

 だって、正直あたしの取りそうな行動があんたの行動だもの。


 さっきのイルカショーだって間に合うようにあたしも後で昼食の時間も考えての計算しようとしてたし。


「んじゃ、そのルートで行こう」


「もうしっかりエスコートしなさいよ?」


「先読みされてちゃしようがないと思うんだが......」


 そして、あたし達は一緒に色んな魚を見ていった。

 久々で普通に楽しかったのもあるけど、やっぱり隣に学がいるっていうのが最高に楽しいわよね。


 それにあたしが話しかけるとほぼ全てにちゃんと返答してくれる。

 それってちゃんと聞いてくれてるってことだし、それでいてあたしに面白そうな魚を紹介してくれる。

 え、普通に楽しいんですけど。というか、好きなんですけど。


「ねぇ、あれってジンベイザメよね」


「直で見るとこんなにもデカいんだなぁ」


 巨大なアクアリウムの中で悠然と泳ぐそれを見ているとなんか圧巻。恥ずかしながら童心に戻った気がする。


 それから、学と一緒にアクアリウムのトンネルを歩いたり、いろんな種類のいるクラゲを見たり、ふれあい出来る水生生物を手で触ったりと色んな事をした。


 そして、予定通りに昼食を済ませるとイルカショーへ。

 昼食できる場所の込み具合を考えて少し早めに向かって良かった~。無事に間に合いそう。


 会場に辿り着くと前列側の席へ座っていく。

 13時になり始まったイルカショーにあたし達は圧巻された。


 揃って水面を飛び跳ねたり、高く吊るされた輪っかを思いっきりくぐったり、口に乗せたビーチバレーを落とさずに泳いだりと芸達者なその動きに感動した。


 さらにイルカだけではなくセイウチやアザラシによるショーなんかも行われあたし達のテンションは最高潮に。飼育員さんが求めた呼びかけに二人して叫んだりも。


 しかし、完全にその時は油断していた。今という状況がラブコメで作られていることを。


「それではこれからシャチのクリス君のショーを開催していきたいと思います」


 飼育員さんがそう言った次に笛を吹くと水中から思いっきりシャチが飛び出していく。

 最初は何回か笛の音に合わせてジャンプしていたが、次の瞬間そのシャチが水槽のふちギリギリに着水したの。


 そして起こるは巨大な水しぶき。その時、ふと周囲に雨合羽を着てる人が多かった理由に気付いた。


―――ザバアアアァァァン!


 それは濡れたわ。盛大に。水の圧を全身から感じた。

 とはいえ、完全にこうなることを頭からすっぽ抜けてたあたし達が悪いんだけど。


 隣をふと見ると学も何とも言えない顔をしていた。

 そして、同じように見てきて目が合うと二人で不幸な出来事に笑っていく。

 例え悪いことが起きても笑って歩んでいけるならそれに越したことはないわよね。


 その後、濡れた服をどうしようかと思ったけど、飼育員さんがやってきて「多少のしぶきはあってもあの水量は想定外」ということでなんか無料でその水族館で売っている服を貰ってしまった。


 助かった~。完全に服が透けて下着見えてたのよね。

 そういえば、その時学がそっとタオルを貸してくれたけど......もしかして見てた?


 というわけで、無事にあたし達の水族館デートは終わりを迎えた......のだけど、終わったのはあくまで“水族館”でありデートは延長戦までもつれ込む事態に発展してしまった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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