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第192話 陽気乙女の星降る夜#3

―――生野莉乃 視点―――


「ハァ、とりあえず麦茶持ってこう」


 時折聞こえるゆきっちの言葉を無視しながら冷蔵庫を開けてそこから麦茶の入ってるボトルを手に取ってコップに注いでいく。

 あ、それと作っておいたお菓子も持っていかなきゃね。


 十分に悶えてしまったせいかせっかく顔を洗ったにもかかわらず顔は相変わらず熱を帯びている。さっきの時間返せ。


 しかし、一度思いっきり熱を発散したせいか一周回って冷静になってるような気もしなくもない。

 ともかく、これ以上アイツを待たせるわけにはいかないし早く行こう。


 そして、自室に戻ってくるとドアノブを捻って中に入った。

 そこには律儀に正座して待ってる学の姿が。


「別にリラックスしてくれていいわよ。そっちの方があんたも楽でしょ?」


「まぁな。なら、胡坐(あぐら)かいてもいいか?」


「いいわよ。後、これ麦茶とお菓子。適当に摘まんでくれていいから」


「おぉ、ありがとう」


 学のやつ、私のお菓子を見た瞬間途端に元気になりおって。

 さっきまでの緊張してた表情はなんだったのよ。

 なんかお菓子に負けたみたいで悔しいじゃない。


「それじゃ、早速始めましょう」


「......」


「何よ、その驚いた顔は?」


「いや、なんか普通に雑談するのかと思ってたから。ぶっちゃけ、勉強会も口実なのかと思ってた」


「それはさすがに自意識過剰よ。まさか、私があんたとイチャイチャするためにここに呼んだと?」


 全くもってその通りです。勉強会なんてただの口実でした!

 でも、あんたからいきなり図星の質問されたから思わず言い返しちゃった。

 くっ、なにやってるのよ、私! 自らチャンスを棒に振ってどうすんのよ。


 そんな私の一方で、学は「確かに自意識過剰だったかもしれん」と恥ずかしそうに顔を手で押さえている。

 大丈夫、あんたは何も間違ってないわ。それはそれとして、その照れ顔なにそれ可愛い。


 しかし、今更どう軌道修正したらいいかもわからず、思わず変更してしまった路線に乗ったまま勉強会を始めることになった。


 仕方ない、ここはポジティブに考えるのよ。

 どの道、あたしの夏休みの宿題はロクに進んでない。

 ここでパーッと進めちゃうのもあり。


 それにわからない所を質問する際に学の横によれば十分にドキドキさせることもできる。

 ふふっ、あたしってば策士! これであんたの隣を占領してやるわ!


―――2時間後


「かーっ、やっと三分の一終わったー!」


「めっちゃ聞いてきたが大丈夫か?」


「正直、めっちゃ不安。現在は大丈夫とだけ言っておくわ」


 ま、それもこれも学が分かりやすく教えてくれたおかげだけどね。

 あんたって恋心以外に関しては人の心を割と察せれるから教師とか向いてんじゃない?


 あ、でも、それだとその学校生活あたしのような物好きが出てきてもおかしくないかも。

 こいつの魅力はわかりずらいけど、気付くと沼に嵌ってるなんてことはある。そうなると割と危険よね。


 ......って冷静に何考えてんのよ、私は! 色仕掛けはどうした?

 真面目に勉強してただけだけじゃんか! 本来正しいんだけど今は違うのよ!


「ハァ......」


「どうした?」


「自分の不甲斐なさに意気消沈してるのよ」


「さっきのテンションからがた落ちしすぎだろ。情緒が不安定過ぎる」


 そんなこと言ってもそれは本当のことで......ってあんたに言ってもわからない......ん?

 なんかさっきから微妙に学の目線が外れる。意図的に視線を外に向けてるような。

 私の部屋に何か気になるものがある?


「どうしたの?」


「あ、いや、なんでもない。気にしないでくれ」


「そう言われると気になるじゃない」


 私は「トイレ行ってくる」という口実でドアの前までやってくるとサッと後ろを振り向いて部屋の中を見渡した。ちゃんと片付けたし何も......あ、あああああぁぁぁぁぁ!?


 な、ななな、なんであんな所に私の下着が!?

 勉強机の横に置いてある大きめのゴミ箱の後ろでこっちをチラッと見てやがる!


 い、一体いつからあんたはそんな所にいたの!?

 というか、学がさっきからチラチラ見てたのってもしかしなくてもアレよね? よりによって妙にエロいやつ。


 こ、これはどうやって回収しようかしら。

 というか、回収しても無くなったことに学が気づけばそれはそれで気まずい空間になってしまうのでは?

 くっ、どの道どっちの恥を取るかという選択肢しか残ってないってわけね。

 

 私はドアを開けて廊下に出る。


「なら、発想の転換よ。私の下着に関してはアイツも私も気づいた。

 しかし、学の方は私がその下着の存在について気付いているかどうかはわからない。

 なら、学だけがそれに気づいているという状況にして私がそれについて 煽ってやればドキマギさせることができるんじゃないの?」


 ふふっ、ふふふふ、私ってば策士! こんな危機的状況でもこんな策が思いついちゃうなんて!

 これは使えるわ。ってことで、早速やってやるわよ!


 私は部屋に戻ってくると定位置に座った。

 そこにはお菓子を摘みながらリラックスした顔をしている学がいる。

 ふふっ、さぞかし私の意識がそっちに向かないことで安心したでしょうね。


 しかし、もう私はアレに気付いてしまった時点であんたの負けよ。

 私はグッと机に対して前かがみになると聞いた。


「ねぇ、あんたさっき何見てたの?」


「!?」


 私がそう聞いた瞬間、学はビクッとして「それは......」と目を逸らしていく。

 ふふっ、とてもいい眺め。この好きな人を手玉に取ってる感じ、たまわないわ!


 学は私の視線を気にしてかチラッと見てはすぐに視線を外す。

 やや下に向いてる気がしなくもないけど、あいつの方が座高高いし気のせいでしょう。


「で、見てどう思ったの?」


「ど、どうって......」


「安心しなさい、今更私達の中でしょ?」


「......わかった。正直、目のやり場に困るから何とかしてほしいという気持ちもあるし、そう視線が動いてしまう俺が悪いから気にしなくていいという気持ちもある」


 いや、さすがに“気にしなくていい”は無理があるわ。

 普通の下着は最悪妥協できてもエロいやつはダメよ。

 なんか狙ってたみたいな匂わせになるじゃん。


 とはいえ、ここで「なんとかするわ」と言うと私がまるでそこに下着があることを知りながらあえて置いた変態みたいになるからそれは却下。


「あんたはどうして欲しい?」


「俺......は着込んで欲しい」


 は、履き込んで欲しい!? え、コイツ今履いて欲しいっていったの? あのエロい下着を?

 履いてどうしろってのよ! まさか見せろってこと!?


「そ、それはちょっと......」


「ダメなのか!?」


 そんな衝撃を受けた顔をしなくても!

 え、コイツ履いて貰えると思ってたの? ヤベーやつじゃん!


「あ、いやまぁ、それはお前の自由だよな」


「そりゃあ、当たり前でしょ!」


 コイツ、何を言ってるのか。もしかして暑さにやられた?

 いや、この部屋冷房入ってるしめちゃくちゃ快適だし。

 もしかしてこの二人っきりという雰囲気に当てられた?


 考えてみれば学はゆきっちの影響を一番受けているといえる。

 なんせ今の堂々としたゆきっちを作り出した張本人なんだから。


 それにゆきっちと同じエロい知識が豊富なさゆらっちとも付き合いがある。

 そう考えればその脳内は潤沢なエロい意識が覆ってると言っても過言ではない。


 ということは、こいつの脳内ではもしかしてゆきっちが恒常的に想像するようなモザイクのかかったインモラルな光景が出来上がってるってこと!? しかも、場所はここで!


「生野、やっぱりお願いだ」


 え、何その真剣な目。もしかして本気で二人っきりを意識して―――


「一枚でいいから何か羽織ってくれ。お前の胸元に妙に視線が行ってしまって仕方がない」


「それはまだ早い.......ん? 胸元?」


 そう言われて視線を下に向けてみればオフショルダーの服によって出来上がる僅かな谷間が見えていた。

 ということは、先ほどからの視線はずっとこっちだったわけか。


 エロいの......私の方じゃん。


「うぅ.......」


「生野!?」


 急激に恥ずかしさで顔が熱くなってくる。もうやばい、無理、耐えられない。


「暑い、脱ぐわ」


「いや、着て欲しいんんだけど」


 それから悶々とした空気でその日は終わった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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