第190話 陽気乙女の星降る夜#1
―――生野莉乃 視点―――
「ねぇねぇ、かっちゃんとの進捗はどうなのよ?」
「かーちゃん、鈍くはないけど自発的に動くタイプじゃないからね~」
「......」
ズコココーッと飲み切って解け残った氷しか入っていないコップに刺さったストローを無意味に吸っていく。
そして、あたしは友人のキリッとした目の樫木琴乃とふわふわした雰囲気の阿木姪のニヤケ面を見ていた。
今は二人と遊びながら喫茶店に来ているんだけど......この顔、完全に面白がって聞いてる顔よね。
はぁ、こういう時の二人はめんどくさいから適当にごまかしとくか。
「そりゃ、もちろん学ったらあたしに夢中で―――」
「そっか~、上手くいってないか~」
「これはあたし達が相談に乗ってあげた方がいいかもね~」
「あたしの意見全く聞こうとしないじゃん」
というか、勝手にそう決めつけないでくれる?
確かに今のところはこれといって何も出来てないけど、それはまだ何もしてないだけで!
やろうと思えば別に誘うぐらいは簡単よ! 誘うぐらいは......
「そういえば、風の噂で聞いたんだけど、夏祭りでかっちゃんと雪ちゃんが一緒に歩いたらしいんだけど......何か知ってるよね?」
「......」
「楽になりなよ、りーちゃん~」
「な、何にも知りませんけど?」
あたしは顔をそっぽ向けるとあくまで黙秘を行使した。
すると、めいっちが「こーちゃん、ゴー」と言うとすぐにことっちがおもむろに電話をかけ始めた。
な、なんか嫌な予感がする。
「誰に電話かけるつもり?」
「そりゃ、“ゆ”から始まって“き”で終わる人物に決まってるでしょ」
「なに、少しお話聞くだけだから~。
知ってそうなりーちゃんが答えないなら直接本人から聞くしかないでしょ~?」
「わかった! わかったから答えるから!」
あたしが根を上げてそう言うと二人は顔を見合わせてニヤッとするとことっちがそっとスマホの画面を見せてきた。
そこには電話のかけた先がめいっちになってる。
あれ? でも、めいっちのスマホの方は音が鳴ってなかったと思うけど。
まさか―――!?
「ふふっ、どうやら気づいたようだね」
「りーちゃんを嵌めるために私のスマホはバイブレーションのみにしていたのでした~」
「クッソ、やられた~!」
この二人、あたしに聞いても絶対口を割らないと見込んで罠を張ってやがった!
それにまんまと引っかかるあたしもあたしよね......くぅ~!
「さてと言質も取ったことだし聞かせてもらいましょうか」
「ちなみに、なんのことやらととぼけられても困るので~。
この通りボイスレコーダーに先ほどの言葉が抑えられてま~す」
「用意良すぎるわよ、あんた達!」
これは友達としての弊害なのかしら。
あたしのことを分かり切ったような行動分析による罠。
この二人を敵に回したくないわね。
そして、あたしは諦めたように二人にゆきっちにアドバイスした時のことを話した。
すると、二人は呆れた様子ながらもどこか嬉しそうに答えた。
「りっちゃんって―――」
「りーちゃんって―――」
「「つくづくバカだよね~」」
「しみじみと本人を前に悪口言わないでよ」
「いやいや、普通はそういうって。というか、私だったらしないし」
「恋敵に塩を送るなんてもはや婚約確定とかのレベルでそれでも足掻く相手を煽るためにしか使わないよね~」
「いや、そのためには使わないわよ」
それやったら絶対泥沼化するやつじゃん。もう昼ドラで見るやつじゃん。知らんけど。
「だって、仕方ないでしょ? 雪っちがあんなに頑張ってる姿見たら応援したくなっちゃうじゃん」
「それで海デートと夏祭りという最強イベントをくれてやったと」
「ハンデというか、舐めプというか、そこまで現状の勝率高いわけ~?」
「......」
「「はぁ......」」
「ちょ、ガチため息やめてよ!」
後、その「コイツ、さては本物のバカだな?」的な目も!
わかってるわよ、あたしだって随分バカなことをしたことぐらい!
「でも、変わったよね、りっちゃんは」
「うん。もちろん、いい意味でね~」
「そ、そう?」
「昔はこくって来た男子と付き合っては捨て、付き合っては捨てと繰り返し、挙句に立った噂は“ヤ〇マンビッチ”。
そんなモテモテギャルのあんたが今や初めて恋する少女のような初心な反応を見せるなんて......お母さん、更生してくれたことに泣きそうだわ」
「中学校の頃に立ったその噂は最終的に“学年の男子生徒を全員抱いた”みたいな大きさまで膨れ上がった時は笑いしか出なかったけどね~。
高校に進学してもやり始めたからお父さんは心配で心配で~。
でも、こうして立派に乙女やってることにお父さんは嬉しいよ~!」
「もはやどこからツッコめばいいのか全く分からないわ」
言いたい放題行ってくれちゃって。
あんたらだって随分と彼氏入れ替えるの早かったでしょうが!
「で、さすがにこのまま夏休みというビッグな期間までくれてやるつもりじゃないよね?」
「そ、そりゃ、さすがにあたしだってそこまで寛容じゃないわよ」
「うぅ、娘がしっかりと恋愛に取り組んでくれてお母さん嬉しい」
「それはもういいわよ」
「具体的なプランはあるの~」
ぐ、具体的なプランと言われると......とりあえず、デートに誘ってみるしかないでしょ?
で、その後は......どうしよっか。あれ? 思ったより思いつかない?
「これりゃ、ないみたいですぜ姪の姐御」
「そうみたいやな~、琴乃の姐御」
「どっちが姉よ......ってそんなことはどうでもよくて!
あの......デートってどうやってやるんでしたっけ?」
なんか一周回ってわからなくなってきた。
どこかへ一緒に出掛けるだけでデートで良かったんだっけ?
なんか動物園とか水族館とかイベントありそうな場所に男女で行かなければそういう定義にならないんだっけ?
そんなことを聞くと二人は顔を合わせて、デートの定義について教えてくれた。
「そんなん男女で一緒に出掛けりゃデートでしょ?」
「『ただの買い物』みたいなことをいう奴は童貞の戯言だから聞き流せばいい~」
「戯言って......」
「まず適当に行く場所決めるでしょ。そしたら、約束取り付けて行くでしょ」
「そしたら、デートが始まるでしょ~。
そこからはプランがあるならプランに沿って臨機応変に、ノープランならノープランでその周りにあるものをよく見ながら一緒に楽しめそうなものをチョイスしてその場所に一緒に行けばいいでしょ~」
「デート中は全力で楽しみ」
「互いに楽しいと思えたなら後は思い切ってホテルに誘って―――」
「「ヤる」」
「バカかあんたらはーーーーー!」
二人して自信満々にサムズアップしてんじゃねぇ!
デートの誘ってその日にホテルとかあたまイカれてんの!?
「まぁ、かっちゃんは貞操固そうだしね」
「三度目ぐらいならそれとなくいけないかな~?」
「いや、回数の問題じゃないから。その発想自体に言及してるんだから」
「「だって、雪ちゃんの本にはそういう展開だったし」」
ゆ、ゆ、ゆきっちに洗脳されてる~!
この二人はそこまで下ネタ言うタイプじゃなかったのに、ゆきっちの影響でモロに言うタイプに進化してる~!
確かにあたし相手なら言いやすいというのは認めるけど、何もカフェで女三人集まってする会話じゃない~!
くっ、恨むわよ、ゆきっち。あたしの友達を調教しおって。
それにあたしの脳内でもさっきからダブルピースしながら笑ってんじゃないわよ!
「ま、ともかく誘っちまえば何でもいいと思うよ」
「それこそりーちゃんのことだったら勉強教えて貰うでいいし」
ん? 勉強?
「それだ!」
私は思わず席を立ちあがる。
よし、宿題を口実にあいつにあたしという存在を刻み込んでやるわ!
「んじゃ、早速明日から始めるわよ! そのためにこれから服を買いに行く! 行くわよ、あんた達!」
「うぅ、娘が立派に成長したよ、母さん」
「そうだね、お父さん~」
「それもいいから。後、キャラぐらい統一しなさいよ」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')