第185話 静かな乙女の快進撃#9
―――音無雪 視点―――
「―――というわけで、無事に上手くやれました!」
「良かったじゃん。その嬉しそうな声が聞けて私も嬉しいわ」
海デート終わり、私は今日の成果を瑠奈ちゃんへと電話しました。
このデートが成功したのもひとえに瑠奈ちゃんがファッションについてアドバイスをくれたのもあるのでそのお礼のも兼ねて。
「それにしても雪がまさか他の人に対して受け答えできるなんて......うぅ、ぐすん、お母さんも嬉しいよ」
「瑠奈ちゃんはお母さんじゃないですよ!
ですが、偉大な恋愛上級者として尊敬はしてます」
「別にそこまで過大評価しなくても。悪い気はしないけど。
それで肝心の影山君の様子はどうだったの?」
瑠奈ちゃんにそう聞かれ私はそのデートの時の影山さんの様子を思い出していきました。
正直言うとただただカッコよかったとしか。
もちろん、恋愛脳で痘痕のえくぼということもあるかもしれませんが、私のターンにしっかりと私にだけ向き合ってくれてるとは思いました。
それが恐らく影山さんなりの今の状況を作り出してしまった責任というべきなのでしょう。
私のように一人一人の女の子がアタックすることを全力で受け止める姿勢。
きっと影山さんのことですからどこか今も答えを出せずにぐずぐずしてることに申し訳なく思ってることでしょう。
影山さんはその気持ちを知りながら自然消滅するだろうと放置していた責任は確かにあると思います。
ですが、全部ではないと思います。
それでも消えなかったのはこちらの勝手です。
ですので、私達なりの全力のアピールをこうして受け止めて貰えるだけでも十分ありがたいですね。
だからこそ余計に―――
「好きですね......」
「なんか急にノロケられたんだけど。
私が聞いたのは“影山君がどうだったか”だから。
“影山君を見て雪ちゃんがどう思ったか”じゃないからね?」
「......ごめんなさい」
や、やってしまった~。
完全に私の心の声が口から漏れてしまいました。
うぅ、なんとガバガバな口なんでしょうか。
最近こんなんばっかな気がします。
「どうでしょうか、例え好きな人であっても自分でない以上見えない部分はありますから。
とはいえ、私が思うにはそこまで悪くないという感じはしました」
あの日焼け止めイベントの時も影山さんは私を意識したような顔でした。
きっと以前の影山さんならそれこそペットのワンちゃんをお風呂場で洗うような目だったでしょうが、あの赤らめた顔は絶対にそんなんじゃなかったはずです。
「感触はまずまずってところなんだ。自己評価的には」
「相手が強いですからね......」
縁ちゃん、莉乃ちゃん、沙由良ちゃんに昴ちゃん......どの方も今では学校の有名人です。
そんな男性を選ぶに困らないような人達が全員ガチで一人の男性を狙ってるという。
今思えばなんというカオスな世界に身を投じてしまったんでしょうか。
まぁ、どちらかというと巻き込まれてしまったというべきでしょうが。
それに一人巻き込んでますし。
「だけど、負けるわけにはいかないんじゃない?」
「もちろんです!」
しかし、こうなった以上は私も出せる力を全て出して望む所存です。
それは私があとくされなく運命を受け入れられるようにという保険的な意味合いもありますが。
「で、次に何するか決まったの?」
「はい、一応夏祭り一緒の約束を取り付けました」
「それは凄いわね! だって、海はそれこそ日をずらせば何回も行けそうだけど、夏祭りなんて一回限りじゃん!
正直倍率めちゃくちゃ高いと思うよ!」
「ですよね、私もそう思います」
正直、この約束を取り付けたあの海の時も私は驚きました。
勢いで言った部分もありますが、瑠奈ちゃんも言った通り夏祭りは年に一回のイベントです。
それこそこの地域のお祭りに関しては。
なので、その時も私は「そんなすぐに回答して大丈夫なんですか?」と聞いてしまったものです。
すると、影山さんは―――
『正直に言うさ。先約を取り付けたから行けないって』
そう答えました。
その時は私に気を遣ってかやさしい笑みを浮かべてましたが、きっと脳内では申し訳なさがいっぱいあったでしょう。
影山さんは優しく、同時に真面目な方です。
周囲に向かっては茶化すようにふざけた言動は多々ありますが、私達に対してはそう考えてしまうのが影山さんです。
しかし、影山さんにも影山さんなりの覚悟を持ってそう答えたとも知っています。
なので、私はそれ以上は聞かず、そしてその約束を取り付けた以上はこのチャンスを逃さないようにしなければいけません。
「だけど、大丈夫? 夏祭りは海よりも人が多いけど。それこそ肩がぶつかり合うぐらいには」
「大丈夫です。人の多さには文化祭と初詣の時に慣れました。
知らない人に声を出すのはまだ勇気がいりますが」
「そう。なら、今度はバッチリ浴衣姿で行かないとね」
「浴衣ですか......」
確かに、夏祭りとなれば浴衣姿に限りますよね。
それこそ意中の人にアピールしたいのなら。
「大丈夫よ、浴衣選びも手伝ってあげるから」
浴衣......浴衣ですか、いいですよね浴衣。
こう夏祭り限定という特別感があり、同時に浴衣ならではの普段と違った印象が見れて。
「そういえば、いまさっと調べたけど近くに浴衣をレンタルできる場所があるみたいだよ」
さらに浴衣でしか味わえない首筋に、背後から見えるまとめた髪によって見えるうなじ。
たまにうなじフェチの男性がいると聞きますが......わかります、いいですよねうなじ。
あの独特なエロスを醸し出す感じ。
「あ、でもそういうのって当日に行ってもないか。
それに雪ちゃんサイズだと子供用に近い形になるし、夏祭りは親子連れも多くなるからってことで早めにって考えてそうだし」
それに裸足というのもまたどことなく淫靡な感じを漂わせてる気がします。
それから、少しはだけて鎖骨が見えるのもグッドです。えっちぃです。
「ってことで、近いうちに行ってみようと思うんだけど......聞いてる?」
浴衣の女性が振りまく普段では味わえない特別感のある色気に誘われた男性はドキドキした内心を抑えながら、夏祭りを楽しむ女性を見てふと考えた煩悩を振り払っていきます。
「雪ちゃん? おーい、聞こえてるー?」
その一方で、女性は男性がしっかりと自分に魅了されてることに喜びながらも、普段通りを振舞う男性に少しだけ不満も持ちました。
こういう時だからこそもう少し積極的になってもいいのでは、と。
私はきっと拒まないから、と。
「おーい......電話繋がってるよね? もしかして寝落ちした?」
夏祭りも終盤、盛大に打ち上がる夜空に輝く花々を見てこの祭りも終わりと二人はそんな切なさをしみじみと感じていきます。
男性は紳士にもこの場をこのまま閉めようと思いました。
しかし、女性の方ではその切ない思いだけでは物足りなく、もう少し情熱的な何かを欲してしまいました。
ねぇ、最後にキスして、と。
「雪ちゃーん? 寝落ちしたなら切っちゃうよー? 後10秒で切るからね―――10」
その気持ちに応え、男性は優しくキスしました。
「9」
そのキスは優しくそっと。
しかし、その切ない余韻は女性の次を欲させてしまいました。
「8」
次は女性から男性に向かって。それこそ前よりは少し情熱的に。
「7」
そして、その2回目は女性のスイッチを入れてしまいました。
求めるように3回、4回と。
「6」
それは回数を重ねるごとに情熱さを増していき、その熱にあてられたように男性も求めるようになっていきました。
「5」
一目につきにくい場所に移動してさらに情熱的に。それによって、男性の手もそっと女性を求めるように動いていきました。
「4」
夏の陽気が二人の体温を余計に高めていきます。
「3」
きっとこうなったのも夏のせいだ、と。
もう戻れない雰囲気まで二人は辿り着いてしまいました。
「2」
もう無理かもしれない、と男性は答えました。
「1」
大丈夫だから、と女性は答えました。
「ゼ――」
「.....夏祭りってエロいですね」
「起きてたんかい。てか、どうしてそうなった?」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')