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第181話 静かな乙女の快進撃#5

―――音無雪 視点―――


「......」


 私が莉乃ちゃんのアドバイスを受けてから早くも一週間が経過しました。

 そして、不甲斐ない私は自分の勇気の出なさを呪いながら、枕に突っ伏していました。


 意気揚々と決意したあの時の感情はどこへやら。

 今やどうすればいいものか。


 幸い、まだ夏休みは始まったばかりなので、この期間に誘うには十分な時間はありますが......このままじゃ何もできずに夏が終わってしまいます。


「う~ん、一先ず文章は書けてるのですが......」


 体を起こすと自身のスマホと睨めっこしていきます。

 そこにはレイソの影山さんとのトーク画面で誘うための文章は打ち込まれており、後は送信ボタンを押すだけなのですが.......そこで明日の自分にバトンタッチしまくった結果が今、と。


 正直、泣きたいです。

 どうしてこんなにもいくじがないものかと。

 デートに誘うのはこれが初めてではないのに。

 とはいえ、あれは半分勢いでしたけど。


 他の皆さんは全員が魅力的な女性で、なおかつ恋愛において一番重要なアグレッシブさを持ってる気がします。

 対して、自分の消極さ加減といったら......ハァ、これ以上自分を貶めても仕方ありませんね。


 私の好きな官能小説の中にも「自信の有無が人の価値を高めていくの。ほら、自信がある人って根拠もないのにカッコよく見えるでしょ?」とありました。


 つまり、私も覚悟を決めなければいけない時が来たのかもしれません。

 いつまでもこのままじゃ負けは濃厚。

 それに悔いを残さないためにはやるしかありません!

 無理やり自信を持たせる―――ここはあの『淫魔の恋路』に出てきたお嬢様淫魔の真似で!


「ふふっ、わたくしに出来ないことなんて何一つありませんことよ!

 見てなさい! 淫魔搾取殺法―――ピ―――――!」


 私はベッドに置いたスマホに向かって天高く振り上げた人差し指を送信ボタンに叩きつけました。

 その瞬間、トーク画面に私の推敲に推敲を重ねた文章が送られてきます。


 ......。

 ...........。

 ...............私はなんという愚かなテンションで送信したのでしょうか。


 どう考えてもこれから海や夏祭りのお誘いをする人の所業とは思えません!

 せめて、せめてもう少しカッコいいセリフならともかく!

 なんで淫魔搾取殺法なんか!

 

 確かにあの作品の淫魔さんは常に自信に満ち溢れたようなキャラでしたが、何もこんな場面でそのキャラをチョイスしなくても絶対他に良いキャラいたのに!


 こ、これじゃ、私が影山さんと×××やピ――――やズガガガ、バキューーーーンをしたい淫乱な子になってしまうじゃないですか!


 さすがにそこまでの下心は......ないと今は絶対に言い切っておきましょう。

 でなければ、私の脳内がモザイクで覆われてしまいます!


―――ピロン♪


「っ!?」


 ひたすらにベッドの上でゴロゴロと悶え苦しんでいるとスマホから着信音が鳴りました。

 スマホを手に取り、出来るだけ顔から離すように手を伸ばしながら恐る恐る内容を確認していきます。


『あぁ、もちろんいいぞ。日程はすでに決めてるなら教えてくれ。どうせ暇だしな。

 もし決めてないならこのまま二人で話し合って決めようと思うがどうする?』


「......ふふっ」


 影山さんからの返信が来ると先ほどの緊張が嘘みたいに無くなってきました。

 そして、しっかりと相手にも意見を求めるような文章に気遣いさを感じます。


「そうですね、来週のこの日はどうですかっと」


 そう返信するとすぐに返ってきて猫の絵柄でサムズアップしたスタンプが送られてきました。

 よし、これで無事に予定を取りつけました。

 まずは二人で海に―――


「ハッ!?」


 思わず緩んでしまう頬が一瞬にして逆に下がり、同時にカッと目が開いてある重大な事実を思い出しました。


「水着が......」


 私がガバッと体を起こし、ピョーンとベッドから降りるとおもむろに自分のタンスを漁っていきます。

 すると、そこからは去年に皆さんと行った時に来ていった水着がありました。


 その水着は花柄のワンピースタイプの水着で腰にフリルのついたもので......私は小学生か!

 確かに、背丈こそそう思われてもおかしくないような感じだけども!

 去年の夏頃にはすでに影山さんのことが好きでいてこの体たらく!


「これはさすがに水着を新調した方が良さそうですね......」


 とはいえ、正直私の服はお母さんに買ってきてもらったものがほとんどで、おしゃれなものも瑠璃ちゃんに選んでもらったもので......自分のものが何一つない。


 それに、小説を書く時に最新のファッションを資料として調べることがあるのですが、そういう方ってやはり服の見栄えをよくするためにスタイルの良い方ばかりなんですよね。


 なので、私ほどの低身長でなおかつ私の好みを知ってる、ファッションに無知な私を笑うこともない人物といえば―――この人しかいない!


『また、あたし?』


「助けて、莉乃ちゃん!」


 私は莉乃ちゃんに電話をして事情を説明し頼み込みました。

 状況で言えば、ベッドの上でスマホに向かって土下座してます。


『というか、誘うのに一週間経ってるってどういうことよ?

 しかも、誘えたのがやっと今日って......ハァ』


「そんな露骨にため息吐かないでください!

 陽キャの莉乃ちゃんにはわからないかもですが、淫の者には送信ボタンを押すだけで一喜一憂するのです!」


『まぁ、あんたにはそれなりの過去があるから頑張った方ね。

 後、気のせいじゃなければ一部の言葉おかしくなかった?』


 そう言うと続けて「わかった。相談に乗ってやるわよ」ととりあえず協力を得ました。

 さすが莉乃ちゃん、頼りになります!

 やはり持つべき友の一人は陽キャですね!


『それで花柄のワンピースだっけ? あたしは別にそれでも可愛いと思うけど』


「ですが、それだとどうにも小学生感が溢れ出てしまうような......」


 せめてもう少し大人に見せたいです。

 ただでさえ小さいんですし.....色々と。


『う~ん、あいつがそんなことでとやかく言うとは思えないけど......なんせ好きな相手なんだし。

 だけど、あんたの言いたいこともわかるわ。

 ちなみに、大人っぽく攻めたいとか考えてない?』


「な、なんでそれを!?」


『いや、あんたの考えそうなことなら察しがつくわよ。

 それはハッキリ言って分不相応ね』


「そこまで言いますか!?」


『全くとは言わないけど、ぶっちゃけそういうのって身長ある人の方が表現しやすいのよ。

 あんたが求めてそうなセクシー方向にね』


「うっ」


『完全にダメージ受けた声だったわよ。

 ともかく、あんたの見た目から溢れ出る幼さは水着だけでそうそうカバーできるものじゃない。

 だったら、むしろその幼さを活かして可愛さに全振りするべきだと思うわ』


「で、でも......」


 莉乃ちゃんの言いたいことはわかりました。

 ですが、心がどうにも納得してません!

 すると、莉乃ちゃんの方も私の声で察したのか別の提案を出してきました。


『わかった。それじゃ、今度の土曜日、予定空けときなさい。

 その時に専門家を連れてってあげるから』


「本当ですか!?」


『それじゃ、絶対来ること。いい? ()()()()()()()()()?』


「はい、わかりました!」


 その元気な返事に「よろしい」と声が返って来ると通話を終わりました。

 それにしても、莉乃ちゃんがいう専門家とは誰の事でしょうか?

 あ、もしかしたら読モを始めた莉乃ちゃんの同業者の方でしょうか。

 それなら少し緊張しますが、頑張っていきたいですね!


―――土曜日


「ん? 雪か?」


「.......え?」


 莉乃ちゃんに指定されたその場所。

 そこに居たのは莉乃ちゃんではなく、見間違えようもないほどにカッコいい影山さんの姿でした。


 ......あれ? 話と違う?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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