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第177話 静かな乙女の快進撃#1

―――音無雪 視点―――


 お久しぶりです。音無雪です。

 梅雨の時期はあっという間に明け、もう既に夏が始まってるような暑さの中、私は涼むように一人図書室にいます。


 たまにある昔読んだ本をもう一度読みたくなる現象に刈られ、とある本に手を伸ばしていきます。

 う~ん! 届かない! はぁ、こういう時身長が低いのって不便ですね。よし、もう一度! は~!


「欲しいのってこれ?」


「あ、瑠奈ちゃん、ありがとうございます」


 私の代わりに本を取ってくれたのは同じ中学校出身で私の友達である乾瑠奈ちゃんでした。

 相変わらず背が高くてスタイルがよくて、それに出てるところも出てる羨ましいプロポーションをしてます。


「『風とともに』か。私も昔読んだことあったわ。

 確かその時も雪がその本を持ってたんだっけ?」


 そう言いながら本を渡してくれました。

 それを受け取ると返答していきます。


「そうですね。というか、大抵の本は私が瑠奈ちゃんにおススメしたものですよ」


「そうだったっけ? でも、この本が面白かったのは覚えてる」


 私達は立ち話もほどほどに席についてその会話の続きをしていきました。


「しかし、雪が純恋愛文学を読むなんてね......」


「なんですか、その意外みたいな顔。私だって普通に読みますよ?」


「だって、最近の雪は......その......ほら、大人のジャンルの本を読むじゃん?」


「官能小説ですか? 別に恥ずかしがることないと思いますけど」


 そう私がハッキリ言うと瑠奈ちゃんは少し戸惑ったような反応をしましたが、すぐに優しい笑みを浮かべて告げてきます。


「なんか変わったね」


「そうですか?」


「だって、明らかじゃん。

 去年の今だって私に対してもそんなスラスラとしゃべれてなかったよ。

 ただまぁ、私としては昔の雪が戻ってきたみたいで嬉しい」


「官能小説に対するヲタクしゃべりは昔っからありましたよ?」


「違う、そっちじゃない」


 瑠奈ちゃんは少し呆れたようなため息を履いていきました。

 何か間違ってましたでしょうか?

 ん、急に頭を撫でてきてどうしたんでしょう?

 そういえば、最近は影山さんに撫でて貰えてません......頼んだらしてくれるでしょうか?


「今、好きな人のことを考えたでしょ?」


「へぇ!?」


 瑠奈ちゃんはエスパーさんですか!?


「わかりやすいのよ、雪は。

 嬉しいことや好きなことを考えると口元がゆるんで足をフリフリと揺らしていくもの。

 如何にも幸せなこと考えてんだろうなって」


「そ、そんなことはない......こともないと思いますが......」


「最初は半信半疑だったけど結弦の言葉を信じて良かったわ」


「そこは影山さんを褒めてあげてくださいよ。

 私が変われたのは影山さんのおかげなんですから」


「そうね。雪がここまで言葉が詰まらず喋れてるのは影山君のおかげかもね。

 ほんと、良かった。雪が文化祭で主役としてしゃべってる時本当に泣いちゃったもの。

 娘が大きくなったみたいで」


「私は瑠奈ちゃんの娘じゃありませんよ!」


「わかってる、わかってる。それぐらい感動したってこと」


 その表情からどれだけ嬉しい出来事であったか伝わってきます。

 でも、きっと私がそう出来たのは影山さんを好きになったおかげだと思うんです。

 好きな人に頑張ってるところを見せたい。

 あの時はそれが私の原動力でしたから。


「で、実際どこまで言ってるの?」


「どこまでとは?」


「そ、そりゃ―――」


 瑠奈ちゃんがどこか言いずらそうにしてますが、意を決すると伝えてきました。


「影山君との関係よ」


「良好ですよ?」


「ぐっ、違う、違うんだぁ。聞きたいのはそこじゃない!」


 何がそんなに聞きづらいのでしょうか。

 あ、もしかして今って私と影山さんの恋愛事情のこと聞かれてます?


「そうですね、恋愛に関して言うなれば―――」


 その時、体育祭で見た影山さんと昴ちゃんの楽しそうな練習風景を思い出しました。

 確約されたような二人の時間。

 それを私は教室の窓から眺めることしか出来ませんでした。


 そして、体育祭本番では縁ちゃんから昴ちゃんが頑張ってる理由を聞いて、さらに昴ちゃんは優勝までしちゃって―――


「ま、負けてますねぇ......」


「雪ちゃんが露骨に落ち込んでる!?」


 私は運動はそこまで良くないし、昴ちゃんのような漢気のある言動は取れません。

 あれは昴ちゃんだからこそできたことで、私には私なりの方法で影山さんにアピールしていきたいと考えてます。


 しかし、一体何をすればいいというのでしょうか?

 私が一年かけてここまでしゃべれるようになったとはいえ、性根にある初対面の人に緊張するという性質は変わってないわけですし。


 とはいえ、このまま何かしなければ負けてしまうのは事実。

 どんな結果になろうとも悔いなく自分が頑張ったという行動がとれなければ納得なんて出来るとは思えませんし。


「う~ん、私にできること料理......はイマイチですし、掃除ならまぁ、でもそれってどうアピールするというのでしょうか。

 後は本が好きとはわかってますが、そんなことはすでに知られてますし、それで何が出来るという訳でもないですし......う~ん」


「雪ちゃんが悩んでる......」


「瑠奈ちゃんの方は何かないんですか?

 というか、瑠奈ちゃんはどうやってアピールしてるんですか?」


「あ、アピール!?」


 何を今更驚いて?

 影山さんに鍛えられた陽神さんラブコメ計画観察班の目からはとっくに調べは出てるんですよ?


「陽神さんのこと好きなんですよね?」


「え、それは......えーっと、その、まぁ、悪い奴じゃないし?」


「好きなんですよね?」


「いや、えっと、それについては......」


「ですよね?」


「......はい」


 瑠奈ちゃんが顔を真っ赤にしています。

 頭から湯気が出てるようなエフェクトが見えるのは私がヲタクだからでしょうか。


「そういえば、瑠奈ちゃんは陽神さんと偽の恋人関係なんですよね?」


「な、何で知ってるの!?」


「それはかげ......影から見てたからわかりますよ。

 それにお二人の関係が影山さんから借りたラノベの内容とそっくりで気づいたんです」


 もちろん、嘘ですけどね。

 思わず口が滑りそうになりましたけど、そのラノベを読んだのは本当なのでこの巧妙な嘘ならバレることもないでしょう。


 そんな私の思い通りに瑠奈ちゃんは疑うこともなく「そう」と呟くと顔を赤くさせたまま俯きました。

 あ、偽の恋人関係なら当然周囲にバレないように恋人らしいデートもしてるはずですよね。


「瑠奈ちゃん、お願いがあります」


「ど、どうしたの急に......?」


「私に上手くいくデートプランを教えてください!」


「デートプランって......最初の頃はまぁ、動物園とか水族館、遊園地とか行ってたけど、最近はすっかりあまり金かけたくない意欲が私達の間にも働いて映画館から多少公園を歩いてって感じで終わるわよ」


「それで本当に好きなんですか......?」


「いやいや、好きになる以前からしてたことだしね。それに長く続いていけばそんなもんだよ。

 とはいえ、最近はもう少し一緒にいてもいいかなとか思ったりするけども」


 ふむ、そこは私に今まで恋愛経験がないからの反応なのかもしれませんね。

 となれば、私も初心者としてオーソドックスなデートプランを考えた方がいいかもです。


 しかし、考えたところでその口実が......誘ってくれれば行きますが、逆に誘うとなるとこんなにハードル高いものなんですね。


「はぁ、こういう時に参考になるデートプランがあればな~。

 ねぇ、雪ちゃん、小説にデートしてるシーンとかでいいのない?」


「大体は同じなので......ん?」


 その時、少し前から書いてるウェブ小説で恋愛文学を対象としたコンテストが開かれるのを思い出しました。


 私が書いてるのは官能小説なので関係ないと思いましたが......このネタを口実に使えば容易に誘えるのでは?


「これです!」


「え、なに?」


「瑠奈ちゃん、アドバイスありがとうございます」


「あ、え、どうも......」


 私は瑠奈ちゃんにぺこっと案内すると颯爽と図書室を出ました。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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