第175話 え、その夢の続きは何があったの!?
そろそろ本格的な暑さが近づいてきた。
時期的には林間学校が始まる頃だろうか。
しかし、二年次にはそういった行事はなく、ただより一層面倒になった勉学に勤しむ日々が続いていくだけ。
そんなある日、図書室で涼んでいた俺に珍しい人物がやってきた。
「あ、学じゃん。グッドタイミング!」
そう声をかけてきたのは生野である。
生野自体が俺に話しかけて来ること自体は珍しくもなんでもないのだが、そいつが一人で図書室に来るということに対して珍しいと思ったのだ。
なんせ、生野はギャルである。
そして、ギャルが図書室に来るとはどう考えても解釈違いだろう。
陽キャは風の子であるわけだし、ましてや放課後の今に一人で来るなんて。
「どうしたんだ?」
「テスト勉強しに来たのよ。ほら、そろそろ学期末も近づいてる頃でしょ?」
「ほほう、まさか生野がそんな殊勝な心掛けをしていたとは。ちょっと意外」
「あんた、あたしをなんだと思ってるのよ。
確かにあたしが成績良くないのは認めるけど、別に留年を容認したわけじゃないんだから」
「ま、そりゃそうか」
考えれば当たり前のことなのだが、相手が生野だと少しだけ茶化してしまいたくなるのだ。すまん。
そして、生野は俺と同じ席に座ると勉強セットを机に広げていく。
自分がやりやすいように物を配置していく感じは俺とそっくり。
「そういえば、あんたはなんでここにいるのよ?」
「大した理由じゃねぇよ。ただ今はまだ外が暑いから、もう少し暑さが和らいだタイミングで帰ろうかと思ってるだけ」
「ふ~ん、それでここで読書してるわけね。ちなみに、その本のタイトルは?」
「ん? あぁ、ぬるぬる特急淫行―――」
「OK、わかった、了解、把握」
「同じ意味合いが四つ続いてるぞ」
生野は頭を抱えた様子でため息を吐いた。
仕方ないだろう? 雪に布教用として渡されたんだから。
そして、ヲタクとしては布教した相手には感想を聞きに来るわけで、そのためには読んでおかないといけないのだ。
学校でスマホゲームして時間潰してもいいけど、丁度いいから読んでるだけ。
まぁ、スマホゲームより若干背徳感を強めに感じるけど。
「ねぇ、あんたって今の授業把握してる?」
「まぁ、それなりに」
「ならさ、分からない場所は聞いてもいい?」
「あぁ、いいけど......もう聞かなくていいのか?」
「さすがに今の範囲はわかるわよ。最近やったばかりだし」
「そこテスト範囲から外れてるけど」
「はあ!?」
驚いたような様子を見せる生野に俺は思わず苦笑い。まぁ、別に生野は悪くない。
その教科の先生は毎回なぜかテスト範囲からずれた少し先の方までやるのだ。
そして、生野はきっと二年で初めてその先生に当たったのだろう。
その先生の授業を受けるとありがちなミスだ。
ま、早めに気付いてよかったな。
生野は文句をぶつくさ言いながらも俺が教えたテスト範囲を勉強し始めた。
そんな生野を邪魔しないように俺は静かに読み進める―――官能小説を。
もちろん、他の方に配慮してブックカバーつけておりますよ。
眠たげな空気が広がっていく。
なんだか妙に眠く感じる。
昨日深夜のリアルタイムでアニメを見た影響か?
****
それから1時間半ほど経ったぐらいだろうか。
さすがに生野の集中力が切れてきたのか余計な動きが増えてきた。
そして、最終的にペンを置くと大きく伸びをしていく。
「ダメだわ。さすがに集中力が切れた。あ~、甘い物が食べたい。あんたはどう?」
「う~ん、そうだな......白濁液か......なら、近くで早めにかき氷の販売始めた店あるからそこに行くか?」
「その小説に出てくるワードから連想するのやめなさい。
それにその言い方だと私がそのワードを言ったみたいになっちゃうでしょ。
というか、そのワードから平然と食欲に移れるあんたの神経を疑う」
「そうか? ほら、車のタイヤみたら平べったいものを連想して、そこからふいに『ピザが食べたくなってきた』って感じにお前もなったことない?」
「さすがに、白......それではないわ......」
ふむ、人によるか。なんか生野が「こいつ大丈夫か?」みたいな目で見てくるが、官能小説でも案外集中して呼んでると余計な感情は湧かなくなってくるもんだぞ。
そして、俺は生野と一緒に帰ることにした。
そういえば、生野と帰るなんて何気初めてだな。
「あんたって自転車通学なんだね」
「そこそこ遠いし移動も楽だから。お前は?」
「あたしはバス通学。だけど、放課後は何かと寄り道することも多いから歩きで帰ることが多いかな」
「おいおい、読モ始めたんだったらそういうのって気を付けた方がいいんじゃないのか?」
「案外堂々としてたらバレないものよ。それにバレたとしても大体女性だし。
あ、今度撮影会の見学に来る? 私の同業の人で撮影終わりにそのままデートするって人がいて、その場合撮影に彼氏連れてくる人いるのよ」
なにその辛い空間......さすがに部外者が過ぎてなんとも言えない気持ちになってくる。
「まぁ、気持ちだけ受け取っておく。
それにそこへ見学に来るってことは関係者には俺の存在は彼氏みたいに映るじゃん。
その空間にはさすがに耐えられない」
もとより現状五股してるような俺が堂々と顔を出していい所ではない気がする。
例え相手が俺と生野の事情を全く知らないとしても。
「そう、わかったわ。私も無理強いはしない......チッ」
「あれ? 今舌打ちしませんでした?」
「どうせならこれで外堀埋めてやろうかと思っただけよ。妙な所で根性ないわね」
「いやいや、そういう問題じゃないだろ」
何この人、さらっと随分な強硬手段に出てくるじゃん!
というか、生野ってこんなタイプだっけ?
「おい、本当に生野なんだろうな?」
「何を急に? 私は正真正銘、生野莉乃よ。
なんなら触って確かめてみる? ほら、どうぞ」
そう言って俺の手首を掴むとそっと自身に近づけていく。
その位置はなんと胸であった。
「お、ちょ、当たるって!?」
「何よ、別に触ったのだって今が初めてじゃないでしょ?」
「初めてだわ!」
「ダウト。夏休みの満員電車で手じゃなくそれこそ全身で感じたくせに」
「ぐっ......!」
お前、それを言うんじゃねぇ! あの時は一応合意の上で成り立ってたじゃねぇか!
「や、やめろ......!」
そう言葉で言う割には俺の手に妙に力が入らない。
まるで吸い寄せられてるかのように。
「ふふっ、そういう割にはあんまり抵抗しないのね。ってことは触りたいってことでしょ?
遠慮しなくてもいいのに。それとも―――」
生野はさっと俺の手を顔まであげると俺の指先を唇に触れさせた。
その顔は恥じらいのある顔ながらも扇情的な目をしていて、俺の性欲を酷く湧き上がらせていく。
「前に出来なかったキスの続き......したい?」
「お、俺は......」
―――ガクンと落ちる感覚がした
****
「......はっ!」
ガバッと体を起こすとそこは図書室だった。
図書室に設置してある時計を見てみると生野と会ってから2時間半ほど経っていて、窓に視線を移すと日差しがだいぶ傾いてる。
すぐに視線を落とすと生野も机に突っ伏して眠っている。
どうやら俺も生野もいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ゆ、夢か......そう、そうだよな?
生野が前みたいな陽気さに戻ったとはいえ、さすがに生野があんな積極的なわけじゃないし。
「か、完全に淫夢だ......」
俺にとっては十分にそういう判定が出来る。
夢の中であそこまでドキドキしたのだから。
これは官能小説の影響か、はたまた俺自身の欲望の一つなのか。
どちらにせよ、生野と顔合わせるのはだいぶキツ―――
「そ、そこまではまだ許してないからーーーーー!」
「!?」
生野が叫びながらガバっと起き上がった。
そして、俺と目が合っていく。
生野はみるみるうちに顔を真っ赤にしていくとビシッと指を向けた。
「AはまだしもBはまだダメだから! いいね!」
「......はい?」
それだけ告げると生野はせっせと荷物を片付けて逃げるように図書室を出ていった。
正直、突然のことで頭が追い付かないが......あれ?
「もしかして夢......繋がってた?」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




