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第173話 男装乙女の決戦日#11

―――國零昴 視点―――


『それではこれにて体育祭の全プログラムを終了したいと思います。皆さん、お疲れさまでした!』


 体育祭の閉会式が行われ、各々が今日という熱い一日が終わったことに疲れたため息を履いていく。

 そういう僕も同じでやっと終わったという感じがある。なんだか達成感が凄い。


「さてと、とりあえず着替えないとな~。さすがに汗臭くていけないや」


 更衣室に向かっていき制汗剤シートで汗を拭いていく。

 ひんやりして気持ちが良い。

 すると、僕のスマホに着信が入った。

 ん? 今日一日はオフだったはずだけど、何かあったのかな?


 そうてっきり花市家執事同士の定時連絡か何かかと思っていたらどうやら全く違う様で―――


『少し話せるか? 良かったら屋上に来てくれ』


「が、がっくんからだ......!」


 こ、これは何か重要な気がする!

 ご褒美的なものがもらえたりするかな?

 でも、がっくんだからな~。

 それにボクがしたくてしただけだし。


 とはいえ、これからがっくんに会うとなれば色々気を回さなければ!

 その最たるは汗臭さチェーック!

 よし、大丈夫そうだ......きっと、恐らく、たぶん。

 そして、素早く制服に着替えるとお嬢様に近づいていく。


「お嬢様、これから少し用事があるのでお先に失礼しますがよろしいですか?」


「そう、分かった。自分(わし)の気持ちを素直にぶつけてきたらええのに」


「はい!」


 相変わらずお嬢様の察する能力は心を呼んでるんじゃないかと思うぐらいだけど。ま、今更か。

 そして、僕は早速駆け足で屋上に向かう階段を走っていった。


―――ガチャ


 ボクが屋上に出る扉を開けるとそこには柵の近くの出っ張りに腰かけているがっくんの姿があった。

 後ろから吹かれてる風で髪が僅かに揺れていて、その姿がとても絵になってて......カッコいい。


「悪いな。急に呼び出して」


「いいよ、全然問題ないから。とはいえ、ケガ人がわざわざ屋上に向かわなくていいと思うけど」


 そこはちょっとムッとしてるよ。

 それで階段で転んでしまったら大変じゃないか。

 それに対して、がっくんは「ごめん」と謝りながらもすぐに言葉を続けた。


「去年の体育祭もここに来ては光輝とまったり涼んでたからつい、な。

 それに人気がなくて誰かと話すには丁度いいと思って」


「なら、せめて僕を呼んで欲しかったな。そうすれば、支えられてあげられたのに」


「それは......俺にも少しだけ心の整理をしたかったんだ」


「帰りはボクが支えるよ。これ絶対」


「わかった」


 そういうがっくんは笑っていた。

 どこか照れ臭そうに見えたのは本当にそうだったのか、それとも夕焼けに染められたからか。


 僕はがっくんの横に座り、同じように背後からの吹く風を浴びていく。わぁ、風が心地よい。


「ははっ、そうか。やっぱ気持ち良いよな」


「あ、声出てた?」


「うん、出てた」


「そ、そっか.......」


 それはなんか恥ずかしいな。

 無防備晒し過ぎって感じがして。

 ま、まぁ、相手ががっくんならむしろそれぐらいが丁度いいのか?

 そんなことを考えていたらふいにがっくんから感謝の言葉が送られた。


「今日はありがとな。

 俺のためにあそこまで頑張ってくれて。

 正直、自分のことのように熱くなった」


「ふふっ、そう言ってもらえると僕の努力も無駄ではなかったみたいだね。

 でも、がっくんにした約束はボクが勝手にしたものだからそこまで気にしなくていいよ」


「そんなことはない。あれは俺と光輝の二人にとっての大事な約束だった。

 ま、アイツの事じゃ別に今年が出来なくても来年があるとか言いそうだけど......俺はそんな約束を一回でも違えたくなかった。

 そんな俺のわがままに付き合ってくれたんだ。

 それが例え昴の意思によるものだろうと俺は感謝の言葉を伝えたくて仕方がない」


「なら、これで僕のことを結構好きになったでしょ?」


「え?」


 突然の言葉にがっくんが驚いた顔をしている。

 ふふっ、そんな顔をまじまじと見る機会がないからちょっと新鮮。


「もとより感謝ということならボクの方がその気持ちは大きいよ。

 なんせ今も昔もボクというあり方を肯定してくれたのはがっくんだからね」


 がっくんは昔も今もボクを女の子や男の子といった性別の枠組みには当てはめず“昴”という存在で見てくれる。


 それは昔からそうだったのか、今が気を遣ってるのかそれは定かじゃないけど、君は僕にとって僕たらしめてくれる大事な存在なんだ。


 そんなことはずっと前から証明されてたはずなのに、終ぞ気づかずに僕はがっくんにあんな質問をしてしまった。


 それに対し、がっくんは誠実に、自らの考えを伝えてくれて、それで僕は改めてどういたいのかハッキリわかったんだ。


 僕は膝に両腕を乗せてそのまま横向きに顔を伏せていく。

 その状態でがっくんの顔を見上げながらいたずらっぽく聞いてみた。


「今日のボクと前のデートした時のボク、王子様とシンデレラはがっくん的にどっちがお好みだったかな?」


 こんな質問に意味なんて無い。

 どうせがっくんから返ってくる言葉は分かってるんだから。


「両方共だな。両方が一緒に存在してる昴が一番良い」


「え~、それじゃ質問になってないじゃん。

 せっかく二択で聞いたんだしどっちかで答えてよ~」


「そ、それはその......」


 ふふっ、ちょっとからかい過ぎたかな。

 がっくんはボクの気持ちを常に気遣ってくれてる。

 だから、あんな第三の選択肢みたいなのを作ったわけで。

 さすがにかわいそうだからやめてあげようかな。


「ごめんごめん、からってみたく―――」


「―――シンデレラ」


「え?」


「の、方だと、思います......はい」


 がっくんが両手で顔を覆いながら答えてくれた。

 でも、そんな表情で確かめる必要がないほど恥ずかしくて赤くなってるのはすぐにわかる。

 なんせ耳まで赤いんだから。


 その時、ボクの体にも急速に熱を帯びた。

 なんせがっくんは「女の子(シンデレラ)」と答えたのだ。


 いつもボクに気を遣ってばかりのがっくんから初めて聞いた気持ちにボクの心も追いついていない。

 いつかは聞けると思ってたけど、今じゃなかった。

 だからこそ、思わぬカウンターにボクも羞恥心が込み上げてくる。


 そっか、そうだったんだ......ボクの女の子としての魅力もしっかりと伝わってくれてたんだな。


「あ、でも、王子の魅力も先の体育祭で十分に伝わってたから、決して嫌いとかという意味ではなく―――」


「黙って」


「!?」


 慌ててボクに説明しようとする口をボクは手で押さえていく。

 別にそんなことを言葉にしなくたってがっくんがいつもボクをボクとして考えてるのは伝わってるから。


 だから、むしろここからはボクの気持ちを改めて伝えさせて欲しい。

 大事な、大事な、熱をため込んで放つこの一撃を!


「がっくん、ボクはやっぱり君のことが大好きみたいだ。

 そんなことは前からわかってたと思うんだけど、がっくんと関わるたびにその好きが更新されていく。

 うん、がっくんと出会いはボクにとっての一番大切な出来事かもしれない。だから、これはそのお礼」


 そして、ボクはがっくんの口を塞ぐ自身の手の甲にキスをした。


「ふふっ、されると思ったでしょ?

 でも、ボクは未だ恋という名のレースの勝負の真っ最中だからね。

 ここはフェアに行かせてもらうよ」


 そして、立ち上がると少しだけ歩いてがっくんへと振り返っていく。

 がっくんは固まったように顔を真っ赤にさせて動かない。

 そんながっくんを見ていつもドギマギさせるボクの心の仕返しだと思うと少しだけ、ね?


「でも、がっくんが求めてくるだったらそのばかりじゃないよ。

 だけど、シンデレラでいられるには制限時間があるからね。

 ほら、早くその足を直して追いかけないと消えてしまうよ......なんてね♪」


「......」


「......ははっ、なんか熱くなってきちゃった。冷たい飲み物買ってくるね」


 そして、ボクは屋上のドアを開けて閉めるとそのままドアに背をつけて膝から崩れ落ちた。

 黙っちゃったがっくんを見てなんだか冷静になってきちゃった。

 

 あ、あ、ああああああああぁぁぁぁぁ!

 ボクはまた振り切ったテンションに任せてなんてことを口走ってんだああああああああ!


 やばい、やばい! 今まで静かだった羞恥心の波が一気に押し寄せてきた!

 な、何やってんだボクはあああああぁぁぁぁぁ!

 これで後でどう顔合わせればいいってんだよ! もう顔合わせられないよ!


......あ、そう言えば帰りはボクががっくんを支えて下に降りることを約束しちゃった。


 こ、こんな状態で......? おかしなテンションであんなこと言って......?

 それでボクは顔を合わせられないといったばかりで......?

 顔を合わせるどころか肉体的距離が近くなる状況で......?


 あ、死んだ。恥ずかし過ぎて生きていけない奴だ。

 もう今にも口から心臓が飛び出そうな勢い......ってこの口を押えてる手ってがっくんの口を覆った手であって、それっていわゆる関節キぃぃぃぃあああああああああ! わああああああああ!


 そして、しばらく悶えた後、仕事モードでなんとか乗り切った。

 途中何度か仮面が剥がれかけたけど。

 家帰って一睡もできなかったけど。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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