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第170話 男装乙女の決戦日#8

―――國零昴 視点―――


『それでは続いての種目に参りましょう!

 次の競技は二年生による花咲く青春謳歌のためのような男女協力型の種目! 二人三脚だ~!

 毎年カップル出場者が多く、多くの悲しきソロ達が悔しさにハンカチを噛んでいますが、純粋に勝ちに来てる男女の組もあります!

 はてさて、優勝は一体誰の手に渡るのか!

 それでは早速行きましょう第一レースの始まりです!』


 司会が上手く会場を煽ってテンションを盛り上げていく。

 そんな中、ボクは最終レースで男役として縁ちゃんと一緒にいた。


「まさか本当に通るとは思わなかったわ......」


「まぁ、今はジェンダー論は色々と難しいからね」


「ふふっ、それ以上にあなたが影山君のために自分の熱意を伝えたのが功を奏したのかもしれないわよ。

 もしくは、あなたのお嬢様が何かしたかってところね」


「ははっ、実際後者の方が信用度があるね。お嬢様ならやりそう」


 とはいえ、こうして出場出来たんだから例えお嬢様が何かしたとしても今に関しては感謝しなければいけない。


 会場が熱気に包まれていく。

 時間が増すにつれて天高く昇った太陽の日差しがジリジリと熱を伝えてくる。


 その時、一際大きな歓声が上がった。

 どうやらどこかの男女がスバ抜けたタイムを出したらしい。


「タイムは7秒22......女子一人でも中々に速いタイムよ。

 それを男女で挑んでその結果じゃかなり厳しい戦いになるわね」


「うん、みたいだね。しかも、その男女は互いに陸上部に所属しているみたい。完全に勝ちに来たって感じだ」


 それに対し、ボク達はお互いに帰宅部のようなもんだ。

 縁ちゃんは女子の中じゃ上位に入るほどには速いみたいだけど、さすがに陸上部相手には分が悪い。


 う~む、さっきは走ってみて「優勝狙えるかも!」とか思ってきたけど、途端に不安になって来た。

 なんというかお嬢様の会食とかでお偉いさんに会う時よりも緊張する。


「ひゃっ!」


 へ、変な声が出た!? ゆ、縁ちゃん!? どうして急に腰を掴んで引き寄せてきたの!?


「ふふっ、緊張してるでしょ? でも、安心しなさい。

 私達は皮肉にも影山君のせいでもっと緊張する場面に出会ってるから」


 その時、ボクは影山君に自分の悩みを伝えようとした時のことや影山君に自分の好意を宣言した時、デートに誘おうとした時のことを思い出した。


 確かに、あっちの方が遥かに緊張したな。

 よく思われたいと思うし、変な風に捉えられないか心配になったし、それ以上に少しでも繋がりたくてドキドキした。


 ははっ、そう考えると確かに今よりもよっぽど緊張してるや。

 それにボクは影山君に良いところを見せたい。


「覚悟が決まったようね」


「うん、ありがとう。全力で行くよ」


「えぇ、互いに遠慮無用で」


 そして、最終レースにボク達が出てきた。


『それではいよいよ最終レースとなりました。

 このレースで注目すべき二人組はやはり國零&姫島ペアでありましょう。

 もともとは男子生徒と組んで男女で挑む予定でしたが、その方が悲しいことにケガをしてしまった。

 しかし、その生徒との優勝を狙う熱意は消えることなく、その彼の意思を引き継ぐように出たいと直談判しに来ましたので、我々も鬼ではないので特例として許可しました!

 それではその彼の想いも背負って頑張ってもらいましょう!』


「うぅ......そこまで晒さなくてもいいじゃないか......」


「ふふっ、別に悪いことをしたわけじゃないんだから胸を張りなさい」


 確かに周りの熱狂は凄い。

 特にボクのファンクラブ関係の女子生徒の熱気だけど。

 少し恥ずかしくてがっくんには顔を見せられない。

 でも、がっくんの夢を背負ってるのは本当だ。


『それでは始まります! 最終レースです!』


 司会が告げるとすぐに審判がスタートラインに並ぶように告げる。

 そして、ボクは右足、縁ちゃんは左足を出してスタンディングスタートの体勢を取った。


『よーい―――バッ!』


 スターターピストルが勢いよく音を鳴らす。スタートの合図だ。

 ボク達は互いの肩を強く掴んで同時に前に出した足とは逆足を踏み出していく。

 大地をしっかりと掴んでることを感じて次の一歩へ。


 二歩目は縁ちゃんと繋がってる足だ。

 ボクの方がやや先行しているのか軽く縁ちゃんの足を引っ張るような感覚がある。


 それでもボク達の間に決めた「遠慮無用」の四文字。

 そう、今更ボク達の間で気を遣うようなことは必要ないのだ。


 なぜなら、ボク達はとっくの前から心通じ合った恋敵(ライバル)だから。


 ぐんぐんとスピードが上がっていく。風を駆け抜けているのを感じる。

 もはやボク達の間に息を合わせるような掛け声はいらない。すでに持ってるから。


 少し前に戻るけど、それは二人三脚が始まる少し前に縁ちゃんがボクに告げたのだ―――「息を合わせるだったら彼の名前を使えばいいじゃない」と。


 ま、つまりはよく使われる「いち、に。いち、に」という掛け声に“がっくん”の名前を使えばいいという安直な理由によるものなんだけどね。


 でも、それがボク達にとっての最適解には違いない。

 おかしな関係ながらも、そんな不安定でありながら続いてきた繋がりだからこそこれ以上ないくらい息が合う。


 集中してるのか周囲の風切り音すらあまり聞こえなくなった。

 こんなに真剣に走ったのはいつぶりだろうか。


 わからない。途中からはお嬢様に言われた時ぐらいしか自分の実力を見せないようにしてたから。

 がっくんとの練習の時も彼と一緒にいられることが楽しくてまだ少しだけ浮ついた気持ちがあった。


 しかし、がっくんのケガによって皮肉にもボクに踏ん切りがつき、後悔しないぐらいに自分の力を出し切ろうと思った。


―――ガクンッ


「!?」


 一瞬、バランスが乱れる。

 どうやらボクの歩幅とペースに縁ちゃんの足が追い付かなくなったらしい。

 ボクは思わず縁ちゃんを見る。

 すると、縁ちゃんと目が合ってそのまま睨み返された。


―――舐めんじゃないわよ!


 そんな言葉が聞こえた気がした。

 そこまで粗暴な言葉遣いをするようなタイプじゃないけど、確かにハッキリとそんな意志が伝わって来た。


 彼女も必死なんだ。

 彼女もがっくんがどういう想いで体育祭に望んでたかは知ってる。

 彼が今年は出れずに、張り付けた笑顔という仮面の下に悔しさに口もを歪めてることを。


 なるほど、「遠慮無用」という言葉は実のところ彼女が自分自身に向けた言葉でもあったのか。

 なら、そのまま無理やりにでもついてきて! ボク達は必ず優勝する!


 刹那の時間で正面に見える横に伸びたゴールテープが近づいて来る。

 足の違和感もなんのその。

 ただがむしゃらに本気で勝ちにこだわってそこへと向かっていく。


 そしてゴールテープの直前、ボク達は互いの掴んだ肩を突き放すように押し込んだ。

 それによって、胴よりも先に胸が僅かに前に出てゴールテープを切る。


「はぁはぁはぁ......ん、はぁはぁはぁ......」


 急にスピードを落とすことは出来ず多少ごたつきながらもボク達は止まって、膝を突きながら呼吸を整えていく。


 さすがにすぐには足の布はほどけないな。

 本当に全力で走ってかなり呼吸が激しいし。

 だけど、そのおかげで着順は一位。

 後はこれまでの10レースでの一位の中でさらに一位を取ればいい。


『ただいま、最終レースのタイム結果が出揃いました。

 着順の後ろの方から発表させてもらいます。第10位―――』


 司会のアナウンスが次々にタイムを読み上げていく。

 その度に息が詰まるような感覚に襲われた。

 第3位から色分けでポイントが入るようになる。

 さらにそれが残りのレースも含んで全体で5位まで食い込めばポイントとして加算される。


 どうやら今のレースの2位の人はギリギリ全体の5位に入ったようだ。

 そのため周囲には大きな歓声が上がっていく。

 残すは着順1位のボク達のタイムのみ。


『それでは最終レース第1位の発表です!

 唯一の女子生徒同士ながらも堂々と着順1位を掻っ攫ったペアのタイムは―――7秒21!

 陸上部最速男女ペアに0.01秒上回って全体レースの第1位となりました。

 おめでとうございます!』


 その瞬間、周りからものすごい歓声が上がった。

 それこそマイクで全体放送をしている司会の声が一瞬かき消えるぐらいに。


 ボクは力が抜けるようにその場にへたりこんだ。

 足が自由だ。

 どうやらボクがタイムを気にしてる間に縁ちゃんが外してくれていたらしい。


 すると、縁ちゃんがちょんちょんと肩に触れある方向へ指さしていく。

 その方向は応援テントで周囲の視界はぼやけながらも、その中で唯一ハッキリとがっくんのサムズアップした姿を見た。


「ははっ、やったよ!」


 それに対し、ボクも答えるようにサムズアップしていく。あぁ、最高に良い気分だ。


「さて、私達も戻りましょう。それにあなたはこのままで満足してない?」


「え?」


「あなたは影山君の代わりに学年リレーのBチームとして入るつもりでしょ?」


 あ、そうだ。ボクにはまだ陽神君との直接対決が残ってる。


「うん、そうだね」


 でも、今はもう少しだけ心躍らせていたいな。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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