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第167話 男装乙女の決戦日#5

―――國零昴 視点―――


「いち、に、さんし、ご、ろく、しちはち......」


 がっくんとのデートが終わり迎えた平日の月曜日。

 いつもならもう既に執事服に着替えてお嬢様を起こしに行く前に色々と準備をしてるところだけど......今日から少し事情が変わってくる。


 というのも、デートの時に約束したがっくんの朝のジョギングに付き合うというものだ。

 なので、今の僕は走りやすいスポーティな格好をしてる。

 うん、なんだか違和感しかない!


 朝からこんな格好なのは何十年ぶりだろうか?

 いや、もしかしたら初めてかもしれない。


 だからか、がっくんに朝から会うというのもあり、僕はもう軽く走ったかのような心拍数になっている。


 ケガしないよう......というよりは、この昂った気持ちを抑えるために先ほどから準備運動として体動かしてるけど、正直これでも完全に消せる気配はしない。がっくん、早く来て!


 それから少しすると遠くから走る人影が見えてきた。

 よく見ているとがっくんだとわかる。

 そして、彼もこちらに気付いたように手を振ってくる。


「おはよう。行けるか?」


「うん、いつでも大丈夫」


「なら、行こう」


 そして、僕達は走り出す。

 軽く乱れた呼吸の中、他愛のない会話を続けていく。

 しかし、そんな時間がたまらなく幸せだった。

 まるでその時間だけゆっくり流れてるかのように。


 ふふっ、おかしいかもね。

 普通だったら早く時間が流れてくって表現するところだろうに、僕は執事として常に時間に追われた生活をしていた影響かこの時間がゆっくりに感じる。


 ボクは花市家の執事として永久就職してるようなものだから、きっと結婚したその先もこんなゆっくりとした時間は感じられないだろうけど、だからこそこういう時間がゆっくり感じることにとても嬉しく感じる。


 ......って、結婚とか何言ってるんだろね!?

 そもそも付き合ってるわけでもないのに!

 でも、すぐ近くにいるのに手を伸ばしても届いていないような感じが酷くもどかしい。


 それからそんな日が二日ぐらい続いたある日、教室にて珍しく縁ちゃんが話しかけてきた。


「最近、楽しそうね」


「え? そ、そうかな......?」


「えぇ、幸せオーラがにじみ出てるって感じ。

 何かの.......って聞くまでもないわね。

 どうせあの人関係でしょうから」


 そう言って縁ちゃんが向く先には軽くあしらわれてる沙由良ちゃんの姿があった。

 ここ最近......というか、入学してからのがっくんへのアタックが凄いというか。


 時間さえあれがっくんに会いに来てる気がする。

 そのことにがっくんも「友達いないのか」と心配してるけど、それに対し「信者は着々と増えてますので」と彼女は答えてる。

 一体何を増やしてるのか?


「それにしても、羨ましいわ。体育祭で影山君と一緒に競技が出れるなんて」


「ハッキリ言うんだね......」


「今更だからよ。それにお互いにあの自己肯定感の低い男の子に惚れた身なんだから。

 ほんと惚れた方が負けよね」


「だね~」


 本来はありえないだろう恋敵同士の穏やかな会話。

 別の高校にいた時にモテる男子に好意を寄せる女子二人がギスギスしてた光景を見たことがあるから、今の状況が酷くおかしく感じる。


 でも、ボク的にはやっぱりこっちの方が嬉しいかな。

 縁ちゃんや他の皆とは今後とも仲良くしていきたいと思うし。


 ありえないことが起きてるのもしかしたらこれもがっくんの成せる業だったのかも?

 ま、なんであれ確かに惚れた方の負けってことだね。


「そういえば、去年もこんな感じだったの?

 ほら、ボクが来たのって夏休み終わりだったし」


 その質問に縁ちゃんは「そうね......」と呟くと答えてくれた。


「えぇ、こんな感じだったわ。『体育祭だけはラブコメの画策なんてしてられない』って。

 どうにも昔っから因縁があるらしいわよ」


「そうなんだ。それじゃあ、その時にがっくんとの絡みはなかったの?」


「男女合同の競技があまりなかったからね。

 あったとすれば綱引きぐらいかしら?

 だから、二年でしか行われない二人三脚を狙ってみたんだけど......どうにも彼の勝利のためには私じゃ力不足だったみたいだわ」


「......そっか」


「あ、彼が決めたことだから仕方ないと思ってるから何も心配しなくてもいいわよ。

 確かに羨ましいとは思ってるけど」


「ふふっ、羨ましいか。そうかそうか、ならボクは全力で楽しませてもらうわよ」


「ふ~ん、言うじゃない。ふふっ、浮かれてケガしないようにね」


「わかってるよ」


 しかし、その言葉はそう経たないうちに現実になってしまった。


 それは体育祭が三日前になって来た放課後。

 しばらく前からグラウンドの一部では大勢の人達が練習しに来ていた。


 リレーのバトンの受け渡しだったり、ムカデの練習だったり。

 そういうボク達も二人三脚の練習で一緒にグラウンドにいた。


「ふぅー、もうすぐ本番か......」


「もしかして緊張してる?」


「実はいうと、な。というのも、戦歴的には今が4勝4敗って感じなんだ。

 あいにく去年負けちまってな」


「だから、気合入ってるんだね」


「あぁ、女子にちやほやされてるアイツを世の中の男子を代表してギャフンと言わせてやるんだよ」


 いやそれ、がっくんじゃ代表務まらない......という言葉は胸の内にしまっておこう。

 今のがっくんの熱量を下げることしたくないしね。


「それじゃ、そろそろ俺達も練習始めようぜ」


「うん」


 そして、がっくんが手ぬぐいでボクの足と彼の足を縛っていく。

 一番最初はかなりドキドキしたけど、今ではもう普通に肩が組めてしまう。

 その慣れがどこか寂しく感じるけど、その分距離が縮まったと考えればいいかもね。


「それじゃ、しばらく軽く歩こう。せーの、いち、に、いち、に―――」


 ボクはがっくんに歩幅を合わせながら交互に足を踏み出していく。

 最初はこの歩くだけでも歩幅や足の動かす速度の違いでギクシャクした動きになってたけど、今ではもう自分の体の一部のようにスムーズに動かせる。


 しばらくすると、軽く走ってみる。

 これもかなり安定したフォームになっていた。

 朝のジョギングの効果が出てるのかとても足が動かしやすい。


「それじゃ、そろそろちゃんと走ろうと思うけどいいか?」


「いつでも大丈夫!」


 そして、ボク達は本番の二人三脚徒競走の距離50メートルを意識しながら走り出した。

 走るとなると歩幅の違いが思いっきり出て多少のギクシャクはあったけど、もうかなりすんなり走れた。


 周りの視線も集めるほどにはかなりの速度で走れてる気がする。

 これはもう一位が取れる気がする!

 それから数本走ってみた。

 走るたびに歩幅が合ってきて前よりも速く感じる。


 軽く歩きながら呼吸を整えていくボク達。

 ボクは思わず興奮した様子でがっくんに告げた。


「がっくん、1位狙えるよ!」


「あぁ、行ける! これなら絶対!」


 がっくんも嬉しそう。

 あぁ、役に立ててることが嬉しい。

 もっともっとがっくの笑顔が見たいな。

 その時だった―――


「昴、危ない!」


「え―――!?」


 ボクはがっくんに突き飛ばされた。

 すると、そこには別の二人三脚の男女が足を滑らせた様子で僕達の方へと倒れてくる。


 そして、ボクは一人別の場所で倒れ、がっくんはその二人に下敷きになるように倒れた。


「がっくん! 大丈夫!?」


「あ、あぁ.......くっ!」


 がっくんに覆いかぶさった男女が謝りながら離れていくとボクはすぐさまがっくんに声をかける。

 そこには苦しそうな顔をして手ぬぐいで繋がってる足を両手で抑えるがっくんの姿があった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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