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第166話 男装乙女の決戦日#4

―――國零昴 視点―――


「こ、これで大丈夫かな......」


 デートを約束した日である土曜日の今、ボクはショウウィンドウを鏡のように見て自分の身だしなみをチェックしていた。


 というのも、現在のボクはスカート履いているからだ。

 普段は男子の制服を着ていて、家でも執事服で、オフの日もズボンでありながら、今日という日のために買ったスカート。


 正直、凄く違和感がある。

 スカートの内側にまで風を感じて変な感覚だし、それに周りからの視線がなんか凄い。


 どう見られてどう思われてるのか。

 やっぱり自分なんかがスカートなんて場違いなんじゃないかとすら思う。


 だけどだけど! ボクはがっくんに友人としての立場でもいたいけど、それ以上に女の子だと見てもらいたい!


 だとすれば、周りの視線がなんだというんだ!

 ボクが、ボクの魅力に気付いてほしいのはがっくんだけなんだ! 頑張れ、ボク!


「それにしても遅いな......」


 左手首につけてある腕時計で時間を確認してみる。

 待ち合わせ時間から数分経っている。

 もしかして何かあったのかな......。


―――ヒュポン


「あ、レイソ来た。がっくんからかな」


『姿が見えないが待ち合わせ場所って駅前通りのショッピングモール東口の方でいいんだよな?』


「うん、合ってるよ。もしかして反対側―――あっ」


 「反対側の西口にいる?」と文章を打っている途中でふと自分も見上げてみれば......ここ西口じゃん。


 あ、あれ? 間違えた? もしかしなくてもボク間違えたよね?

 ってことは、これまでの時間待ってたのはボクじゃなくてがっくんってこと!?


『ごめん、ボクが間違えてたみたい! 今から行く』


 そして、ボクは東口の方に向かって走り出していく。

 その胸中はもちろん焦りや申し訳なさでいっぱいで、自分の今日に浮かれて確認不足したことが恨めしい。


 少しすると、遠くからがっくんの姿が見えてきた。

 彼もボクのことを認識したみたいで、大きく手を振ってる。

 目の前までやって来て止まるととりあえず謝罪した。


「はぁはぁ......ごめん、はぁ......場所、間違えて、はぁはぁ......」


「いや、それくらいはなんの問題もないけどさ、別に全力疾走してくることはなかったと思うよ? 慣れない格好みたいだからさ」


「それは......っ!」


 今、指先がズキッとしたような? いや、これくらいなら我慢できる。


「どうした?」


「いや、何でもないよ。それじゃあ、行こうか」


 呼吸が落ち着いてきた所でボクはがっくんとデートを始めた。

 隣にがっくんがいる。ニオイすら感じるほど近くに。あれ、またドキドキしてきた。


「それで最初はどこ行くんだ? 先に昴の用事済ませるか?」


「......」


「......昴?」


「あ、え、あ、うん、そうだね!」


 やばい、完全に今がっくんに見惚れてたよね?

 よね!? うぅ、落ち着けボク!

 いつも学校で会ってるはずじゃないか!


 だけど、それが服装のせいで凄く惑わされてる。

 落ち着いて深呼吸、そしてこういう時はお嬢様から貰った会話デッキで―――


「こ、この服どうかな似合ってるかな?」


「あ、あぁ、凄く似合ってると思う」


「......」


 ......自爆った。あぁ~~~~! 今ものすごく顔が熱い!

 そうだ、そうだった! お嬢様から貰った会話デッキって全て手練手管の女性が使うようなものだと思って使えないと判断したはずなの!


 で、でも、そのおかげでがっくんのテレ顔は拝めたから良しとしよう。

 どうやら縁ちゃんが言ってたのは本当だったみたいだね―――好きな人のテレ顔は健康になれる!


 ボクはがっくんが褒めてくれたおかげで今の格好に自信を持ったのか恥ずかしさも薄れていった。

 そして、ボクの目的の場所でもあるスポーツショップにやってきた。


「にしても、運動靴を買うまでやる気になってくれてるとは思わなかった。

 ずっと俺のワガママに付き合ってもらって悪いと思ってたから正直以外だったな」


「別に悪いと思わなくて大丈夫だよ。

 ボクはボクで今の状況を楽しんでるし、それにもしかしたらお互い様かもね」


「お互い様?」


 ボクは今がっくんの好意を自分に手繰り寄せるために自分のワガママな心に従って動いている。

 だとすれば、一緒かなと思っただけ。でも、それは別に言う必要も無いかな。


「内緒♪」


 そして、ボクは様々なメーカーの運動靴を見てその中から気になったものを履いて確かめてみることにした。


 痛っ! はぁ、やっぱり片方の足で靴擦れ起こしてるみたい。

 少しの間ハイヒールを履いて歩く練習したから大丈夫だと思ったけど、走ったのがまずかったみたい。

 でもこれは自業自得だからなぁ。


 それにこれでがっくんに余計な心配をかけるわけにはいかない。

 幸い、片方の足は無事だし、こっちを履いて履き心地を確かめてみよう。

 こういう時のために靴下も持って来てある。


「......」


「どうしたの?」


「あ、いや、なんでもない。気のせいかも」


「?」


 少し険しそうに見えたけど、なんでもないなら深く追求しないでおこう。

 うん、バッチリだね。これならがっくんの動きにもちゃんとついて行けそう。


「そういえば、がっくんって今毎朝走ってるんだったよね?」


「あぁ、そうだな。この体育祭が近づくと大体こんな感じだったからな」


「それじゃあ、ボクもその朝のジョギングに行ってもいい? この靴を慣らしておきたいし」


「いいよ。どうせ走るルートで花市家の近くは寄るし、それでも良ければ」


「うん、それでいいよ」


 よっしゃ! 期間限定ではあるけど、これでがっくんとより一緒の時間を確保できた。

 もうこの時点で十分な気がしなくもないけど、もっとだ!

 たまにはがっつけってお嬢様にも言われてたし!


 ボクは無事に運動靴を買うとがっくんに提案した。


「ねぇ、次は映画でも見てみない?」


 そして、ショッピングモールの一角にある映画館にやってくるとそこに今公開されてる映画のポスターを見ながら話し合い、一つの映画に決めた。


 こういう時、きっと恋愛映画とかを見るのが定番なんだろうけど、ボク達が選んだのはゴ〇ラのようなより現代的な怪獣映画であった。


 なんというかこんな時男の一面もあるってのはありがたいと思ったね。

 まぁ、たとえ女性でも男勝りな性格だったら選びそうな感じだけど。


 映画を見終われば丁度いい時間だったので、ファストフード店に寄って映画の感想を語りながら昼食を取った。

 二人で楽しいことを共有できるということがいかに幸せであったかより実感した時間だった。


 「こんな所がよかった」「あれも凄かった」みたいな小並感溢れる感想でも、その言葉だけで十分なほどに二人の間で気持ちが繋がれてたと思うと勝手に笑顔が溢れ、心が温かくなってくる。


 そして、同じようにがっくんも笑ってくれているともっとその表情を見たいと思ってくる。

 もっと近くで、常に隣で、楽しいことを、嬉しいことを、一緒の時間を過ごしたいと思ってくる。


「なぁ、ゲーセン行かない?」


 だからこそ、彼が楽しくいるとボクもより楽しく嬉しくなる。


「うん、行こう!」


 それから、ボク達は一緒に色んなことをした。

 UFOキャッチャーはもちろんのこと、シューティングゲームから音ゲーまで。

 そして、こういう時こそ時間とは早く流れる。

 その名残惜しさもまた愛おしく感じる。


「今日は楽しかったね」


「あぁ、そうだな」


 ショッピングモールからの帰り、待ち合わせはボクの都合で別々に集まったけど、帰路は一緒であることになんとなく不思議な感覚がする。


 というか、デート自体が初めてだったから余計に気持ちの整理に追いついていないのかも。

 ホントに楽しかったから―――


「昴、少しいいか?」


「うん、どうしたの?」


 聞いたけど何も言われぬまま近くの公園にがっくんは入っていく。

 そして、ベンチの前で立つとボクの指示した。


「座れ」


「え、うん......」


 そして、ボクが座るとがっくんはなぜか正面に立ったままで、見上げてみるがっくんの顔がカッコよく見えるけど、同時に少し威圧的にも感じた。


「俺は今日すげー楽しかった。昴はどうだった?」


「ボクも楽しかったよ。どうしたの急に?」


「まぁ、楽しかったのは良かったが......悪い、触るぞ」


 がっくんはしゃがみ込むとボクの片足のハイヒールを脱がせた。そ、そっちは......!


「やっぱり靴擦れ起こしてるじゃないか。いつからだ?」


「......たぶん走って来た時。今まで歩く練習て大丈夫だったから。どうして気づいたの?」


「運動靴を試し履きした時に片方しか履いてなかったし、その後も微妙に歩き方が変だった。どうして言わなかった?」


「がっくんに余計な心配をかけると思って」


「バカ、無理させてたって思うだろうが。

 どの道心配するんだったら早い方がいいだろ。

 それに傷が酷くなったらどうすんだ」


 がっくんに怒られた。それだけで心が沈んでいき、それ以上に自分の考えの浅はかさに自分が嫌になる。


 がっくんは用意が良いのかショルダーバッグから絆創膏を取り出すと傷口に貼っていく。


 ボクが不愉快にならないような気を遣った触り方をしていて、それが少しくすぐったくもあったけど、ちゃんとボクを女の子として意識してくれてるのかと思った。


「昴、俺はお前に......正確にはお前達だが、散々振り回したクソ男だ。

 だから、そんな相手に迷惑をかけることに躊躇う必要はない。

 むしろ、もっとかけてこい。それぐらいに俺は応える義務がある」


 がっくんは強い眼差しでそう告げる。

 恐らくこれががっくんの誠意としての覚悟の一旦なのだろう。

 なら、少しだけワガママを言ってみよかな。


「それじゃあ、ハイヒール履かせてくれる?」


「お安い御用だ」


 そして、がっくんはボクにハイヒールを履かせていった。

 ふふっ、がっくんはきっとそんな簡単なワガママでいいのか戸惑ってそうだけど、僕にとっては大きなことだよ。


 だって、今の構図は王子様がシンデレラに靴を履かせてるみたいだもの。

 願わくば、このハイヒールがガラスの靴であって欲しかったけど。


「痛みはどうだ?」


「だいぶ和らいだよ。ありがとう。それじゃ帰ろうか」


 なら、本物のシンデレラになれるように頑張らないとね。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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