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第16話 不覚な一日#1

「ねぇ、どんな映画みたい? 一応目星はつけてるけど、あなたの意見も聞きたいわ」


 ......わかってる。俺は今どんな立場であるかぐらいは。


「やっぱり恋愛といきたいところだけど、案外このアクション系とかも嫌いじゃないのよね」


 俺だって自分の分をわきまえるつもりでいるから。でも、せっかく姫島がくれた好意を無下にするにはいかねぇじゃねぇか。それも俺を元気づけるという意味で。


 たとえあいつに9割ぐらいの利があるとしても、俺のためでもあることには変わりない。だから、こうして親友の交友関係を拗らせた後でも呑気にこんな所にいる。


 ちゃんと自省してるから。だから、責めないで! そこんところお願い!


「さっきからボーっとしてるけど大丈夫?」


「きっとどこかから見てるだろう読者様(神様)達に懺悔してた」


「だいぶ精神的に参ってるようね......」


「気にするな」


 ともあれ、あんまり暗い気分でいるのも姫島に失礼だからいつも通り行くか。ほら、あれだ。メイド喫茶と合コンは雰囲気を大事にしろってのと同じ感じだ。


 そして、俺は現在公開中の映画のラインナップを眺める。

 やってるのは漫画を実写化した恋愛やシリーズドラマが映画化したもの。普通にオリジナルアニメーションもあるが今は特に興味ないかな。


「う~ん、そうだな。俺は姫島の好きなものでいいな。目星つけてるんだろ?」


「そうだけど......いいの? あなたのことならきっと自分の意見を貫いてくると思っていたのだけど」


「そっちの方が利がある場合に限るな。それに今回は姫島の好意に甘えさせてるもらってる感じだ。接待される覚えはない」


「そ、そう......なら、恋愛映画がいいわ!」


 姫島は嬉しそうにポスターに向かって指さすと「行きましょ」と言ってルンルンでチケット売り場まで向かっていく。


 普通の売り場は混んでいたので自動チケット売り場の方で済ませることにした。まあ、そっちも割に混んでいたが、その時に人の列が少なかったから。


 そして、俺と姫島の番が回ってくると相変わらず終始嬉しそうにタッチパネルで操作していく。すると、その操作を眺めているとカップル割なるものが見えた。ほう、安くなるのか。


「姫島、カップル割にするぞ」


「ほへぇ!? な、急にどうしたのよ!? 頭でも打った!?」


「なんで俺がその言葉を発した時点で頭打った判定なんだ。それにカップル割(それ)自体は前にもお前がやったろ? ほら、クレープ食いに行ったときに」


「やってないわよ。あの時は......確かにしようと思ったけど、あなたが嫌がると思って」


「律儀な奴だな。別に言わなければやったとてバレないだろうに。そもそも追及すらしてないんだからな」


「あなたには誠実でいたいのよ! たとえそれっぽちでも利用するようなことはしたくないわ!」


 何がそこまでコイツを駆り立てるのか。いや、俺という存在の時点で駆り立てられているのか。

 まあなんによせよ、こっちが安く済むには越したことがない。


「気にすんな。席だけ教えろ。後は俺がやっておくから飲み物でも買ってきてくれ。どうせ俺の好みは知ってるんだろ?」


「そりゃあ、知ってるけど。あなたが炭酸苦手でいつもホワイトウォーター頼んでることぐらい」


「いや、どうして知ってんだよ。普通に怖いわ」


「あ、今カマかけたわね! やってくれるじゃない! Lサイズ買って来てやるわ! 覚悟しなさい!」


「いや、何の覚悟.......ただの好意じゃん」


 まるで怒ってる風を装って姫島は歩き出した。しかしなぜだろう、あいつの後ろ姿からは尻尾が揺れ動いているように見えるのは。


 そもそもキレ方もおかしかったし......っつーか、あれをキレてると思うのはおかしいだろうな。

 まあ、なんで好みを知ってるのかは相変わらず謎だけど。ただまあ、悪用はしないだろう。


 一先ず見やすそうな席が空いていたので二席を購入。カップル割のおかげか安いのだろう。しかし、最近映画に来てなかったせいかそれでも割に高く感じる値段だな。


 俺は自動チケット売り場から離れると適当な空きスペースで飲食売り場で並んでいる姫島をぼんやり眺めながら待つ。


 そういえば、女子と二人で映画なんて初めてだろうな。少なからず、俺の記憶の中にはないな。最後が光輝と中学に行ったぐらいか。


 にしてもまあ、俺にこんな日が来ようとはな。青春とはまるで縁がないと思っていた割には意外なことも起こるもんだ。


「おまたせ」


「いくらだ?」


 トコトコとトレーにポップコーンやらジュースやらを持ってきた姫島は相変わらずのニコニコした笑顔で声をかけてきた。


 とはいえ、別にその笑顔にドキッとするわけでもなく、むしろドキッとするのはお金の方。お金の切れ目は縁の切れ目。ここだけはしっかりしなくては。


「別に気にしなくていいわよ。これぐらい」


「俺が気にする。せめて割り勘だ」


「......はあ、わかったわ」


 そして、姫島から聞いた金額の半分を渡していく。現在進行形で予想外の事態だから持ち合わせが少ないな。


 とはいえ、予定のうちでは光輝達の現場を出歯亀した後に本屋でも行くつもりだったからな。

 そのために下ろしておいたお金がこんな感じで役に立つとは。まあ、思ったより精神的に来て本屋に行く気すら今はないが。


「時間は案外もうすぐだな。あと10分後か......もう座ってるか。入れるだろ」


「ちょ、ちょっと待って!」


 歩き出そうとした俺を姫島は咄嗟に声をかけて止める。


「なんだ?」


「私、まだチケット代をあなたに払ってなかったわ」


「ああ、気にすんな。行くぞ」


「ええ、わかったわ......ってそうは問屋が卸しません!」


「いや、卸せ」


 姫島が言いたいことはわかっている。先ほど俺が割り勘を求めてまで代金を支払ったのに、対する姫島は俺にチケット代を払ってないことに気付いたのだろう。


 ......チッ、余計なところに気付きやがって。だから、姫島をあの場から遠ざけたってのに。


「いくらだったの? さすがに割引を使ってるからって、チケット代はこっちの飲食系よりも高いはずよ」


「だろうな。それが?」


「それがって......」


「お前が俺の気を良くするために動いてることは知ってる。それだけでもう十分だ。後は俺がお前に対して返していくだけ。俺の金のことはお前が心配することじゃない」


 どうせ課金とゲーム代ぐらいしか使い道がなくて今回少しばかり出費したところでまだまだ貯金はあるしな。


「それでも気を病むってんなら......お前は俺を楽しませることだけ考えればいい」


 なんつーか、俺ってこんなタイプだっけ? と思わなくもない。どっちかっていうと俺はキレイなジャ〇アンな方で、アニメ版ジ〇イアンじゃなかったはず。


 しかしまあ、さすがにすでに気を良くするために動いてもらってるのはホントのわけで、それでいて女子に奢ってもらうというのはさすがに男が廃る。


 別にカッコつけてる感覚はないが、少なからず俺が奢るぐらいの行為でもしない限り今のコイツには釣り合わないだろう。


「ずるわいよ......そんなの」


 俺の言葉にそう返答しながらも、受け入れたようにシアタールームに向かって動き出した。しかし、その一方で俺は思わず動き出せないでいた。


 恥ずかしくも嬉しそうな赤らんだ頬に耳、そして潤んだ瞳にか細い声色。

 あいつは俺の言葉にきっと“何気なく”反応したのだろう。ただ好きな人の好意であるからという理由で。


 だからこそ、普段の緊張してだかの強気でハッキリした態度とのギャップに不覚にも魅入ってしまった。


 ドキッとしなかったのが幸いか......はあ、ラブコメの神よ。いるなら力を貸してくれとも思った。ただし、それは俺自身に起こせというわけじゃない。


「何してるのよ、行くわよ。今日は私に付き合ってもらうからね!」


 きっと今が精神的にちょっとやられてるのもあるだろう。だが、それでも......


「へいへい。ただし手短にな」


 俺に妙な熱を浮かせるのはやめてくれ。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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