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第165話 男装乙女の決戦日#3

―――國零昴 視点―――


『来週の土曜日とかって空いてたりする? デートしたいなって』


「こ、これ直球過ぎるかな......」


 お嬢様からアドバイスを貰ったその夜、本来ならもうすでに寝て明日に備えてる時間だけど、今はその時間を削ってがっくんに送るメールの内容を考えていた。


 お嬢様に「デートに誘ったら?」とか言われたけど、正直どう誘えばいいのか全く分からない。

 これまでに気になった人はいたけども、自分からアプローチなんて一度もしたことないからな~。


 お嬢様の執事としての役目を言い訳にして避けていた節もあるし......くっ、こういう時に恋愛経験のなさが恨めしい。


 とにもかくにも、ボクががっくんのことを好きなのは変わりないし、出来ればがっくんのつ、付き合いたいと思ってる。


 だけど、それは他の子達も同じでそんな中で僕はがっくんから二人三脚の相手として彼から選ばれた。


 それはつまり、陽神君との勝負に勝つための選出だとしても、その意識には必ずボクの存在がいるということ。


 お嬢様は言っていた―――がっくんは僕達が示し続けた好意に見てみぬふりをし続け、その結果気づいた時には自分自身でもひた隠しにしていた好意は一体誰に向けられたものかわからなくなった、と。


 もちろん、それぞれに一定以上の好意も抱いているからのそういう理由なのだろう。

 だからこそ、お嬢様はクリスマスの時に「どんどんアピールして気持ちを傾けろ」とも言っていた。


 それは即ちシンデレラが落としたガラスの靴を拾った王子様に所有者を探させるのではなく、自分がシンデレラだと名乗り出るようなものだ。


 その最終的な答えを出すのはもちろんがっくんだ。

 だけど、それまでの過程で自分の有利に事を運んではいけないとは言われていない。


 お嬢様は「打算的に動いても良い」とアドバイスをくれた。

 なら、せっかく近づけている今というチャンスを僕の打算的に活かしていく。


 それががっくんをデートに誘うということ......なんだけど.......うぅ、送信の部分を押すための人差し指が震えてる。なんて弱メンタルなんだ......ボクは。


 そもそも文章を打ってみたはいいもののデートの理由はどうするんだ?

 確かに真摯に向き合おうとしてくれるがっくんならどんな理由であれ断らないかもしれないけど、デートってもっとこう......それなりに目的があってのことなんじゃないのか?


「やっぱり、この文章じゃダメだな。もう一回考えなお―――」


「んもぅ、じれったおすなぁ―――えい」


「お、お嬢様!? いつの間に!? いやそれよりも何を......ってああああああ!」


 お嬢様に手を掴まれてそのまま送信の部分を押させられた。


「お、送っちゃった......」


「全く、心配になって見に来てみたら案の定悩んでましたなぁ。

 あんたは明日も仕事があるのんどすえ? そのために備えて早う寝な。

 こないな文章に時間かけてる暇はあらへんどすえ」


「こんなって......ボクには文章だけでも一大事なんですよ!?」


 そう言うボクにお嬢様は「全くこの子は......」という感じでため息を吐くとベッドに座っていく。


「昴、うちのアドバイスを受けてすぐに実践に移そうとする意識は素晴らしおす。

 どすけどなぁ、今のあんたはまだスタートラインに立っただけ。

 私見たいのは走り出した姿なんどす。

 もっと言うたら走った先に一位でゴールする姿。

 ほんで、走り出した瞬間ちゅうのが今でいうデート当日のこと。

 怖気づいてまうのんはわかるけど、このままではほんまに出遅れてまいますで。わかるのん?」


「わ、わかりはしますけど......」


「なら、よろしい」


 お嬢様はそう言うと俯いていた僕の顔を上げるように手であごをクイッとして、まるで全てを見透かすような顔で告げてくる。


「あんたの魅力はこないな文章ごときで表しきれるものちゃう。

 メールの内容でどう思われようとも、実際顔を合わして“可愛い”で全てをねじ伏せてもうたらええの。

 言うたらハニートラップどすなぁ」


「は、ハニートラップ!?」


「そら言葉の綾ちゅうものどすえ、ただまぁ、既成事実を作ったなら問答無用で勝ちどすけどなぁ」


 お嬢様は僕をからかうような笑みを浮かべてチラッと横目でボクの様子を確かめてくる。

 そういうボクはというと沙由良ちゃんからもらった同人誌と雪ちゃんから借りた官能小説の影響で割と鮮明に脳内で想像が出来て―――


「おーい、いけるか? ふふっ、未来の夢の形を想像してトリップでもしてまいましたか?」


「そ、そんなことは......なくも、ない......けど」


「けど?」


「さすがにそんな卑怯な真似は出来ないよ!

 皆正々堂々と正面からぶつかろうとしてるんだし!」


「そやさかい、言葉の綾って言うたやろう? 全く、人の話を聞いたらええのに」


「ごめんなさい」


―――ヒュポン


「あ、返信が返って来た」


「なんて?」


「『わかった。行こう。そっちに予定があるのなら内容はそっちに任せる』だって」


「ふふっ、相変わらず気ぃ遣うたような文章どすなぁ。

 もしこっちに用があらへんならデートプランを考えるといった感じが特に。

 こないなんじゃ昴も先思いやられ―――」


「......」


 お嬢様はボクを見て微笑むとベッドから立ち上がった。

 そして、そのままドアの方へと向かっていく。


「うちから出せるアドバイスはここまで。

 ま、半分以上はわしに言い聞かしてるようなもんどすけどなぁ。

 後は自力で頑張ったらええのに。健闘を祈ってます」


 そして、部屋を出てドアを閉める直前にこうも告げてきた。


「ちなみに、たとえどないな結果になろうともうちは昴の味方どすえ。

 まぁ、仮に振った殿()()には存分にうちの可愛い昴を悲しましてくれただけの呪いをかけてまうかもどすけど」


 ガチャンとドアが閉まりお嬢様の姿を見えなくなった。


「はは、ならボクはその殿方に呪いが降り注がれないように頑張らないとね」


 お嬢様は自身も恋してるにも関わらず、ボクの背中を押してくれた。

 なら、ボクはそのお嬢様の気持ちにも答えたい。

 いつまでも怖気づいていられない。

 せっかく巡って来たこのチャンスに僕は全力で挑もう。


 そして、ボクはあえてレイソの通話ボタンを押していく。

 その相手はもちろんがっくんだ。


『ど、どうした急に通話なんて?』


「ごめん、急に声が聞きたくなってね」


『明日でも聞けるだろうに......』


「いや、今が良かったんだ。少しだけ付き合ってもらえる?」


『......何かあったのか?』


「別に何かあったわけじゃないよ。

 ただ貰った熱を持て余すのもどうかと思ってね。

 だったら、がっくんにその熱をぶつけようかと思って」


『そっか。なら、少しだけな。お前も明日早いだろ?』


 全く、がっくんは......その心遣いがどれだけボクの熱を上げるか知らないでしょ?


「そういえば、さっきメールでも送ったけど―――」


 ははっ、ボクもバカだな。持て余す熱をがっくんにぶつけようだなんて。

 ドキドキしちゃって余計に熱を持て余してる気がするよ。

 通話で言葉が重なるたびに想いが募り、それが言葉となって溢れてくる。


『じゃあ、そろそろ寝るか。これ以上は、な』


「そうだね。止めてくれてありがとう。いつまでも話す気でいたよ」


『はは、お前にもそういうのがあるんだな』


 あるよ、だって相手ががっくんだからね。そして、今ならこんなことも言える気がする。


『それじゃあ、おやすみ』


「うん、おやすみ―――がっくん」


『ん?』


「好きだよ」


『え―――』


 そして、ボクは通話を切り、虚空を見つめる。

 それからそっと枕に顔を埋めると叫んだ。


「ボクは勢いで何を口走ったあああああぁぁぁぁぁ!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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