第161話 知ってたか妹よ、これが真実だ
「進撃の沙由良ん、ただいま参上!」
数日後、朝に姫島と話していると俺の教室に沙由良がやってきた。
“姫”達と王子に負けず劣らずに容姿と可愛らしさを放つ彼女はすぐさまクラスにいた男女の目を引いていく。
そして同時に、男子達からは俺に対する鋭い殺気が向けられる。あぁ、今にも殺されそう。
それにしても、光輝と一緒に来ると思ってたんだが来ないんだな。
「光輝はどうした?」
「学兄さん、沙由良んという者がありながら他所の男の話をしてはいけません」
「いや、男なら別にいいだろ......それにお前の兄だぞ?」
「いずれは別の性になりますんで他人です」
「血縁関係は切っても切れねぇよ」
相変わらず沙由良クオリティである。
自分の兄をどう思っているのか。
表情からはまず読み取れねぇからなぁ。
「あー、やっと見つけた!」
すると、沙由良を後から追いかけていたようで息を切らした様子の沙夜が現れた。
そして、沙夜も俺の存在に気付くと元気よく駆け寄ってくる。
「へーい、兄ちゃ! 相変わらずしけた面してんなぁ!」
「学校で会って開口一番にそれを言われるとは思わなかった」
気分とノリで言ったような沙由良は俺にハイタッチを求めるように手をかざしてくる。
なので、俺はそれをめんどくさそうに思いながらもしっかり返していった。
その瞬間、男子達の目が僅かにでも沙夜に向いたことを俺は見逃さなかった。
おい、モブ、貴様らに俺の大事な妹は絶対にやらねぇからな!
「久しぶりね、沙夜ちゃん。元気してた?」
「はい、それはもちろん! やっと姫ちゃんに会えましたから」
「......っ! 可愛い! さすが私の妹!」
「いや、俺のだから」
なんでサラッとお前も人の妹取ろうとしてるんだよ。
「いいじゃない、結果にそうなるんだから」
「え、それってどういう......まさか兄ちゃと!?」
「待ってください。そうは問屋が卸さないですよ!ちゃん沙夜を義妹にするのは沙由良んです!」
「え、えええええ!? これってまさか―――」
ま、不味い、もともと俺の周囲がカオスなのことになっていたことは知っていたが、この状況を沙夜にどうやって言い訳すれば―――
「兄ちゃ、四重婚してたの?」
「???」
真面目な様子で沙夜が聞いてくるがまるで言っている意味がわからない。はて、四重婚とは?
俺がわからなそうな顔をしていると沙夜はさも当たり前のように告げてきた。
「だってほら、姫ちゃんでしょ? 沙由良ちゃんでしょ? 雪ちゃんでしょ? あと昴ちゃんも。ほら、四人」
名前と同時に立てた指を俺に向けてくる。
改めて、妹から突きつけられる事実に俺は思わず言葉に詰まった。
正確には後一人いるけど。
恐らく、夏のお泊り会の時に生野は光輝へのアプローチをしていたから沙夜からはカウントを受けなかったみたいだな。
「兄ちゃん、まさか......」
「......(ゴクリ)」
「ここは実はファンタジーの世界だったりしないよね」
「まさかその返しが来るとは思わなかったわ」
先ほどの発言から兄が色んな女に手を出してることに言及されるかと思いや、それを気にしてるこっちがバカらしいほどの答えが返って来た。
いや、普通は妹からすればそういう兄って嫌なもんじゃないの?
もしくは、沙由良の影響......ってなんだそのVサインは?
「しっかり調教済みです」
「やめて、その言い方。伝えたいことはわかったけど、伝え方に悪意を感じる」
ま、まぁ、沙夜が気にしてないならそれでいいか。
それに気づいてるだったらもっと前から言ってたもんな。
「それで結局お前らは何しに来たんだ?」
「沙由良んはもちろんラブアタックのためです。その口実として学校案内を頼もうかと」
「口実って普通本人の前で言うことじゃないんだけどな......まぁ、今更か」
俺は立ち上がるとスマホで時間を確認し、まだ時間があることを確認すると歩き始めた。
すると、姫島もついてきてることに気付いたのか沙由良が声をかけた。
「ちゃん姫、あなたは知ってるので来る必要ないのでは?」
「あら、別にいいじゃない。困ることじゃないでしょ?」
「いいえ、困ります。今年の夏コミはせっかく兄と義妹の純愛ものにしようと思っていたのに、このままでは3ピ―――にネタになってしまいます」
「ふふっ、どうせその兄モデルは影山君なんでしょ?
だったら、作品内であってもイチャイチャできるなら私が頑張る意味があるのでは?」
「言っておきますけど、沙由良んはストーリー性があるものにしたいタイプなので一人増やすだけでだいぶページ数が増えてしまうのを承知で言っているんですか?」
「それでもよ。結局、あなたも自信をトレースしたヒロインとイチャイチャできればそれでいいのでは?」
「そ、それは......」
「なら、決まりね。今年は多人数型でいくわよ。
安心しなさい、ある程度のネタ提供はしてあげるから」
「......はぁ、仕方ありませんね。
沙由良んもイチャイチャできるんですね......ならば、よし」
「ならば、よし」じゃねぇよ。平然と公共の場で猥談してんじゃねぇよ。
幸い、周囲の人間は特殊なフィルター越しに見てるのかたとえ二人が猥談を話していても、まるでそこが花園であるかのように見惚れてるけど。
「ほら、案内行くぞ」
「「はーい」」
そして、俺は廊下を歩きながら適当に紹介していく。
しかし、沙由良が気にするところが一癖も二癖もあって―――
「ふむ、ここが女子トイレですか。男子トイレとの距離が空き過ぎていますね。
これでは人通りが少なくなって何らかの経緯で個室トイレに入ってしまった男女の背徳感が薄れてしまいます。評価☆一つ」
「......」
「ふむ、ここが空き教室ですか。ここは実にいいですね。
窓が南側にあって、放課後になれば丁度良く夕陽が差し込んでくる。
そして、教室の片側だけに寄せられた数々の机の上で若い男女が己のリビドーを発散させるわけですか」
「それだけじゃないわ。ここは人気が少ないとはいえ、理科準備室があるからたまに人の気配がやってくるのよ」
「なるほど、それで背徳感が得られると。評価☆二つ」
「......」
雪参戦!
「で、ここが保健室になります。
先生は若いのでよく生徒の相談に乗ってますよ。
また、先生がこの場から離れる機会も多いので使えます。
まぁ、実際にあったという噂はありませんが」
「さすがに現実であったらねぇ。
とはいえ、やはりシチュエーションとしてはここは抑えがたいわよね」
「そうですね。何かと定番になりがちですが、定番として使われるのはそれだけ噛んでも噛んでも旨味が出るからだという証拠ですからね。
加えて、ここは人がより来やすいので先ほどの空き教室よりも強い背徳感が得られますね。☆三つ」
「......」
昴参戦!
「ぼ、僕も少しは勉強してきたよ。
こ、こういうことを考えるのは苦手なんだけど、やっぱり屋上も捨てがたいのかなって。
ごめん、なんか変なこと言ってるよね!」
「いいえ、何も恥ずかしがることはないわ。
それにあなたがそっちも勉強してきてくれたことが何よりも嬉しいわ」
「そ、それは......がっくんの部屋にそういうのがあったから......」
「しまった......」
「ふふ、より仲良くなれそうで良かったです。
となれば、この屋上の魅力を語らせてもらいましょう。
この屋上は学園官能小説の中でも定番となっており―――」
―――数分後
「―――というふうな感じです」
「なるほど、奥が深いわね」
「聞いてみたら意外と面白いね」
「なんだかそういうエッチな話をしていたら“奥が深い”という言葉も意味深に聞こえてきますね。
ま、それはさておき屋上は背徳感こそ他に比べて得られにくいですが、外であるという開放感が得られ、さらに人気はなおさら少ないのでよく使われるシチュエーションとしてチェックしておきましょう。☆三つ」
そんな話を聞いていると横から沙夜が袖をクイクイと引っ張ってくる。
「どうした?」
「兄ちゃ......この人達ヤベェ」
「......ごめん」
本当にごめん。今日はなんでも好きなの買ってやる。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')