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第160話 新学期が始まったか

 時は4月、新たな学校生活としてスタートしたこの場所もなんだかんだで1年も経ってしまった。

 思い返せば色々あったもんだ。


 ほんと色々......そして、この1年で必ず俺は自分の答えを見つけなければいけない。

 すなわち、俺が抱くこの想いは一体誰に向いているのか。


 現時点では俺が主に関わって来た女子全員にドギマギと反応してしまうわけだが、その気持ちもちゃんと捉えられれば多少の差異ぐらいはあるはずだ。


 それを正確に見極めなければいけない。

 俺もラブコメを愛する男子の一人として。

 光輝の親友と居続けるために。


 そして現在、俺は正門を抜けた下駄箱付近に設置されてるクラスボードを眺めている。


 多くの生徒が集まっているそこはいわばクラス替えした自分がどの教室に所属するか確認するための場所で、そこでは様々な声が聞こえてくる。


 友達と一緒のクラスになれただか、好きな人と同じクラスかどうか、担任は誰かとか......そこら辺。

 世の生徒達にとってはそれらが一喜一憂する要因なのだろう。


 しかし、俺は違う。なんせ知ってるからだ―――この世界には随分なラブコメ好きな神がいること。


 光輝という天に愛されたような男だけではなく、俺のような日陰者にもスポットを開けるような物好きが。


 だから、俺は自分のクラスと光輝のクラスしか確認しない。

 もうそれを探してる時点で何人か同じクラスの奴見つけちゃったし。


「へぇ~、これも何かの因果かしら?」


「いや、むしろ当然の権利ではないですか? この1年頑張りましたし」


 そう話しながらわざわざ俺の隣に並ぶ生野と雪。

 もはやこの学園のマドンナ的存在である「姫」の称号を持つ彼女らを認知しない者はほぼいない。


 それによって、彼女らは周囲からは犯されざる神聖な領域を作るように微妙に空間を作られているのだ。

 あれだ、歩いていたら勝手に人が避けて道が出来るやつ。


 故に、その二人の周りには微妙にスペースが空き、それを当たり前のようにして自分のクラスを確認していくモブ。

 そして、もし同じクラスになれればワンチャンを狙って拗らせる。


 しかし、悲しいかな。

 ワンチャンもツーチャンもないことを俺は知ってしまっている。現状では。


 ちなみに、俺も悲しみを抱えている。

 彼女達が俺を挟んでクラスボードを見てるわけだが、別に俺は周りから彼女達に接触を許されたわけではないので、異様な殺意を帯びた視線が刺さってくるのである。


 まぁ、俺が提供屋としてある程度は黙認してるわけだけど、仕事でもないのに不用意な接触はやはり耐え難いらしい。


 もう半分泣きながら慣れたことであるが、心の中でせめても言い訳させて欲しい。

 それは俺が望んだ結果ではないと。


 うん、羨ま死ねと思われるのがオチだから言葉にしては決して言わない。

 しかし、決して望んで作ったわけではないことはどうか伝えさせて欲しい。


「......俺は先に行ってる」


「あれ、ひめっちやすばるっちを待たないの」


「それは俺に死ねと言っているのか?」


「だいぶ深刻そうな顔してますね。まぁ、なんとなく察しますけど」


「すまない、先に行かせてくれ。心臓が持たない」


「「どうぞ......」」


 二人に若干心配されながら先に教室に向かっていく。

 俺のクソ雑魚メンタルは周囲の視線に耐えることに長けてはいないのだ。


 そして、新たな教室に向かっていくとそこにはすでに何人かいて、窓の方では外を見ながらどこかアンニュイな表情の姫島の姿があった。


 窓のふちに寄りかかりながら入り込んでくる風によってたなびく黒髪。

 表情も相まってか実に見とれてしまうほどに絵になる。


「あら、ようやく来たのね」


「その言い方だと来るのを待ってたみたいだな。

 お前のことを待ってる生野と雪がいるんだが?」


「そうみたいね。でも、もう戦いは始まってるのよ?

 ともなれば、この時間は逆張りした私の勝ちってわけ」


 さっきのアンニュイな表情はどこへやらまるで子供っぽいイタズラな笑みを浮かべながら、年相応の可愛らしさも含んでいる。

 ほんと、世の女性から恨まれてもおかしくない完璧な容姿よな。


「どうしたの? 見惚れちゃった?」


「あぁ、そうみたいだ。もう少し見ていたくなる」


 心臓がより早く力強く動くのを感じながら俺は席に向かっていく。

 そして、席に座るとすぐに姫島が近くへやって来た。


「なんかその物怖じしない態度が前と同じでちょっと癪だわ。

 あの初めて恋した初心な中学生みたいな反応はどこへ置いてったの」


「あんな醜態を今も晒すわけにはいかない。

 俺はあくまで俺が思う俺のままでお前らの気持ちに答える。

 そのためには前みたいな平然とした態度の方がいいと思ったんだ」


「そう......」


 俺の言葉に何を感じ取ったのか姫島は何かをひらめいたように一瞬で俺の耳元へ近づくと撫でるように囁いた。


「そうやって強がってるあなたも好きよ」


「......っ!?」


 それはあまりにも卑怯な攻撃だ。

 瞬時に体がゾワッとした感覚に襲われ、触れずともわかるほどに顔に熱を帯びていく。


「ふふっ、頑張って見栄を張る姿も可愛くていいわ」


「随分と余裕そうに言ってるが......その行動はお前にとっても自爆攻撃だろ」


 声の抑揚はいつも通りだが、顔に明らかに赤みを帯びている。無理するからだ。


「でも、私の長年の想いが今も薄れてないってことがわかったでしょ?」


「物は言いようだな」


 俺は今後に支障が出そうなので深呼吸して心を落ち着けていくとその行動について尋ねた。


「にしても、普段は開口一番に下ネタが飛び出るようなお前がどうして突然こんな行動を?」


「なんか随分な言われだけど......まぁあながち間違ってないから受け止めておくわ。

 それはもちろんこの一年が乙女達の大決戦だからよ」


「随分大きな言い方だな」


「当然よ、言ってしまえば未来の自分に関わることだからね。

 それは誰しもが思ってること。

 だけど、その未来を掴む選択肢は私達には与えられていない。

 全てを選ぶのはあなた。

 であるならば、私は私自身に出来ることをしただけよ。

 少しでもあなたの想いを傾けられるようにね」


「......」


「ギャルゲーって片一方の好感度しか見えないでしょ?

 実際にバーとして表示てあるものじゃなく、キャラの反応によるものだけど」


「あぁ、あるな」


「でも、私はあなたにギャルゲーを貸してもらってプレイして気づいたことがあるのよ。

 それはヒロインもまた主人公の好感度を得ているって」


「主人公の好感度を?」


「この場合はプレイヤーと言った方が正しいわね。

 第一印象から話し方、リアクション、好み、趣味と色々あるけど、それでヒロインもプレイヤーであるあなたに愛されたくて頑張っている。

 ゲーム的な話だから理解し難いことだとわかってるわ。

 でも、あなたも二次元を愛するならその物語に出てくる好きなキャラクターぐらいいるでしょ? そういうことよ」


「なんかわかるような......わからんような」


「もちろん、絶対とは言わないわ。

 それでもあなたが一番最初にギャルゲーで最高のハッピーエンドを迎えるヒロインは必ずあなたがそのゲームの中で大きく心を突き動かした人物じゃないかしら?」


「それがさっき言ってた.....?」


「選ぶ相手は人間よ?

 なら、その人にとって自分が魅力的であることを伝えて自分に向くように有利にするのは当然の行動よね」


「どうして急にそんなことを?」


 姫島が真面目に話すことなんて少ないが、それでもその態度で話す時は必ずそれが今後に大きく影響してくるように感じてならない。

 普段のギャップのせい?


「ま、この学校では新参者でありながら遥か強敵がやってきたから、そのための予防策とでもいうべきかしら」


 その時、俺のスマホに着信が来る。

 それを確認して思わず「なるほど」と納得してしまった。


『学兄さん、沙由良んも無事にこの学校にやってきました! 反撃開始です!』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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