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第159話 うん、バレンタインデー

 時は、バレンタインデー後半戦とも言えるお昼を過ぎ、早くも放課後に差し迫っていた。

 これまでに常連客から貰ったチョコだけを見れば、もはやバレンタインの猛者とも言えるだろう。

 しかし、俺個人としてはそれを数に含めるのはどうかと思う。


 貰えない野郎どもからすれば羨ましい限りであろうが、やはり俺からすれば欲しい相手にキッチリ受け取った数を考えたい。


 となると、当然俺にとってはあの五人になるわけだ。

 沙由良は仕方ないとしても、やはり俺の気持ちとしては欲しいのだ。


 となれば、もう恥を捨ててくれと頼んでみるべきか。

 そこまでしてがっつくのもどうかと思うかもしれないが、本音を考えれば欲しい一択なのでやるしかない。


 今日の最後のホームルームが終わり、敗者となった野郎どもが重たい足取りで部活や家へと歩みを進めていく。


 そして、勝者たる光輝は用事があるように急いで移動してしまった。

 ふむ、恐らく霧江ちゃん辺りからもらうと見た。


 俺もいそいそと帰る準備を進める。

 姫島は終わったと同時に荷物持ってどこかに行ってしまったし、今いるのは昴ぐらいで―――


「がっくん、少し時間ある?」


「ん? どうした?」


「......はい、これ」


 そう言って手渡されたのはまさしく正真正銘のバレンタインチョコであった。

 もはや蓋を開けた宝箱のごとく未知なる光を溢れ出しているように見える。

 こ、これが本命チョコか......。


「がっくんが、嬉しそうで良かった」


「え?」


「気づいてない? 顔が随分と笑ってるよ」


 その言葉にふと手を触れさせてみると口角が上がってるのに気づいた。

 きっと鏡で見たら「気持ち悪っ!」って思うほどにはにやけてるな。


「ありがとう。まさか最初に貰うのが昴だったとは」


「え? もしかして他の子達からは貰ってない?」


「それを言ってるのがあの三人のことだとすればそうだな。

 こんなに拗らせておいて期待するのもおかしい話だとは思うが、実際期待はしてた」


「まぁまぁ、ボク達のことは気にしなくていいから。

 あれ? でも、おかしいな? あの三人なら一緒になって準備してたはず―――」


「「「あああああ!」」」


 ガラガラと教室のドアが横にスライドしていくと同時に正しくその三人の声を揃えたような驚いた声が聞こえてきた。


「や、やられたわ......」


「くっ、あの女狐め~~~~!」


「してやられましたね......」


 ん、ん? 何々どういうこと? 全然話が見えてこないよ?


 何やら悔しそうな顔をする三人の姿がある。

 まるでここにはいない誰かを恨むように。


「まぁ、いいわ。さっさと連れて行きましょう」


「そうね。雪ちゃん、ゴー」


「おー!」


「???」


 俺はそれぞれの手を姫島と生野に引かれていき、雪から背中を押されていく。

 そして、向かった先は......家庭科室?


「さ、見て驚きなさい!」


 生野がその部屋の扉を開くとそこにはまるでお店で買ったようなチョコケーキがあった。


「こ、これは......」


「花市さんに影山君はサプライズが好きだと聞いてね」


「どうせなら三人で作った方が愛情もマシマシになるんじゃないかとも」


「それで三人で材料持ち寄って作ったんですよ」


「すげーな......」


 三人とはいえ、限られた時間の中で作ったのもそうだが何よりクオリティがすげー。

 さっきも言ったが店頭に並ぶような細部までこだわったそのケーキはもはや食べることすら躊躇わせる。


「ちなみに、これはどうなればお前ら的に満足だったんだ?」


「そりゃ当然、一番最初にあげることよ」


「けど、それよりも先に昴っちが先にあげるとは思わなかったけど」


「花市さんは私達を一番最初にしてあげると言ってたんですけど」


「待って、それ、僕は初耳なんだけど」


 まぁ、そりゃそうだろうな。

 確かに花市はお前らに対して何かと助言してきたのかもしれないけど、基本的には昴の味方なんだから、そりゃ昴を優先するよ。

 あいつはむやみに信じない方がいい。


 ともあれ、せっかく作ってくれたんだし貰うとするか。

 というか、このタイミングで食い切らないと不味い気がする。箱とかないし。


「それじゃ、いただくよ」


 俺はこの部屋からフォークを借りるとそのケーキを一口サイズにすくってパクリ。うっまぁ~~~~!


 いや、見た目からしてわかってたけどね?

 これは絶対美味いだろうって。

 で、実際食ってみればそれを遥かに超えてきた。

 これを三人で作ったのか。


 うん、美味い。思ったより後味がいつまでも長引かないからどんどんと口の中に入っていく。これはいつまでも食える......ともう最後か。


「あんたが甘党と知ってたけど、さすがにホールを全部平らげるとは思わなかったわ」


「もはや甘党というより、甘味に対してはもう一つの胃を持ってる感じね」


「気に入ってくれたようでなによりです」


「あぁ、凄い美味かった。ありがとう」


 俺が感謝を告げるとその言葉が余程意外だったのか三人してどこか照れた様子を見せる。

 俺ってそんなに感謝の言葉言ってなかったっけ?


「はぁ、少し妬けるよ。別にいいけど」


「昴のもちゃんと食べるよ。先に食べなかったのは申し訳ない」


「大丈夫、生ものは仕方ないからね」


「あら、もしかしてこれで終わりと思ってる?」


「どういう意味だ?」


 姫島の言葉に驚いていると三人してそれぞれチョコを渡してきた。


「だって、今日は乙女の戦いの日よ? ま、皆して考えてるのは同じみたいだけど」


「そりゃね。さすがに後でタイミング作れそうにないから今渡すぐらいしかないけど」


「是非受け取ってください」


「あぁ、ありがたく受け取らせてもらうよ......」


 それぞれ小さな袋に一口サイズのチョコが入っている。

 形が違うことからして今日とは別に作ってあったものだろう。


「お前らだから言うけど、実のところ朝からもらえる気で待機してた」


「知ってるわよ。あ、ソワソワしてると思ったもの」


「でも、このサプライズのために各々で気を逸らしたんですが、その時の影山さんのしょぼーんとした様子が可愛くてちょっと扉開きかけました」


「ふふっ、いつもしてやられてばっかりだからとても良かったわ。ちょっと癖になりそうかも」


「がっくん、望むなら僕もそうするよ?」


「是非ともやめてくれ」


 そして、俺は四人から無事にチョコを貰えると少しホクホクした顔で帰った。

 しかし、家に向かう前にとある場所に寄っていく。


「おやおや、学兄さん。どうやら浮かれてるようですね。沙由良ん的にポイント低いですよ」


「それは悪い。だが、沙由良からも貰えると思って浮足立ってたんだが?」


「ふふっ、今の沙由良ん的にポイント激高ですよ。さっきのが1だとすれば、今のは1億です」


「差が酷過ぎるな。もはや下がりようがない」


 そして、沙由良は近づいて来るとスクールバッグから小袋を取り出し渡してきた。


「はい、どうぞ。それにしても、さっきのセリフはたらしくぽかったですね」


「残念ながらぽいじゃないんだ。実際にそうなんだ。申し訳ない」


「おや、随分としおらしい態度。

 なんかこのまま学兄さんをしょげさせたい性癖に刈られます」


「お前ら揃いに揃ってどういう性癖の扉を開こうとしてんだよ」


 もはやなんか怖くなってきたよ? 長期的にしとくほど余計な性癖拗らせそうで。


「ともあれ、学兄さんのことですからさぞかし四人の素敵な女性から良いおもてなしを受けたのでしょうね」


「......ノーコメントで」


「もはやそれだけ察せれますけどね」


 すると、沙由良は俺に向かってビシッと指を向けた。


「待っててください。沙由良んが入学した暁にはすぐに沙由良ん勢力を広げてあげますから!」


 そして、時は運命の二学年へと進んでいった。

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