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第158話 バレンタインデー?

 今日は特別な日だ。男子誰もがソワソワし、それが悟られないように普通を装っていく。

 そう時期は巡り巡ってバレンタインデー。俺のラブコメ計画にとって特別な日だ。

 そして、その国民的行事とも言えるそれは俺も例外ではなくなった。


「おはよう、影山君」


「あぁ、おはよう」


 姫島がやってくる。かけられた挨拶に模範的に返していく。

 しかし、今日であるからかいつもより心がざわついているみたいだな。


「あ、そうだ。あなたに渡したいものがあるのよ」


 そう言って姫島はバッグに手を突っ込む。

 そして、そこから取り出したのは―――


「はい、おすすめされたギャルゲー。意外に面白かったわ。ありがとう」


「あ、あぁ、そういえば貸してたっけな」


 なんだろうこの振り回されてる感じ。

 いや、前に姫島に「ギャルゲーやってみたいから何かない?」と言われて貸したものがたまたま今日返って来ただけなんだけど。タイミングが!


 俺は実に澄ましたような顔で答えていく。

 ほぼ確実に貰えるかもしれないけど、それを表に出すのはなんか恥ずかしい。


 とはいえ、俺には光輝のバレンタインを煽るというロールがあるためにどの道道化にならないといけないんだが。


「......」


「どうした? ニヤニヤして」


「いや、別に気のせいよ。ま、今日も良い一日が過ごせそうねと思って」


「人の顔見てそう思えるんだな」


「それはあなただからよ。あなただからこそよ」


 な、なんだこの感じ? なに焦らされてる?

 いつものこいつならさっさと渡して来ようものなのに。

 いや、こいつとて女子であるためにこんな公衆の面前で渡すのは恥ずかしいのか。


「おはようございます、影山さん」


「おう、おはよう」


 次にやって来たのは雪だ。毎回隣の教室からやってくる。

 もはや朝はいなければおかしいとでもいう風に周囲のクラスメイトは馴染んでしまっているようだ。


「影山さん、実は―――」


 お、まさか雪から一番最初に貰うのか?

 まぁ、もう今の雪は積極性にステを振ってるからな。

 こんな行動を取ってもおかしく―――


「影山さんにピッタリな小説を見つけたんで是非と思って持ってきたんです」


「......おう」


 そう言ってバッグから取り出された本を手に取る。

 ブックカバーを外してタイトルを見てみると安定して官能小説であった。

 いや、タイミングよ。なんでこの状況で?


「あ、ありがとう。家で読ませてもらうよ」


 もしかして君達は今日という日をお気づきではない?

 もしかしてそういうことですか?

 なら、俺も仕方ないと思う。

 俺も過剰に期待してただけだ。

 うん、し、仕方ない......。


 それからというもの、俺は順調にチョコを貰った。

 あいつらからではない俺の提供屋としての常連客からだ。

 もちろん、友チョコであるが貰ったには貰った。


 が、なんだろうこの妙な寂しさは。

 いや、何も言わずに求めている俺がおかしいのだろうけど、でも普通は貰えると思うわけじゃん!

 だって、互いの気持ち知ってんだし!


 かなり自分が気持ち悪いことを言っていることは自覚している。

 しかし、貰えると半ば確信していた分酷く恥ずかしく惨めな気持ちになっているのは確かだ。


「はぁ......」


「どうしたのよ? そんな黄昏て」


 こ、この声は......!?


「生野か......」


「なんかまた前みたいな呼び方に戻ってるわね。ま、あんたが呼びやすい方でいいけど」


「下の名前はなんか恥ずかしいだろ」


「互いの気持ち知ってて今更恥ずかしがるのもどうかと思うけど......あ、そうだそうだ」


 そう言って生野は後ろ手に隠していたものをサッと渡してきた。も、もししゃこれは......!?


「ジャジャーン! 有名店ハッシュトラスのデザート割引券!」


「......」


「実は読モのバイトを始めてからメイクさんに貰って。

 意外に多く貰ったからあんたにいくつか分けてあげようかと思って」


「おう、ありがとな」


「なんか嬉しそうじゃないわね」


「いや、そんなわけないだろ」


 そんなはずはない。俺はスイーツ男子である。

 有名店の割引券を貰って嬉しくないはずがない。


 だが......生野ならこういう行事に疎くないと思っていた分、貰えると思っていた分、自意識過剰のダメージが我が身に降りかかってきているのだ。


「ま、なんか知らないけど、必ず良いことあるって」


 なんか背中を叩かれながら前向きに励まされた。

 いや、それをお前に言われるとむしろダメージを負うんだけど。


「そういや、さっきサラッと言ってたけど読モのバイト始めたの?」


「まあね。やっぱり自分の魅力はどんどんアピってかなきゃと思って。それにお金はあって困ることない」


「後半の言葉が本音とみたぞ」


「まぁ、間違ってはないわね。あ、チャイムの音」


 そう言って、生野は「じゃあ後でね~」と言って颯爽と去っていった。

 その後ろ姿を見ながらどこか虚しさを感じた。


 そして、時は昼休み。

 これまでの昼休みに光輝ズハーレムである乾さんや結弦、そして花市からも貰った。

 妙に薄笑いしてたのが気になったが。


 しかし、未だに俺は本命相手からは貰えていない。

 明らかに周囲が渡している状況を見ているはずなのに一行に動かない点からしてもはや持ってないのかもしれない。


「はぁ、どう思う?」


「それを僕達に聞かれても......」


「羨ま死ね」


 俺は同業の渡良瀬健と名撮友梨亜に俺の現況を説明していた。

 といっても、俺がハーレムを形成してることは言っておらず、単に甘党として貰えるだろう相手から貰えなかったと説明してある。


「こちとら、男子受けはすこぶるいいけど女子受けは真逆なんだぞ?

 もはやその意見はケンカ売ってるようにしか聞こえない」


「安心しろ、母親から貰えるだろ」


「それをカウントに入れた時点で俺のバレンタインデーは灰色に染まる」


 渡良瀬は深刻そうな表情で告げた。

 ま、まぁ、こいつはエロ本の横流しが主な仕事だから仕方ないとは思う。ご愁傷様。


「あ、それじゃあ、僕が代わりにあげようか。実は作って来たんだ」


「え、マジで!?」


 友梨亜の言葉に渡良瀬が驚いた表情をする。

 まぁ、確かに俺も驚いたが......別に男子が作っちゃいけないってわけでもないしな。

 それに海外式だと男が渡すんだし。


「はい、どうぞ。手作りだよ」


「ありがとう」


「センキュー」


 そう言って渡されたのは奇麗に包装された箱。

 普通に既製品のものだと思っていた分衝撃が大きい。

 ところで、渡良瀬とで包装の柄が違うのは気のせい?


 あいつのは斜めの色が互い違いになっているもので、俺のは妙にハートが散りばめられてるんだけど。


「名撮......いや、友梨亜、お前はたった今から女子だ!」


「えぇ!?」


「ってことは、そのチョコをカウントに入れるのか? 灰色にならないか?」


「いや、ならん。むしろ、鮮やかになっていく」


 なんか言葉を聞くたびに虚しくなっていくな。

 お前がそれでいいなら俺は別に構わないけどさ。


「んじゃ、早速いただきまーす」


「俺ももらっていいか?」


「うん、どうぞ」


 俺は早速リボンをほどき、包装を剥がしていく。

 そして、箱を開けると―――ハート型のチョコであった。


「ん?」


 チラッと渡良瀬の方を見る。奴のは星型だ。

 奴は感動しているみたいでこちらには目のもくれない。

 今度は友梨亜の方をチラッと見ていくとニコッと返された。

 いや......えええええぇぇぇぇ!?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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