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第155話 兄の威厳はなんとか保たれた

 冬休みというのは新たな年を迎えると学校に行くまでの休みの日が異様に短く感じるのはなぜだろう。


 とはいえ、別段やることはないので部屋でゴロゴロしますか。

 さーて、ベッドの上で積みゲー消費―――


「呼ばれて飛び出て沙由良んです☆」


 ガチャっと勢いよく扉が開かれるとそこにはキラーンと効果音が付きそうなポージングをした沙由良が現れた。

 え、なんでここにいんの? 沙夜が呼んだのか?


 というか、なんかさっきからこっちをじっと見て来るんだけど。


「なるほど、自慰行為後でしたか」


「賢者タイムでリラックスしてるわけじゃねぇよ。

 お前の開口一番の言葉がそれでいいの?」


 なんでちょっとショック受けてるような顔してんの?

 それ言われてダメージ喰らってんのこっちだからね?

 もうお前らの下ネタには慣れたけどさ。


「沙由良ん的にはガバっと開けた時に、絶妙な角度で見えない状態で半ケツ見せながら床に直座りしてるのが理想的でした」


「お前の同人誌のテンプレ場面構図を求めんな。

 少なからず、俺はお前の作品の読者なんだからその後の展開知ってるからな?」


 その同人誌の説明はあえてしない。

 いや、する以上に自分の中で理解が済んでしまうだろう。

 というか、俺がしたくないわ。


「で、何の用なの?」


「仮にも私に好意を寄せているはずなのに随分とおざなりな態度ですね。

 まぁ、案外嫌いじゃなくて何か別の扉開きそうですが」


「待って。勝手に人の家の人の部屋で新たな性癖に目覚めようとしないで」


「学兄さんがこんないやらしい体にしたんですよ」


「誤解を生むような言葉を言うな。濡れ衣も甚だしい」


 まぁ、俺も読者であるだけに豊かな想像力でモザイクがかかりそうな構図が見えてきてしまうが......さすがに相手に対して不埒すぎる。


 というか、あいつの調教ものの同人誌で堕ちたヒロインがあんなこと言ってた気がする。


 ―――ガチャン


 何か物を落とす音がした。俺の部屋ではない。

 沙由良んも何も持ってない。あ、これ......やばくね?


「に、兄ちゃ......沙由良ちゃんになんかしたの?」


「さ、沙夜!?」


 で、でた~~~! バッドタイミングでの妹に妙な部分だけ聞かれるやつ~~~~!

 ま、不味い、本格的に俺もラブコメ世界に囚われ始めたか?

 いや、まだ何とかなるはず―――


「おや、ちゃん沙夜じゃないですか。学兄さんに性的に迫ってみました」


 相手が沙由良じゃなければな! こいつ、妹に何言ってるんだ!?


「そっか~。同人誌のネタだね?

 そう言う意味では確かに兄ちゃは私とよく無意味な寸劇するし良いんじゃない?」


 妹の理解力に全俺が泣いた。まぁ、さすがにそれが本気だとは思うまい。


「割と本気ですよ?」


「え?」


 沙由良ああああああ!?


「兄ちゃ、それってどういう......?」


 ギラっと強い目がこっちに向いてくる。嘘だよね? みたいな目線が来る。

 それに対し、上手く言葉が出なかった。


 沙由良が抱いている俺に対する好意は本物で、割とガチでそういう展開になっても断れる自信ないみたいな感じだし。


 それ以前にこんな展開になることに対しての予習不足な俺はこういうラブコメ場面での緊急対応マニュアルが出来ていない。

 その長考が結果として沙夜によくない対応をさせた。


「あ、えっと......その、ご......ごゆっくりどうぞ。

 母ちゃも父ちゃもいないしね。私もヘッドホンつけてるし」


「待って! 待って! 一旦ストップだ!」


 沙由良は動揺した手つきで落としたお菓子を拾っていくと最後に叫んだ。


「リビングで寝てるからあああああああ!」


「待ってくれえええええええ!」


 俺の伸ばした手も虚しく沙夜はドアを閉めて行ってしまった。

 慌てて階段を降りたのか足を滑らせて階段をお尻で滑っていくような音も聞こえてくる。


 お、俺の全兄ちゃが泣いた、否、死んだ。家族会議確定だ......これ......。


「ふむ、これで邪魔者は消えましたね」


「この最悪な状況でそれを平然と言えるお前の胆力はどこで鍛えた?」


 とはいえ、沙由良もドアの方を向いて少し思うことがあるのだろう。

 だとしても、やり過ぎだけどな!


「どうしてくれんよ、これ......沙夜にえげつない誤解が生まれたんですが」


「まぁ、大丈夫ですよ。どの道いずれ義妹になる予定ですし」


「お前がそう言いきれるのが凄いわ」


 もうなんかどっと疲れた気がする。

 チラッと目覚まし時計を見てみれば、先ほどスミッチの画面で見た時刻から僅か数分。

 どう考えても一年以上は煮詰めたような濃厚さがあったんだが。


「とはいえ、さすがに沙由良んもちゃん沙夜をイジリ過ぎた気がします。

 ちゃん沙夜の反応はいつまでも飽きないんでついやっちゃうんですよね」


「ついでに俺を巻き込むのはやめてくれ。

 それにお前は表情筋をどこかに捨てちまったんだから表情に出ない分言葉に説得力が出て余計に誤解を生むんだから」


「そうですね。ですが、そのおかげで今頃ちゃん沙夜がどんな様子で悶々としているか想像するとつい興奮してくるんですよ。

 学兄さんならわかってくれますよね?」


「いいえ、一切わかりません。それで認めたら俺は妹に欲情してることになる」


 そんなのもはや家族会議じゃ済まされない。

 というか、こいつはホントに光輝の妹か?

 どう遺伝子を変化したらこんなにも尖った嗜好を持つようになるんだよ。


「どうします? やります?」


「コンビニ行く感覚で誘ってくんな」


 もう疲れた。こいつ一人にこの体力の持ってかれようなんだから、コイツが姫島と雪でパーティを組んだらいよいよ対応しきれない。過労で倒れるかもしれん。


 すると、沙由良がしれっと横に座ってくる。しかし、俺に逃げるほどの気力なし。


「わかってますよ。沙由良んも冗談ぐらい言いますって」


「なら、せめて冗談ぽくしてくれ。加えて、あの流れで冗談はよしてくれ」


「でも、少なからずこれで沙由良んの印象は強く脳裏に焼き付いたでしょう?」


 そう覗き込む沙由良はまるで俺の好みを理解しているように自然に口角を上げてみせた。

 沙由良は表情が出ないわけではなく、非常に出にくいだけであって、それがハッキリと表情の違いとして現れるということは―――相当喜んでるという証拠である。


 その表情に落ち着きを取り戻し始めた俺の心臓は疲れてくるくせに無理してでも再び強い鼓動をし始める。


「沙由良んは学兄さんを好きになってから余計に一年という月日の違いを呪うんです。

 学兄さんの周りには素敵な人達がたくさんいる。

 加えて、同じ年齢で同じ学校で同じクラスで沙由良んと過ごす時間とは比べられないほどに差がある。

 だから、時折学兄さんが少しでもこっちを見てくれるように頑張り過ぎちゃうんです。

 まぁ、会えた嬉しさに暴走もしてしまいますが」


「なら、少しは自重してくれ」


「それはできませんね。学兄さんに会える時間が少ない分、沙由良んに出来ることはこういうことぐらいしかないんですから」


 その目からは強い意志を感じる。

 それをどう答えるのが普通なのか。

 いや、今更普通を求めるのはおかしいか。

 俺は沙由良の頭にそっと手を置くと照れ臭いからそっぽ向いて告げた。


「お前の志望校は俺と同じなんだろ? だったら、来年からは同じ学校で会えるじゃねぇか」


「学兄さん......」


「お前の気持ちを全面的に理解することは出来ない。

 だけど、俺もお前の好意を知ってるし、お前も俺の好意を知っている。

 なら、焦らずに来ればいい。少なからず、俺はお前の好意に答える義務があるからな」


「はい、ありがとうございます」


 沙由良は顔を俯かせた。その耳は赤い。

 よっぽど恥ずかしい割にはここから離れないんだな。


「学兄さん、一つ提案していいですか?」


「なんでも言ってみろ」


「犯していいですか?」


「さっきの良い雰囲気返して」


 その後、沙由良に妹の誤解を解かせ、何故か俺を巻き込んで遊ぶことになった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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