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第153話 あけおめ

 元旦、それは一年の新しい未来への最初の一日目であり、新年を祝う重要な日でもある。

 そして、当然ながらギャルゲーにおいても重要なイベントタイムであることは言うまでもない。


 故に、いつもの俺ならそんな大事な日を自分私用で潰させるわけにはいかない。

 そう、いつもの俺では。


『今日、一緒に初詣に行かないか?』


 そう光輝からの連絡が来てる。

 二つ返事で答えたいところだが、ここはグッと堪えて俺はその返信に「家の用事で行けない」と文章を打っていく。


 というか、俺はもう既に神社の前にはいるのだ。

 なので、正解はすでに着いているなのだが、それでもそう返信したのは当然意味がある。


「あら、待ち時間にスマホをいじるなんていかにも若者っぽい動きね」


「縁ちゃん、影山さんは若者ですよ」


「その割には妙に頑固なところがありますけど」


「それは年齢関係ないと思うよ」


「で、寂しそうに待っててくれたかしら?」


 そう口々にわざわざ俺に聞こえるような声量で目の前に現れたのは姫島、雪、沙由良、昴、生野というまぁ今更なんの説明も必要ないメンツである。


「ま、言うてさっき着いたからそれほどじゃない」


「このセリフ、恐らくしばらく前から着て待ってたタイプのセリフよ。面構えが違うわ」


「どんな面構えよ」


「つまり二年前の頂上戦争を潜り抜けてきた猛者ということですか」


「雪、それは漫画が違う」


「学兄さんの言う通りです。第三次忍界大戦の間違いです」


「違うね。全然違う。違う漫画を広げてるだけだから」


「あ、じゃあ、千年血戦か!」


「じゃあでもねぇよ。なに? なんなの? その妙なジャ〇プボケ?

 それから意外とジャ〇プ読んでんのね君達」


「ねぇ、あたし全く話ついていけないんだけど」


「気にするな。むしろ、この流れでついてこようとしなくて助かったぐらいだ」


 開始早々に随分なボケをかましてくれる奴らである。

 にしても、あいつらの仲も随分と打ち解けたもんだな。

 接点が少なそうな奴もいるのに随分と温かい雰囲気だ。


 そう思いながら眺めているとふと生野と目が合った。

 そして、ニヤリと笑うと定番の流れに持っていく。


「そういえば、せっかく晴れ着を着てきたというのに私達と顔を合わせてから一度もそれに対するコメントがないのは少し悲しいと思うんだけど?」


「そうね。こんなおしゃれしてきたのも誰かさんに褒めてもらいたいからだし?」


「ど、どうですか?」


「雪さん、正直女の子同士でも犯したいぐらい似合ってます」


「それって誉め言葉なの......? とはいえ、ボクも気になるかな?」


 その生野の質問は生野だけであれば何の問題ないと言えよう。

 しかし、それに便乗してくるノリの良さがこいつらの少し質が悪いと思う所である。

 まぁ、若干一部ただの変態が混じってたが。


 とはいえ、この流れがチームプレイで作り出された以上、俺はその押し寄せる波を弾き返せるほど強くはない。


「あー、似合ってると思うぞ」


「あ、今目を逸らしました!」


「そうね。前の影山君じゃあり得ない行動ね」


「それだけ心を開いてくれたってことじゃない?」


「そう思うと頑張った甲斐があるね」


「え、学兄さんって動物か何かですか?」


 ほんとそれな。まるで過去に虐待を受けて人間不信になった動物が献身的なお世話で心を開いたみたいじゃないか。

 なんかどこかの動物バラエティでそんなシーン見たことあるよ。


「ともかく! さっさと行くぞ。お前らはただでも目立つんだ。そこにたむろってたら邪魔だろうしな」


「「「「「はーい」」」」」


 そして、俺達は階段を上っていくと広い境内を歩いていく。

 その周囲には行き来する人達がいるが、その男性の多くは姫島達のことを割に熱い眼差しで見つめていた。


 まぁ、それも仕方ないことと言えよう。

 なんせこいつらは学校内でも二つ名に「姫」(一部「王子」だが)とつく連中なのだ。


 学校という人数規模でその言葉が浸透しているなら、それだけこいつらの存在は目を引くということなのだから。


 姫島は一見クールビューティーキャラに見え、雪は一見大人しそうな小動物キャラに見え、沙由良は一見無表情電波キャラに見え、昴は一見ボーイッシュキャラに見え、生野はまんまギャルに見えるわけだが、そのうちの3人は変態で1人は変態予備軍であるのだから人は見かけによらない。


 まぁ、知らない人がその情報を聞けば「可愛ければ変態でもいいじゃないか!」と言うだろうが、実際に付き合ってみると割に苦労するぞ、それ。


 というか、もとよりそういうのを許容できる人ほどそういう出会いには恵まれないというのが世の理なんだけどな。


 つまり、俺は許容できなかった......というよりは、考えもしなかった結果が今である。

 今更思っても俺よりも上手く扱えた連中はいたと思うけど。


 そして、そんな俺はというと当然羨ましそうな目で見らている。

 よくある男女で歩いてて「あの女の子の彼氏があの冴えない奴?」的なことは言われてないものの(人数的な関係だろうけど)、それでも一緒に歩いてくる辺りでもはや嫉妬対象なのだろう。


 加えて、こいつらはわざわざ俺を中心として会話のキャッチボールをしようとしてくるので、それで割に仲良く話してるように見えるのが余計に男の嫉妬心を煽ってんだろう。


 どうしよう、ここで「実はこいつら全員俺のこと好きみたいなんです」なんて言ったら。

 赤の他人でも後ろからサバイバルナイフで刺されそう。

 一度じゃなく複数回で。最低5回はいきそう。


「なぁ、一旦俺に会話パスしないで。殺気立った視線が針の筵みたいになってるから」


「あら、刺されても大丈夫よ。すぐに救急車呼ぶから」


「いや、そういうことじゃねぇ。

 というか、平然と俺の状況から心情を読み取らないでくれる」


「で、では、兄弟みたいな設定にします? なら、私は妹で」


「はぁん? 雪さん、それは聞き捨てなりませんね。

 いずれは妹ポジを脱却する身であっても、現時点では妹に違いありません。

 そして、妹は二人もいりません」


「いや、お前妹じゃねぇから。お前が妹なのは光輝だから」


「なら、ボクは弟って感じかな。なんだかんだでがっくんに甘えてる気がするし」


「それじゃあ、あたしは姉かもね。学を気にかけてもいるし」


「いいえ、違うわ。姉は私よ。影山君のことを深く知ってる私の方が姉にふさわしいわ」


「「なら、どちらが妹か決めないといけませんね!」」


「「なら、どちらが姉か決めないといけないといけないわね!」」


 止めて。誰かこの場を止めて。

 俺の不用意な言葉がキッカケかもしれないけど、この妙なポジション取り合戦を今すぐ中止させて。


「昴、今すぐこいつらを止めて―――」


「はぁ、こういう時に男の精神って便利だよね」


 いや、全然便利に扱ってないから。

 むしろ、その唯一無二の自分の特質を何の理由として使ってんだよ。

 使い方が浅すぎるだろ。


 やばいやばい、周囲の視線が一層強くなった。

 俺を中心とした話題で盛り上がってるせいで針どころか剣山だよ。

 アイアンメイデンの中に押し込まれて扉を閉じられる寸前だよ。


 というか、ここまで来て未だこの神社で参拝すら済ませてない事実。

 参拝の列を待ってるだけでこのありさま。

 はぁ、神よ、今年はケジメつけますから。もう少し安寧をください。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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