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第149話 色づく乙女は走り出す#1

―――生野莉乃 視点―――


 いつからそう想い始めていたのか。

 キッカケはわからないけれど、きっとあの日からだということはわかる。


 あたしは自分でも語るほど良い子じゃなかった。

 別に良い子になるつもりもなかったし、限度はあれど多少悪いことをしても楽しければいいという感じだった。


 だから、中学の時には仲良くなった男子と告白されたから気分で付き合ってあげたこともあった。


 それが多くなるたびにモテるという自意識が大きくなっていったのか、こっちからちょっかいかけて告白させる流れに持っていくという遊びみたいなこともした。


 今思えばホント何やってんだかと思うけど、その時はそれがそれなりに楽しかったから深く考えてなかったんだと思う。


 悪い噂も当然立った。

 あたしのことを尻軽とかビッチとかはたまた色んな男を食ってるとか根も葉もない噂だけが広がっていく。


 しかし、そう思われてもおかしくないことはやってたし、実際に男子で遊んでたから否定はしないけど。


 そんな考えのまま進学した高校。

 そこでもやることは変わらなかった。


 楽しいは勝手に生まれることは少ないから自分から楽しいを見つけに行くというもので。


 高校生活が始まってからもすぐに告白されるようなことがあった。

 だから、この学校でも自分がモテるんだと思って再び男子で遊ぶことを決めた。

 それがある種の運命の出会いだったのかもしれない。


 あたしは確かに本気で人を好きになった。

 その最初の相手は陽神光輝君で間違いない。

 こっちのアプローチに照れる様子は合ってもそれ以上の発展はなし。


 たまに自分でも恥ずかしいようなセリフを言っても自慢の難聴で聞いてないし。

 加えて、すでに女子を二人も侍らせていた。

 だけど、最終的にものにすれば問題ないから気にしなかった。


 でも、結果は告白しても振られただけだった。

 その時、あたしが振られたショックや怒りもあったけど、同時にこれまでやって来た男子の気持ちを理解したから自業自得だと思った。


 その時、妙な奴があたしの前に現れたの。その相手が(アイツ)だった。


 振られて傷心中のあたしに平然と話しかけるヤバイ奴かと思ったけど、話してみればあたしと似たような感性だったり、趣味だったりとよく話が合う奴で男子にしては不思議と自然体で話せた奴だった。


 そして、ソイツの協力をもとにあたしは陽神君にアプローチを続けることになった。


 アイツは光輝の一番の親友だということで色々知ってる情報を聞き出そうとしたけど、むしろアイツの方から積極的に関わらせようと情報を与えてきたときは思わず怪訝に感じたわね。


 そして、その目的が陽神君の学園ハーレム計画だったと聞いた時はさすがに驚いたわ。

 それこそ―――なぜ自分じゃないの? って。


 そういうのって普通は自分がそういう欲望のための行動をするはずなのに、アイツは親友のためにそれをやってた。


 正直、傍から見れば何の得もない様に感じるし、近くで見るようになってからさらにそう感じるようになった。


 だけど、どこまでも相手のためを思って本気でバカげたことを実現させようとしてることには少しだけ違った魅力も感じたっけ。


 アイツは陽神君とは違うタイプで初めての奴だった。

 陽神君はこっちのアプローチに全然なびかなかったけど、それでもあたしのことはしっかり女子として認識していた。


 だけど、アイツに限ってはまるでこっちに協力者以上の関係性を見せない。

 普通の男子ならあたしのギャルとしての容姿や自分でもそれなりに自信のあるスタイルによって妙にオドオドするんだけど、アイツはそのことに関して全く興味を見せない。かえって腹が立った。


 それにあたしを前にエッチと思ったことは恥もせず平然といい、加えてあたしを相手にどこまでも弄り倒してくるスタイル。最初は真面目にムカついてた。


 でも、そんな相手だからこそ自然な笑みが浮かべていた。

 いつもは必ず好意を寄せてくる相手からだったし、好きな人じゃないから酷く緊張することもなく......そうね、とても居心地が良かった。


 だからこそ、アイツにひめっちやゆきっちに対して面倒くさそうにしながらも賑やかな雰囲気に嫉妬した。


 それは最初こそインディーズバンドがメジャーデビューした際にどこか遠くに行ってしまった寂しさに近かったのかもしれない。


 そんなあたしの気持ちも知らないで、こいつは平然とあたしのことを見てないで陽神君へくっつけようとする。

 それがなんだか悲しかった。もう少しこっちに目を向けて欲しいと思った。


 その時からかもね、あたしに心に別の勢力が活動し始めたのは。

 そして、それはミーティングと称してアイツと会うたびに肥大化していく。


 そのせいで時々全く用もないのに帰り道にスイーツ店へ誘うこともあった。

 その時も甘い物ばかりに目を輝かせてこっちに目線をくれやしない。


 周りは陰キャっぽい彼の見た目とあたしとで「珍しい組み合わせのカップルがいる」みたいな目線でチラチラ見てきたこともあったけど、アイツにはまるで眼中になし。

 少しでも意識してしまってる自分がバカみたいに。


 もうその時からハッキリと自覚してたわけじゃないけど、きっと少なからずアイツに好意を寄せるような感じがあったのかも。


 そして、その気持ちは心の中で燻り続け、迎えた林間学校の日。

 その時もアイツはこっちに興味なさげに陽神君との繋がりを深めようとしてくる。


 それがどこか苦しかった。

 もうやめて欲しかったけど、それを言えばアイツは消えてしまいそうな気がした。


 だって、アイツはあたしに興味がない。

 あくまであたしは陽神君の学園ハーレムの一人のヒロインでしかないのだから。


 アイツが妙な協力関係を結んできた時から少しして試しにギャルゲーをやってみたけど、アイツは自分のことを物語の中で数回ほどしか出てこないモブ親友と思っているせいもあるだろう。


 でも、ここはゲームじゃない。現実であり、ゲームにはない裏側が語られている。


 それを理解しながらも言えなかった時点でもうあたしは結構なほどにご執心だったんだろうね。

 だから、あたしは心を整理するために肝試しのあの日。アイツとの約束を破った。


 色々なアクシデントが立て続けに起きてしまって暗い森の中は本当に怖かったけど、あたしの心がどっちに向いているかを考えるには十分だった。


 そして、迎えに来たのは―――アイツだった。

 その瞬間、やっぱり来てくれるのはこっちかとも思った。


 助けてくれたアイツが白馬の王子のように見えることはなかったけど、ただひたすらに安心感が凄かった。


 きっと陽神君の時じゃ多少の恥ずかしさがあったかもしれないけど、アイツならたとえあたしの何を見られたとしても安心して身を任せられると思うほどには。


 その瞬間、あたしの気持ちは決まったも同然だった。

 ただ自覚してしまったからこそ、その後の苦しさを感じることになってしまったんだけど。


 アイツの中ではあたしは陽神君のためのヒロインであり、アイツがあたしに利用価値が無くなれば捨てられると思った。


 さすがにそこまで薄情な奴じゃないけど、それでもきっとアイツは自分の目的に忠実だからあたしのことは自ずと疎遠になっていく。


 それが嫌だったからあたしはアイツのためのヒロインを演じ続けた。

 まぁ、バレるのは時間の問題とずっと思ってたけど。


 その間、積極的な女子がアイツに近づいていく。

 それは陽神君の妹であったり、幼馴染のかっこかわいい人であったり。


 それにひめっちはどんどんと自然体でアイツに近づき話せるようになっていき、ゆきっちは本当に頑張ってアピールしていた。


 そんな彼女達を見てあたし一人が蚊帳の外だった。

 アイツがその状況を好き好んで作ったわけじゃないと理解していても、どうして自分だけそこにいないのかということに複雑な感情が生まれることは必然だった。


 そして、いずれ来るだろうと思っていたあの日は来た。そう、アイツに屋上に呼び出された時。


 アイツは鈍くない。


 ずっと前からあたしの態度の変化を察して、それでも自分のやるべきことやもしかしたらのあたしの心変わりがあるかもしれないという期待で見逃されてきただけで。


 あんな一方的な振られ方は初めてだった。

 あの子達よりも関りが少ないあたしが振られるのはなんとなく理解してた。


 だけど、それが「呪い」だとか「勘違い」だとか言われた時はショックよりも腹が立った。


 確かに傷心中に近づいてきたからアイツがそう思うのもわかる。

 だけど、あたしがアイツを好きになったのはそれよりも後のこと。


 これほどまでに腹が立って、同時に心の底から悲しかったのは初めてだった。

 もう感情がぐちゃぐちゃでわけがわからなくなりそうで、そんな時現れたのは花市さん。


 彼女はアイツのことをよく理解していて「復讐を手伝うてあげまひょ」と言ってきた。


 それからのことは全て最近に起こった出来事で、アイツに自身の無視し続けていた恋心を気づかせ、さらには復讐心もあって吹っ切れたあたしにアイツはドギマギしてた。最高にたまらなかった。


 でも、それはまだあたしが望むものではない。

 だからこそ、あたしは自身の未来を形作るために行動すると決めた。


 そして、花市さんが主宰してくれたクリスマスパーティーのその夜、あたしはスタートラインから走り出すためにアイツを呼び出した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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