第147話 本当の地獄は回避できた気がする
花市が俺の番号を知っている?
なぜだ? あいつは俺の正面にいたはずなのに......。
可能性を考えろ。
沙由良が王様を引いて、俺の番号を盗み見たのならわざわざ花市が沙由良に向かって俺の番号を示す必要はない。
ということは逆に、昴側から花市へと渡っていったのか?
花市に逆らえないためにその可能性は十分にあるが.....
「ん? どうしたの?」
全く何もわかっていない顔。
いくら処世術としてポーカーフェイスが上手くなっていようと俺の前では通用しない。
というか、これについては前提が間違っているといえよう。
なぜなら、花市の目的は昴と俺をくっつけること。
ならば、沙由良への情報共有は敵に塩を送る真似でしかない。
花市がわざわざそんな行動を取るか?
あいつが単純に俺を面白がってする悪だくみなら自分一人で動くはずだ。
他には? 他には何かないのか? 過去の記憶を辿れ!
例えば、直近の出来事を辿るなら俺が王様の後に執事の人が皿の片づけに来て―――ってそれだ! 絶対!
俺はあくまでこのメンバーの中で花市の企みが働くと思っていた。
だが、そもそもこの場所は花市の家であり、この家の執事は全て花市の指揮下で動いていると言っても過言ではない。
さながらここは女郎蜘蛛の巣だ。
俺は罠にかかった哀れなカナブン。
クソ! 完全にしてやられた!
「ほな、王様は何番に何命令するのん?」
「そうですね~」
沙由良がわざわざあごに手を当てながら考えてるフリをしている。
表情の差分がないからわかりずらいが、アレは絶対にそうだ。
「それじゃあ、沙由良んからのプレゼントをもらってください」
......プレゼント?
「なんだ、そんなことか。あぁ、もちろんいいぞ」
「それじゃあ、目を瞑ってもらっていいですか?」
ふぅ、なんか凄い嫌な予感で心臓うるさかったから良かった~。
ここで正直、また雪のようなことをされたどうしようかと―――
―――チュッ
「!?」
頬に柔らかく僅かに温かい感触が触れた。
咄嗟に沙由良から距離を取るが、もう手遅れなほどに場の空気は固まっていた。
俺はそれがなんであるかをわかっていながら、認めたくなさに周りを見る。
すると、沙由良の目が合わずに赤らめた顔と周りの同じく赤い顔や衝撃で固まった顔、ニヤニヤしている顔、何が起こったか理解できていない顔などを見て、もはやこの起こってしまった事実をゆっくりと受け止めるしかなかった。
しかし、その事実は着実に俺の心臓を貫いてるけどな。
すーはー、もう衝撃が一周回って冷静なんだが、あえて全力で叫ばせてもらおう!
バカかこの子はあああああああ!
公衆の面前で! 加えて光輝の前で!
男の頬にキスする奴がいるかああああああああ!
何を考えてんだ一体!?
プレゼントをもらったのはいいけど、完全に火力がダイナマイトだぞコンチクショウーーーーーー!
おいおいおいおい......これからの光輝との関係どうすりゃいいんだよ!?
人の恋路を見て嫉妬していた友人が陰でこっそりと自分の妹に手を出してたって......なにこれ理解が追いつかない!
単純な構図だけで見れば、光輝の妹と俺が仲良くしてようが世間一般的な目からして問題ない。
別に光輝の性別が女で付き合ってて、その影で妹に手を出してるわけじゃないからな。
とはいえ! 俺は光輝とは誠実な友人関係でいたいにもかかわらず、今この瞬間決定的に破綻した!
だってほら、あるだろ?
自分の友人が実はこっそり妹と付き合ってたのをたまたま知って複雑な心情になるの!
問題ないけど問題ある感じのやつ! 今まさにそれなの!
「ふふふふふ」
楽し気なクリスマス会に突如訪れた静寂を切り裂くような笑い声。
「聖なる夜の魔力って感じどすか?
えらい素晴らしい熱を披露してくれておおきに」
突拍子もない行動をした沙由良を褒めるような花市の言葉に全員がキョトンとした顔を向ける。
「王様ゲームはもちろん皆はんに楽しんでもらおうとした余興どす。
どすけど、そないな余興がただ楽しゅうちゅうのも少々盛り上がりに欠けるやろう。
やったら、全ては聖なる夜の魔力のせいにしてもう少しタカを外してもええんちゃいますか?
それこそあないな風に。でなかったら、変えようとしてもなんも変わらしまへんで」
花市がなんか凄い裏ボスみたいなムーブしてっけど、言いたいこと的には「全部夏のせいにしてテンション上げていこうぜ!」ってだけなんだよな。
とはいえ、今の言葉は変えたいものがある人にはぶっ刺さる言葉だ。
俺は花市を良く知ってるから裏を読めるけど、恐らく全員花市の言葉の「魔力」に当てられたな。
本当にかき乱すのが好きだな。
手のひらで転がす感じはずっと変わらない。
だけど、きっとあの言葉は自分自身に向けての言葉でもあるのかもしれない。
「さて、その言葉を踏まえてゲームを続けるかどうかは好きに決めとぉくれやす。
別にこれで止めるなら次の余興に移るだけどすさかい」
その言葉に女子陣が次々と動いていく。
ははっ、これこそ本当の肉食女子の絵面なのかもしれない。
だけど、これ以上はきっと俺の理想とするラブコメ像とは異なってくる。
俺のラブコメはパンチラしないタイプだからな。
「花市、楽しいゲームを続けるのもほどほどにな。
全員が泊まるわけでもないのにあまり遅くなるのも可哀そうだろ?
それにクリスマスらしい余興もまだ残ってるらしいのに」
そう言いながら背後の時計に親指を向けた。
時刻はパーティ開始の時刻から早くも21時。
食事とこのゲームを合わせてとっくに4時間が消し飛んだ。
つまりはそれだけ時間を忘れて楽しんだというわけだ。
なら、この王様ゲームも十分に余興の域を超えている。
「そうどすなぁ。プレゼント交換もあるちゅうのにこれ以上時間を押したら親御はんに迷惑かけてまいますさかいね。
花市家の者としてそないな迷惑はかけれしまへんさかい」
どうやら花市も納得してくれたようだ。
女子陣からしたら不完全燃焼であるだろうが許してくれ。
あのまま行けば最悪間接的なキャットファイト状態になっていたかもしれんし。
それは避けたかった。
そこからはハロウィンパーティーでもやった花市主催のビンゴ大会に、音楽が流れている間全員のプレゼントを回し止まったものを受け取るという形式でプレゼント交換を果たした。
俺のプレゼントの中身は猫のぬいぐるみ。
開けた瞬間の反応的に生野のものを引いたのだろう。
「生野にしては可愛らしいな」
「あたしは普段可愛くないってこと? 失礼ね」
「別にそうは言ってないだろ。
ただ、女子の人数がこれだけだとなって思っただけだ。
さすがに女子寄りの品になっても仕方ない。
それに俺も普通に良かったと思ってるしな」
「......はぁ、相変わらずあんたは素直じゃないわね。普通に『嬉しい』って言えないの?」
「それは......そのだなぁ......察しろ。お前ならわかるだろ」
「ふふっ、なになに~? 顔赤らめちゃって~? 全然わかんないから教えて頂戴~♪」
「くっ、前のツンデレムーブしていた時の方がよっぽど可愛いかったわ!」
「残念ながらもうあの時の私とは違うのよ!
割り切らせたのはまごうことなきあんた。
しっかりと責任持ちなさいよ」
「......それは一体どこまで?」
「察しなさい!」
「なんていい笑顔......恥ずかしがってくれたらもう少し気が楽だったのになぁ」
そして、ふとカーテンの隙間から外を見ると雪が降っていた。ホワイトクリスマスか。
もうそんなに純白でいられねぇよ。
俺には決める責任があるからな。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')