第145話 王様ゲームの試練#1
予測不可能な花市によるクリスマスパーティー。
序盤こそ何もなく、廊下で姫島と雪とでゴタゴタがあったがその程度であった。
あいつらは結局のところあいつらで、まぁ一番付き合いが長いってのもあるせいか踏み出されたおふざけ雰囲気(二人はガチなのだが)に助けられ、俺の精神は一応砕けることはなかった。
しかし、部屋に戻ってみれれば想像以上に乗り気の女子達による王様ゲームが始まってしまったじゃねぇか。
いや、そこって普通男居る状態でそこまで盛り上がる?
せめても女子のお泊り会ぐらいだろ。
光輝も盛大に戸惑ってるぞ。
まぁ、ラブコメのチョイスとしては悪くないが。
チラッと花市を見る。すると、俺の動きを読んでいたように目を合わせてニヤリと笑った。
あいつ......ようやく本性表しやがったな。
ここで俺が必死に作って来たポーカーフェイスを引っぺがそうって魂胆だな?
花市は人数分の割りばしが入った筒を手に持つと簡単に説明し始めた。
「これからやるレクリエーションは皆ご存じ思うけど、『王様ゲーム』をやりたい思う。
やり方は簡単で皆にそれぞれ好きな割りばしを手にしてもらう。
ほんで、その割りばしの先端赤かったら晴れて王様。
ただし、王様命令できる人物は王様以外の割りばしに書かれた数字を持つ人のみ。
ま、全員なら全員で構しまへんけど」
そう言いながら筒をカラカラと回し割りばしを混ぜるとテーブルの中央に置いた。
そして、皆にそれぞれ割りばしを引かせていく。
ここでの俺の目標は出来る限り誰かの命令に当たらないこと。
そのためには出来る限り王様を引いてしまえばクリアできる。
加えて、光輝のラブコメシチュエーションを作ることにもなるしな。
となると、出来ればこの一手目で引いて目印をつけたい―――
「と、こないに王様を引いたら王様は好きな番号を好きな人数だけ選び、命令していく。
さすがにあんまし過激なことはあきまへんよ」
こ、コイツ......説明のデモンストレーションで平然と引きやがった。
まさかもう既に小細工がしてあるのか?
「ほんで、ここでこのルールにおいて最も重要なことは初手はたまたまうちどしたけど、たとえ誰になろうとも『王様の命令は絶対』どすさかい、何来たとしてもその時は諦めとぉくれやす。
ま、最初は全員で適当に割り振った数字に席替えとしまひょか」
すると、花市は本当に適当に番号を振り始めた。
しかし、こんなもんかと思うなかれ。これはこれで結構酷なのだ。
というのも、男女比2:9という完全アウェーの状況で俺と光輝は心の安定を図るように隣同士に座っているのだ。
それが席替えとなるとほぼの確率で隣に女子が来る。うん、キャバクラかな?
「どうもどうも、学兄さん。今宵の沙由良んは絶好調のようですね」
「ハハッ、なんかこんな格好で横に座るのは恥ずかしいかな......」
よりによって来たメンツがなんでこの二人なんだああああああ!
せめて光輝ハーレムズであれば余計な思考を割く必要も無かったというのに!
チラッと花市を見る。ニヤリと笑った。
あ、あいつ、まさかこの状況を意図的に作り出したとでもいうつもりか!?
さすがのアイツといえど、混ぜた割りばしから王様を狙い撃ちできたとしても、その他の番号がどこにありさらには誰の手に渡ったなんかわかるはずもない。
いや、今後のためのブラフかもしれない。
例えば、俺が花市に警戒心を向けている最中で裏で手を組んでいた生野が何かを仕掛けるとか。
「学兄さん、沙由良んは実はちゃん沙夜のお誘い断ってここまで来ているんです」
となると、生野も警戒していた方がいいか。
ん? なんだアイツ、めっちゃムスッとした顔でこっち見てんじゃん。
あ、プイッとそっぽ向かれた。まさか......嫉妬してんのか。
「ということはですよ? 何も戦果上げられずに帰ってくることは断ったちゃん沙夜に申し開きがたたないわけです」
まぁ、あいつからしたらこの状況は面白くないはずだよな。
それにあの反応が演技とは思えない。
ということは、このレクリエーションには生野は関与していない?
つーか、さっきから沙由良がなんか言ってる。
「ムッ、聞いてますか? 可愛い可愛い未来の新妻沙由良んの言葉ですよ」
「聞いてる聞いてる、新妻のこと......新妻!?」
「はい。どうやらとある高貴なお方からそうなる可能性は十分にあり得ると。
ま、本人の努力次第とも言っていましたが」
高貴なお方だぁ? そんなの一人しか......って待て!? まさか花市の協力者は沙由良か!?
いや、だとしても俺がランダムで引く割りばしから確定の今の状況を作り出すには無理がある......んだけど、どうにも俺にはわからない方法でやりそうなのが怖い。
「というわけなので、今宵は未来の新妻沙由良んと素敵な性夜にしましょう」
「......なんか微妙にニュアンスが違うように聞こえるんだが?」
「おっと、これはいけない。
沙由良んのおちゃめ誤変換機能が発動してしまったようです」
いや、どう考えてもわざとだろ。
というか、今宵でそんな爛れた夜を送れるか。
にしても、協力者が隣にいる以上、沙由良には絶対に番号をバレないようにしないと。
「なんかごめん、お嬢様が楽しそうで」
「そんな言葉の謝罪文は初めて聞いたが別に気にしてない。
むしろ、こうなることはどこか予想出来ていた。
それよりも、昴は花市の協力者か?」
「え?」
あえての直球の質問。これで昴に揺さぶりをかける。
執事モードの昴ならそういう質問も華麗にスルーされるだろうが、ミニスカサンタという格好に加え、ミニスカートという履き慣れないもの履いた状態で座ることで露わになる絶対領域の露出。
今の昴はその露出に羞恥心を覚えているのか必死にスカートを手で押さえている。
顔は得意のポーカーフェイスで取り繕っているが、それにかける労力は半端ないものだ。
なんせ俺がそうだから。
故に、この揺さぶりで顔に何らかの変化が出れば花市関与の疑いは白。
逆に張り付いた笑顔を向けるなら黒だ。さて、どっちだ!
「......違うよ?」
「......」
張り付けたような笑顔なのだが顔は羞恥心で真っ赤になってる。
え、どっち? その顔は羞恥心に堪えるための顔なの?
それとも俺の質問に対する答え? なら、その顔の赤みは何?
答えを探っていると二回目が始まった。
全員が手にしていく。
特に花市と沙由良の行動を警戒しながら俺も続いた。
「あ、私じゃん!」
そう言ったのは光輝ハーレムズの乾さんであった。
ふぅ、良かった。乾さんならさほど無茶苦茶な命令はしないだろう。
その判断は正しく、王様は呼んだ番号であった結弦に膝枕を命令した。
そして、膝枕で寝転がる乾さんは「実はしてもらいたかったんだー」と結弦に言って、結弦は恥ずかしそうにしながらも微笑むという実に素晴らしい微百合展開。
まぁ、最初にしては割に踏み込んだ方だと思うが、俺じゃなきゃ問題ない。
さて、次の王様は―――雪か。
雪はこのメンツに対しては人馴れしたとはいえ、さすがに乾さんを超えるような命令は出来ない―――
「では、1番と7番がポ〇キーゲームで!」
ゆ、雪さん!? それはまだ早い、というか雪がそれを命令すんの!?
しかもよりによって、俺の番号は1番だし。いや、肝心なのは相手だ。相手が光輝なら―――
「あ、うちどす」
花市かよおおおおおおおおお!
読んでくださりありがとうございます(*'▽')