第144話 結局コイツらはコイツらだった
前回のあらすじ、姫島が限界ヲタクのような状態になった。以上!
「はあはあはあ......」
「......」
現在、俺の目の前には手をつないだまま床に膝をつけて息を切らせている姫島の姿がある。
手をつないでいるのは握手した結果からなのだが......この状態ってやっぱ前の接触が原因だよな?
「な、なあ、ひめじ―――」
「ダメ! 名前言っちゃ! トキメキで死んじゃう!」
そんな迫真な表情で言われても......どないせいっちゅうねん。
というか、あなただいぶキャラがブレているような気がするんだけど。
いつもの下ネタはどうした?
「と、というか、なんぜあなたは平然としてるのよ」
「なんというか......アレだ、ホラーが苦手だったけど、友人がそれ以上にホラーが苦手で一周回って冷静になる感じ」
「私のドキドキをそんな表現されたの初めてだわ」
俺だってこんな表現初めてだよ。
まぁ、俺が表情を作っているのもあるけど。
「あのー、そろそろ手を放しません?」
「ごめんなさい、今放すわ......ってあれ? 私の意思に反して手が全然離れないんだけど!?」
「んなバカな!?」
いやいや、そんなことねぇって!
お前は手にボンドでも塗ってたんか!?
って手を振り回しても本当に全然離れねぇ!
「きゃっ!」
「あぶなっ!」
姫島が踏み外した。ヒールだったから不安定な体勢に耐えれなかったんだろう。
俺は咄嗟に握っている手を引き、腰にもう片方の手を回して姫島を支えた。
すると、必然的に顔の距離が近くなってしまうわけで、まずい心音が急速に早まっていく。
なんとかしなければ!
「ね、ねぇ、もしこのまま倒れたら事故になるのかしら?」
「......一体何をやらかす気?」
「ナニをやらかすなんてそんな! 急な下ネタは止めて!
今はそんなおちゃらけた場面じゃない、ムーディな場面よ!」
勝手に言ってんのそっちなんだけどなぁ!
なんで俺が言ったみたいになってんの!?
というか、今って別にムーディじゃなくねぇ?
というか、早く起き上がる意思を見せてくれ! 片腕じゃさすがに辛い!
―――ガチャリ
するとその時、ドアが開く音がした。
まずいこの体勢を見られたら何言われるかわからない!
今は光輝ハーレムズ知られても、花市に知られても、残りの4人に知られても面倒にしかならない。
やめて来ないで―――
「影山さんに縁ちゃん......何をしてるんですか?」
ゆ、雪か! 俺達の構図に驚いている様子だが、今のメンツの中だったら一番話わかる奴だ。
もう高まる心音は姫島に対するドキドキか、雪に対するヒヤヒヤか分かったもんじゃないな。
「雪、これは―――」
「大丈夫です。わかってます」
そう言うと雪は俺の背後に回って腰を掴み、引っ張ろうと体重を傾けてくれた。
よしよし、本当に分かっててくれた。
その流れで姫島からはゆっくり手を放して......あれ?
姫島が床にお尻をつけた時点まで確認するとそのまま体重が後ろ方向へ。
このままじゃ俺の背中で雪をプレスしちまう。
素早く腰を捻って腕を立てろ!
「雪、大丈夫......か」
なんか俺が雪を勢い余って押し倒したみたいになっちゃった。
いやまぁ、間違ってはないんだけど、雪の頬の染め方が尋常じゃなく乙女なのものでこっちまでドキドキしてくる。
すると、雪は小さな手を左胸に押し当ててくる。
まるで心音を感じるように。
待て、今の心音を聞かれるのは―――
「わかってます。ついに内なる獣が暴れ出しちゃったんですね」
「待って、何をわかってるって?」
むしろ、何もわかってないんですが。
ま、全く否定するわけではないが、俺も男だし?
でも、その言い方はちょっとやめてくれる?
あれ? さっきの姫島とのわかってるも俺がついに肉体的に手を出したと思ってる?
「そ、その......できれば私にも事故ください」
「事故くださいってなに?」
そんなパワーワード初めて聞いたよ。
「キスしてください」みたいに言わないで。
すると、聞き捨てならないとばかりに立ち上がった姫島が勢いよく告げた。
「待ちなさい、雪ちゃん。私はまだ事故をもらってないわよ!」
「ま、まさか、あの状況で事故を貰えなかったんですか!?」
俺が体をどけると雪はそこから這い出て立ち上がる。
「痛いところを突くわね。でも、時間の問題よ」
「仮に時間の問題だとしても順番まではないはず!
私が先に事故を貰っても問題ないと思います!」
「言うようになったわね。でも、そうね、最初から私達はそういう運命のもとに逢ったんだわ」
あのー、俺を挟んで言い合うのやめてもらえます?
それに「事故」ってワード繰り返されるとなんか内容わかってるのにいじめられてるみたいで複雑な気分になってくるんだけど。
「だけど、今のあなたにそういう資格があるのかしら?」
「ど、どういう意味ですか?」
「影山君の手を握ってみなさい」
姫島は雪に向かってビシッと人差し指を向ける。
さながらカードバトルアニメのプレイヤーように。
いやいや、何言ってんだこいつは?
雪はさっき俺の腰を掴んだんだぞ?
手を握るよりはるかにハードルの高いことをしてるんだ。
今更そんなこと......ってなんで震えてるんだ?
「どうした?」
「い、いえ、なんでも......(ゴクリ)」
今つば飲み込みませんでした?
待て待て、俺の手を握るんだぞ?
姫島じゃあるまいし。
「ほら、影山君。手を出してあげて」
「はいはい」
なんか二人のやり取り聞いてたら呼吸が落ち着いてきた。
なんかこいつらが二人揃うと妙に落ち着くな、最近。
だいぶこいつらの空気に飲まれたんだな。
半分めんどくさそうに手を差し出すと雪は震えた手をゆっくり近づけていく。
まるで中身のわからない箱の中にあるもの触れるように。
「はうううううぅぅぅぅ!」
手を握った瞬間、妙な声を上げて床にペタンと座る雪。
うーん、これさっき見ましたねぇ。
そして、姫島はなんで勝ち誇ったような顔をしてるのか。
「そう、そうなるのよ! 故に、これからは軽々しいタッチは避けるようにすることね!
特に影山君から撫でられること多いんだから!」
多分に私怨が混じってますねぇ。
雪は小動物感があって撫でてるとアニマルセラピー効果があるからついやっちゃうだけなんだけど。
まぁ、本人からしたら関係ないだろうな。
それに時折視線が来るんだが、遠回しに「私も撫でろ」と言ってるな、ありゃ。
「ゆ、指が......」
ん?
「指がゴツゴツして大きいです。
でも、ほどよく柔らかくて、あったかくて、ずっと触りたくなっちゃいます」
雪さん、触り方が大変いいやらしいものですが、落ち着いてください?
「はうぅ、私が獣になっちゃいますぅ」
それ安易に「発情してます」って好きな人の目の前で言ってるようなものだからね?
「はい、終わり! これ以上はマジで収集つかなくなりそうだから!」
「あ......」
切なそうな顔で見るんじゃない。
顔を赤らめた女子ってそれだけで可愛く見えるフィルターが男の目にはかかるもんなんだから!
特に今の俺だとなおさら危ない!
「さて、あんまり廊下でうるさく出来ないからな。さっさと部屋に戻るぞ」
「わかりました。さすがに人気の感じる所じゃ嫌ですしね」
なんか曲解してません? 雪さん?
「そうね。これ以上は私も看過できないわ。
不覚にもドキドキしてしまったこのプライドはゲームで解消することにしましょう」
そう言って、姫島は俺の裾を掴んで部屋に連れて行くとすぐさまゲームが始まった。
「ゲームと言ったらやっぱりー、王様ゲーム~~~!」
「「「「「いえええええい!」」」」」
聞こえてくるは元気に叫ぶ女子達の声。
え、なんで君らそんな乗り気なの?
読んでくださりありがとうございます(*'▽')