第143話 花市の策謀渦巻くクリスマスパーティー
来た。来てしまった。
俺にとっては地獄でしかないクリスマスパーティーが。
場所は花市の家で、今はその門の前にいるのだが本当に乗り気がしない。
出来れば行きたくない。ここまで来たけど、帰ろっかな。
「お待ちしておりました。影山様」
「『どうせ門の前で立ち止まって呆けているから回収してこい』との命令なので、失礼ながら運ばせてもらいます」
「ま、ですよね」
俺の背後からサッと現れたメイド二人が俺の体を軽々持ち上げてワッショイして連れて行く。
ちなみに、どうしてメイド二人なのかと聞いたなら「お嬢様からのサービスです」と返って来た。
いらんわ、そんなサービス。
そして、玄関に立たされると「そこからは自力で行け」と背後から圧がかけられる。
無言の圧だったが、それ故に怖いものもあるのだ。
俺は一回深呼吸してドアを開けた。
すると、そこにはすでに来ていた光輝&ハーレムズと姫島達の姿があった。
光輝ハーレムズの中には流川霧江ちゃんの姿もある。
一体どうやって知り合ったのか。
「どうやら呼んだ皆はんが全員集まったようどすなぁ」
相変わらず京都弁が強めに出ている口調の花市は正面の横幅の広い階段から降りてくる。
その横には執事服でなく、ミニスカサンタに扮して恥ずかしそうにしている昴の姿もあった。
そして、相変わらずの薄ら笑いで軽く手を叩くとそのまま言葉を続けていく。
「今宵は私主催のクリスマスパーティーに参加してくれておおきに。
今回お呼びしたのは普段仲良うさせてもろうてはる方々に感謝として、せっかくの聖夜を楽しんでもらおか思たさかいどす。
ほんで、せっかくどすさかいみんなでおめかしでもいかがどすか?
隣の昴のように羽目を外しまひょ」
昴はこのためだけに先に着替えさせられたのか。
ほんと苦労しているなアイツも。
ともあれ、控えめに言って最高だが。
しかし、ここで俺は警戒を怠るわけにはいかない。
花市が主催者である以上、このクリスマスパーティーには必ず何かあるはず。
むしろ、何もない方がおかしいとも言える。
ともかく、ここで俺のミッションは何か企てているであろう花市の攻撃を全て躱しきること。
そして、無事にこの時間を乗り切ることだ。
正直、これ以上心惑わされちゃ本格的に決められなさそうで困る。
ここに来るまでに平常心でいるためのイメトレはしてきた。
今の俺は以前の俺のメンタルクオリティーだ。
さっき早速昴の衣装の感想が漏れてしまったが、アレはノーカンとしようじゃないか。
そして、俺達は男女分かれて、俺達は執事に案内されていく。
その際、ふと姫島と目が合った気がしたが、ものすごい勢いで逸らされた。
あれは......もうすでに花市に仕込まれているのか?
案内されてる部屋に入るとそこには本格的なサンタのコスプレ衣装と着ぐるみのようなトナカイの衣装があった。
他にも警察、ナース、教師、保険医、団地妻......団地妻のコスプレってなんだ?
というか、明らかに俺達が着るような衣装じゃねぇ。
専ら選択しがサンタかトナカイの二択しかないのだが。
いや、待てよ? これは花市が与えたヒント的なやつか?
女子人の何名かはクリスマス要素関係なくこのどれかで来るというのか?
クソ、めっちゃ見たい......じゃない、そうじゃない! 俺は平常心で乗り切らなければ。
それに仮にそのコスプレ出来たとしても場違い感が凄いからきっと浮いてしまうはず。
そうなれば、俺の心がかき乱されることはない。
とりあえず、光輝を立てるためにサンタを着てもらい、俺はトナカイの衣装。
もはやこれは安定だな。サンタがもう一着あったが、男子で同じというのもどうかと思うし。
着替えが終わると今度はリビングへと案内される。
どうやらそこが今宵のパーティー会場となるみたいだ。
そして、執事に開けられたドアを通っていくとそこにはいろんなサンタやらトナカイやらがいた。
光輝ハーレムズは色違いのサンタの衣装。どれも狙ったようにミニスカだ。
姫島はへそ出しミニスカサンタ、雪は雪だるまの着ぐるみみたいなの、生野はへそ出しトナカイで、沙由良はクリスマスツリーのようなドレスであった。
......妙に光輝ハーレムズよりも映えてしまっているのは気のせいだろうか。
妙に露出度高いのが若干2名いるし。
女子達が俺達の登場に気付く。
すると、姫島と雪は露骨に視線に合わせないように目を逸らしていく。
あれ? なんかアイツら.......前の俺に似てね?
ひとまず、俺はモブキャラムーブをすることにした。
こいつの演技に徹してれば案外花市が企てたフラグが折れるかもしれない。
「いや~素晴らしい眺めですなぁ~、サンタさんよ?」
「え、あ、うん、そうだね......」
露骨に見惚れちゃってんまぁいやらしい子。
とはいえ、確かに今の眺めがクラスの男子が嫉妬で血涙したまま出血多量で死んでしまってもおかしくないレベルの光景ではある。
ここに男子二人。ん、バレたら私刑ものだなこりゃ。
「まぁ、皆はん大変お似合いどすえ。
皆はんに着せるために選んだ甲斐があったちゅうもんどす」
最後に花市が現れる。
コイツはここでも和服かよ......と思いきや、サンタやらトナカイやらの絵が入った特別な和服だった。
そこにクリスマス要素を持ってくるんだね。
そして、花市は俺達をソファへと座らせていくと手を二回叩き、執事とメイドに料理を運ばせてきた。
「改めて、うちの呼びかけに応じてくれておおきに。
こないに仲睦まじい皆はんと一緒にクリスマスパーティー出来るちゅうことに嬉しさがいっぱいどす。
うちのシェフ腕によりをかけた料理を是非ご堪能ください。
楽しい催しもあるんやさかい、無礼講で楽しんでいっとぉくれやす」
楽しい催しね一体何を考えて......っ!? 今、一瞬目が合わなかったか?
気のせいと考えるのは早計だ。
何か良からぬことを考えてるに違いない。
「では、乾杯」
花市がグラスを持つとそれに合わせて全員がグラスを持つ。
そして、花市の音頭に合わせて同じように「乾杯」と言い合った。
花市に対する警戒を行いつつも、食事に手を伸ばしていく。
ほっ、うっま。七面鳥の肉とか初めて食った。
というか、七面鳥の丸焼きが丸々一個出てきたこと自体驚きだわ。
俺は警戒しつつも、食事を堪能していった。
その間、特に変わった様子はなくつい最近にあった月末試験の話が専らだった。
しかし、その間も目を配ってみた姫島と雪はまるであっちむいてほいやってるみたいに顔を逸らされたが。
うん、完全に俺症状だが......なぜ今更?
それからしばらく、お手洗いに行った帰り、壁に寄りかかりながら右手で左胸を抑える姫島の姿があった。
「左胸抑えてるけど、大丈夫か?」
「ひゃあっ!?」
姫島から聞いたことのないような声を聞いた。
こいつ、こんな驚き方する奴だっけ?
「だ、大丈夫か?」
「だ、だだだ、大丈夫よ。何の問題しかないわ」
「問題しかないのか。そりゃ重傷だな」
「ちがっ、ただの言い間違いよ!」
すごい剣幕で言ってきた。
しかし、すぐに目が合ってしまったことを気にして逸らしていく。
うむ、このいたたまれない空気を俺は良く知っている。
だからこそ、そっと手を出した。
「確認だ。一回握手しよう」
「ど、どうして?」
「出来ないのか?」
「出来るわよ! 握手ぐらい!」
そして、姫島はわなわなと震わせた手を近づけ、俺の手を握った。
「はわああああああ、はわ、はわああああああ~~~~~~!」
突然弱弱しくも興奮した声を上げるとそのまま腰砕けになっていく。
うん、これ限界ヲタク症状だ。
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