表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/237

第142話 確かなうねり

 クリスマスパーティーという名の地獄の宴まで残り僅かという所で、俺はまたもや窮地に立たされていた。

 それは休日に舞い込んできた一通のレイソである。


『12時に雪ちゃんの家に集合ね』


「......は?」


 思わず声が漏れてしまうのも仕方ない。

 なぜなら、なぜこうも姫島は決定事項のような口調なのか。

 加えて、自分の家ではなく、雪の家という時点でもはや雪も加わるということがあからさまである。


 だが、こういう唐突なメールは前にもあった。

 前はヤンデレムーブされて割にゾッとした記憶もある......行ってみればただのメイド喫茶だったけど。


 しかし、そのメールには続きの文章がある。それがこうであった。


『ちなみに、白黒のボーダーがあればそれを着てきてね。無ければ、それに近しいもので』


 これが一番よくわからない。

 何故、俺は姫島から服の指定を受けているのだろうか。

 この服の指定が何か関係してくるのだろうか。


 その意味不明な文章に頭を悩ませていると「来なさい」という謎の熊のマスコットキャラでスタ爆された。わかった、わーかった、行くって!


 そして、腑に落ちないまま中学の時に買ってあったらしき白黒のボーダーの服を着ていくと雪の家に向かった。


 辿り着いてもすぐにはインターホンが押せなかった。

 それはこの二人なら妙なトリッキーな行動もとりかねないし、加えて今の俺のメンタル的に程よく距離を置いておきたいから。


 そのくせ催促されれば来てしまっているこの始末。

 俺があいつらに甘いのか、もしくはどちらかというと俺が浮足立ってしまっていたのか。


 さりとて、ここまで来てしまったものは仕方ない。

 なぜなら、俺が玄関に向かう途中に僅かにカーテンが揺れ動いたからだ。

 もしたまたまじゃなければ、ずっと来てくれるのを待っていたということになる。


 それに対しての負い目も感じると同時に犬のような行動に可愛らしさも感じてしまう。

 あぁ、やっぱ割に重症だなこれ。


 俺はゆっくり深呼吸すると心拍数を整えた。

 ま、どうせすぐに激増してしまうだろうが、前の雪みたいな反応されたら困るからな。


 俺は覚悟を決めてインターホンを鳴らした。

 その瞬間、玄関が開かれ――――


「影山さん、逮捕しちゃうぞ☆」「影山君、逮捕しちゃうわよ☆」


 婦人警官のコスプレをした二人の姿がそこにあった。

 うん、正直、似合ってるし可愛いと思う。

 ただ突然のインパクトに脳処理が追い付かない。


 姫島は相変わらず堂々とした様子だが、雪なんかは今にも顔から火が出そうなほど真っ赤だ。

 それでも頑張って合わせのポージングしてるけど。

 はぁ、なんというか......うん、そうだな!


「おじゃましました」


「容疑者確保ー!」


「は、はいですー!」


 俺が元気よくそう言った途端、姫島は俺に指を向けて雪を動かした。

 そして、雪は示し合わせたように俺に手錠をつけていく。

 しかも、その手錠は縄と繋がっていた......え?


「ちょ、何事!?」


「さ、取り調べの時間よ」


「お、大人しくしてください!」


 雪が縄を引っ張り、姫島が俺を背中から押して歩かせる。

 そのまま中に入れられるとすぐさま背後から玄関がロックされた音が聞こえた。

 あ、逃げ道閉じられた。


 連れて行かれるままにリビングへ。

 そこにはカーペットの上にソファしかなく、他に置いてあっただろうものは隅に移動している。

 一体、何を始める気だ? この二人は。


 そして、なぜか上着を脱がされカーペットの中心で正座させられると二人は目の前のソファにドカッと座る。


 婦人警官のコスプレはスカートが短いのか黒タイツと相まって深淵に目が吸い込まれそうになった。

 すると、姫島が胸を主張するような腕の組み方をして強めの口調で聞いてきた。


「さて、どうしてこんな目に遭うかわかってる?」


「正直、毛ほども」


「はい、マイナス1」


 なんか低評価受けたんだけど?

 待って、それは一体なんのマイナス?

 姫島が目の前で足を組み変えた。

 その動きに目が追ってしまいそうになるのを必死に堪える。


「マイナス5ね」


 何が!? 姫島!? お前は何を評価してるの?


「影山さん、こっちを向いてください」


「どうしたゆ......!」


 思わず返事が詰まってしまった。

 なぜなら、あの小動物で普通にしていれば純情華憐な子がまるで生野のように大胆に胸元を開けて、その状態で見せつけるように前かがみになってるからだ。


 そのいつもの雪の言動と乖離したような今の状況に脳処理が追い付かず、ただただ顔に熱が伝わっていくのだけを感じる。


「ま、マイナス20です......」


「な、なんですって!?」


 すると、雪が深刻そうに驚いていた。また、それは姫島も同じように。

 俺はおおよそ隠しきれていない顔のまま、二人に怪訝な視線を向けるほかなかった。

 だから、一体なんの評価なんだそれは。


「おい、お前らは一体何をしてるんだ?」


 そう聞くと二人は同時に告げた。


「影山さんの好感度調査です!」「影山君の好感度調査よ!」


 ......は? 俺の好感度調査?

 その突然の言葉に思わず開いた口が塞がらなかった。

 そんな俺に対し、二人は続けて話した。


「最近、影山君の不審な行動が目立っていたから何か原因があるんじゃないかって。

 ほら、前の雪ちゃん事件もあったし」


「それで私達なりにこれまでの影山さんがしそうな言動をまとめて、私達指標に近しい言動なら『プラス』、そうじゃなければ『マイナス』としたんです」


「影山君はむっつりスケベだから私達にバレてないだろう範囲の時には何も言わないけど、バレてるときには開き直って堂々と言うじゃない?

 例えば、私が足を組み変えた時に『エロい』とか」


「お前らの俺への評価どうなってんだよ」


 とはいえ、姫島の言っていることはだいたい合ってる。

 俺とて男だし目で追ってしまうものはある。


 とはいえ、あからさまにバレてるのは正直に言った方がダメージ少ないかな? とかも思ってる。


「それで調査してみれば、結果はマイナス。

 最初に声をかけた時、明らかにスカートの奥へと視線が動いていたのに視線に敏感なあなたがそれに気づかないでマイナス。

 さらに私の足の組み換えであからさまに視線を追っている。

 前のあなたなら気にしなかっただろうに。そこでマイナス」


「決定打は私の行動です。

 私らしくない行動に驚いてしまうことは考慮に入れておきましたのでそこは評価に入っていません。

 ですが、問題は私のちんちくりんな体にも顔を赤らめるほどの反応があったということです。

 これは異常事態としか言えません」


 なんとなくこれは俺が原因なんだろうなとしか思わなかった。


 こいつらにとって、前の俺の行動が基準になっていて、生野と花市の悪魔二人に気付かないフリをしていた気持ちを暴かれて全く変わっちまった俺の反応に戸惑っているのだ。

 それこそ沙由良のように。


 ここはもう白状した方がいいのだろうか。

 少なからず、この二人には多大なる苦労や苦難を与えてきた身としてはこれぐらいは誠意として見せなければならないのかもしれない。


 なるほど、この格好の意味がわかったわ。

 正しく、真実を知りたい警察(ふたり)と出来れば黙っておきたかった囚人(おれ)ということが。


 二人の格好はともかく、変わった俺の戸惑いを落ち着かせるためにもせめて理由が聞きたいだけなのだ。


 だとすれば、やはり俺も俺なりの誠意を見せるだけ......とはいえ、もはや死ぬんじゃねぇかという勢いで心臓がうるさく、込み上げる羞恥はその比じゃない。


 だから、今俺が言えるのはこれが精一杯だ。


「ま、まだハッキリとしてないが......もう前とは違うから......」


「「.....っ!」」


 濁したような言い方も無駄だったみたいに二人は正確に意味を捉えたような顔をしていた。


 すると、二人は静かに俺の手錠を外すと上着を持たせ、俺を玄関の外に追い出した。

 そして、ドアの隙間から僅かに雪が僅かに顔を覗かせて告げた。


「今日は帰ってください。正直、これ以上はもちそうにありませんので」


「あ、あぁ......」


 言われるがままに雪の家を歩いていく。

 すると、背後から二人の大絶叫が聞こえてきた。

 先ほどのこれ以上ない赤らめた顔の二人がどんな気持ちで叫んだか、今なら当然のようにわかる。


 滞在時間おおよそ10分。しかし、その短さで確かに俺達三人の関係性は大きく変わった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ