表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/237

第139話 熱いまま

 悩ましい日々が続く。意味のなく心の中をかき回されてるみたいにざわつきが収まらない。


「......君」


 それもこれも生野のせいであり、ひいては黒幕である花市のせいである。

 俺にとってこの感情がどれだけ選択肢を悩ましくしていると思っているのか。


「影山君!」


「うぉ!?......姫島か、何の用だ?」


「別に大した用じゃないけど、なんだかぼーっとしてるみたいで大丈夫かしらと」


「はい。再三呼び掛けても反応がなかったので心配になりました」


「それは申し訳ない」


「まぁ、あなたに問題ないならそれでいいけど――――異様な距離の取り方してない?」


 そう指摘されて姫島、雪との距離を見てみれば確かにわざわざ席を離れて1メートル離れた窓側に寄りかかっていたことに気が付く。


 俺自身もいつの間に動いたのかさっぱり意識がない。

 ということは、無意識にこういう行動したのか......バリバリ意識してるってことじゃねぇか!


「ねぇ、影山君」


「ストップ。ドントウォーク」


「え、なんで急に英語?」


「本当に影山さん大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ、ゆ......()()


「......っ!?」


 その瞬間、雪は激震が走ったような顔になった。

 そして、静かに崩れ落ちると涙声でうつむきながら呟いた。


「私......影山さんに何かやってしまったのでしょうか......」


「......っ!?」


「か、影山君!? 何、雪ちゃんを泣かしてるのよ!」


「いや、別に泣かすつもりは.......あ、いやでも、俺の言葉で泣いたならそうなのか......あークソ!」


 頭をガシガシとかいていく。まるで中学生が初めて性を意識したみたいな感じじゃねぇか!

 俺はここまでの純ボーイじゃねぇぞ!


 っていうか、早くこの状況を処理しなければ!

 もう周りや光輝達の視線が痛い!

 特に雪の親友の乾さんからの視線は想像を絶するほどに冷たい。


 あぁ、クソッたれ。単に今までの名前呼びが急に気恥ずかしく感じたってだけで、別に距離を置いたわけじゃねぇのに。


 ......いや、そう捉えられてもおかしくない行動はしていたけども!

 心の中じゃスッと言えるのになー!


 俺は一回深呼吸すると雪に目線を合わせるようにしゃがみこんだ。

 そして、雪の肩に恐る恐る触れると伝える。


「ごめん、別に雪が何をしたわけでも、距離を取りたかったわけでもない。

 ただ俺の問題のせいなんだ。それで傷つけてしまったなら謝る」


「ほ、本当ですか? 私は何もしてないんですか?」


「あぁ、それはしてないと断言できる。少し色々あって......この詫びは必ずする」


「なら、今度買い物(デート)に付き合ってください!」


「......わかった」


 そういうと雪は一気に晴れやかな顔になり、すくっと立ち上がった。

 現金な奴め。しかし、やはり元気な方がいいよな。


 俺も続いて立ち上がると「人騒がせしました」と頭を下げた。

 すると、ゆっくりだがクラスの温度と声のボリュームは元に戻っていく。

 相変わらず乾さんの視線は辛いが。


 疲れたようなため息を吐きながら俺は席に座る。

 すると、姫島達との距離も近くなって、俺の心労が甚だ増えていくが、同じようなことを繰り返すにいくまい。


「影山君、熱でもある?」


「え?」


「だって、さっきから妙に顔紅いし......それにさっきから目線が合わないんだけど」


「それは元からじゃないか?」


「そうね。確かに10秒に1回は私の胸を見るわね」


「見てねぇよ!」


 焦り気味に振り返って告げたその時、不意に姫島と目が合った。

 その瞬間、俺の心臓と顔はどんどんと熱を上げていく。


「......お」


「お? ねぇ、本当に大じょ――――」


「俺はどこの中学生(ガキ)だってんだああああああ!」


「「.......!?」」


 俺はガバッと立ち上がるとそのまま教室の外に走り出した。

 絶対奇行種と思われただろうが、もうそれを心配するほどの余裕は今の俺にはない。


 そして、火照った体を覚ますように校舎と体育館をつなぐ廊下にやって来た。

 そこは外廊下なので冬の寒さが丁度俺の熱を気持ちいいほどに冷ましてくれる。

 逆を言えば、そこまで熱くなってるってことだが。


「寒いわね~ここ」


 すると、俺の心情を見計らったかのように手を擦りながら生野が歩いてくる。

 その瞬間、俺の冷めた体再び熱を上げ始める。


 しかし、同時にこの苦しみに対する苛立ちもあったのか、生野に少し当たるような口調で聞いた。


「なんでここにいる?」


「ここの近くの自販機って食堂近くの自販機じゃない商品があるのよね。

 で、あたしの求めるものはここにあるから......ってわけ」


「たまたまのエンカウントにしては運が悪すぎる......」


「あら、残念ね。あたしは寧ろラッキーすら思ってるけど」


 生野は自然と俺の横に並ぶ。なので、俺は自然と距離を取る。

 その反応を面白がるように生野はさらに距離を詰めてきて、逃げようとすれば袖を掴まれ阻止される。


「厄介でしょ? その感情」


「......」


「ま、あんたが好き勝手にバラまいた結果だから大人しく受け止めなさい。

 言っておくけど、その気持ちを抱えながらそばにやってくるひめっちとゆきっちは百戦錬磨の兵よ?

 もっとわかりやすく言えば、レベル90台の二人に対して、あんたは未だ一桁台のレベル」


「お前もこんな感じだったのか?」


「そうよー。そして、その気持ちの折りのつけ方は二通りある。

 一つはその熱量のままに突撃するか、感情を押し殺すように背を向けるか。

 その後楽な方は圧倒的に前者でしょうね。

 好きで好きで頑張ってそれでもダメだった。

 後悔ないほどに手を尽くしたけどダメだった。

 そこまでくれば清々しい気持ちにもなれるでしょうね」


「お前はどっちだったんだ?」


「あんた、嫌らしい性格はその感情持っても変わらないのね。あたしの場合は後者よ。

 だけど、ゆきっちによって前者に路線変更されて、あんたによって勝手に線路を切り離されたところを魔女がやって来た」


「花市か......」


「そ。そして、魔女は言ったの『あなたの線路は本当に切り離されたの?』って。

 『そんな一方的な振られ(こたえ)、ムカつかない?』って。

 で、確かにムカついてたからその口車に乗ったの。

 それは正しく理不尽王子行きの直行便かぼちゃの馬車だったわ」


「かぼちゃの馬車、か。確かに昴を除いてお前たちは姫って言われてるしな。言いえて妙だな」


「でしょー」


 吹く風の冷たさがギリギリ俺の感情の暴走を防いでくれているので、生野とすんなり会話できる。

 それが今の唯一の救いだった。


「ともかく、今のあんたには五人のシンデレラがいる。

 性格も違ければ、当然趣味嗜好も違う魅力的な女の子達が」


「自分で言うか? それ」


「そんぐらい自信もってアピってかなきゃダメなの!

 どの子も本当に可愛くて、自分に持ってないものを持ってると思うから。

 でも、それは他のみんなも思ってることで、だったらあたしはあたしの武器で王子にハートの矢をぶっ刺しに行くの」


「お前は王子の性格が最悪だってのを知ってんだよな?」


「相変わらず自己評価が妙に低いわね。そんなことぐらい知ってるわよ。

 でも、この気持ちは止まらない。ってことはそうってことよね?」


「俺に同意を求めるな」


「そうね。今更ね、その顔を見れば」


 「王子」と再三発言されればさすがに来るものがある。

 もはや俺の得意だったポーカーフェイスなど意味もない。


 生野はふいに自販機に近づいていくと小銭を入れて何かを買った。

 音からして2つも買ったのか?


「はいよ」


「おっと」


 投げ渡されたのは暖かいミルクココア。


「これでも一応人の心を勝手に暴いた詫びの気持ちってのがあるのよ。

 でも、それはあんたも同じだから、これはあたしが悪いと思った分の詫び。じゃあね」


 言いたいことを告げると生野はこの場を去った。

 その姿をぼんやり見つめながらそのままどこか遠くを見つめた。


「これ以上体を熱くさせてどうする気だよ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ