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第138話 心の変容

 悲惨な勉強会から早くも期末テストが終わった。

 結果から言えばものすごく手ごたえがあった。

 というのも、あの一件以来俺の頭はどうにも悩ましい考えが巡ってしまっていたのだ。


 それに割く時間(簡単に言って逃避だが)を勉強に当てていたのだ。

 大好きなギャルゲーはもはや地雷と化してしまったので、それ以外のゲームにも手をつけつつであるが。


 とにかくまぁ、無心になれる時間を必要とした結果勉強をしていてそれによってテスト終わりの今はもはや手ごたえしか感じない。

 

 そしてまた、逆を言えばテストが終わってしまった今はそれらに対する悩みに割く時間が非常に増えてしまったというところだが――――


「げっ」


 冬の風の冷たさに自転車移動も辛さが増していく中、遠くで信号待ちする生野の姿を捉えた。

 寒そうに手に息をかけながら擦っている。なぜ手袋せんのだ?


 ......はぁ、非常に気が重い。あの一件以来アイツと関わると心労が耐えんのだ。特に左胸辺りが。

 加えて、俺の頭の中にあるのはアイツの影ばかりではないのがひたすらに今の俺を辛くしている。


「くっ......仕方ねぇな」


 途端に重たくなったペダルを踏みしめていくと生野へと近づいていく。

 そして、信号を渡り終わったあたりで合流すると声をかけた。


「おい、生野」


「......」


 生野は俺に気付いたようにビクッと反応するがまるで知らない人に声かけられたかのように無視して歩く。


 まぁ、コイツの場合反応しなかったのはわざとで、俺に問題があるんだが......本当に気が進まねぇ。


「生野、聞こえてるだろ」


「......」


「......()()


「学じゃん、どったの~♪」


 そうコイツは俺が名前で呼ばないと頑なに反応しないのだ。

 めんどくさい彼女みたいになっているのがちょっと癪。


「寒いんなら使え。つーか、持ってこい。もう雪がぱらついてるだろうが」


「今日、たまたま忘れただけだし! でも、ありがと」


「それじゃ」


「待ちなさいよ」


 そう言ってコートの裾を掴んでくる。思わず踏み出そうとしたペダルを止めた。


「危ないんだが」


「だったら、降りればいいでしょ?」


「いや、放してくれない?」


「嫌よ。話し合ってくれなきゃ」


「お前、だいぶめんどくさくなってることに気付いてる?」


「遠慮をしなくなったってことね」


 俺はため息を吐きながら諦めたように自転車を降りた。

 すると、生野も裾から手を離す。


 あの一件以来、生野は相変わらず話しかけにくるものの、前回みたいなあからさまなボディータッチは全くと言っていいほど消えた。


 しかし、本人も言ったように「遠慮」という大切な二文字が消えてしまったためか、本来のギャルらしいわがままさをここぞとばかりに発揮している。


「そういえば、あの後もあたしに勉強教えてくれてありがとね。おかげで結構いい感じだったわ。

 にしても、あれだけのことがあってあんたもよく堂々と顔が出せたわね」


「公私混同はしないようにしてるからな。

 お前が純粋に助け求めてるのわかっててこっちの都合で助けないってのはおかし話だろ」


「いいわね、そういうの。仕事できる人間て感じで」


「それに堂々と顔出せてたわけじゃない。

 今日だってお前の姿見つけて声かけるのスゲー嫌だった。

 だったら、その時の俺はなおさら嫌だったはずだし」


「なんかその言い方傷つくんですけど。

 でも、そうね、私が寒がってて助けに来てくれるあたりほんとカッコいいと思うわ。

 だから、いくらポーカーフェイスしてももう意味ないわよ。耳が赤くなって丸分かりだから」


「ほんと誰のせいだか!」


「そりゃもうあたしのせいでしょうね。

 ってことは、あたしによって心が変わってしまったってのはあたし色に染められたって意味なのかしら」


「絶対に違う!」


「否定するほどこっちの確信が高まってしまうわよ~♪」


 ダメだ、もうこいつに何を言った所で通用する気がしない。

 というか、むしろ俺がコイツのいい様に振り回されてるのが腹立つ。


 しかし、ここで俺が意地を張って対抗した所で、それは生野にとっては好都合な展開となる可能性もある。

 それに俺の心はまだ一つに統一されてないしな。


「ねぇ、今日お昼一緒に食べようよ」


「悪い。俺には話さなきゃいけない相手がいる」


「......それは例の4人の誰か?」


 生野が少しだけムスッとした顔をした。もはや隠す気もないジェラシー。

 なまじ美少女ギャルのあざと可愛い反応なだけに狂ってしまった俺の心は躊躇いもなくドキッという感覚にさせられる。


 しかし、それに対して露骨な反応をすると生野が付け上がりそうなので、すぐさま顔を逸らしていくと目的を答えた。


「お前をけしかけさせた黒幕の所にだよ」


*****


 昼休み、俺は屋上近くの階段にやって来ていた。

 この時期になると屋上はもういけないので完全に一目を消すことはできないが、ここも十分に人気のない場所ではある。


 そして、そこに辿り着いた俺は先に待っていた黒幕へと視線を向ける。


「下から覗こうやなんてあかんえ?」


 カラスの濡れ場色のような黒髪、見透かしたようなハイライトの薄い瞳、薄ら笑いを浮かべるような口元、そして極め付きの京都弁――――「花市 杜代」である。


「覗こうだなんて人聞きの悪い。俺は単にお前の姿を確認しただけだ。

 仮に見ようと思っても黒タイツがしっかりとプライバシーを守ってるじゃねぇか。

 お前の単なる自意識過剰なんじゃないか?」


「ふふっ、前のあんたならめんどうさそうにため息をえずくだけやったろうに、いつのあいさにやらそないに饒舌になってもうて。

 うちのことも女子として認識してくれるのかしら?」


 コイツ、もはや俺に対して隠す気ねぇな?


「なんで生野をけしかけるような――――」


「昼休みは有限どす。一緒にお弁当を食べしまへんか? レイソにもそう連絡したったやろう?」


 相変わらずのゆったりとした口調でこちらのペースを掴ませようともさせない。苦手な奴だ。

 とはいえ、確かにお腹もすいてるのでその言葉に甘えさせてもらおう。


 そして、階段に座ると俺は弁当を広げた。

 すると、花市は俺と自分の位置に関して言及してくる。


「下に座らへんでも隣に座ったらええのに。

 そこまで自分(わし)の身分を卑下しいひんでもええんどすえ?」


 花市は屋上側に近い位置で、俺は階段の中腹ぐらいで座っての言葉みたいだ。

 いや、別にお前がいくら本物のお嬢様だからってそこに身分差を感じて卑屈になってるわけじゃねぇし。


「どこに座ろうと俺の勝手だろうが。

 それよりも本題はどうして生野をけしかけさせたかってんだ?」


「本人がそう言うとったんどすか?」


「そうだな。それにそうじゃなくても生野の行動の変化的にお前が関わってると考えるのが一番妥当だ。で、いつからだ?」


「そないな決めつけで断定されるのも困るんどすけど。

 とはい、確かにそそのかしたのは自分どすし、タイミング的には丁度誰かさんに傷心させられた時どしたなぁ」


 コイツ、わざと俺にダメージ与える言い回ししやがったな。


「うちとしても恋する女の子振られて傷つく姿は見たないんどす。

 それも一方的な判断で拒絶やなんて。

 そんなん正直に告白して振られるよりもよっぽど可哀そうどす。

 そやさかい、手ぇ差し伸べたまでどすえ」


「......」


「あんた、自分(わし)がモテてるさかいってちょいいちびり過ぎじゃあらしまへんか?

 女の子を舐めて(ねぶって)るならその考え改めさせなあかんね」


「......俺がそんな器用な人間だと思うか?」


「ふふっ、思わしまへんよ。ただの冗談どす。

 それがほんまならとっくの昔に断罪してますし、幼馴染の付き合いなんかしてまへん。

 うちは単にあんたにもあんたの幸せを見つけてもらいたかっただけどす」


「俺の幸せ......?」


「はい。気づかしまへんか? 今の自分(わし)の立ち位置」


「......?」


「気付いてへんならほんでも構しまへん。

 にしても、策士策に溺れるとはほんまこのこっとすなぁ」


「おい、どういう意味――――」


「ごちそうさま。ほな、お先に失礼する」


「食うの早っ」


 花市は颯爽と通り過ぎるとそのまま消えてしまった。

 結局、聞きたかったことが聞けたのかわからないが、少なからず俺の問題を解決する糸口は見つからなかった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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