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第132話 翻った反旗#1

 おかしい。この言葉が現状況の俺に対して全てを物語っている。

 日に日に増していく寒さよりも、加速度的に俺の心は周囲からの目で冷え込んでいき、代わりに片腕からは柔らかな感触とともに温もりが伝わってくる。


 どうしてこうなったかはわからない。というか、そんなこと俺が一番知りたい。

 俺は確かに最悪な選択をしたはずだ。にもかかわらずどうして――――


「どうしてお前が俺の腕に絡みついている......生野?」


「べっつに~。普段と変わんないじゃん」


「普段からこんなことしたことないだろ。周囲の視線が明らかに物語ってんじゃねぇか」


 そう、なぜか今俺は()()()()()()()()()()()()()()()()

 廊下での周囲の視線はどこまでも訝し気だ。


 どうしてかは先ほども言ったがわからない。しかし、少なからず俺と生野の関係はどこまでも最悪と言っても過言じゃない。


 にもかかわず、状況としてはその最悪なはずの関係値とは全く逆のことが起きている。

 そして、俺とのやりとりからもわかる通り、生野はまるで恥じらっている様子がない。


「......何を考えてる?」


「何よ、そんなに怪しんだ目をして。そうね、強いて言えば放課後にどこへデートしに行くかとか?」


「もう今更だから言うが、俺とお前がそんな関係でないはずなのは明白だと思うが?」


「別に付き合ってなくても男女でどこか遊びに行くことぐらいあるでしょ?

 それこそあんたが大好きなラブコメの主人公ならなおさら」


 ぐっ......妙に痛い所を突いてくるな。


「......それに勝手に自己完結させてたまるか」


 そのボソッと言った言葉は難聴系主人公ではない俺にはもちろん聞こえてしまった。

 そして、その言葉が、今の行動が俺にはどこまでも深く突き刺さる。


「俺のクラスだ。さっさと離れろ」


「いつもよりツンケンしすぎじゃない? ほら、もっとあたしをイジって来なさいよ。いつもみたいに」


「自ら求めるタイプには応じないことにしてる。つーか、そんな簡単に関係性を修復出来るような話だったのか、アレは?」


 正直言って、俺の身勝手の都合で生野との関係性を全てを完結させた。

 それは理由も告げない別れ話のようなもので、もっと言えば罵倒交じりの。


 ともなれば、普通はそんな相手には関わらないはずだ。

 どんなに理由を求めたってその関係性を修復させる気が一方にでもなければ、当然復活する見込みはない。


 そして、俺は残りの4人の告白に答えるために、俺の心の整理がつきやすい人――――すなわち、俺的に好意的な評価が最も薄い人物からルートを切っていくことに決めた。


 その最初の人物が生野であった。理由を言えば、生野は光輝のラブコメの一人として君臨するはずの人物で、俺は生野に対して関心は向けても好意は抱かないようにした。


 言わば、アイドルとマネージャーの関係とでも言うべきだろうか。

 そんな感じでどこまでも俺は生野との関係には何枚か隔てた壁を作っていたのだ。


 この時点で協力者としての姫島達と立場が違う。

 故に、俺は光輝に幸せになる選択肢を与えた結果に生じるルート選択というのを前もってしたのだ。


 一部では学園ハーレムを過ごしている光輝に対して女ったらしのクズ的な発言があるがそれは違う。

 全ては俺が強要したことで、クズなのは俺自身だ。


 だけど、改めて言うが光輝にそういうことをしたのはあくまで光輝自身の幸せを願っての行動で、それ以上でも以下でもない。


 つまり、俺自身は光輝のラブコメ計画自体は全く後悔しておらず......と、話が逸れたな。

 ともかく、俺によって作り出された環境とは違い、自然と作ってしまった俺こそが本当の女ったらしのクズというわけだ。光輝は悪くない。


 で、前から姫島と雪から提示されていた告白ならびに他の二人に対する答えを探し続け、ついに本腰を入れて生野のルートを切るという結果に生じて出来たのが今だ。


 だからこそ、腑に落ちない。委員会(あの時)もそうだったが、なぜ俺は未だに生野から拒絶されていないのだろうか。


 もっと言えば、前よりも俺との距離感を縮めようとさえしてくる。

 だが、どう考えても俺にそれ以上を求めたって仕方ないことはわかってるはずだ。


「何よ?」


「......前々からお前の行動はわからないと思ったことが多かったけど、今回は全くもって理解できん」


「それは理解しようとしてないじゃなくて? 逆にあたしはあんたのことはよくわかるわよ。“自己犠牲偽悪野郎”ってね」


「大層な言われようだな。それにお前にしちゃ随分直球的な言い方だ」


「私は前から直球勝負よ。というか、それしかできないし」


「何を企んでるかは知らんけど、猪突猛進は大概にしとけよ? それとこれ以上は俺の存在が浮くから止めろ」


「......」


――――昼休み


「お弁当作って来たわよ。ほら、あ~ん」


「こ、こいつ......」


 馬耳東風という言葉は今の生野にピッタリだ。

 コイツ、昼休みに突然現れたかと思うと突然隣を陣取って俺の席で弁当を広げやがった。

 加えて、俺の分まで作ってある始末。前に言った言葉を本当に実行してくるとは。


 この時点で俺の浮き具合はうなぎ上り。

 クラス中から唖然としたような目線を向けられ、姫島と雪と昂はさることながら、挙句の光輝達まで目が点になっている。


 これは本格的な宣戦布告だ。俺のラブコメ計画にとんでもない嵐が起きている。

 どういうことだよ、一つのラブコメ漫画に親友もラブコメしてましたってさ!?


 いや、それよりも今一番重要なのは光輝に好意があった生野が親友である俺に尻尾振ってるみたいな光景だ。

 こんなのどう考えたって男を誑かそうとした生野が白い目で見られるじゃねぇか!?


 さすがのお前でもこんな状況になるってことぐらい想定してるはずだったと思うが......さすがにこれ以上生野が本格的なビッチ扱いはこちらとしても心苦しいものがある。


「お、生野さん~? きゅ、急に何を......? あ、そう言えば前にゲームで勝ったから俺が『生野さんの手料理であ~んしてもらいたい』って言ったんだった~! ホントにしてくれるとは思わなかったよ~」


 外面(えんぎ)モードでどうにかこの場を収められないだろうか。

 生野もこれ以上はやめろ。高まっていたはずのお前への周りの心象が一気に底辺に落ちるぞ!


 俺の咄嗟の行動の甲斐もあってか、クラスに落ち着きの様子が広がっていく。

 姫島達もホッとした様子であった。その一方で、花市が妙に笑ってるのが気になったが。

 しかし、俺の行動によって作り出した状況を生野はぶち壊していく。


「は? 別にそんな勝負したことないし。っていうか、あたしが勝手に作りたくて作ってあんたにこうしたかっただけだし」


 恥じらう様子もなく、淀みない口調であっさりと言いやがった。その瞬間、再びクラスは僅かに凍る。

 廊下からの声がやたら鮮明に聞こえるほどには、このクラスが異常に静かであった。


「え、えーっと......そうだったっけ? 単に生野さんが忘れてるだけじゃない?」


 やめろ。もうやめるんだ。どうして自ら窮地に追い込まれようとするんだ!? どうかんがえたってメリットないだろ!?


 これまでの約半年間、お前は光輝との恋愛を成就させようとする一人の乙女だったはずだ。

 それが意味するのはそれだけ一人の男に一途だったはずだ(どこまで期間だったかは知らないが)。


 そして、それをお前は堂々と周囲にアピールしてたはず!

 にもかかわらず、まるで飽きたゲームのように光輝をほったらかして、俺にこのような態度はどう考えても誤解しか生まない!

 コイツ、マジで何を考えてんだ!?


「いや、それはないわ。ま、別にいいでしょ。早くしないと時間なくなるわよ――――“学”」


 しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったと知るはめになる。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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