表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/237

第131話 切っても切らせてくれない縁

 最悪な気分......きっとこの言葉にすら出せないひたすらに感じる罪悪感に対して言う言葉だろう。

 そして、その気分に陥らせたのは他でもない俺自身。はぁ、覚悟を決めたはずなのにな。


 思った以上にダメージがデカい。いろんな言い訳を並び立てても結局は俺の都合でしかない。

 こんな気持ちを光輝にさせてたのか俺は? あくまで光輝のためとか言いつつ。


 ......いや、あれはあれで間違ってないはず。少なからず光輝に好意を向けている連中の後押しをしてるだけに過ぎない。


 まぁ、多少のイベントは作り出したものの、基本的には光輝が過ごすままに、だ。

 それで今も関係性が続いているんだから、俺が知らないところで上手くやってるんだろうけど。


 とはいえ、控えめに言ってもやっぱ俺ってばクズだな......考えてみれば、姫島達の関係をそういう風に考える機会はいくらでもあった。


 なんなら、昂の時からずっとその議題は頭の中に入ってたはず。

 だったら、昂がこうして本気になる前に釘を刺すことはできた。

 できたが......その時はきっと昂は今よりも楽しんで笑うことはなかっただろうな。


 どうして生野かはわからない。もしかしたら生野からは“告白”されていないというもう引き下がれないラインを越えてなかったからかもしれない。


 全ては後付けの考察。結果は俺と生野の関係性の破綻。

 どうやらこの身に感じる寒さは体だけじゃないようだ。


 こんなラブコメ漫画があったなら今にも読者から総バッシング受けて打ち切りにでもなるな。

 さて、あいつらにはどう話したものか――――と考えたのも束の間、俺が思っていたより神は残酷であった。


「――――では、マラソン大会の実行委員代表は影山さんと生野さんに決定しました」


 俺の通う高校――――楤場(たられば)高校は毎年年末前にマラソン大会が行われる。

 理由としては年明けは地面に霜が降りて危ないやら、道路が凍って危ないだかと様々な保護者の理由があったらしいが、それを説明する必要はないだろう。


 ともかく、1年と2年に開催されるマラソン大会に俺は光輝のラブコメで何か噛めないかと考えて立候補したところ、なぜか生野もいて周りも「生野さんと影山さんは仲いいから」みたいな小学生の学級委員を決めるような理由であれよあれよと気が付けば決定した。


 いつもの俺なら容易く躱すことも出来ただろうが、生野とのいざこざを引きずっていたせいか気づいた時にはすでに後の祭り。

 ただ、そこでなぜ生野までもが距離を置かなかったのか謎だが。


 第1回目の委員会会議は俺が司会、生野が板書という形で例年のマラソン大会の内容を振り返りながら、各クラスでのランキング設定による報酬という案も出しながら話し合った。


 そして、会議は終わり、()()()()()()誰もいなくなった部屋で俺はホワイトボードに書かれた内容を自分のノートに記録しながら、チラッと視線を動かしていく。


 そこには生野の姿があり、生野もまた同じようにノートに案を移していた。その姿はまるでギャルとは思えない真面目さだ。


 その一方で、生野の姿がやたら小さく見えるのは俺の視界がおかしいのか、心の距離を示すように大きく離れた位置で座っているせいか。


 なんとも息苦しい。その原因も俺なのだが。何も言葉は思いつかないままにおもむろに話しかける。


「前は......悪かった。言い過ぎたと思う」


 突然の謝罪に生野は僅かにピクッと反応を示した。そして、返答する。


「悪かったって何が? 別にあんたは何も間違ったこといってないでしょ?

 それにあんたの状況を考えればある意味打倒な判断だと思うわよ」


 思ってもいなかったような反応に俺の心中は言い得ぬ気持ちが渦巻く。どうしてこいつは......。


「なぁ、お前はどう思ってたんだ? 今の俺の状態を。そして、俺がああいったことに対して」


 その質問に対して、生野は「そうね......」と少し間を置いて答えた。


「控えめに言って四股してるクズね」


「......まぁ、そうだろうな――――」


「でも、別にいいと思う」


「は?」


 その言葉に思わず生野を見る。しかし、視界に移るのは横顔ばかりで、生野は決して目線を合わせようとしない。


「あんたは女ったらしってことはよーく理解したけど、別にあんたが自分に惚れさせようと何かしたわけじゃないことは知ってるし。

 姫島(ひめっち)沙由良(さゆっち)はもとから好意を持ってたみたいだし、雪っちはあんたに助けられた結果で惚れた。(すばっち)だってあんたが悩みの種を解決させた結果。

 全て結果的に起きてしまって、あんたはそれに対して真摯に向き合おうとしてる」


「随分な高評価を受けたが、俺が真摯に向き合ってるだったら現時点では俺の周りにその女子達はいなくなってるはずだと思うが」


「それは何よりも彼女達の気持ちに寄り添って、彼女達の意向に出来るだけそって考えようとしている結果でしょ」


 だから、なんでコイツは......。


「違うな。俺は俺自身の都合のためにその考えから逃避してただけだ。出来るだけ目を背けていただけだ。

 あわよくば勝手にその俺に対する気持ちが消えることを。

 あいつらに俺という存在で今しかないこの高校生活を過ごすのはもったいなさすぎるだろ」


「......なら、私との関係性を切った張本人は私に対してどう思っているのよ」


 生野の顔がこちらに向いた。その眼差しは鋭く、今度は俺が逸らしてしまう。

 俺は書き終わったノートを閉じると席を立ち、使ってたペンを筆箱にしまっていく。


「そうだな......随分身勝手に振り回して悪かったと思う。

 俺はどこまでも俺の都合でいい様にお前を操っていた。

 きっととても息苦しかっただろうな。

 俺に言われても嬉しくないだろうが、お前がしっかりと前を向ける恋を見つけたならそれが上手くいくことを願う。

 そして、もし手伝えることがあれば罪滅ぼしに全面協力してやるさ」


「......ほんとに言った通りね」


「え?」


 生野が何かを呟いた気がした。しかし、それを聞き取ることは出来なかった。

 生野も書き終わったのか席を立つと荷物整理を始めた。だが、途中で動きを止めると告げる。


「あんたさ......本当に鈍いわよね」


「鈍い? 俺がか? もしそれが恋愛面に関して言っているなら、俺は気づきは早い方だぞ。まぁ、そう考えないようにはしてるが」


「そういうことを言ってるんじゃないわよ。いや、全く否定も出来ないけど......とにかく、あんたはあんた自身を蔑ろにし過ぎなのよ」


 言っている意味がわからなかった。しかし、その言葉が前に花市から言われた言葉と妙にリンクした。


「どうにかしようと思うならもっと早くからどうにかすることなんてあんたならいくらでも出来たはずなのに、あんたは()()()()()という嘘をついて、自分以外の周りのことしか考えていない。自分に目を向けようとしない」


「......」


「そのくせあんたは根本的に相手の気持ちを正確に理解してないのよ」


「......どういう意味だ?」


「私がいつ息苦しいなんて言ったのよ。いつ辛いって、苦しいって、楽しくないって、嬉しくないって、態度で示したのよ。

 私にとってあんたと過ごした日々はとても新鮮で、酷く記憶に鮮明でうざったいと思うほどに楽しかったし、嬉しかったわよ」


「......っ!」


「あんたの立場は理解してるつもり。だからこそ、残りの彼女達のことを考えて私を切ることでその示しを作ろうとしたのでしょ? 私が選ばれたのは一番関係性が薄いから」


「そ、それは――――」


「だったら、謝るなんてしないはずよ!」


 気迫が突き抜けた。ぶわっと空気の壁を感じるように。

 そして、急に生野は乾いた笑いをすると告げる。


「ハハッ、今ならわかるわ」


「え?」


「実はずっと前にひめっちからひめっちの告白に対するあんたの回答を聞いたことがあるのよ」


「......!?」


「あの時は気が動転したから気が付かなかったけど、言ってることがほぼひめっちの告白に対していったことと同じ」


 生野は何か決意したように顔つきを変え、スクールバッグを肩にかけるとドアへと歩いていく。


「決めたわ。あたしはかつて一人の男を遊び半分で篭絡しようとした女。

 だけど、今度は最初っから本気で行く。あんたの心、さらにメチャクチャにしてやるわ」


 そう言って部屋を出ていった。たまらなく嫌な予感がしたが、きっと間違いじゃないはず。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ