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第130話 クズとしての答え

 花市の言葉が頭から離れない。そのせいか話をした後の時間は比較的にボケーっとした時間を過ごしていた。


 雪から話を聞いた限りじゃ雪と生野の問題にやはり第三者が介入するのはどうかと思ってしまっている。


 しかし、それに対して心配する周りの方が多いし、加えて雪本人からも生野を気にしてやれ的な言葉を送られているのもまた事実。


 それにあのハロウィンパーティーの時の()()......俺とてもうこれ以上は先延ばしに出来ないということなのだろう。


 とはいえ、俺の現状としては()()()()が俺の身勝手な勘違いであることを切に願うだけだ。


 そして、時間は昼休み。

 俺は近寄って来た姫島に「悪い」とだけ告げると教室を後にした。それだけで姫島は何も言わずに見送るのみ。

 しかし、その顔はどこか安堵した表情に見えた。俺の顔つきが関係するのだろうか。


 廊下に出ると最近避難するようにこっちの教室に来ている雪とふいに目が合った。

 すると、雪はニコッと笑みを浮かべ、そのまま通り過ぎていく。その足取りは軽やかであった。


 俺は生野のいる教室に訪れるとそこに目立つように今から昼食を取ろうとしていた生野グループに近づき、「仕事」とだけ告げる。


 その言葉に生野は困惑気味であったが、樫木と阿木が理解したように目を光らせると「後は若いお二人で」とでも言いたげな表情で生野を差し出していく。


 こうして生野を連れ出すことに成功。

 大して騒ぎにならなかったのはもう俺の裏の顔がだいぶ周囲に定着してきたからだと思う。これは実に好都合。


 そして、生野を屋上に連れ出すと俺は口火を切った。


「まずは突然連れ出して悪いな」


「ホントよ。こんな時期に」


「まぁ、今日は比較的に風もなく、天気も良好で日差しが良いってことで許してくれ。それよりも、俺も腹減ったから昼食にしよう」


 俺はフェンスを背もたれにするように座ると生野は几帳面にハンカチを敷いてその上に座った。ただ、なぜか俺の隣だが。


「普通は正面じゃないのか?」


「あたしも背もたれが欲しかったのよ。何か文句ある?」


「いつになくケンカ腰だな」


 普通の会話のようでどこかぎこちなさを感じる。

 それは俺が生野に探りを入れようとしているせいなのか、はたまた生野が俺を警戒しているのか。


 そんなことをぼんやり考えながら菓子パンの袋を開けてパンに齧りつこうとすると生野が話しかけてくる。


「あんた、まだ菓子パン昼食やってるの? ただでさえスイーツ巡りしてる甘党のくせに。病気になるわよ?」


「お気遣い結構。その運命を辿ったならもはや仕方ないとも思ってる。それともお前が俺の健康管理してくれるのか?」


「いいわよ、別に」


「まぁ、そりゃそこまで世話に......え?」


「何よ、その鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」


 いや、驚くだろそりゃ。いつものお前ならテンプレツンデレヒロインのように「なんであんたなんかに!」みたいな反応してたろ?

 少なからず夏休みの時はそうだった。


「お前......なんか変なものでも食ったか?」


「何よ、その言い方」


「いや、お前っていう奴は俺に突っかかってなんぼだろ。

 俺がお前をイジって、それに対してお前が文句を垂れる。定番の流れはどうした!?」


「そんな流れを定番にした覚えはないわよ。ま、強いて言うなら考え方が変わったのかもね」


 生野はそう言いながらお弁当から卵焼きを箸で掴んで口へと運んでいく。

 そして、小さく「美味しい」と呟き、味を楽しんでいた。

 そんな姿を横目に見ながら菓子パンを頬張り、少しだけ探りを入れてみることにした。


「そういえば、風の噂だが......お前モデルやるのか?」


「読モね。夏休みの時にスカウトされたことがあるって言ったでしょ?

 そこに連絡しようかどうか迷ってる。ま、もう補充枠が埋まってる可能性もあるけど」


「どうして急に?」


「ほんとどうしてだろうね。確かにそういう人達ってキレイだなとは思ってたけど、別になろうとは思わなかったのに......もしやってみたら自信がつくかなって」


 俺はパックの牛乳に刺してあるストローに口を刺して飲んでいく。そして、返答した。


「最初のお前は正しく自信の塊みたいなやつだったのにな。

 光輝に牙を叩き折られてからすっかり可愛い猫ちゃんになっちゃって」


「猫ちゃんにしたのは誰よ」


「そりゃ――――()()()()


「......っ!」


 生野は想定外といった反応で俺の顔を見て来た。それに対して、俺は()()薄ら笑いを浮かべてしまった。


「......焦った~。急に変なことを言うんじゃないわよ。

 ほんとあたしをイジって反応を楽しもうとするのは止めなさいよ。はぁ、心臓がうるさい」


「そんなに驚くとは思わなかった。だが、そうだな。ここでハッキリさせておきたいことが出来た」


「何よ?」


「お前はモデルになって()()()()()()()()()?」


「......っ」


 生野と鋭く目が合う。いや、合わせている。

 生野は明らかに動揺しているにも関わらず、俺の真面目な表情から離すに離せないという感じであった。


 さすがにこれ以上は話すに支障をきたすと思い、目を離してやると生野もすぐさま顔を正面に向けた。

 横目で見る生野の顔は明らかに紅い。それこそ耳まで。


 その瞬間、俺は心にロックをかけた。これ以上はダメだ、と。

 たとえ俺がどんなにクズだと罵られようとも、これ以上の関係性を引き延ばしにするのはよくない。


 ギャルゲーには全員攻略ルートという大変おめでたいルートがある。

 しかし、それはフィクションであり、そこが物語の終着点だからだ。

 しかし、それがもしノンフィクションだとすれば?

 全員を攻略した世界で一夫多妻なんて世界は当然なく、必ず誰か一人を選ばなければならない。


 そして、偶然にも今の俺はそういう状況に立たされている。

 なら、俺の気持ちがこれ以上複雑にならないように、生野をこれ以上苦しめないように......いや、これらは体のいい建前だ。


 俺はこれ以上の俺自身に降りかかるハーレム化を防ぐために生野のルートをここで切る。


 そして、残りの四人の中で俺の気持ちが傾くヒロインを見つけ出し、残りのルートを切っていく。

 あぁ、これを自覚して実行するってんだから俺ってやつは本当にクズだ。


 だが、どうせクズなら答えを引き延ばしにいつまでも関係をダラダラ続けるクズよりは、答えをハッキリさせるクズの方が良い。

 早ければ早いほど、ルートを切ったヒロイン達にも新たな出会いがあるかもしれないしな。


 そんな希望的観測のような祈りをしつつ、俺は覚悟を決めた。いい加減なあなあの関係に終止符を打つことを。


 残りのパンを無理矢理押し込み、残りの牛乳パックを握り潰して喉の奥に流し込んでいく。

 そして、立ち上がると生野の前に立ち、彼女を見下ろした。


「――――生野、聞いていいか?」


「何よ? 急に改まって」


「ハロウィンパーティーでの酒入りチョコで酔ったお前らが寝静まった時、お前が言った『好き』と言う言葉は一体誰に向けられたものだ?」


「......っ!」


「それから、お前がモデルをやるキッカケとなった人物はお前を『モデルみたい』って言った俺の影響か?」


「......」


 ごめん、雪。ごめん、姫島。それに乾さん、樫木に阿木も。俺には彼女を救えない。なぜなら、こいつが俺のことを好きだからだ。


「お前......俺のことを好きだろ?」


「.......っ!?」


 まさか俺に乙女ゲーのイケメンが言うようなセリフをいう日が来るとはな。

 しかし、プライドが邪魔する彼女はきっと言い返してくる。故に、その隙を与えない。


「そ、そんなわけ――――」


「違うならそれで結構。俺が単純に痛い奴で終わるからな。

 だが、もしそれが本当だとしたら......俺は光輝に振られたという気持ちに漬け込んだだけだ」


「違―――」


「弱った心に優しい手が、力強い手が差し伸ばされれば自然とその人物を好印象に持ってしまう。

 そういう()()に囚われてしまってるだけだ。

 お前の気持ちは吊り橋効果と同じ――――勘違いだ」


「違う!」


 ビリッと僅かに体が痺れるような強い気迫が空気を包んだ。その声を出した本人は泣きながらなおも叫ぶ。


「違う! 違う! 違う! 全部違う!

 違うってわかってるのに......それでもあたしは弱いから縋っちゃうの。

 もうどれが本物かわからない。ずっとずっと林間学校のあの日からずっと。

 でも、あの日から少しずつ分かってきたそう思ってきたのに......雪っちにも答えを迫られて!

 その上あんたにこの気持ちを勘違いだなんて言われて!

 だったら、あたしの気持ちは何が本物だって言うの!?」


「俺にはわからない」


「.......だよね」


 生野の涙ながらに少し瞳孔の開いた目がゆっくりと下に落ちていく。

 そして、三角座りのまま塞ぎ込むと俺に一言「消えて」と告げた。

 その言葉に従うように俺は屋上を去っていく。

 この日を境に俺と生野の関係は完全に消え失せた――――はずだった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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