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第128話 あの時の会話

「はいよ、肉まん」


「ありがとうございます。奢っていただいて」


「気にするな。俺がしたかったからそうしただけだ」


 現在、俺と雪はコンビニに寄った後、近くにあった公園にやって来ている。

 十分に寒さが増してきた季節なのか、早めに売られていた肉まんは大変ありがたい。


 俺達はベンチに座ると二人して肉まんを頬張った。

 相変わらず静かな時間ではあるが、先程よりは空気は幾分か軽くなった気がする。


 とはいえ、その空気も恐らくすぐにこの季節にあったような温度に変わりそうになるが。


「――――で、お前らの間に何があった」


 本題を切り出すと雪は目線を落とす。そして、ゆっくりと話し出した。

 そう言って雪が話し始めたことをまとめるとこんな感じになった。


 ことの発端はやはりあの文化祭終わりでの後夜祭にあったらしい。

 俺から離れた二人の間で最初に口火を切ったのは雪だった。


『どこまでそのままでいるんですか?』


 脈絡もなくそう告げられた質問に生野はすぐに言葉の意味を理解して目を見開いたらしい。


 そんな様子で雪を見た時は生野は最初は何かの冗談だと思ったらしく軽く笑って「どうしたの?」と返事した。

 とはいえ、その生野の笑みは雪から言わせれば明らかに無理に作った笑みだったらしいが。


 しかしすぐに、生野は雪が混じりっ気のない本気の目をしているとさすがの生野もごまかせる空気ではなくなったらしく、雪に尋ね返した。


『いつから気付いていたの?』


 それに対し、雪は真っ直ぐ答えた。


『莉乃ちゃんが失恋してすぐの頃です』


『そっか......あたしってばそんな時からもうそうなってたんだね。自分でも気づかなかったのに、よくわかったね』


『イジメられてた過去のせいか人の感情の機微には敏感になってしまっただけです。

 ま、今思えばあの経験があったからこうしてたくさんの出会いに囲まれて好きな人も出来たわけですが』


『ゆきっちは変わったね。それもアイツの影響?』


『否定はしません。ですが、私自身もどこか変わりたいと願っていたのかもしれません。

 そのキッカケが瑠璃ちゃんと結弦ちゃんいう大切な友達によるもので、影山さんの出会いはそのキッカケなくしては出会わなかったでしょう』


『......』


 生野は静かに口を閉ざしながらそっと目線を逸らしたそうだ。

 そして、その顔は苦しそうだったと雪は捉えたらしい。


『私は強くはありません。むしろ、弱かった立場の人間です。

 今ではこんなに皆から好かれていると思えるようになったのは、やはり変わりたいという意思と変えるキッカケによるものだと思います。

 そして、今目の前にいる莉乃ちゃんはまるで昔の私を見ているようです』


『昔のゆきっち......』


『変わりたいと思えるかどうかは自分の意志でしかどうにもなりません。

 ただ他人に言われただけでは結局本気にはなりきれませんし、何より他人の言葉だからという逃げ口を作ってしまいます。

 ですから、莉乃ちゃんが変わりたいと本気で思っているのなら自分で逃げられないようにするしかありません。

 しかし、キッカケは私でも作ることができます。

 なにより、私がそうして与えてもらったキッカケを活かしてこう変われたのですから。

 まぁ、今の私がこう言えるのは影山さんの助力が大きくなかったと言えば嘘になりますが』


 少し照れくさそうに雪は笑った。だが、すぐに温和な笑みでありながら真っ直ぐな目を向けると言葉を続けた。


『ですので、私は莉乃ちゃんにキッカケを与えたいと思います。かつて私を救おうとしてくれた二人のように』


 さらに告げる。


『莉乃ちゃん――――あなたが虹を見つけた時最初に教えたい人を思い浮かべてみてください』


 それで後夜祭との話は終わったらしい。

 その後、雪は急かすようなことはせず、莉乃本人が直接答えてくれることを待ったそうだ。


 そして、その結果が訪れたのが――――そう、あのハロウィンパーティー終わりの出来事だったそうだ。


 ハロウィンパーティー終了後、多くの生徒達がその場を去っていく中、生野は真剣な目つきで雪に声をかけた時、雪もまた真剣な表情になったとのこと。


 それから、二人が屋敷の角を曲がったすぐのところで話が始まり、最初に口火を切ったのが生野であった。


『ゆきっち、後夜祭に行った時の質問......覚えてる?』


『覚えてますよ』


『私が虹を見た時......最初に思い浮かべた人物は――――』


 生野は顔を俯かせ、両手に握った拳は小刻みに震えていたそうだ。

 そして、顔を俯かせると精一杯の作り笑顔で僅かに声を震わせながら答えた。


『陽神君......だったよ』


 そして、ここからがたまたま声を聞いてしまった生徒からの証言と一致する場面だ。

 その答えを聞いた雪は拳を握ると鋭く生野を睨んだ。


『ふざけてるんですか?』


 小動物感溢れる雪はこれまで本気で怒った所もとい怒った場面すら俺でも見ていない。

 しかし、その時の雪の睨んだ目は生野を一歩退かせたとのこと(本人談)。


 真っ直ぐとした意思のある目に生野は釘付けになったようにビビりながらも見つめ続け、やがて逃げられないことを悟ると雪に言い返した。


『仕方ないじゃん! 私の! 答えは! そうだったの!』


『だったら、もう少し納得させる笑顔で言って下さいよ。

 今の莉乃ちゃんは全く自分の気持ちに気付いてないヒロインより質が悪いです』


『質が悪いから何!? それのどこがいけないの!?

 それが私の答えだった! ただそれだけじゃん! それに雪っちには関係な――――っ!』


 その瞬間、雪は生野の頬をビンタした。


『それ以上は言わせませんよ。

 確かに気持ちが全く分かるとは言いませんが、わからないとも言う気はありません。

 悩み、苦しむことは結構ですが、()()()()()()()()()自分の幸せのことは向こう見ずの姿勢はやめてください!』


『......っ!』


 雪は泣き始めた。まるでその辛さが、苦しみが、もどかしさが、切なさが理解できているように。

 その様子を見た生野はただ黙って雪を見つめていたそうだ。


『私は根本的な部分では変われてなんていませんよ。

 中学での苦しみがそう簡単に拭えるとは思ってません。

 ですが、こうすることによって恩返しが出来ているのなら......それは私にとっても本望です』


『雪っち......』


『ご、ごめんなさい』


 雪は涙を拭うと生野に言葉を続けた。


『ともあれ、私は変わりたいと思っているのは本当ですし、それで理想の自分に変われるのならこれからもそうしていくつもりです。

 それでいて、同時に私は私のための幸せも掴むつもりです。

 それが最後にどんな結末が待っていようとも、悔いの残らないように』


『まるで、ラブコメのヒロインのようなセリフね......』


『なんせ候補でしたからね。それに現にそうあり続けたいと思っています』


『羨ましい......』


『え?』


『.......もう少し考えてみることにするわ。ううん、考えたくなったの。時間かかるけどごめんね』


『うん、先程よりもいい顔になったと思います。待っていますよ。

 それと先ほどは突然ビンタしてごめんなさい。でも、この行動も後悔してません』


 それがハロウィンパーティー終わりの出来事だったそうだ。


「――――つまりは厳密に言えば雪と生野はケンカはしてないと?」


「そうですね。ただ懐いたように私が莉乃ちゃんに声をかけにいくようなことがなくなり、よく誘ってくれた莉乃ちゃんの声かけがなくなって結果的にそんな感じの空気感になってしまっただけです。

 皆さんには大変ご迷惑かけてると思いますが、それでも私は莉乃ちゃんを信じてますから」


「そっか」


 俺はベンチに立ち上がると大きく伸びをした。

 まぁ、色々と思うことはあったが、聞いてる限りじゃ本当に介入は野暮だと思うわけで。


「とはいえ、一度ぐらいは影山さんも莉乃ちゃんの話を聞いてあげてください」


 雪はそう頼んできた。それに対し、俺は両手を厚手のパーカーのポケットに突っ込むと返答する。


「あいつ次第だな」


*****

――――音無雪 視点――――


 影山さんの好感度調査会議が終わり帰路の途中、ふと後夜祭の時に莉乃ちゃんと話した“影山さんに伝えてない”会話を思い出しました。


 それは生野さんが影山さんの話題に軽く触れるような発言をした時でした。


『......やっぱりアイツはすごいのね』


『そうですね、影山さんの影響力は凄いと思います。

 影山さんは確かに私のトラウマを克服するように色々と工夫してくださいました。

 しかし、その本当の目的は陽神さんへのヒロイン候補としての養成だったらしいですが』


()()()()()()


『......やはり、そうでしたか』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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