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第127話 一応定期開催はしてる

 唐突だが、現在姫島の家に俺はいる。

 そして、いつもなら姫島の暴走という形で比較的明るい空気で送られる状況なのだが、今は絶賛シリアスモードである。


 誰かと誰かがケンカしたわけじゃない。

 加えて、シリアスモードといっても声が出しずらい空気感というわけでもない。


 されどどこか違和感を感じるような、そんな空気感が包まれている中、第3回目の光輝ハーレムズ好感度調査を行っている。


 意外と真面目にこのシリーズ続いてたんだよ。

 第3回目から沙由良と昂が加入して今回の開催でより混沌さが増す――――はずだった。あのことが無ければ。


「雪......雪?」


「あ、はい!」


「次はお前の番だが......大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。では、私からの乾瑠奈ちゃんの総評は――――」


 そして、雪は好感度調査の途中経過を説明し始める。

 その話を俺は頬杖をついて半分聞きながら、半分集めてきた情報を思い出した。


 俺が姫島と樫木、阿木に急かされて情報を集めに行くと大半は当然ながら原因はわからないという理由だった。


 だが、情報を集めていくとその中で一つ大きな想定違いがあった。

 それは後夜祭が原因ではなく、ハロウィンパーティーが原因であるというもの。


 二人を見たという一部の証言からするとハロウィンパーティーが終わって間もなくの頃、なんらかの言い合いらしきものがあったのを聞いたという近くの女子がいた。


 何を話していたかは聞き取れてないらしいが、少なからず互いに意見をぶつかり合って次第に声が大きくなっていくようなケンカでなく、どちらかというと一方的に言われているような感じだったらしい。


 そして、驚きなのが一方的に言っていたのが雪で、言われていたのが生野であるということ。

 二人のタイプで言えば逆と考えるのが普通。


 雪がここまで強く主張できるほどに成長できたとかはこの際置いておくとして、二人の仲がそこを境に拗れたという認識で恐らくいいだろう。


 だが、これでも肝心な拗れた原因はわかっていない。

 名撮や渡良瀬の情報網も駆使してついぞ他にケンカの内容を近くで聞いている人は見つけられなかった。


 加えて、二人での問題はいよいよ二人だけで解決する問題ではなくなった。

 というのも、その影響が僅かながら光輝のラブコメ計画に余波を与え始めたからだ。


 雪にとって今も変わらず一番近くにいる女子といえば、同じ中学出身のヒロイン乾瑠奈である。

 今はまだ雪が介入させてないため深くかかわって来てはないが、今後長引けば強制介入なんてこともありえなくはない。


 乾さんは知っている。

 雪が過去に信頼していた女友達に騙されてイジメに合っていたことを。

 今回のケンカがそうでなくても、“そう思うこと”は十分にある。


 もちろん、それに光輝も介入してラブコメ展開の良いスパイスとなる可能性もあるが......それを判断するにも内容把握しておかなければゴーサインも出せやしない。


 雪と生野の問題は当然二人だけの問題だ。

 だが、生まれてしまったさざ波がやがて大きな津波となって甚大な被害を与えないという保証はない。

 いわゆるバタフライエフェクトって奴だな。


 ここにセーブポイントがあるならば、バッドエンドをあえて見るような選択肢もあるだろう。

 しかし、当然ながらそんな便利な機能もなければ、わざわざ俺の知り合いを不幸にさせるような道を歩かせたくない。


 まぁ、思いっきり俺が言うなって感じだけどな。

 だけど、そこは俺らしく棚に上げて今回のことは今回だけに絞って考えるしかなさそうだな。


「――――私からは以上です」


 雪は少し強張った表情を浮かべながらやや硬い口調でそう告げた。

 恐らく、いや、きっと自分達のケンカの噂を知らないはずがない故に気を遣ったようなこの空気感に堪えかねているのだろう。


 正直、今回に限っては開催すること自体は決定事項だったけれど、雪がここに参加する必要はなかった。


 俺が呼ぶのは発表者に質問してその答えや表情を介して追加評価をするか否かという個人的な問題で、それが俺が管理している好感度グラフにおいての評価配分は極めて小さい。


 だから、ぶっちゃけ評価してまとめた紙を俺にまとめてくれれば後は勝手にこっちで処理するのだ。

 もちろん、面倒事もあるから手伝ってもらう意味合いもあるだろうけど、逆にそれ以上のことはない。


 仮に顔を見てやろうとしても便利な今はリモートワークというものがあるわけで、わざわざ集まらなくても作業は可能なのだ。


 そう言う意味では雪は自宅からでも参加できたし、ボイスオンリーにすれば会話だけでの参加もできる。


 しかし、雪はわざわざ自らここに来ることを選んだ。

 それは俺にとってありがたいことで、雪にとってももう逃げたくないという意味合い......だったのかもしれない。ただの推測だが。


「雪、乾さんとの関係は良好か。というか、バレずにやってるだろうな?」


「それはもちろん。ただ今は......良好かと問われたならそうじゃないと言えると思います」


 その答えに俺は姫島、昂に目を配っていく。

 ただ一人サッパリの沙由良は少し小首を傾げるも、場の空気を読むように静かだった。


「そっか。ま、必ずまた良くなるさ。さて、ちょっと早いけど休憩といこうか。

 俺はコンビニに行くけど、ついでになんか買って来てやるよ」


「そうねぇ、それなら――――」


「あ、あの!」


 姫島の言葉を遮るように雪が声を発した。

 そして、胸に当てた拳をさらに握りしめるようにして告げる。


「私もついていっていいですか?」


――――数分後


 俺と雪は近くのコンビニに向かって歩いていた。しばらくの間は無言の時間が続く。

 居心地は悪かった。それは俺が雪を気にしていることもあり、雪もまた俺を気にしていたからだ。


 しかし、いつまでも沈黙はお互いのためにならない。

 そう思って声をかけようとしたその時、先に雪が言葉を発した。


「私と莉乃ちゃんの問題で迷惑かけてますよね?」


 様子を窺うような、そして自分を責めているような声色での質問に俺は横目で雪を一瞥して答えた。


「あぁ、そうだな。俺の計画にも俺以外にも迷惑かかってるな」


「......影山さんならそう言うと思ってました」


 情け無用の言葉に雪は少しだけ笑った。

 下手に気を遣わず俺が俺でいることがかえって安心感を与えたようだ。

 傍のラブコメからすればとんでもない発言だろうけどな。


「で、今更そう言う話を切り出すのは? まさか察しろとか言わないよな?」


「......」


「俺はお前達の問題に介入するつもりはない。現に当事者にそう言われたからな」


 雪の足が止まる。俺との間に距離を開けていく。まるで......いや、正しく心の距離と言えよう。


「だが――――」


 俺は足を止めた。開いた心が修正できる程度には。


「お前が前言撤回するなら、少なからずお前を解決できるかもしれない糸口を探すことぐらいはできる。

 とはいえ、これはあくまで雪と生野との問題であることには変わりない。

 故に、俺は俺が指し示した方向にお前が信じて歩いてその結果に何が待ち受けていようと一切の責任を負うつもりは無い。それでもよければ――――」


「それでもよければ――――ですか?」


 まるで俺の言葉の先を読んでいたように声が揃った。

 俺の発言は随分身勝手なことを言ってるつもりだ。

 にもかかわらず、雪の表情は安心したような優しい笑みであった。


「影山さんはホントひねくれてますね。

 言葉ではそう言っておきながら必ず最後の結末が良くなる方へと考えを巡らせてくれるんですから」


「そんなことをした覚えはないけどな。まぁ、強いて言えばラブコメのハッピーエンド至上主義者だからか?」


「でも、()()には全員がハッピーエンドになる未来はありませんよ」


「......わかってる」


 どこか寂し気な瞳は俺の想定する未来を彷彿とさせた。


「――――でも、納得できる形に終わらせるなら私達にだって出来るはずです。

 今はそのための下準備をしてるんです。

 だから、一緒に考えてくれませんか? 先に後悔しない諦めが待っているように」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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