第126話 大体出来事は唐突
皆さんは「青天霹靂」という言葉をご存じだろうか。
「青天」は文字通り「晴れた空」という意味で、「霹靂」は「雷鳴」という意味。
つまりは晴天にもかかわらず雷が鳴るようなことから、「突然に生じて周囲を驚嘆させる衝撃的な出来事」という意味合いで使われる言葉だ。
そして、俺にとっての青天霹靂は二通のメールによるものだった。
秋も更け、本格的な冬が始まりを告げるような冷たい風が吹く11月。
ハロウィンも無事に終わり、ソファでゴロゴロしながらいつも通り提供屋としての取引相手とメールでやりとりをしていた時のこと。
姫島から妙なメールが送られてきたのだ。
『雪ちゃんの様子が良くないんだけど、何かしらない?』
これだけのメールの内容だと雪の体調がすぐれないとも捉えられるだろう。
まぁ、仮にそうだとしてもこの文章を送ること自体些かな疑問点があるのだが。
例えば、雪が体調がすぐれないのなら必ず“何か”が原因としてあるわけで、それが健康面に関することならそのまま「風邪でお見舞いしない?」とでも言いそうなものだ。
まるで第三者目線の言い方が妙に引っかかり、少し考えて返信の文章を打とうとしたところで今度は樫木(※生野の友達)からメールが送られてきた。
『りっちゃんの様子がおかしいんだけどなんか知ってる?』
「はぁ?」
奇怪な二つのメールに思わず言葉が漏れた。
だが同時に、まるで示し合わせたような似通った文章に俺は頭を悩ませる。
一応姫島と樫木は生野経由で面識があり、よく話す仲ではないが別に互いとも苦手としてはいない相手だ。
されど、イタズラで一緒にこのような文章を送ってくるような仲じゃない。
となれば、考えられることは一つ。その文章通りに雪と生野の間に何らかの問題が発生し、それに間接的に気づいたそれぞれの近くにいる人物が俺を頼る形で聞いてきた感じであろう。
しかし、姫島も樫木も知らない辺りで二人はそのうちに秘めたる何かを打ち明けてはいないということだ。
となれば、原因を調べる必要があることは明白。
二人が仲が良かったことは知ってる。なんせ文化祭ではもはやこれ以上ないほどの最高のパートナーとして互いに最高の演技を披露したわけだし。
......文化祭。そういえば、後夜祭のあの時俺に話しかけた二人は途中で何かを話すように離れていった時があったな。アレが原因か?
だが、その原因の内容は全く掴めない。ならば、直接確かめるしかあるまい。
俺が原因の発端である可能性も否めないのだ。
ならば、俺が仲介役として二人の仲を取り持つのはもはや責務である。
それに単純に俺は小っちゃくて大人しい女子と陽キャで明るいギャルというカップリングは好きだしな。
周りが心配するぐらいだ。時間経過で解決する問題ではないのだろう。
ならば、時間が溝を深める前に解決するのが吉。善は急げだ。
そう思って雪と生野にそれぞれ様子を窺うメールを送った。すると――――
『これは莉乃ちゃんとの問題です。影山さんが心配してくださるのは嬉しいですが、今回ばかりは遠慮願いたいです』
『これはゆっきーとの問題だから。心配させてるのは悪いと思ってる。だけど、あんたは口を出さないで』
「......」
門前払いを受けた気分だ。ともあれ、確かに二人の言い分はわかる。
二人にしかわからない“何か”でケンカしているのにそこで第三者が介入したら下手に拗れる可能性もあるのだ。
少し二人に対して思慮が浅い判断をしてしまったみたいだ。
考えて動くタイプの俺には珍しいミスを犯したと思う。
ともあれ、ここは様子を見てみるか。
――――数日後
「もう我慢ならないわ。私達で原因を探るべきよ!」
「そうそう、これ以上は見てられないしね」
「というわけで、かーちゃん。出動準備~!」
「......(ズコー)」
昼休みに屋上に呼び出された俺は姫島、樫木、阿木(※生野の友達)の三人の言葉を聞きながらパックの牛乳をストローで飲んでいた。
どうやら俺が言われた通りに介入しなかった問題は思ったより深刻みたいだ。
「何があった? 俺は二人から介入しないように言われてるからな詳しいことは調べてない。
一応未だに仲が直ってないことは気にしてたが」
「なら、教えてあげるわ。ここ最近の雪ちゃんはホントおかしいのよ。
教室でカバーもしないで官能小説を逆さに持ちながら上の空で」
「りっちゃんはお気にのスイーツ店行っても店のスイーツを10品しか頼まないし」
「それに~モデル雑誌を手元に置きながら遠くを見つめて上の空な感じだし~」
「なんかイマイチ深刻感が出ないのはなぜだろう」
だが、二人して共通している部分がある。それは「上の空」ということだ。
ということは、互いにケンカに対しての罪悪感的なものを感じてるが、妙に維持張って仲直り出来てない状態ってことか。
生野なら未だしも雪がそう維持を張ったケンカをするなんてな。
「ともかくなんとかして影山君!」
「うちのクラスも大変なんだよ。特に空気感がさぁ」
「私達のクラスでは~対極的な位置に属するゆーちゃんとりーちゃんが仲良さそうにしてるのは、男女ともに結構な癒しになってるんだよ~。
にもかかわらず、ケンカで空気が悪いから皆のテンションもイマイチ上がって無くて」
「それは知らんけど。まぁ、確かに二人がいつまで経っても仲直りしないというのは二人に関わりがある俺からしても気分が良くない。仕方ない、とりあず二人の原因を探ってみるか」
「「「おぉ!」」」
俺が乗り気になったのがそんなに良かったのか、三人してガッツポーズしてやがる。
なんだ? その俺が関われば万時解決するみたいな反応。
「とにもかくにも、二人のケンカを知るにも情報が足りない。
お前らは一応それぞれの近くにいた者達だ。なんか情報ぐらい持ってんだろ?」
「「「......」」」
「おいおい、三人してねぇのかよ」
そんな俺の言葉に三人は咄嗟に言い返す。
「で、でも、それは仕方ないじゃない? だって、デリケートな問題だしさ? 関係ない人が何言ってんだっって感じで......」
「そうそう、それに部外者の私達が“そろそろ仲直りしたら?”って言うのは簡単だけどさ、実際に言われる立場からしたらわかってるけど出来ないわけで、それで友達からそう言われるとウザいと思うかもしんないし」
「それにそもそもこっちからも切り出しづらいっていうか~。
悩んで苦しんでるわけで、こっちでもケンカの火種になるようなものは作りたくないっていうか~」
「言いたいことはわかるが......」
だが、お前らが心配して解決に乗り込むほどには重たい事情のケンカと言える。
それで本気で解決したいならもはや介入時の摩擦を気にしない精神で踏み込むべきだ。
とはいえ、それをこいつらにやらせるのは酷というものかもしれない。
高校生活で紡がれた縁が一生のうちのかけがえのない縁になるかもしれない。
少なからず、こいつらにとっては両者それぞれの縁はかなり深いものだろう。
たかが高校一年のこの生活の中で出会っただけの存在だけかもしれないが、その繋がりの想いに時間は関係なかろう。
なんかだいぶ痛いこと言ってる気がする。お前はどこの主人公気取りかよってな。
ともあれ、現実的に考えれば介入する誰かとその後の雪と生野の二人のフォローをする人物は必要になる。
ここで消去法で考えれば......まぁ、当然だな。それにそういう地雷原に踏み込むには適役と言えよう。
「わかった。二人の間には俺が割って入る。だから、お前らはともかく二人のフォローに徹してくれ。話題には深く触れず、かつ自然体に」
「わかったわ。で、肝心の影山君はどうするの?」
「言っただろ。情報がない。だから、それを集めに行く」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')