第125話 ハロウィンパーティー#2
ハロウィンパーティーといっても、よく見るようなラブコメで起きるようなハチャメチャなちょっぴりエッチも含めたような展開は起こりえない。
そこに関しては現実的な常識を考えて配慮してあるし、そもそも裏方である俺にはそのような展開が起ころうはずもない。
だから、心配無用――――というフラグを立てるのは割に得意みたいですね、俺は一級フラグ建築士かな?
「うふふふ、そんな拒否しなくたっていいじゃない。私とあなたの仲でしょう?」
ハロウィンパーティーが始まってから俺達のやることはたいして変わらない。
テーブルに並べられた料理や一列に並ぶ料理をバイキング形式で自由に取っていくもので、一応イベントも予定してあるらしいがそれまでの食事&談笑タイムという感じだろう。
で、事件は起こった。
デザートの一部で置いてある小包に入ったチョコレートの中にウィスキーボンボンのようなアルコールが入ったチョコが混じっていたのだ。
まぁ、それを食ったとしてもすぐに酔うほどのアルコール成分は入っていない。それこそよっぽど弱くてもだ。
最近......ではないが、酒の匂いを嗅いだだけで酔うとかいう激弱設定のヒロインもあるが、それはあくまでフィクションだ。
だが、塵も積もればという言葉によってフィクションの設定は帳消しにされた。
そして、その酔ったというメンバーが姫島、雪、生野、昂という四名――――ってお前らかよ!!!!
よりによって光輝ハーレムズの監視員が揃いも揃ってダウンし、そこにまさか生野も加わってしまってうという体たらく。
正直、頭痛がする。ものすごく「バカかお前らはー!」と叫びたい。
ちなみに、やたらチョコをバクバク食うこいつらの異変がおかしくなったことから、酒入りチョコが見つかり花市のメイド達が自主回収したので犠牲は4人で済んだ。
まぁ、その4人が俺にとってもあまりにも痛いんだけどな!
で、酔っぱらった状態で意識がある姫島が言ったセリフが冒頭の一文だ。
酔っぱらったこいつら4人は花市家の空き室にまとめて移動され、俺は4人の共通の友人であるという建前の絶対何か企んでいる花市の人選からこいつらの面倒を見るよう頼まれた。
もうこうなれば、光輝達のラブコメシーンを見ることも叶うまい。
もっと言えば生野の光輝に対する認識もな......って、俺の腰にベタベタとくっつくな姫島!
「もう、そんな邪険にしなくたっていいじゃないヒック。しっぽり行きましょうヒック」
「しねぇよ。ここで理性に負けたらお前らとの関係泥沼コース確定だろ」
そんなん昼ドラよりよっぽどやべぇよ。奥様も卒倒ものだよ。
「影山しゃん。そんなところにいらんれすね~」
ろれつが回っていない典型的なしゃべり方をしたのは雪であった。
そんな雪は立ち上がると両手を伸ばしながら千鳥足で近づいて来る。
その見た目に思うことは歩くことができるようになった赤ん坊に「あんよが上手」と言っている母親的思考に近い。
「影山しゃん!」
「うぉっ!?」
赤ん坊もとい雪が突然赤ん坊すら出来ないような飛び掛かりをしてきてそのまま押し倒された。
そのまま地に伏させられた俺の視界に入ってきたのは馬乗りになる雪であった。
待て、その構図は不味い。児童わいせつ罪で捕まる。
「この部屋暑いれすね~」
「ストップ! 雪ストップ!」
雪は背中に手を伸ばすとそこからジッパーが降りていく音が聞こえる。
落ち着いて黒猫さん!? 猫が体に乗って来てくれるのは嬉しいけど、いくら猫の恰好しようともお前がいつまでも馬乗りは事案しかない!
俺は慌てた様子で起き上がり雪に手を伸ばすがその手は俺の頭側から伸びる手によって抑えられた。
思わず視線を移してみれば、そこには昂の姿があった。
そして、昂は赤らめた顔でニコッと笑うとまるで違和感なく俺の頭を膝に乗せる。
柔らかい感触が後頭部から広がって感じ、反対の前からは小さく柔らかい手が優しく頭を撫でていった。
その瞬間、俺は悟った――――終わったと。
酔って母性全開の慈愛の笑みを浮かべながら俺の両手を片手で拘束する昂に、どんな妄想が脳内に広がっているかわからないが酷く蕩けたような表情をしながら黒猫を脱いでいく雪に、二人に意識が囚われているうちに着実にズボンを下ろそうと工作している姫島。
まともな奴が居ねぇ。完全にR18コース。
やべぇよ、マジで食われる――――とその時、ずっと存在を潜めていたもう一人が待ったをかけた。
「ちょっと待ちらさい!」
酔っぱらって佇むキキもとい生野が三人に呼び掛ける。
そうだ! 俺にはまだエロに対抗できる希望があった――――
「私のものよ!」
「......」
うん、ダメかもしれん。もしかして花市はこうなることを読んでた?
え、お前の腐れだけど幼馴染が襲われるけどいいの?
希望を見せた直後の絶望は精神的ダメージが大きい。
なんか抵抗の気力が薄れてきた。
っつーか、さっきから体が微塵も動かないんだけどな。
ここで、一つ小話。人が好感度を一気に上げるに有効とされるのはギャップである。
代表的な例であげればヤンキーが子犬を拾う感じのやつ。そして、それが起きたのだ。
「雪ちゃんは私のもの!」
「救世主!」
生野が雪を抱きかかえてくれたことによって腰の自由が利くようになった。
また、生野の行動にキョトンとしたのか昴と姫島の拘束が緩む。
そこに一気に畳みかけるように腰を浮かせて少し捻ると思いっきり逆側に捻って二人の拘束を脱出していく。
危うく本当に理性がぶっとぶ所だった。フランケンシュタインだけにってな。割に余裕あるな、俺。
その余裕は諦めかけた時に希望が降って沸いた感じでテンションがハイになってるからかもしれない。
そのテンションを維持したまま素早く近くのベッドから掛布団を引っぺがして、昂と姫島にかけていく。
すると、二人はやがてその暖かさに眠りについた。
雪も眠たくなったのか生野に下ろしてもらうと掛布団に潜っていった。それに釣られるように生野も。
その光景を見て俺の貞操は無事に守られたのだと安堵の息を吐くとともにどっと疲労も出た。
*****
「「「「本当にごめんなさい!」」」」
しばらくして目が覚めたのか、花市主催のビンゴ大会が始まってからすぐに四人して謝罪が来た。
全く気にしてないといえば嘘になるが、本当に反省している様子だったし俺から何か言うことはしなかった。
そして、気まずくなったのか四人はそそくさと俺から離れていくものの、俺は生野の方へと向かって行くと声をかける。
「さっきは助かった」
「私、あんたを助けたの? あんまり思い出せないんだけど。
ただ記憶があるっていう三人から聞いた感じから私もきっと変なことをしたんだろうと思って謝ったと思ったのに......」
それな。よりによって襲った側の三人がハッキリと覚えてるという解せなさ。出来れば忘れて欲しかった。
「いや、あの時のお前は確かに救世主だった」
「そう。なら、私の魔法が酔いを押さえてくれたのかもね。なんせ魔女だから」
「そいつはスゲーや」
電子パネルから番号がはじき出され、その番号によって一喜一憂するクラスメイト達。
俺も出来るだけポーカーフェイスを保ちながら、ビンゴカードに同じ数字があるか確かめていく。
するとその時、生野は確かめるように尋ねて来た。
「......ねぇ、私は本当に“何も”してないのよね?」
「あぁ......してないな」
「......そっか。あ、ビンゴになったから行ってくる」
「そいつはスゲー。いってら」
生野は俺の前に小走りに移動していく。
「――――嘘つき」
その言葉は会場の声によってかき消され、すぐに大きなひずみを生んだ。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')