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第122話 あばばばば

 昂の一件がもはやなかったかのように周りが本当の昴を受け入れ始めてからしばらく、ようやく文化祭明け最初の休日がやってきた。


 一応文化祭の振り替え休日的なものもあったが、それはクラスの陽キャどもの打ち上げによって儚く潰えた。


 だがしかし、今回は違う。待ちに待った休日で、加えて予定があるとして周りを牽制した甲斐があったのかスペシャルフリーダムデーである。


 両親は揃って仕事で家にいるのは妹の沙夜のみ。つまり、俺を縛る者は誰もいない。

 だから、ソファでだらけてもなんも文句言われな――――


「あー、兄ちゃ! 休日だからってだらけるのはいかがなものかと思うよ!」


「沙夜よ、兄ちゃは頑張ったのだ。文化祭で大いにな。故に、これくらいのだらけは許しておくれ」


「ならぬ! 貴様は暇さえあればすぐそうやってだらけてしまう!

 ならば、冒険の旅に出ろ! さすれば、そのぐうたらも少しは治るだろう!」


 出たな、沙夜のプチ寸劇。俺達兄妹の大事なコミュニケーションタイムである。これに乗らないのは兄として廃るであろう。


「え~、めんどくさい。親父だって大した冒険してねぇだろ。

 昔の話を聞いたぞ? 巨大な猪に逃げ帰って来たってな」


「うっ!?」


 されど、これは同時に戦いでもある。俺達の話に脈絡もなければ、突然の取って付けたような設定で始まる。


 それは基本親子であったり、王と勇者であったり、魔女と戦士であったりとタイプは様々だが、あくまでガワのキャラ設定なのでこうした昔にあった出来事という設定を自由に付け足せるのだ。


 そして、その設定を守ったうえで寸劇を続けていくというのが俺達の暗黙のルール。

 故に、設定は有利に付けたもん勝ち。ま、勝敗は特になくどっちかが飽きたらなんだけどな。


「そ、そんなこともあったな......だが、兄ちゃよ!......じゃなかった、息子よ!

 お前は俺の自慢の息子だ。だから、きっと俺よりも誇れる成果を挙げてくれると信じている。

 どうか、自慢できる息子でいてくれ」


 なんと巧妙な返し!? まさかそう言う切り替えしで空気感を作り出すとは......我が妹ながらやりおる。


 こんな感動的な雰囲気なら思わず「親父......」とでも言ってしまいそうだが、俺の設定では俺は至上最悪のドラ息子。

 テコでも動かぬ強烈な負の意思によってその空気をぶち壊して進ぜよう!


「ふっ、残念だったな。俺がそんな親父の言葉を――――」


――――プルルルル


「あ、電話だ。出るよ」


「あ、うん......」


 はい、終了~。我ながらちょっと乗ってき始めてたんだけど......まぁ、これがうちの日常ですわい。今に始まったことじゃねぇ。


 何を話してるかわからないが、妹の言葉から察するに友達がこっちに来る感じだな。なら、兄がここにいるのは邪魔であろう。


 とはいえ、外に出て暇を潰すのは嫌なので、自室で昼寝でもしよう。こういう日だからこそのんびりしないとな。


――――数十分後


「.......はっ!」


 夢の中でメイド服の姫島が俺にメイド服を着せようと追いかけてきやがった。

 加えて、メイク道具をブラック〇ャック先生のメス投げばりに投げてきやがったし。ファンデーションが壁にめり込むってなんだよ。


「......おはようございます」


「......」


 あっれー? おかしいなー。俺のベッドに沙由良がいるんだけど?

 しかも、壁際にセットしてあるベッドで俺と壁に挟まれるようにして。普通そっち潜ります?


 まてまて、落ち着け。俺はしっかりとした感じではないが明晰夢の持ち主だ。

 つまり、夢を見ていた俺という夢を見ているのでは?


 夢に一貫性はなく、突然場面が切り替わるような、そして意味不明な映像が流れることだってあるし、となればこれも夢である可能性は否定できない――――


「学兄さんのメイド服、超萌えでした」


 否定されたわ。速攻で棄却されたわ。これは夢じゃない。リアルだ。

 そして、リアルの沙由良となればやりかねないとは思うが......まさか本当にやるとは。


「......聞いていいか?」


「なんなりと。沙由良んは学兄さんならスリーサイズから、お、おかずの回数まで答える所存です」


「言い淀むぐらいなら言わんでいい」


 それで聞いたらガチで俺やべぇ奴じゃん。


「お前は沙夜に呼ばれて来たんだよな?」


「そうなりますね」


「じゃあ、お前がここにいる理由は? 沙夜は何してるんだ?」


「ちゃん沙夜なら今頃寝ていますよ?」


 ......はい?


「どういうこと?」


「それはですね――――」


 そう言って沙由良が教えてくれたことを端的に説明するとこんな感じであった。


 まず俺が寝るために自室へ向かった数分後、沙由良はこの家にやって来た。

 そして、最初こそ話をしたり、ゲームをしたりとしていたらしいのだが、お菓子を食べ始めた少ししたあたりで沙夜が急に「眠い」と言い始めたらしい。


 それから仕舞には「寝る」と言ってそのままベッドで沙由良を置き去りにして眠ってしまったらしい。

 妹よ、相手がずっと昔からの仲だからいいがさすがに自由過ぎるぞ。


 そんで置き去りの沙由良はしばらく沙夜の漫画を読んで過ごしていたらしいが、やがて気持ちよさそうに寝る沙夜の眠気に当てられて眠くなったらしい。


 というわけで、一緒に寝ようと俺の自室を尋ねたら俺が寝ていたので潜り込んだと。←はい、皆さん注目ー! ここ一番おかしくないですかー?


 俺も沙由良のことを知っている。それ故に、この家で寝ることは当然許そう。

 だがしかし、なぜ沙夜の部屋ではない!?

 寝る場所を求めて俺の部屋来るか普通!?

 ネジがぶっ飛んでやしないか!?


 そして、それに対する沙由良の回答。


「え、だって、学兄さんのスメルにくるまれたいじゃないですか」


 それを真顔でさも「何か間違ったこと言いましたか?」とでも言ってるような顔が余計に腹が立つ。

 普通に変態発言してることに気付いて下さい。


「あのなぁ、俺だからいいものの。本来は危険かもしれないんだぞ?」


 俺とて男だ。全く何も感じないと言えば嘘になる。しかし、相手は沙夜の友達。

 手を出せば事案でしかない。俺は妹と縁を切りたくないぞ。


 そんな俺の言葉にわかっているのかわかっていないのか相変わらず反応の薄い顔で沙由良は返答する。


「だからこそですよ。学兄さんなら私に手を出さない。

 ちゃん沙夜との関係に亀裂を入れたくないから。

 だから、安心してこうして入れるんですよ」


「......はぁ、お前な――――」


「まぁ、仮に手を出されたらしっかりと責任は取ってもらうつもりでしたし。

 どちらにしても沙由良には得な状況です。

 まぁ、後者は少しだけ関係が複雑になりますがなんとかなるでしょう」


「なんともならねぇよ」


 そうなったら最悪だ。


「......時に学兄さんは文化祭のあの衣装、大切なご友人のためにしたらしいですね」


「なっ!? どうしてそれを!?」


「学兄さんを知り尽くしているエキスパート高貴な女性から聞きました」


 花市の奴か......! あいつ、余計なことを!

 そう思っていると沙由良がそっと胸元に頭を寄せて、まるで心音を聞くように耳を当てた。


「お、お前......!」


「もし、仮に沙由良が困っていたら同じように全力で助けてくれますか?」


 な、なんだその質問? いや、それよりも心音を聞かれてるのがハズい!


「ふふっ、やはり学兄さんはムッツリスケベですね。

 表面のメッキを剥がせばこんなにも素直で純情な音を鳴らしていて」


 何なんだこの状況!? ベッドで! 妹の友達が! 添い寝して抱きついてきて! やたら声は優しくて!

 え、俺今、友達の妹が添い寝で甘えてくるってASMRでも聞いてんの!?


 あぁもう、やっぱコイツは花市とは別グループで苦手だ! 夏休みの時もそうだし!

 コイツとの会話はこっちの調子が狂って仕方ない! もうここは急いで離れて――――


「それ以上はストップだ!」


「キャ」


 俺が沙由良の肩を掴んでベッドに押し付けると同時に俺の体は起き上がる。

 構図的にはベッドでイチャイチャしたカップルの男の方の野生がガチっちゃった感じだがこれはもはや仕方ない。


「沙由良、これ以上は――――」


「がっくんー! サプライズとう......じょ......う」


「......す、昂?」


「................がっくん、何してるの?」


 その目は酷く冷徹だった。あばばばばばばばばばば。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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