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第121話 少しだけ変化のある変わらない日常

 文化祭という秋の一大イベントも過ぎて学校はいつも通りの騒がしさを取り戻していく。


 とはいえ、文化祭というイベントは言わばゲレンデマジックのようなもので、廊下を歩いていれば聞こえてるのは「あの子がなんとか君に告白した」やら「なんとか君とほにゃららちゃんが付き合ったみたい」という話。


 色恋沙汰の話がご近所のママ友同士が話すダンナの愚痴のように盛り上がるのが学生というものかもしれない。

 そう言う意味では確かな波風を立てた人物を知っているが、わざわざ口に出すものでもあるまい。


 それはそうと、この学校は今回の文化祭での出来事を受けて改めて俺達学年は「奇跡の世代」と呼ばれるようになった。


 そう聞くとどこかの頭髪がカラフルなバスケ少年達を思い浮かべるかもしれないが、ここでは俺達の学年の美少女達のことを指す。


 俺の知り合いで言えば、「華凜姫」姫島縁、「親指姫」音無雪の二人。そして、最近周囲に名が広がっている「陽艶姫」生野莉乃、他に光輝ハーレムズの乾さんに結弦、そして花市にも愛称がついているがここでは割愛させてもらおう。


 で、文化祭での出来事を受けての現在のホットワードが「麗美王子」。

 そう、「姫」ではなく唯一の「王子」である。とはいえ、当の本人は女であるが。


 ここまで言えばお分かりであろう。そう、我が大親友の國零昂のことである。

 名前の由来としては精巧な人形のように麗しく美しい存在で、王子とつけたのは普段の昴の恰好が男子制服であり、また男的な思考のせいか行動が男寄りに近いからというもの。


 その情報は花市家の情報網からすればとっくに昂本人にも届いていて、されどそれに対して全く動きがないことから本人が黙認しているのだろう。


 いや、それどころか......俺のすぐ隣で廊下の脇に佇む女子達に手を振って返してやがる。

 その行動は正しく王都を練り歩く王子のようで、すぐ近くにいる俺なんて周りからすれば近衛兵Aという感じだろうな。


 そして、そんな行動を昂が取ろうとも嫉妬を向ける男子はいない。

 中身が女子だと知っているからお門違いとでも思っているのだろう。

 まぁ、その間にそいつらの本当に好きな女子は昂に勝手に奪われてしまっているのは内緒だが。


 で、こういう目立ちをあまり好まない俺がどうして昂の横を歩いているのかというと、それを説明するにはそもそもの根底を覆せば一瞬で終わる。


 なら、その根底って? そりゃ当然、昂に俺がついてきてるんじゃなくて、俺に昂がついてきてるんだよ。


 言っておくが俺は連れションを強要するタイプじゃない。

 俺は誰かが言った「トイレ行くわ」に「俺も」と答える方ではなく、むしろ「行くわ」と告げる方である。


 俺が行動するのは当然俺の都合のためであるが故についてきてもあまり意味ないと思われるのだが、昂はそれについてくるのだ。


 文化祭が終わってから一週間、俺は昂といつものように会話しているとふとスマホの方に取引相手から連絡来ることがある。提供屋としての仕事だ。


 昂はそれについてくる。いや、お前ついてきても意味ねぇだろと思ってそれを告げようとした時もあったが、子犬のような顔をされてあえなく断念。奴は俺が昂に弱いことを知っている。


 まぁ、ついてくるのが昂であれば姫島や雪、生野に比べれば男子の嫉妬は少なく(女子は非常に多く、一部奇妙な目があるが)まだ気は楽なのだが、ただ平然と一緒の男子便所に入ろうとするのは止めて欲しい。


 とまぁ、その時点では楽なのだが、それは着実に周りに不満を溜める結果となり――――現在、俺の昼飯には当たり前のように姫島、雪、生野がいる。当然昂も。


 場所は屋上。さすがに一人の時間が欲しいと目を盗んで屋上に来てみれば、一度狙った獲物は逃さないハンターばりに一斉に終結してきた。正直、頭痛がする。


「はぁ、なぜここに集まる? 昼休みは毎度のように俺の周囲にたかってくるからここに来てるというのに」


「私達をコバエのように扱うのは止めてくれるかしら。それに私達がどこに居ようとそれは私達の勝手でしょ?」


「私は影山さんとゆっくり話せるのがこの時間ぐらいしかなくて......」


「ボクはがっくんある所に昂ありだからね」


「わ、私は......成り行きよ」


 若干一名を除いて全員が意志の強そうな目をしている。

 説得など早々に無駄だとわかるほどに。


「お前らなぁ――――」


 そう言いかけた瞬間に、俺の背後のフェンスから少し強い風が吹いた。

 季節はもう10月であるだけに十分に寒い。俺ですら軽く身震いする。

 そんな風が吹けば女子であるこいつらにはひとたまりもなかっただろう。


 だから、教室で食ってれば......紫のレース、水色のボーダー、赤色の水玉模様の白が一瞬にして視界に収まった。


「「「......っ!」」」


 俺の視線に気づいたのか昴以外の三人が急いでめくれ上がったスカート抑えていく。

 そして、一人は顔を赤らめて目を逸らし、一人は赤面した状態で涙目になり、一人は真っ赤な顔を憤怒に変えて睨みつけている。


「......あー、今のは不可抗力とはいえ悪いな。俺も一応男だから視界に入った以上は見ちまうんだよ」


「なら、もう少し恥ずかしいそうにするリアクション取りなさいよ!」


 そう言われてもなぁ......。


「ぼ、ボーダーは子供っぽかったですか......?」


 俺に意見を求めないで。反応に困る。


「ボクもスカートにすれば良かったかな?」


 だから、俺に意見を求めないでって。っていうか、昂さん!? 何を言っているんですか!?


「文字通りのおかずを提供してしまったわ......」


 姫島、ホントお前だけはそういう所だぞ。


「さ、これで分かっただろ。もう十分に気温は下がって寒い風が吹く中で食うバカは俺だけで十分なんだよ。

 お前らはこんなバカに付き合って体調を崩すようなことがあって欲しくない。

 それがわかったらさっさと――――」


「嫌よ」


「嫌です」


「嫌だね」


「......嫌」


 俺が言いきる前に即答してきやがった。ただ一人反応が微妙に違くて目で見ちまうが。あ、目が合った瞬間、逸らされた。


 やはりこの空間で異質なのが生野という存在だよな。

 もう俺は生野という存在を光輝ハーレムズの一人としては見ていない。


 その見切りは恐らくずっと前から付けていた。

 しかし、それでも俺が生野という可能性を捨てたいがために夏休みまで光輝ハーレムズのように扱ってきたが......もはや最近のコイツの行動に光輝に対する好意は見受けられない。


 なれば、俺にとっては生野はただの友人という関係性に留まるだけだ。

 姫島や雪、昂のような特殊な事情を抜きにしても関係性を考えていかなくてはいけない相手とはもう違――――


「影山さん、大目に見てあげてください。ね?」


「......」


 雪に釘を刺された。それは先ほどの俺がこいつらにした質問に対する答えではなく、今まさに俺が考えていたことに対する――――つまりは生野に対してのことだ。


 「生野は必死に悩んだ末にここに来ている」「しっかり話し合ったから」とでも言いそうな眼差しを真っ直ぐ送ってくる。思わずこっちが逸らしたくなるほどに。


「ただ、影山さんが大変になってしまうことにはごめんなさい」


「......いいよ。ただそれでいいのか?」


「はい」


 曇りなき笑顔で言うか。なら、もはやこれ以上の質問は野暮というものだろ。

 ただ雪......それはもはや遠回しに答え言ってるようなもんだぜ。出さないけどな。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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