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第120話 後夜祭#2

「ごめん、変なタイミングに来ちゃったみたいで.......」


「いや、気にしなくていい。正直、あれは俺にも予測がつかなかったから」


 花市が気を利かせたように立ち去っていくと昂が気を遣った様子で隣に座った。

 まぁ、あの二人の息の合っている感じは演劇で見て知っているからこそ、先ほどのケンカまがいの雰囲気には驚いたのだろう。


 俺は昂にそちらに意識を向けさせないように話題を変えるように尋ねた。


「制服に着替えたんだな」


「普段、男のようにズボンしか履かないからスカートとかああいうスースーしたものはまだ抵抗があって。

 それにあの格好はああいうイベントだからこそのサービスだよ」


「なるほどね。ってことは、今頃もとに戻ってしまった昂にゾッコンな連中はさぞかしがっかりしてるだろうな」


「かもね。さすがにアレだけの反応をされれ嫌でも気づくよ。僕はちゃんと好かれてるんだって......」


 昂は後夜祭で踊る連中を見ながら答えた。

 すると、遠くの女子が昂に気付いた様子で大きく手を振ってくるので、昂は軽く手を振って返すとまるで好きなアイドルに握手してもらったかのようにキャッキャしている。


 いや、昂はアイドルだ。名実ともに。言わば男も女も超越した絶対的な存在と化してしまった。

 俺の友人は「太陽」と「神」になったわけで.......はぁ~、そんな二人と気軽に話せる俺ってヤバくね? 超ヤバくね?


 こんなもん一生自慢もんだろ。有名人と母校が一緒とかのレベルじゃねぇよ。

 (俺にとっての)有名人と同級生でタメで話せる。

 ふっ、スクールカーストのトップに立っちまったな。愉悦が収まらん。


 とまぁ、冗談はほどほどにしといて、さりとて俺にとって友人が二人とも輝いてくれていることは嬉しい限りしかない。まさに自分のことのように嬉しい。


「ありがとうね」


「......へ?」


 唐突に発した昂の言葉に思考を巡らしていた俺は思わずへんな声を出してしまった。

 しかし、昂は気にすることなく、想いの詰まった言葉の一つ一つをハッキリと告げた。


「僕は嬉しかったよ。がっくんがちゃんと答えを出してくれて。

 出してくれるとは信じてくれてたけど......あんまり期間が空いてたから思わず心配になっちゃった。

 でも、それがこんな最高の形で伝えてくれるなんて......僕は幸せ者だよ」


「お気に召してくれたなら何よりだ。とはいえ、俺のやったことで本当になにも思わない?

 俺が言うのもなんだけど、答えは中途半端だし、伝え方は真面目じゃないし、お前すら巻き込んだんだけど」


「僕はがっくんが答えを出してくれれば何にでもなるつもりだった。男でも女でも......拒絶でも」


 最後の言葉だけやや震えていた。どう考えても俺がお前を拒絶するはずがなかろうに。


「僕はがっくんなら全てを受け止めてくれると信じていたけど、それでも『もしかしたら』って考えが拭えずにはいたんだ。

 でも、バンド演奏の直前に送られてきた歌詞。

 あの一番なんかは特に僕だけのために与えられた言葉だと、がっくんが考えてくれた答えだとすぐにわかった。そして、歌を聞いた時、思わず泣いちゃったよ」


「そう、だったのか......」


 昂は少し照れた様子で頬を赤らめ、指で頬を掻く。


「にしても、凄かったわ。即興で三番の歌詞を合わせてくるなんて」


「一番と二番でなんとなく曲調もわかったし、一度前に聞いたことがあるからね。

 複雑に変わるタイプの曲じゃないと分かってたから歌詞を覚えることに集中できた。

 もともと執事として即興的な動きは鍛えられてるからね。

 にしても、そう考えると曲をおススメされた時からこの動きまで計画されてたのか。通りでユー〇ューブで探してもないわけだ」


「俺の痛々しい黒歴史満載のオリ曲だからな。それも自ら公開処刑するというドMの極み」


「ははっ、そんなことないよ」


 雰囲気は悪くない。もとより悪くなるような仲でもないが。なら、そろそろ聞かせてもらおう。


「なぁ、昂――――どうして公開的に言ったんだ?」


 俺の現状の最大の疑問だ。昂は有名人とはいえ、その中でも交友関係はほんの一握りだ。

 クラスの連中でさえ、社会に出ても交流を図る可能性があるかと問われればほぼゼロと言ってもいいだろう。


 それだけ俺達の生きていく先には巨大なコミュニティ社会が待っており、こんな記憶など一生分からすれば些末な出来事の一つに過ぎない。


 ならば、今後に影響を与えるようなことでもなければ、大抵の行動は無駄な労力となり、昂の学校中の生徒に公言するなど正しく無駄なことでしかない。


 にもかかわらず、昂はその道を選んだ。俺はその訳を知りたい。それに対し、昂は恥ずかしそうに答えた。


「勢い......かな」


「......え?」


「ほんとに恥ずかしい話なんだけど、特に深い理由もなく、胸に込み上がった感情をそのまま言葉にしたかっただけで......そしたら、なんか大変な事言っちゃったんだけど......」


「......ぷっ、くくくく、あはははは!」


「わ、笑わないでよ! 若気の至りだと思ったんだから」


 いや、これが笑わずにはいられない。きっと大変な覚悟でそれでも勇気を持って告げたと思ったら勢いって。


 そうか、そうだよな、昂も普通の人間なんだよな。

 男でも女でもあるただの“普通”の人間。

 なら、普通の男が勢いでやっちゃうような恥ずかしいこともするわけで。

 それこそ俺のようなメイドバンドのような。


「安心しろ。お前が言った『大切な人』ってのは周りからすれば“花市”だと思われてるから。きっとその発言に対して周りから追及されることはない」


「え、そうなの? はぁ、良かった......」


 昂はホッと胸をなでおろすと優しく笑みを浮かべた顔を向けてきた。いつもの昴の笑顔だ。


「そういえば、わざわざバンドのこと自分の仕業みたいに言わなくても良かったのに」


「あぁ、アレは僕のために動いてくれたがっくんに対するちょっとした恩を返した感じだよ。

 あぁ言えば、がっくんは“バンドにわざわざメイド服で出る変態”って思われなくて済むと思ったし」


「ま、十分にからかわれ済みではいるけどな」


 話しも一区切りついた。後夜祭もたけなわって感じだ。一部の男女が昂と俺の様子を勘ぐっている。


「さて、人気者さん。是非とも宴の中心にいって皆の記憶に一生忘れない思い出を作ってあげてくれ」


「......がっくんは本当に周りの幸せを願うよね」


「え?」


 昂はボソッと告げるとベンチから立ち上がった。そして、ある日の話したことを話題に出した」


「そういえば、お嬢様ががっくんを屋敷に呼んだ本当の理由を教えてあげようか?」


「本当の理由? それって俺を執事にしてこき使うためじゃないのか?」


「まぁ、それもあるけど、もう一つはがっくんが僕とどこまで相性がいいか確かめるため。仕事量、仕事のペース、会計処理から料理までと色々、ね」


 なんか嫌な予感が......。


「......で、どうだった?」


「合格も合格。大合格だったよ。だけど、お嬢様の野望はそこまでじゃない」


 昂は数歩歩いていくと俺の方へと振り返り、盛大に両手を広げた。


「お嬢様の本当の野望は一挙両得。言わば、お嬢様が陽神君を手に入れ、ボクががっくんを手に入れること。それがお嬢様の花市最強名家計画!」


 なるほど......これで全ての花市の行動に合点がいった。やたら昂と俺を二人にさせる理由が。


 それは昂が悩みを抱えていてそれを俺に解決させることでもなく――――


「がっくん、覚悟してて。今までは悩みがあったせいであまり乗り気じゃなかったけど、全てが吹っ切れた今は全力で乗り気だから」


 昂の俺に対する好意を加速させるため、か。はぁ、ほんと花市(アイツ)は苦手だ。

 これまでの昴に対する行動が全て俺自身がしたくてしたことだけに、俺自身が俺の首を絞めたような結果が余計に花市の姑息さを感じさせて腹立たしい。


 しかし、不思議と気分は悪くない。


「男のようにカッコよくリードして、女のように甘えさせてダメにしてあげる」


「カッコよくも可愛くも惚れさせるって最強かよ」


「言ったでしょ? 僕は最強だって」


 そう言って昂はキャンプファイヤーのをバックにその炎を上回るほどの男のような凛々しさを感じ、女のような艶めかしさを感じる笑みを浮かべた。

 俺は最強の眠れる獅子を起こしてしまったのかもしれない。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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